No.63265

東方騒園義 えくすとら2

藤杜錬さん

『東方騒園義』は私がサイトで展開している東方Projectの二次創作小説です。
現代の高校を舞台にした異世界パラレル物の小説でえくすとらシリーズは番外編の短編シリーズです。

2009-03-14 16:33:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1277   閲覧ユーザー数:1193

東方騒園義 えくすとら2

『新たな年の始まり、三人の場合』

 

 

 年も暮れかけた夜、アリス・マーガトロイドは一人寂しくテレビを見ていた。

「今日もまた一人、かぁ……」

 冬休みが始まる前、アリスは生徒会関係の仕事で忙しく、とても冬休みの予定を前もって立ててる余裕などはなかったのだった。

「それにしても、魔理沙もパチュリーも薄情よね……。 そりゃ今年は私は一人別行動でいる事が多かったけどさ……」

 幼馴染みである三人は毎年、大晦日や正月は一緒にいる事が多かったのだが、今年はアリスは一人生徒会で一人でいる事が多かった為に一人取り残されてしまったような状況だった。

「いつもは今頃三人揃って、食事でもしてる頃よね……」

 自室のベッドの上でそう言って趣味で集めている中で一番のお気に入りの『上海』と名前のつけているぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。

「そういえば今年はクリスマスも上海と一緒に過ごすクリスマスだったよね……」

 例年なら、いつも三人で過ごすイベントも今年はいつもと違い一人の事が多かったのを思い出すと、アリスは小さくため息をついた。

 アリスはその生来の不器用さもあって、仲の良い友達といえるのは幼馴染みの魔理沙とパチュリーくらいだったので、他の友達と何かをするというのも余り考えられなかった。

「アリスー、年越しそばの準備できたわよ」

 元々、イギリス出身の両親だが、学生の頃に留学先の日本で出会い、何故かそのまま日本に暮らす事になったマーガトロイド家はそのまま日本国籍を取ってしまい、完全に日本という国に馴染んでいたのだった。

「はーい、今行くー」

 年末の公共放送による歌番組を映していたテレビを消して上海をいつもの場所へと置くとゆっくりと部屋を出て階段を降りていくのだった。

 

 

 そしてその頃アリスの家の近くにある公園ではパチュリー・ノーレッジが寒空の下、ベンチに腰掛けていた。

「買ってきたぜー、しかし寒いな」

 霧雨魔理沙はコンビニの袋からたった今買ってきたホットドリンクを取り出しベンチに座るパチュリーに手渡す。

「寒いのは冬なんだから、当たり前じゃない」

「ま、それはそうなんだけどな」

 パチュリーの横に座りながら、魔理沙も袋からホットドリンクを取り出して、その蓋を開ける。

「……それにしても遅いわね。 来る気無いのかしら?」

「まぁまぁ、そう言わずにもう少し待ってみようぜ」

「生徒会の方ばかりで私達の事なんてどうでも良いんじゃないかしら?」

「またそういう事を言って……。 もう少しあいつの事を信じてやろうぜ」

「信じているわよ。 でもここまで待っても来ないのに……」

「確かにいつもよりは三人でいる時間は減ったけどな……」

 魔理沙はそう言って夜空を見上げた。

「それにしても、魔理沙もちゃんとあの手紙渡したんでしょうね?」

 アリスに渡すと言っていた手紙の事をパチュリーは聞いた。

「ああ、その辺はぬかりないぜ。 アリスの家に行ったら、丁度アリスの親父さんが帰って来た処でアリスに渡しておいてくれって言って手紙は親父さんに預けてきたぜ」

「……魔理沙? アリスのお父さんに渡してきたの?」

「 どこか怒気の孕んだパチュリーのその台詞に、思わず魔理沙はたじろいだ。

「アリスのお父さんって、忘れ物が多い人じゃない……」

「そ、そうだったな……、そういえば……すっかり忘れていたぜ」

 魔理沙もどこかぬけている為にアリスの父親と魔理沙、両方がその忘れ物が多いという事実を忘れている事が多いのだった。

 そしてその事自体をすっかり見落としていた事にパチュリーはつい自己嫌悪に陥ってしまう。

 そんなパチュリーを見て魔理沙ははすっくと立ち上がる。

「行こうぜ」

「行くって何処に?」

 立ち上がった魔理沙を不思議そうにパチュリーは見上げる。

「決まってるじゃないかアリスの家だぜ」

「あ、ああ、それは良いんだけど……どうして?」

 まだ事態が良く飲み込めていないパチュリーにパチュリーは笑みを浮かべでこう言った。

「判らないか? あの手紙がアリスに届いてないかもしれない、そうパチュリーは言いたいんだろ?」

「……ええ……、そうだけど……」

「だったら、私達が迎えに行ってやればいいだけの事じゃないか。 違うか?」

 そういって差し出された魔理沙の手をパチュリーは取った。

「……確かにそうね、何でそんな事思いつかなかったのかしら」

「今更そんな事言ってもしょうがないさ、それよりも急ごうぜ。 アリスはきっと一人寂しがってる」

「そうね私達はいつも三人、これからも、ね」

「そういう事、だ」

 そう確認しあうと二人の影は公園を後にしたのだった。

 

 

「はい、今年の年越しそばよ」

「お、美味しそうだなこれは」

「いただきまーす」

 テーブルに置かれた年越しそばを見て嬉しそうに父親が感想を漏らす。

「そういえば、アリスとこうやって年越しそばを食べるの何年ぶりかしらね? ここ数年はいつも魔理沙ちゃん達と年を越していた物ね」

 母のその言葉にアリスは複雑な気分になり、そばを食べる手が止まる。

「あら? どうしたの? 何か寂しそうね?」」

 手の止まったアリスを見て母は不思議そうな声をあげるが、慌ててアリスは微笑んで何でもないよと手を振った。

「な、何でもないよ。 たまにはお母さん達と一緒に年を越すのも良いかな?っておもったんだ」

「そう……、なら良いけど。 ここの所生徒会の方で忙しいって言って魔理沙ちゃん達とも遊んでなかったみたいだから、お母さんちょっと心配になっちゃって」

「お母さん……」

 アリスはそんな母の心遣いが嬉しかった。

「そういえば魔理沙ちゃんと言えば……」

 そういって父親が何かを思い出したように立ち上がって壁に掛けてある上着のポケットをごそごそと探し始める。

「お父さんどうしたの?」

 不思議そうに見つめるアリスの前で、目当ての物を見つけた父親はアリスに何やら封筒のような物を手渡す。

「……お父さんこれは?」

 手渡された手紙を見るとその宛先はアリス宛となっていた。

「いや、家の前で魔理沙ちゃんからアリスに渡してくれって言われて渡されていたの今思いだしてな、すまんすまん」

 笑いながら頭を掻く父親に中の手紙を読んだアリスがワナワナと肩を震わせた。

「お父さん……なんで、もっと早く渡してくれなかったのよ」

 

……パシンっ!!

 

 アリスはそう言うと父親の頬を思いっきりひっぱたいた。

 そしてハンガーに掛けてあるコートを手に取り玄関に向かった。

 何となく事情を察した母親は、まったく困ったお父さんねといった表情を浮かべて父親を見た。

 はたかれて一瞬呆然としたが、まー仕方ないな、という様子で申し訳ないという表情を父親は浮かべた。

 そのままコートを羽織るとアリスは玄関の扉へと手を掛けた。

「お父さん、お母さんちょっと出かけてきます」

「はい、行ってらっしゃい」

「車には気をつけるんだぞ」

 その行動がまるで当然の事であるかのように両親はアリスに声を掛けた。

 扉を開けたアリスの前に家の前に立つ魔理沙とパチュリーの二人の姿があった。

「遅かったから迎えに来たぜ」

「遅かったから迎えに来たわよ」

 そう言って二人は揃ってアリスに手を差し出した。

「遅いわよ……もう……」

 泣き出しそうになるのを必死にこらえながらはアリスは二人の元へと歩き出した。

 そしてそこへ冬の夜空へ除夜の鐘が響き始めた。

「急がないと初詣できるのが遅くなるわよ、二人とも早く行くわよ」

 アリスはそう言って神社への方向を指さした。

「遅くなったのはお前の所為だろ。 まったく調子良いな、アリスは」

「本当よ」

 微笑んでアリスの事を見つめる魔理沙とパチュリーの事がとても嬉しかったのだった。

 そして三人は笑い合いながら歩き始めたのだった。

 

 そして古い年は終わり新たな年が始まろうとしていた……。

 

 

   A HAPPY

     NEW YEAR!!

           2009

 

 

Fin

 

Written by RenFujimori 2009.January.

Copyrightc 上海アリス幻樂団様&藤杜錬


 
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