No.631584

太守一刀と猫耳軍師 2周目 第1話

黒天さん

さて、新しい外史がスタートし、最初に出会うのは愛紗と鈴々ではなく、意外な人物だった。

2013-10-26 22:45:22 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:11184   閲覧ユーザー数:8113

俺は一面に広がる荒野で倒れていた。

 

「……」

 

起き上がって座り、努めて冷静に周囲を見渡そうとしてみる。

 

まさか……。最初の荒野に戻った……?

 

そして周囲を見渡した際に、変な3人組の姿を見つける。黄色い頭巾をかぶった3人組

 

背の低い男と、中位のヒゲの男。デブ。

 

漫画やらドラマに出てきそうないかにも下っ端の小悪党臭の漂う3人組。

 

「おい兄ちゃん、いい服着てんな」

 

「とりあえず兄ちゃん身ぐるみ置いていけや」

 

以前に聞いた言葉とそっくりそのまま同じ台詞に愕然とする。

 

「は、はは……」

 

どうやら俺は振り出しに戻ってしまったらしい。

 

あんなに頑張ったのに、みんなとあんなに仲良くなれたのに。

 

「なんだ? 急に笑い出しやがって、頭おかしいのか?」

 

「ん? 兄ちゃん変わった武器もってるじゃねぇか」

 

髭面の男が俺の腰に手を伸ばす。

 

「触るな!」

 

思わずその手を打ち払い、髭面の男が取ろうとしたソレを抜く。

 

それを開けば金属のこすれ合う音があたりに響き、開きながら斬りつけるようにして振り上げる。

 

開いた両端と、要の金具に取り付けられた真っ赤な飾り紐が宙を舞い、振り上げた鉄扇は男の喉を切り裂いた。

 

リーダー格の男が殺された事で怖気づいたのか、男たちは逃げていく。

 

その鉄扇に視線を落とせばそこには、ちゃんと名が書かれている。

 

その名を見れば涙があふれる。

周囲には誰も居ない。桂花も、いつも隣にいるといってくれた紫青も、背を守るといってくれた華琳も。

 

その場に座り込み、天を仰ぐ。

 

月や詠に、絶対に戻ると約束したのに。華雄の真名の話しも、まだ聞けていないのに。

 

それに、朱里も、桂花も、詠も、まだ+αの褒賞でつけた俺の独占権、まだつかえてなかったじゃないか。

 

やり残したことがまだまだあったのに、あんまりだ……。

 

「あなたが天の御使い様ですか~?」

 

のんびりとした声が俺に届く。誰だ……? 愛紗でないのは間違い無いけど……。

 

そちらに視線を向ければ、ゆるいウェーブのかかった青い髪の女性。

 

足元まであるドレスといってもいいような、ロングスカートのワンピースを着たお姉さん系な人。

 

身長は俺とトントンか。

 

特徴的なのは腰に刺した、その容姿と声に全く似合わない無骨な大剣。

 

絶対どっかで見たことあるはずなんだが、名前が思い出せない……。

 

「泣いていらっしゃるのですか~? あらあら……、天の御使い様がそのご様子では困ってしまいます」

 

唇に指を当てるようにしながら、俺をみて、何かを思いついたようにぽんと手を撃つ。

 

「ふふ、気を晴らすには体を動かすのが一番ですよ~」

 

そういって大剣を振り上げれば、俺に向けて振り下ろしてくる。咄嗟に、俺は右腕でその大剣を受ける。

 

そうすれば袖に仕込んだ小刀が大剣を受け止める。

 

「な、何するんだよいきなり!」

 

「行きますよー!」

 

のんびりとした声に似合わずその太刀筋は鋭い、振り下ろされた剣を俺はどうにか鉄扇で受け止め、しまったと、後悔する。

大剣を受けれるようなシロモノじゃない、壊れる!

 

受け止めてしまった鉄扇に恐る恐る視線を向けてみるがそれは傷ひとつなく、そのままの形を保っている。どういうことだ……?

 

だが、今はそんなことを考えてる暇はない……。

 

「ああもう、やってやるよ!」

 

両手に鉄扇を持ち、臨戦態勢に入り、かまえる。

 

「えーい!」

 

気の抜ける掛け声とともに、女性が斬りかかってくる。

 

この女性のスカートが曲者だ、これのせいで足捌きが読めない。

 

歩き方も独特で、ひどく違和感がある。足運びが読めないので頭の動きで予測するがどうにもそれがズレている気がする。

 

踏み込みのタイミングが読めないために剣を返すのが難しい。

 

剣を弾くように思い切り左の閉じた鉄扇を打ち付けていなしながら、右の鉄扇を振り上げる。

 

「ふふ、甘いですよー……」

 

右腕を女性の左手が押し、軌道を変えてくる。同時に右手で持った大剣が薙ぎ払われるのが見え、俺は大きく後ろに飛び退いた。

 

「あらあら、躱されてしまいましたか。天の御使様は随分な手練の方なのですねー」

 

「殺す気か!? 一体何なんだよ!」

 

「ええと、泣いておられるようでしたので気分を変えていただこうかとー。次、行きますよ~?」

 

相変わらず読めない歩調で俺に接近してきて、その剣を今度は横薙ぎに振りぬいてくる、俺はもう一度後ろに飛び退き、羅漢銭を投擲する。

 

狙いは目。

 

「!?」

 

間一髪の所で気づいたのか、顔を横にずらしてそれを躱す、目の横からつつ、と、血が流れ落ちている。

 

「ふふ、私に手傷をおわせるとは中々ですねー……、こちらも本気で……、えーい」

 

駆けより、剣を下段から振り上げて来るので状態をのけぞらせそれを躱したかと思えば、剣は途中でその動きを変え、突きへと変わる。

 

「フェイントかよ!」

 

その突きを、鉄扇を広げて受け止めるが、勢いを殺せず俺はその場に座り込むように倒れた。

……思い出した。

 

「もう十分だから待ってくれ糜芳! このままじゃどっちかが本当に死ぬ!」

 

愛紗の下についていた糜芳だ。

 

真名を聞いたことはなかったが、一応お互いに自己紹介をしたことぐらいはある。

 

「あらあら? 私名乗りましたっけ?」

 

……やはり、だ。ここは前の世界とは違う。

 

「天泣-テンキュウ-、早すぎ……。っていうか、誰に剣を向けてるの誰に!」

 

すいませんすいませんと、平謝りに誤る女の子。糜竺だ。

 

糜芳と同じ青い髪を後ろで一本の三つ編みにまとめている。一見、軍師風の服装に見えるが、その背には大ぶりの弓。

 

確か、正史じゃ糜竺はオールラウンダータイプ……。弓馬に優れていたと聞くが、肩書としては政治家だ。

 

弓が得意らしいという話しは聞いたことがあったが、実際その腕を見たことはない。確か軍勢の統率は苦手としてたっけ。

 

天泣、というのは糜芳の真名か。なるほど。天泣といえば狐の嫁入りの事。

 

名前に「泣」が入るのは違和感だけど、ピッタリの真名の気がする。

 

確かに前の世界では愛紗達を見た時に面食らったが、武官は武官らしい、軍師は軍師らしい衣装を着ていたし、それらしい性格のことが大半だった。

 

だが糜芳はどうだろう、明らかに武官には見えず、話し口調もトロそうなのに太刀筋は鋭く、見た目に惑わされると痛い目を見る。

 

晴れだとたかをくくってたらびしょ濡れになる天気雨とかピッタリじゃないか。

 

…………あれ?

 

確か糜芳も愛紗や鈴々には劣るものの、結構な使い手だって聞いてたけど……。

 

俺、今フツーに相手してた気がするんだが。

「あ、あの……、妹の糜芳が無礼を働いた事はお詫びしますので……」

 

「あ、いや、怒ってるわけじゃないんだけど」

 

考え事をしていて糜竺のことをガン無視してしまっていた。いかんいかん……。

 

「所で聞きたいんだけど、ここどこ?」

 

「ここですか? ここは冀州ですよ」

 

「……冀州、ねぇ?」

 

前の時とスタート地点がかなり西にズレてるきがする。前は幽州だったし。冀州ってことは袁紹の領土に近いのか。

 

時期的にはやっぱり黄巾の乱の頃かなぁ……。

 

「コイツだよ! 兄貴を殺したのは! ……誰だ? この女2人は」

 

「へへ、いい女じゃないか、やっちまえ!」

 

と、黄色い頭巾をつけた集団、およそ30人。なんだ、逆襲に来たのか?

 

「御使い様は後ろへ、天泣、やるよ?」

 

「いや……、俺もやるよ」

 

「大丈夫、御使い様も強いから~」

 

両手に鉄扇を構え、2人が走りだすより先に集団へと突っ込んだ。ヤケになってた部分もある。確かめたかった部分もある。

 

結果、糜芳と麋竺も戦ってくれたが、俺も随分な数を一方的に叩きのめす事ができた。

 

これで分かったのは、何故だか相当に強くなってる事。鉄扇が異常なほど頑丈になっていること、の2点。

 

剣を受け止めてみたところであいも変わらず傷の一つもつかなかったのには驚きだ。

 

先ほど糜芳の突きを受け止めた所も、ヘコみも歪みもしてないし。

 

于吉を倒してレベルアップでもしたか? まさかね、ゲームじゃあるまいし。

「で、どこまで話したっけ?」

 

「えっと、ここが冀州だ、というところまでですね」

 

「んーっと。董卓って知ってる?」

 

「いえ、知らないです」

 

「しらないです~」

 

2人ともが同じこたえ。やっぱり反董卓連合の前か……。

 

「え、ええと、まず自己紹介してもいいですか?」

 

「あ、そういえばまだだっけ」

 

こっちは初対面じゃないけど、相手は初対面なのをすっかり忘れてた。

 

「姓は糜、名は芳、字は子方ともうします~」

 

「姓は糜、名は竺、字は子仲と申します。御使い様の名前を聞いても?」

 

「俺は……」

 

しばしの間思案する。どうにも、以前は姓名字と真名が無いために何かよそ者感が強かった。

 

全てリセットされたのだ。この際、この世界の例に習い、姓名字と真名を持とう。

 

前々から考えてた事だが、実行に移す時が来ようとは。

「姓は島、名は津、字は北郷だよ。字で呼んでくれていいから」

 

郷に入っては郷に従え、これでいいとおもう。

 

「それで、2人は天の御遣いを探しに来たってことでいいの?」

 

「え、ええ。占いで、ここに現れると聞いていたもので……。聞いていた姿と同じ北郷様がそうだとおもうのですが……」

 

「ふむ……。2人は誰かの下で動いてるの?」

 

「いいえ。そういうわけじゃないですよー」

 

「天泣は黙ってて! ややこしくなるから!」

 

「あ、質問。その……、それって糜芳の真名?」

 

「はい、真名は天泣です~。真名で呼んでもいいですよ~? さっき戦ってみて実力はわかりましたし~」

 

「糜竺は?」

 

「ん、んん……。申し訳ありませんが私はまだ、様子見、とさせていただきます」

 

「わかった。じゃあ俺も天泣には真名を教えておくよ。真名は一刀だよ。

 

それで、2人はこの後どうするつもりなの?」

 

正直、この子らについての印象はすっごい薄い。

 

気がついたら仲間になってた、ってぐらいの印象しかないんだよな

 

出自については正史のはある程度知ってるけど……。

 

「実は、この東の涿県で、劉備という人が居るそうなんですが。その人の所に行くつもりだったんです。

 

でも途中で占いの話しを聞いて丁度近くだから探してみようという話しになって……」

思わず吹きそうになった。

 

劉備だって? 確か前は俺が演じた役回りだったけど、今度は劉備が居るだって?

 

なんでもその劉備が唱える理想というのに惹かれてそっちに行く気になったらしいけど……。

 

「顔色が悪いですよー?」

 

俺の狼狽を感じ取ったらしい糜芳が顔を覗きこんでくる。

 

「い、いや、なんでもない! 何でもないから! でも、俺は劉備の所には行かないぞ?」

 

そうですか、と、がっかりした様子の2人。

 

「ではどこか当てでもあるのですか?」

 

「ん、んんー……」

 

考える。当ては……。この近くだと袁紹は論外、今の時期なら桂花が居る可能性が高いが、正直、今桂花にコテンパンに罵られたらこの先いきていく自信が無い。

 

仕官したら案外さっくりと登用してくれそうだけど。そもそも桂花はもうすぐ華琳の所に移動するはずだし。

 

紫青の所という手もあるが、実は実家の場所は知らない。それに何の評判も無い俺を相手にしてくれるとも思えない。

 

さらに足を伸ばして白蓮の所っていう手もあるが、あそこは前の経験から考えれば劉備との距離が近いから早い段階で会う事になる。

 

正直劉備には会いたくない。なぜだかしらないが非常に嫌な予感がするから。というわけで幽州も除外。

 

消去法でアテになりそうっていえば、華琳か華歆の所ってことになるか。

 

華琳は男嫌いだからダメ。ってことは残る選択肢は華歆の所か。

 

ただ華歆の所は給料支払う余裕があるかどうかだなぁ……。人手不足なはずだから使ってはくれるだろうけど

 

まぁ、一番可能性ありそうな華歆の所に賭けてみるか。

 

「南に行く。拾ってくれそうな領主に心当たりがあるんだ」

───────────────────────

 

2人は結局、劉備の所には行かずについてきた。

 

何故ついてきたか問うと、天泣が一言「気に入ったから」と。そして糜竺はそれに引きずられる形でついてきた。

 

南へ歩いている道すがら冷静になって考えてみて、俺が親しかった人間に最初に出会わなくて良かったと心底思う。

 

例えば前回と同じように愛紗や鈴々だった場合。

 

いきなり真名で呼んでデッドエンド。なんていう公算が高い。

 

仮に星や霞あたりだったとしてもかなり危険だし、魏の面々については更に論外、真名を呼びかけた時点で即死確定だろう。

 

色々と考えながら、ついで湧き上がってくるのは。もう頑張るのはやめようか、という気持ち。

 

頑張って積み上げたものが無に帰ってしまったのだ。

 

正直今、心が折れていると思う。積み上げてもまた、無に帰ってしまうのでは、と思うとイヤになる。

 

とはいえ、この先何が起きるかは知ってるし……。放っておけば月や詠の死亡が確定してしまうわけで……。

 

たとえまた全てがもとに戻ってしまうと仮定しても、そんなのはイヤだった。

 

ただ、今ある不確定要素としての「劉備」。これがどう動くか見当がつかない。

 

色々と考えながら、取り敢えず最初の目的地に。

 

何のことはない、宿を取るためによった小さな街だけど。

 

「寂れてるなぁ……」

 

「そうですねー」

 

「天泣がいうと深刻そうに聞こえないのよね。

 

あちらこちらで黄巾党が暴れてしますし寂れてしまうのも致し方なし、という部分はあります。

 

官軍がもっとしっかりしてくれていればいいのですけど」

 

前の時の涿県は官軍が逃げたしなぁ。

 

取り合えず腹ごしらえをしようというので開いてる店を探しにブラブラと街を歩いていたのだが……。

 

「あれ?」

 

正面にどっかで見たような猫耳フードの服を着た人物が。

 

確かにここは曹操の領土に向かう通り道だけどさ。来る時期が早すぎないか……?

 

思わず脚を止めてそれを眺めることしばらく、相手もこちらに気づいたようで……。

 

ばったりと猫に出会った時のようにお互い硬直して見つめ合ってしまう。先に動いたのはその人物。

「一刀様ー!」

 

声を上げながらこちらへと駆け寄ってくる。

 

……様? いや、待て、一回でも桂花が俺のことを様つけて呼んだことあったっけ?

 

というか何で名前を知ってるんだ?

 

そう考えているうちに距離は見る間に縮まり。

 

ゴッ。という鈍い音とともに、顔面を天泣が行く手を塞ぐように突き出した大剣の腹にぶつけ、ひっくり返った。

 

あーあ、思い切りいったなこれは……、目を回しちゃってるよ。じゃなくて!?

 

「どういう了見で一刀さんの真名をお呼びですー……?」

 

「天泣の馬鹿ー!? 今の様子みてると明らかに知り合いっぽいじゃない! 北郷様も怒ってないし!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

目を回した桂花らしき人物を助け起こし、とにかくどこか寝かせられる場所を、ということで急ぎで宿を探し、その日はそこに泊まる事となった。

 

あとがき

 

どうも黒天です。

 

タイトルが決まらない! ということで取り敢えず後ろに『二周目』とつけました 。

 

タイトル思いついたら変えると思います。タイトル案募集中。

 

第一話からいきなり出てきました糜芳、糜竺の姉妹。

 

調べてみて、シリーズ通して名前しか出てこないこの人らを登場させてあげたいなー、なんて思って登場させてみました。

 

影うすいですが、調べてみると正史じゃ結構ハイスペックのような気が……? 特に糜竺。

 

糜芳は天泣として、糜竺は対のものとして、太陽か虹に関する字を当てたいとおもっているのですが、

 

語呂が悪かったりで決まってません、こちらも案を募集中。

 

さて、このあとの一刀の行動は、桂花は何故様付で呼んだのか、劉備は一体何者なのか……。

 

一応、真に出て来る劉備とはベツモノ予定です。(真未プレイですし)

 

一刀につけた二周目特典は、鉄扇が頑丈になったのと、戦闘能力が許褚並(暫定)になってます。

 

またマイペースに更新していくとおもいます。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
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