好きという気持ちは変わらないけど、その形が徐々に変わっていく。
自分でも知らないうちに意味が少しずつ違っていったんだ。
最初は花子お姉ちゃんから妹がいないから楓が妹みたいで嬉しいと
太陽のように眩しい笑顔を見せてくれた。
妹のような存在。最初はそれで十分だった。楓もお姉ちゃんが二人に増えたみたいで
嬉しかったから…。でもそれは時が経つにつれて楓の中で枷になっていたのを
楓は大きくなるまで気づくことがなかった。
「楓はほんと可愛いし」
「もう、花子お姉ちゃんったら」
楓が花子お姉ちゃんのお手伝いをすると、よく頭を撫でてくれるのが幸せで。
ずっとこんな気持ちでいたいと思っていた。
だけど、それから1年くらいした後に花子お姉ちゃんと同じクラスの子が
仲良く手を繋いで歩いているのを見て、胸の辺りがチクッとした。
その時はまだ何でこんな痛みを感じるかなんて小さな楓にはわからなかった。
でも、今はわかる気がする。
花子お姉ちゃんが中学生を卒業して高校にあがろうとする時期に楓は気づいて
しまった。いや、正確にはお姉ちゃんに対する気持ちが変わっていたんだ…。
「どうしたし、楓?」
「花子お姉ちゃん…」
やや俯いている楓の顔を覗き込んでくる花子お姉ちゃん。その顔は少し困ったような
感じの笑顔だった。
今楓はお姉ちゃんの部屋にお邪魔している。訳は私の気持ちをお姉ちゃんに
伝えるため…。でも喉に詰まるように言葉が出てこなくて悲しい。
でも今伝えないと、高校生になったらもっと忙しくて、もっと会う時間が減って
しまう。それに少しばかり、お姉ちゃんの通う高校は今まで通っていた
中学より遠いこともあって…。
疎遠になってしまいそうな不安から楓は珍しく衝動的にお姉ちゃんの部屋に
お邪魔していた。
だけどいざとなると何も言えなくなる。言ったら花子お姉ちゃんが困るかと思うと。
口が震えてしまってとても言えない。
そんな楓を待ちながら微笑みかけてくれる優しい花子お姉ちゃん。
楓から話してくれるまで急かしたりしない。お姉ちゃんも大変な時期かもしれないのに。
申し訳ない気持ちが強くなっていく刹那。
「おー、花子!姉ちゃんと遊んでくれよ」
「おい、櫻子。勝手に入ってくんなし!花子は楓と大事な話があるんだし!」
「なんだよ、ケチー」
「それにノックはちゃんとしてから入れし」
「わーったよ。もういいよ、向日葵んとこ行ってくるから!」
ぶーぶーと口を尖らせながらお部屋を出ていった櫻子お姉ちゃんを見ていて
思わず笑みを浮かばせていた楓。
「あはは、櫻子お姉ちゃん相変わらず」
「あんなの煩いだけだし。ひま姉に拾われて助かったし」
半分本当、半分嘘。そんな顔をしている花子お姉ちゃん。
そういえば前にちょっともやもやした時にいた人の時もそんな顔をしていたような。
櫻子お姉ちゃんの乱入のおかげか、少し気持ちがすっきりして思い切って
花子お姉ちゃんに告白をした。
「楓、花子お姉ちゃんがす…き…だったんだ」
「ん、花子も楓のことが大好きだし」
純粋に楓のことを妹と見ているような顔をして言うものだから困ってしまう。
「そ、そういう意味じゃなくて」
「ん?」
「そ、その…。恋という意味での…好き」
ちょっとため息交じりの声で呟く楓。照れ過ぎて顔が熱くなっていくのがわかる。
変な汗がじわじわと額から出てきそうだ。
「え…」
驚いたような表情をする花子お姉ちゃんを見て、やっぱり言わなければよかったかと
後悔するが、ここまで来たらもう引くことはできない。
「あの。ほ、本当にだから…!ちっちゃい時はそんなことなかったんだよ。
最近というかちょっと前、というか…。その時からお姉ちゃんのこと意識してて…。
あ、あはは…何言ってるんだろうね楓…。ごめんなさい…ごめんなさい」
言ってて感情が乱れていくのがわかって泣きたくなってきた。というよりも実際には
もう泣いていたのかもしれない。だってその後…。
ぺろっ
「ひゃっ」
「涙、零してるし。もったいないし」
「花子お姉ちゃん…?」
「けっこう花子たち年の差あるじゃない?」
「うん…」
「花子の周りでもそういう子たまにいて疎遠になってるんだって。
でも私たちはそうでもないし…不思議でしょ」
「うん…」
「何でだと思うし」
「わかんない…」
楓が緊張しながら呟くと、少し間が空いて不安になって花子お姉ちゃんの方へ
視線を向けると顔が赤くなっていた。今まであまり見たことないからすごく新鮮だった。
二人でベッドの上に座りながら語っていた。
そこに花子お姉ちゃんが楓との距離を縮めた際、ギシッという小さな音が微かに
聞こえた。
「私も同じ気持ちだったし…」
「で、でも…。お姉ちゃん好きな人は?」
「?」
楓の言葉を聞いて首を傾げる花子お姉ちゃん。楓は思い出せる特徴を口にすると
花子お姉ちゃんは気づいてくれた後にすごく笑っていた。
「あれとはそんな関係じゃないし」
「そんなに笑わなくても…」
「ごめんごめん。だから、花子は楓しかそう見てないんだし」
「花子お姉ちゃん」
しばらく二人で見つめ合うと、不意に花子お姉ちゃんが私から視線を逸らして
カレンダーを見ながら言った。
「そういえば楓の誕生日だったし」
「あ、本当だ…」
目まぐるしく周りが変化していくと、どうしても忘れがちになってしまう。
小さい頃はあれだけ楽しみにしていた日もそれほどでもなくなっていた。
だけど、この日の誕生日は特別、格別の日になったのだ。
「花子を楓にプレゼントするし」
「え?!」
そんなことを口にしだして楓はうわずった様な変な声が出てしまった。
そんな楓の様子に花子お姉ちゃんはくすくす言いながら笑っていて
からかわれたのかと思って怒ろうとした瞬間…私の頬に暖かくて柔らかい感触が。
それは花子お姉ちゃんの唇の感触だった。
子供の頃には味わえない、甘美な感触に慣れない楓は少しゾクッときた。
でもそれは嫌なものじゃなくて、むしろ嬉しすぎるくらいの感覚で。
「花子じゃ嫌?」
「そ、そんなことないよ!でも…本当に?」
「うん、花子も楓じゃないと嫌だし」
「うっ…うぅ…」
振られると思っていたから、この反応は想像していなかったから
まるで夢を見ているように嬉しかった。
「ありがとう…」
「花子も楓にありがとうだし。よく勇気持ってくれたし…」
「うん…」
それから私の気持ちが落ち着くまで花子お姉ちゃんはずっと私を抱きしめて
くれていた。とても暖かくて気持ちよかった。ずっと離れたくなかったけど。
「おーい、花子!」
「わぁっ櫻子!?」
「櫻子お姉ちゃん!?」
扉を盛大に開けた後に楓たちの姿を見て、ニヤニヤする櫻子お姉ちゃんに
花子お姉ちゃんは大激怒。
「さっきひま姉のとこにいったし!ここで何してるんだし!」
「だって向日葵のやつ、反応が冷たいんもん。それより花子のとこは…」
「それお前の自業自得だし!早く出て行けし!!」
「わ、わかったってば!」
花子お姉ちゃんに追い出されるようにして出ていった櫻子お姉ちゃん。
私はいきなり見られたことに動揺して胸の辺りがすごいドキドキしていた。
「ごめんね、楓…。邪魔ばっかり入るし…」
「い、いいよ」
すると花子お姉ちゃんの顔が私に近づいてきて、チューでもできそうな位置まで
くると私の唇に人差し指を当ててちょっと悪戯じみた表情をして言った。
「これはまだ楓には早いかも。お互いもう少し成長したらね」
「むむぅ…」
相変わらず子供扱い。楓だって少しは成長してるのに…。でもその後いつものように
頭を撫でてくれた。それが嬉しくてちょっと不満だったのも不安だったのも
全部綺麗に飛んでいくようだった。そして最後に。
「花子は楓から離れないし、これからもずっと…花子は楓のものだし」
「ありがとう、花子お姉ちゃん」
いつしかドロドロしていた心の中がすっかり輝きを取り戻して、今まで見ていた
風景はまるで世界が変わったようにきらきら光るように変わっていた。
いや、これは昔見た感じに近いから。正確には「戻った」のだろう。
楓たちも周りも変化し続けていく。寂しくもあるけれど、でもみんな幸せな方向に
進んでいるようだった。窓の外を見て喧嘩していたはずの櫻子お姉ちゃんたちも
すっかり手を繋いで歩いて楽しそうにおしゃべりしてるのを見て。
「花子たちもどこか出かけようか。手を繋いで」
「うん!」
みんなこういう気持ちで幸せになりますように。
楓は心の底からそう思ってこの幸せを大事にしたいと思っていた
そして正式に花子お姉ちゃんと付き合うようになってからはこの日は私の誕生日兼
付き合った記念日として毎年祝うようになったのだった。
お終い
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楓ちゃんの誕生日ということで花子様とくっつけてみました。二人共年齢が年齢なんでちょっと時が経過してないと難しいかなと思って書いてみました。こういうのもどうでしょうか。