No.63206

帝記・北郷:十之後~龍志~

後篇です


オリキャラ注意

2009-03-14 03:37:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6347   閲覧ユーザー数:5489

『帝記・北郷:十之後~龍志~』

 

 

孫権は今度は龍志の剣を渾身の力で押し返す。

もしも龍志が重心をずらしてきていたらそのまま受け流され斬られていたかもしれない動きだったが、不思議と孫権には龍志がそうしてこないという確信があった。

「問おう、孫権よ!!君は王としていかにして国を治め、天下に相対するか!!?」

再び始まる追走劇。

腕を伸ばせば剣どころかその手すら届くのではないかというような距離。

だが、その距離が本当に埋まるのは孫権が答えを述べた時。

そう、龍志が彼女の器を測った瞬間。

「知れたことよ…龍志!!よく聞くがいい!!」

後ろを振り向き、龍志の深緑の瞳にその碧眼を映しながら孫権が叫ぶ。

「わたしは王として、呉を守る!!呉は我が故郷!!我が家族!!わたしの家だ!!それを侵すもの何人たりとも許さん!!たとえ神であろうとその首を刎ねるのみ!!!」

「守る…では天下に対してはどう相対する!!?」

「もしも天下が我らの家に対し悪しき者ならばその天下ごと我らの家とし、そうでないならば呉を守り続ける…それだけの事だ!!!」

「成程……」

 

『守る』

 

消極的に見えて確かな力と覚悟が求められる行為。

時としてそれは攻めるよりも辛い道。

だが、その道を自らの王の道として語る目の前の少女。

(守るものを受け入れ、それによって強くなる器か……)

それは覇王の器ではないかもしれない。

しかし、まぎれもなく王の器。

民の上に立つ者の器。

「あい解った…しからば再び剣にて問おう!!その王道を俺から守って見せろ!!」

突如、二人の左にある切り立った斜面へと雪風を跳ばす龍志。

そのまま孫権と並走しながらその急斜面を徐々に駆けあがる。

そしてある一転に到達した次の瞬間……。

「受けてみよ孫仲謀!新しき呉の王よ!!そして示すがいい…君の天祐を!!!」

大きな跳躍と共に、先程とは比べ物にならない一撃が孫権を襲った。

 

 

ドシャアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

辛うじてその一撃を受けた孫権は、今まで受けたことも無い衝撃に馬から弾き落とされた。

いや、馬すらその衝撃に腰砕けになってしまっている。

両手で受けたとはいえ、腕が砕けなかったのが信じられない。

「く…雪風。良くやってくれた。ありがとう」

そして龍志もまた、地面に立っていた。

最後の一撃の直後、遂に雪風の脚も限界を超えそのまま崩れ落ちるように雪風は地に膝をついた。

振るえる脚でなお起きようとする雪風に、龍志は優しくその首を愛撫してやる。

雪風は申し訳なさそうに龍志を見たが、彼が微笑むとそのまま身を大地に横たえた。

「……死んだのか?」

「いや、眠ってるだけだ」

身を起こして剣を構える孫権に相対しながら、龍志もまた右手の剣を握りなおす。

「…一つ、聞いても良いか?」

「何だい?」

「今回、こうしてわたしを追い続けたのは…全て先程の問答の為か?」

「ああ」

龍志の答えに孫権は眉を寄せる。

「その為に、あれだけ大勢の兵を殺したと?」

「そうだ…君の器を見る為だけに殺した」

「………許せないな」

「だろうな」

苦笑しながら剣を構える龍志。

体はいつ倒れてもおかしくないはずの傷を負っているのにも関わらず、構えには一部の隙もない。

とはいえ、もうそれほど剣は振るえないはずだ。

先程からの剣撃を孫権が受け止められたのも、龍志が消耗していたせいが大きい。

もっともそれを含めて天祐というものなのだが。

「許せないが…憎む気にはなれないな」

「ほう…どうして?」

これには心底意外そうに龍志は尋ねる。

「…お前は哀しい」

「え?」

「お前がどのような人生を送ってきたかは解らない。だがお前は、理想の王というものに縛られ続けていたんじゃないか?」

「………」

「だから、王の器や理想の国といったものにこだわる」

「…そうかもしれないな」

かつて華龍という理想の王に仕え。

その理想の王ですら創ることの出来なかった国を思い。

数百年の歳月の果てに数多の王の姿を見て。

やがてそれを一人の男に見出した。

(ああそうか…俺は求め続けていたんだ。あの国の…終わってしまった夢の続きを)

だがそれは先程までの話。

今はただ、目の前の王を見極めるのみ。

「……終わりにしようか。これでも立っているのも辛いんだ」

「…解った。全力で来い。わたしの王の器とお前の理想…どちらが勝つか次で決まる」

静かに相対する二人。

まるで時が止まったかのように、木々のざわめきも鳥の囀りも聞こえない。

今世界には、この二人だけしかいないのではないかという錯覚さえ抱かせる。

「………」

「………」

その世界を割くかのように、雨が降り始めた。

決して土砂降りではなく、だが弱弱しくもなく。

ただ二人の周りに帳を降ろす為のような雨。

「……はああ!!」

先に動いたのは孫権だった。

身を滑るように前へと出しながら、横に構えなおした剣を振るう。

その眼はしっかりと閉ざされていた。

恐れ故ではない。

己の天祐を信じている為。

いや、信じねばならない為。

命を賭して自分を見定めに来た王の選定者に答える為に。

「……ふふ」

小さな笑い声が孫権の耳元で聞こえた気がした。

そして………。

 

ザンッ!!

 

確かな手ごたえと共に、孫権は剣を振りぬいた。

 

 

斬った。

確かに手応えはあった。

しかし何故。

いや、自分が龍志を斬ったことは良い。

問題は、あまりにも綺麗に決まりすぎたということだ。

手負いとはいえ龍志程の使い手だ、このようにたやすく斬られるはずがない。

静かに孫権は目を開く。

ふと、首元が妙に寒々しいことに気付いた。

手をやってみると、長かった後ろ髪が首の項のあたりでバッサリと切られていた。

もう少しずれていたら、首を飛ばされていただろう。

「……髪と引き換えの勝利か」

「髪一重…というやつかな」

「それを言うなら紙一重でしょ」

後ろから聞こえた軽口に、肩をすくめながら振り返る孫権。

そして、その眼を大きく見開いた。

微笑みを浮かべながら立つ龍志。

その体には、幾本もの矢が突き刺さっていた。

「蓮華様!!」

「御無事ですか!?」

呆然としている孫権に駆け寄って来る二人の人物。

一人は呉の大軍師・周喩。

もう一人は鈴の甘寧。

孫権は囮になると言ったものの、龍志の馬術から逃げ延びるのは難しいと考えた周喩は、孫権がまだ逃げきっているであろうと思われる範囲を割り出して、兵を伏せていたのだ。

尤も、その予想は若干外れてはいたのだが。

「……王の器ばかりに目をとられ、王佐の才を見落とすとは」

ツツっと龍志の唇から血の筋が流れる。

「まったく私も……業が…ふ、ふが……ガハァ!!」

迸る凄まじい量の鮮血。

それは口だけでなく、背中や肩の傷からも噴水のように噴き出した。

「りゅ、龍志……」

その光景の凄まじさに、言葉を失う呉の将兵。

「ぐ…が……く…氣で…ごまかすのも……限界か……」

ガクガクと膝が揺れ、剣にすがって何とか立つ龍志。

大地を見つめ、その大地を地で彩りながら立ち続ける。

「……龍志。何か言い残すことはあるか?」

そう言ったのは周喩だった。

その言葉がまだ龍志に聞こえていたかは解らない。だが、龍志はゆっくりと頭を上げた。

そしてその眼に見た。

(あ…ああ……)

雲間に輝く日輪を。

「か…ずと……」

よろよろと、だが一歩一歩しっかりと前に進む龍志。

その姿を周りの者は皆一様に息を呑んで見つめる。

かつて外史を塗り替えた別の彼を見た時。

(その可能性に魅せられた……)

彼と出会い、共に過ごす中で。

(その器を信じた)

危なげな、それでいて純粋な彼の生き方を知り。

(その夢を守ると誓った)

そして共に起ち、共に戦った果てに。

(彼の創る国を愛した)

日輪の傍らに翻るは、深緑の十文字と新緑の新魏の旗。

その旗の下に集う無数の人々。

(美琉、藤璃、躑躅、紅燕、藍々、青鸞、祭、孫礼、郭淮、程昱、張遼、侯成、楽進、于禁、李典、臧覇、周倉、廖化、貂蝉、華雄、蒼亀、曹操、孫策……いや華琳、雪蓮。皆…一刀様を頼んだ)

すっと、日輪に向けて龍志は拱手の礼をとる。

それは今当に死に逝かんとしている者にはあるまじき光景。

「一刀……」

穏やかな、本当に穏やかな笑みを浮かべて。

(君は…全てを包み込む……真の大器)

先程見極めし孫権の器ですら、一刀ならば飲み込める。

そう龍志は信じる。

(君の周りに皆があり…君の中にも皆がある……)

その一人に自分もいるのだ。

これからも永遠に。

(君に仕えることが出来て本当に幸せだった……)

「北郷一刀の大志よ…我らの夢よ……永久(とわ)に………輝け」

 

 

 

……………ドシャ

 

 

 

 

数日後。

国境よりもたらされた知らせに、漢帝国、そして新魏国は激震した。

ある者は涙を流し。

ある者は雄叫びをあげ。

ある者はそれを信じることができず。

ある者は不思議とそれを静かに受け入れた。

 

ガシャン

 

「か、一刀!?」

「華琳…集められるだけの文武百官を集めろ……今すぐだ」

激情にその身を焦がしながら。

一人の王が今、龍の背より旅立とうとしていた。

 

                    ~続く~

 

 

後書き

どうも、タタリ大佐です。

遂に書いてしまった、さよなら龍志な話。

ぶっちゃけ龍志は強いです。いままで呂布クラスとかしか書いてなかったけど、もう蒼天航路な人です。

 

 

私としても悩んだのですが、やはり今のままだと一刀は龍志の掌の上って感じどうしても拭えなかったもので、彼がいなくなることで独り立ちへの道を歩んでもらおうと思い、ここで龍志を戦線離脱させました。

 

ここで一つお聞きしたい事が。

次以降の戦いの敵ですが、洛陽に攻め入るか孫呉と戦うか悩んでいます。

ので、よろしければ皆様のご意見をお聞かせください。

強制ではないのであしからず。

 

これから一刀はどうなるのか?そして龍志は本当に死んでしまったのか?

答えはまたいつの日か。

 

では、次回作でお会いしましょう。

 

 

次回予告

 

男は風だった

強く吹きすさび日輪を隠す雲を払いのけて

そのままどこかへ行ってしまった

風を失った一刀達がこれからとる行動とは?

 

次回

帝記・北郷~二人の求めた国~

 

 

 


 
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