黄巾編其二
華佗。五斗米道出身の、主に鍼を使って治療をする医者だ。
病に苦しむ人を助ける為に、大陸中を歩いている。私と零士が出会ったのも、二年間の旅の時だ。
腕は一流なんだが、治療姿があまりにもうるさい。良くも悪くも、絶対に忘れる事のできない人物だ。
華佗「二人とも元気にしていたか?」
零士「あぁ、おかげさまでね」
華佗「それは良かった」
華佗は笑顔で答えた。だが
咲夜「それで、華佗がわざわざうちに来たのは、世間話をする為なのか?」
それも十分にあり得る話だが、なんとなくそんな気はしなかった。
華佗にしては珍しく疲れているような笑み。そしてどことなく焦っているようにも見えた。
華佗はしばらく間を置いてそして
華佗「…あぁ。実はちょっと、二人に依頼したい事があってな」
零士「依頼?」
華佗「あぁ。二人とも、太平要術の書という本を覚えているか?」
咲夜「確か、お前が今探している本だよな」
悠里「す、すいません!そのたいへーよーじゅちゅの書ってなんですか?」
悠里が申し訳無さそうに尋ねてくる。て言うか、言えてないぞ悠里。
華佗「太平要術の書…。使用者の願望と、その願望が達成する為の方法が記されているものであり、
また妖術が使える者にはその力を高めると言われている、とても危険な書だ」
悠里「ふぇー、そんな本があるんですか?願望を叶えてくれるなんて、
ちょっと見てみたいかも知れないですね。でもどうして危険なんですか?」
華佗「あぁ、願望を叶えるといっても、叶えるのはその人個人で、
まわりの人間は必ず苦しみ、不幸になっていくんだ。
そして最後には、書が使用者を操って使用者を不幸にする。
さらに太平要術の書は、そういった人々の憎しみや怨嗟の感情を吸い取り、さらに強力になっていくんだ」
悠里「操って、不幸にして、強くなっていくんですかぁ。怖いですね。
なんか本なのに、生きているみたい」
華佗「あぁ、それで俺は五斗米道からその書の封印を任されて探しているところなんだ」
悠里「なるほど。わかりました!」
咲夜「それで、その書がどうかしたのか?見つかったのか?」
悠里が理解したところで、私は話を戻す。
華佗「実は少し前に、治療で曹操の元を訪れたんだ。
おっと、治療といっても、そんなに深刻なものでもないし、病魔は俺が退散させたから心配しなくてもいい。
そしてその時に曹操にもその書を見つけたら保管しておいてくれと頼んだんだ。
そしてどうやら見つかったらしいんだが、俺が駆け付けた時には、すでに賊に奪われてしまったらしくてな」
咲夜「曹操さんらしくない失態だな」
華佗「曹操も、まさか古ぼけた書を取られるとは思わず油断してたらしくてな。
それはいいんだが、問題は次なんだ。今巷で、黄巾党と呼ばれるものがいるのは知っているな」
咲夜「そりゃあな」
そこで気づく。おいおい、まさか
零士「もしかして、書を奪われた時期と、黄巾党の発生時期って」
華佗「あぁ、ぴったり重なる。」
悠里「え?それってまさか、黄巾党の人たちがそのなんとかって書を持ってるってことですか?」
華佗「可能性は高いし、俺はそうにらんでいる」
咲夜「それで華佗は今回、私達に黄巾党内部に行って、その書を回収して欲しいということか?」
華佗「さすがに俺一人であの大群に行くのは骨が折れる。
それに零士達は黄巾党の首領、張角を知っているんだろう?協力してくれるとありがたい」
つまり、私たちが黄巾党本隊に行き、恐らく太平要術の書を持っているであろう張角達を探すのか。
なかなか危険だな
零士「見返りはあるのか?」
零士が冷たく言い放つ。当然だな。かなり危険なことだ。
普通は何かしらの報酬を求めてもおかしくはない。
華佗「悪いがあまり金は用意できない。だから強制もできない。かなり危険な事だ。
断ってくれても文句は言えない…」
華佗は申し訳なさそうに答えた。私は零士を見、そこで気づいた。
あぁ、こいつは最初から決めていたんだな
零士「まぁ、華佗の頼みだ。今までかなり助けてもらってきたし、聞かないわけにもいかない。
咲ちゃんもいいかい?」
咲夜「構わないぞ」
そう。こいつは鬼畜だが、悪人って訳じゃない。
むしろ仲間は大切にするし、友人の頼みであれば基本的に聞くのが東零士という男だ
華佗「いいのか?あまり報酬はないんだぞ?」
零士「さっきも言っただろ。助けてもらってきたんだ。金はいい。」
悠里「あ!もちろんあたしもお手伝いします!」
悠里が元気良く返事をする。遊びじゃないんだけどな
咲夜「悠里、危ないぞ」
悠里「大丈夫です!自分の身くらい自分で守れます。一人より二人、二人より三人、
数は多いに越したことはないですし、それにあたし、探し物得意なんです!絶対役立ちます!」
咲夜「……はぁ、わかったよ」
私は苦笑し許可する。悠里は結構頑固なところがあり、なかなか譲らない。
どうせこっちが折れるのは目に見えてるから、さっさと折れておいた
零士「と、言う事だ華佗。協力するよ」
華佗「すまない!ありがとう!」
零士「さて、話もついたところだし、そろそろ営業開始しようか。
じゃあ報酬は……、華佗にも営業を手伝ってくれることにしようか。それでいいかい?」
華佗「あぁ!そんな事でいいならもちろん手伝う。接客は任せろ!」
悠里「お!華佗さん熱いですねー。私も負けませんよ!」
……今日はさらに賑やかになりそうだな。
それにしても、太平要術の書が黄巾党にあるとは。
確かに、あの張角達がこんな大規模な乱を起こすとは思ってなかったが、
そんな事になっているかもしれないとは思ってもみなかったな。
張角、張宝、張梁の張三姉妹。
歌う事を生業にしている旅芸人で、うちの店でも何度か来て歌っていったことがある。
その時の彼女たちは、朝廷に対し反乱を起こそうなんて考えているようには見えなかった。
三人で歌って、大陸一の旅芸人になりたい。それが彼女たちの夢だったはずだ。
もしかしたら、太平要術の書は、そんな彼女たちの願いに反応したのかもしれない。
知らない仲じゃない。私の方でも、できる限りのことをしてみるのも、悪くないかもしれないな。
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黄巾編の続きです。熱い男が登場します