No.629901

落日を討て――最後の外史―― 真・恋姫†無双二次創作 32

ありむらさん

御無沙汰をしております。

間が空いたので、あらすじを付させて頂きました。

2013-10-20 21:01:41 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5397   閲覧ユーザー数:4288

 前回までのあらすじ

 

 陶謙に人質を取られた劉備軍は、徐州に身を寄せていた曹操の妹曹徳、及び孫権の妹孫尚香を、やむなく襲撃する。しかし、その襲撃も、二人の華蝶仮面の活躍により、失敗に終わった。

 徐州へ猛進した曹操軍に和睦のための会談を申し入れた劉備は、その会談の席で、曹操から関羽を差し出すよう要求される。

 劉備の軍勢が滅亡を免れるにはその提案を受けるしかないと思われたが、交渉を遮るようにして、ある人物がその場に姿を現した。

 その人物こそ――公孫伯珪であった。

 

 会談へ出席した人物。

 曹操、夏候惇、荀彧。

 劉備、関羽、諸葛亮。

 公孫瓉。

 

 

【32】

 

     1

 

「幽州の公孫瓉がどうしてこの場にいるのかしら」

 桂花の内心の疑問を代弁するように、華琳は凛然とそう言った。

 まったくもって予想外の人物が姿を現したものだ。

 公孫伯桂。

 黄巾の乱でもあまり自らを誇示するような動きは見せず、ただ自領である幽州を堅実に守り抜いた、義に篤い勇士が、今、その幽州を離れ、桂花たちの目の前に姿を現した。

 ――そう言えば。

 素早く、桂花は記憶をたどる。

 確か、公孫瓉は劉備と同門であった筈だ。ならば、劉備の窮地に、彼女を救いに現れたのか。

 ――それはないわ。

 陶謙及び劉備が動き出したのはつい先日のことである。今回の事件を察知して幽州から駆け付けたのでは、到底この場に間に合うまい。

 つまり――公孫瓉は徐州近辺にいたのだということになる。

「勿論、会談に出席するためさ」

 白馬の勇士は堂々とそう言い放つと、衛兵に目配せをして席を設けさせ、静かに腰を下ろした。

「そんなことを訊いているのではないの」

 華琳は冷徹に言い放つ。

「この公孫伯桂が、劉玄徳と曹孟徳の会談に出席する理由は如何なるのもかと、問うているわけだ。曹孟徳は」

「答えなさい」

「使者だよ」

 桂花は冷静に公孫伯桂を観察する。

 彼女はこの場に現れてから、一度たりとも劉備を見ていない。今の劉備と公孫瓉に友好的な関係性は見いだせなかった。

 

「私は――孫仲謀の使者としてこの場に来た」

 

 その言葉に、その場の全員が驚きの声を上げた。

 ただ、華琳を除いて。

 華琳は微塵も動じず、凍った優雅さを身に纏って幽州の英雄と相対していた。

「正確には――孫仲謀の名代の、更に代理人と言ったところだよ」

「詳しく訊こうかしら」

 華琳の言葉に公孫伯桂が頷く。

「まずひとつ。桃香――劉備は今回の襲撃に失敗したが……」

 気まずそうに、劉備が視線を下げた。

「阻止したのは――私だ」

 驚くべき告白である。

 劉備陣営は皆一様に瞠目して言葉を失っている。

「まあ、実際に動いたのは私のところにいる客将と、その客将の無二の友だ。なあ、曹孟徳――孫家の姫、及びあんたの妹君を救い出したのもまた彼女たちだ。私が孫仲謀の使者と名乗ったのは他でもない。『我が客将の友』が、孫尚香救出の後、今回の一件に関する交渉役を、孫仲謀から任された。だが、生憎その男は火急の用に追われているらしくてな。この公孫伯桂が代理で交渉役を務めることとなったと――まあそういう訳だ」

「なるほど――取り敢えず、その説明で納得しておきましょう。ただ、関羽の忠誠の誓いを遮った理由はまだ訊いていないわ。公孫伯桂――あなた、この交渉をずっと盗み聞いていたのでしょう」

 その言葉に、桂花の隣に立つ春蘭が目を剥いた。公孫瓉の気配を察知できなかったことに驚きをかくせいないのであろう。

「関羽は私が貰い受ける」

 不敵に笑って、公孫瓉は言い放った。

「馬鹿を言うのも程々にするのね、公孫伯桂」

「そうだな、語弊があった。関羽は孫仲謀が貰い受ける。ここは譲って貰うぞ、曹孟徳」

「譲る理由がないわ」

「あるさ。結局、あんたの軍勢は間に合わなかったじゃないか。実際に曹徳を救い出したのは、私の兵と我が客将、加えてその友だ。この場は、この公孫伯桂に花を持たせてくれても罰は当たらんだろう。それに、関羽に拘泥しなくとも、けじめをつける方法はある」

「随分と上からものを言うのね。ただ、けじめをどのようにつけるのかは、私と劉備の問題。あなたの出る幕はないわ」

「まあ、待て。本来の交渉役から提案がある。曹操――というより、陳留の民にとって、中々悪くない提案だと思うぞ」

 公孫瓉の言葉に、桂花は苦虫を噛んだような顔になる。

 陳留の民にとって――。

 この言葉は、曹孟徳の王としての器に挑戦する語り口である。肉親を襲われた怒りを収め、この場で最も合理的な判断を下すことが出来るか。

 公孫瓉はそう問い掛けている。

 しかし、その問い掛けこそが、公孫瓉が自らの思い通りにこの会談を乗り切るための布石でしかない。華琳もそのことに気が付いている。公孫瓉も自分の意図が知れていることを自覚している。その上で、挑戦して来ているのである。

 公孫伯桂は紙を一片取り出して、それを朗々と読み上げた。

 

「一つ。――劉玄徳は、曹孟徳が今回の出兵で要した戦費の賠償をする」

 

 咄嗟に口を挟もうとした関羽を、劉備本人が所作だけで制する。さすがに、その程度の分別はあるようだ。

 

「一つ。――米、麦、塩、砂糖黍、胡椒、胡麻、菜種、麻、綿花の九品目に関して、劉玄徳は曹孟徳に対し、取引上限額を定める。今後、曹孟徳の許可証を得た陳留の商人は、徐州においてその上限額を基準に取引する権利を得る。この取引上限額は、曹孟徳からの申し入れによってのみ変更を加えることが出来ることとする」

 

 公孫瓉の読み上げる内容に、諸葛亮が顔色を青くする。

 そして同時に、桂花は驚愕する。

 二つ目の条件は、曹孟徳にとって極めて有利なものである。これによって陳留の商人は、物品の価格変動にとらわれることなく商売することが出来る。

 商いについて回る、「凶作による価格高騰」という危険は、徐州の側が負担するのだというのだ。陳留の商人は徐州の民からぐんぐん富を吸い上げ、山のような租税を曹孟徳に収める。

 それは更に陳留を発展させ、曹孟徳の軍備を強化するのに役立つだろう。

 

 しかし、二つ目の条件には、欠くことの出来ない前提がひとつあった。

 

「待ちなさい、公孫伯桂」

 

 華琳が遮った。

 

「なんだ?」

「陶謙はどうなったの」

 

 あらゆる過程を省略して、華琳はそのように質問した。

 桂花は、聡明な主を、とても誇らしく思う。

 

 華琳の質問の詳細な意図は次の通りである。

 

 陳留の商人に対して、徐州が価格上限固定取引を認めたところで、現在の徐州州牧はあくまで陶謙なのである。曹操と劉備が合意しても、それが当然に陶謙、ひいては徐州全体に適用されるわけではない。

 

 公孫瓉の述べた和睦条項は――『劉玄徳が徐州州牧』であることを前提としているのである。

 

「ああ、陶謙か。――私たちで殺した」

 

 事もなげに、公孫伯桂は言い放った。

 

「そちらの荀彧などは疑問に思っているだろうから、一応、説明しておこうかな」

「あなたとは初対面だと思うのだけれど、公孫伯桂」

 

 突然水を向けられた桂花は、けれども狼狽えず迎え撃つ。

 

「猫耳頭巾が曹孟徳の筆頭軍師だと聞いていたんだが、違ったか?」

「あまり大きな態度を取らないことね。自分の首を絞めるだけよ」

「ご忠告どうも」

 

 さて、と公孫瓉は話を切り出す。

 

「私は洛陽にいた」

 

 その言葉に、華琳の表情から不信感が漂う。

 

「何進からどうしてもと乞われてな。漢の一大事だと言われたなら、私も腰を上げざるを得ない。十常侍の段珪が洛陽の外部と熱心に連絡を取って、ひとつ事を起こそうとしている。だが、信のおける実力が周囲にないという。何進の私兵だけでは心もとないのだそうだ。そこで私は必要最低限の兵を従えて、洛陽に入った。私が到着するまでの間に判明したのは、段珪が陶謙と結んでいたということ。そして、先日起こった『やんごとなきお方を狙ったとある事件』の首謀者は、どうやら段珪が陶謙から貰い受けた人間であったということ。陶謙には反逆の容疑が掛かり、朝廷へ召喚されることになった。私は兵を引き連れ、何進の書状をもって徐州へ向かった」

 

 一応、筋は通っているし、桂花が細作から得ていた情報とも粗方合致する。

 

 何より、公孫伯桂が徐州近辺にいた説明としては、かなり合理的な部類であった。

 

「私と、先に述べた私の客将は、一部隊を率いて陶謙の城を目指した。『我が客将の友』と邂逅したのはその道中でのことだ。その友を我が部隊に加え、陶謙の元へ向かってみると、見過ごせない場面に行き当たった。――大きな邸宅に女子供が集められ、そこへ陶謙軍の将たちがぞろぞろと入って行くところだった。細作を放ってみれば、その女子供たちは劉備軍から取られた人質で、これから将たちの慰安を務めさせられるという」

 

 劉備が愕然として、公孫伯桂を見る。

 そこで初めて、白馬の勇士は、劉備へ優しく微笑み掛けた。

 

「心配するな、桃香。女子供たちは無事保護したよ」

 

 公孫瓉の視線が華琳に戻る。

 

「だが、陶謙はすぐに殺した」

「へえ。少ない兵数で、中々やるものじゃない、公孫伯桂」

「私は何もしていないさ。そもそも城に残った敵兵は少なかったしな。怒った我が客将とその友が、一晩で皆殺しにした。陶謙の皺首はもう洛陽の何進に送ったよ。それが二日前のことだ。ここから北に展開されていた、陶謙軍の主力四万はすでに撤退している。本当は劉備たちが襲撃を掛ける前に、私が到着出来ればよかったんだがな。――まあ、曹徳と、孫家の姫が生きていたんだ、どうにかそれでよしとしてくれ」

 

 それでだな、と公孫伯桂は続ける。

 

「劉備は次の徐州州牧に内定している」

「なんだと!?」

 

 思わず声を上げたのは春蘭だった。が、慌てて自分の手で口を押えている。

 

「洛陽を立つ際、何進が言っていた。召喚された陶謙がどのように申し開きをしようと、徐州州牧は交代。誰か良い人間はいないかと問われたので、劉備にしろと言っておいた。ここで、今回の条約が意味を持つ」

「なるほど。まあ、あなたの説明は一応筋は通っているし、続けて聞いてあげましょう」

 

 苦笑してから、公孫瓉は書面を更に読み始める。

 

「この他は何もないさ。最後の条項は、以上に加えて、曹孟徳は劉玄徳に一切の請求をしない、だ」

 

「そう」

「悪くない提案だと思うぜ。どうだ?」

 

「断るわ」

 

 公孫瓉の顔から、余裕が静かに消えた。

 

「なぜだ」

 

「戦費の賠償。これは必要ないわ。私の軍を維持するのは私。劉備から賠償を受けるくらいなら、劉備を滅ぼして私のものにするわ。それから九品目に関する取引価格の上限固定。これも無用。陳留の商人は確かにこれによって一時的に利益を得るでしょう。しかし、それも劉備が徐州州牧である間だけ。この乱れた世の中で、一体どれだけの期間、その恩恵を得られるのかしら。劉備もし徐州を去れば、残るのは競争力を失った陳留の商人だけ。無用も甚だしい条項ね。――それから。関羽もあなたの好きにしなさい、公孫伯桂。どうせ形だけ、関羽の身を引きうけた後、劉備軍へ戻すのでしょう。いいわ、今回はあなたに花を持たせましょう」

 

 華琳がこの言葉を放った一瞬で、桂花は劉備陣営を見下した。

 

 そしてそれは春蘭もどうようであったらしい。桂花でも肌で感じられるほど、彼女は劉備陣営に向けていた警戒心を捨て去った。

 

 関羽が微かに見せた安堵の表情。

 

 あからさまな劉備の驚愕の表情。

 

 どちらも、華琳の言葉に対する反応としては、期待はずれなものだった。

 

 正しい反応を示したのは、公孫伯桂と諸葛孔明の二人。

 

 華琳の言葉の意味するところはつまり――劉玄徳は曹孟徳の覇道を阻むに値せず。 

 

 叩き潰すなら、欠片も残さず葬り去る。

 

 そうでないなら、歯牙にもかけない。

 

 今回は曹徳救出の功労者である公孫伯桂の顔を立てて、見逃してやると言っているのである。

 

「行くわよ、桂花、春蘭」

 

 さっぱりとした華琳の態度には、桂花と春蘭だけが感じ取ることの出来る、微かな落胆が見えた。

 

「あ、そうそう」

 

 劉備たちに背を向け、会談の席を去ろうとした華琳が思い出したように言った。

 

「公孫伯桂。――あなたの客将の友、あなたを代理に指名した男の名を聞かせてくれないかしら。孫仲謀から直接交渉役を任された男の名、知りたいわ」

 

 華琳の問いに、公孫瓉が応じる。

 

「黒(ヘイ)――と名乗っていた。興味があるのか?」

 

「ないこともない――といったところかしら」

 

 そう言い残して、華琳は交渉の場を去った。

 

「桂花」

 

 馬に乗り、本陣へ向かう途中、華琳から声が掛かった。

 

「は」

 

「黒――という男について探らせておいてちょうだい。稀有な知略の持ち主でしょうから、どこかの勢力が緻密に隠していない以上、情報は入手できるでしょう」

 

「恐れながら、その者の知略はそれほどでしょうか。結局、華琳さまはあの提案に承諾されませんでした」

 

「だからよ」

 

 どこか楽しげに、華琳は言った。

 

「完全に、読まれていたわ」

 

 

     2

 

「白蓮殿、戻られたか」

 舞台に戻ると、趙雲――星がそう親しげに声を掛けて来た。

 白蓮が盛大にため息をつくと、星は楽しげに笑う。

「どうやら随分とお疲れのようですな」

「まったくだ。腹黒い交渉事は、私の柄じゃないと言っているのに。あー草臥れた」

「ふふ、ただ我が友が直接赴く訳にもいかなかった。彼も随分と白蓮殿には感謝しておりましたぞ。この借りはいずれ返すと」

「それは別に良いんだけどな。――にしても、曹孟徳は黒(ヘイ)に興味を持ったみたいだったぞ」

「……ほう」

 真剣な様子で、星は目を細める。

「それは――曹孟徳が黒殿の和睦条項案を突っ撥ねたからでしょうな」

「ん? あれ?」

 ふと、引っ掛かりを覚えて、白蓮は首を捻る。

「あれ、私、言ったか?」

「何をでしょうかな」

「曹操が結局何も受け取らずに帰ったってこと」

「いいえ。ただ、黒殿の読みが当たった、曹操は自分の応対が逐一読まれていることを悟って、黒殿に興味を持った――少し考えれば分かることです」

 

 そう、曹孟徳は結局、和睦案には応じず、劉備を滅ぼすこともなく、陣を引いた。

 

 すべては黒の読んだ通りだったのである。

 

「そうか。にしても、星も恐ろしい友を持ったものだな」

「黒殿は恐ろしいですかな」

「私からしてみれば。武勇も知略も、人ではないみたいだ」

 

 一瞬、星は悲しげな顔をした。

 

 だがそれも、すぐに隠してしまう。飄々としたこの客将は、あまり本心を露わにしたがらない節がある。

 

「ふふ、確かに。黒殿は恐ろしい才を持っておいでだ。もっとも、それは白蓮殿の考えるのとは別の、ですが」

「へえ、どんな才の持ち主なんだ。おまえの友達は」

 

 いやらしく笑うと、星は勿体付けてから答えた。

 

「知らず知らずのうちに、女の心を手繰り寄せる名手なのですよ、あの御仁は。白蓮殿も用心なさることだ」

 

 

ありむらです。

 

間が空いてしまってすみません。

 

次回は黒華蝶が孫家の姫を送って行くお話です。

 

送り狼にはなりません。

 

なりませんとも!

 

では、また次回

 

ありむらでした。

 

 

ps

 

たくさんの応援を頂きありがとうございます。

 

改めて言っておきますが、このお話、完結させます。

 

いきなり恋姫の二次創作が禁止になった! など、法的な障害が発生しない限りはがんばります。

 

ではでは


 
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