凍りついたまま再起動しないアンリエッタをおぶりながら、ハヤテたちは教員寮へ移動していた
背中に二つの柔らかい感触があるが、それに対して感覚を裂く余裕はない
「あの…ハヤテ。怒ってる?」
珍しくしおらしい様子のルイズが声をかける
「…そうだね。正直、少なからず頭にはきているよ。ルイズなりに考えて出した結論なんだろうけど、少し急き過ぎだね」
とこちらも珍しく仏頂面のハヤテが答える
「あなた、ルイズをあまり責めないであげて?この子もワルド子爵の事で焦っているのよ」
「そうだねぇ。ま、しょうがないさ。婚約者が実は裏切り者でしたってな…。そりゃぁ色々堪えるものがあるさね」
ハヤテの両脇からそれぞれカトレアとマチルダが取り成す
ティファニアも不安げな表情でみんなを見つめている
「だけどね、あまりにも行動を急ぎすぎだ。依頼を断るならともかく、受けるならば最低でも義母上と学院長には話を通しておくべきだった」
早足になりながらハヤテは冷静にあしらう
あまりの正論に皆が一様に口を噤む
「っでも!私はワルドさまが売国奴だなんて、思えない…。だったら」
「だったら?自分の目で見極めようとしたのか?…だとしたらそんな甘い考えは捨てることだね」
ルイズの反論を見透かしていたかのようにハヤテが釘をさす
何故、という顔をしているルイズにハヤテが答える
「相手は魔法衛士隊の隊長、その上に爵位は低いが貴族なんだ。当然論戦には強いだろうし、自分を偽る仮面ぐらいいつでも付けているだろうね。勿論その仮面はルイズに見破れるほど稚拙ではない筈だよ。」
ハヤテが放つ口撃にルイズが言葉を一瞬詰まらせる
だが、すぐに持ち直して反論する
「でも!それでも私は」
「そこまでじゃ。ハヤテもルイズも少し頭を冷やせぃ」
ハヤテの頭の上から声がした
見るとそこには橙色の毛並みをした、尻尾が九つある子狐がくぁ~とあくびをしていた
「…クラマ。俺は冷静だよ」
「どこがじゃ。先程からどんどん早足になっておるぞ?現にティファニアとエレオノールはついて来れておらん」
慌ててバッと後ろを振り向くハヤテ
見ると確かにだいぶ後方に、ぜぇはぁ言いながら少し涙目のティファニアとエレオノールがいた
「くふふ…。ハヤテよ、その小娘たちが心配なのは分かるが、ちと焦りすぎじゃ。それでは守れるものも守れなくなってしまうぞ?」
それにじゃ、とクラマが口角を上げ牙を見せながら言葉を続ける
「無理に悪役ぶらんでもよかろう。お主には憎まれ役は似合わんよ」
ハヤテは眉をピクッと動かす
ルイズとカトレア、それにマチルダはその言葉に反応してクラマを問いただす
ティファニアとエレオノールは未だ息を整えている
それでも話を聞こうとしているのは流石というべきだろうか
「くふ、ハヤテはな、お前達のためにわざと突き放した態度を取ったのじゃよ。自分が守らなければいけない、という強迫観念染みた思いにとらわれてな。…人が一人で出来ることなどたかが知れておるんじゃから、素直に周りを頼ればよかろうものじゃ」
それを聞いてばっとハヤテに目を向ける五人
その目には『本当なの?』という疑念がありありと見て取れた
「…はあ、クラマの言うとおりかもね…。俺にはわかんなかったけど、今まで一緒にいたクラマがそう言うんだったらそうなんだろうね」
「この中で一番長く一緒にいたのはワシじゃからの」
ふんす。と胸を張るような気配がハヤテの頭の上からする
軽いシリアスな場面だが、それが青年と頭の上の狐によって行われていると考えるとどうにも締まらない
「のう、ハヤテよ。今までお主は修行ばかりであまり人には頼れんかったのじゃろう。じゃが今は違う。お主には頼れる主と妻達がおるのじゃからな」
またも牙を見せながら笑うクラマ
その言葉を聞いた途端、ルイズ以外の四人の顔が真っ赤に染まる
ティファニアなど倒れるのではないか、と心配するぐらい足元がふらついている
「そうだね。俺には可愛くて強い妻と主がいるんだ。戦闘面ではともかく、精神面で頼らせてもらおうかな」
今度はルイズも顔を真紅に染める
「しょ、しょうがないわね!使い魔が主に頼るなんて前代未聞だけど、許可してあげるわ!喜びなさい!!」
ルイズは胸を張ってそう告げる
その言葉に苦笑しながらも頷くハヤテ
「ふふ、ありがとうございます。我が主」
聞き捨てならんとばかりにハヤテに詰め寄る四人
「あなた。わたしにも頼ってくださいね?あなたはわたしの命の恩人なんだから♪」
「わ、私にも頼ってもらうわよ!妹達にばかり頼られたら、寂しいもの…」
「わたしはあまり難しいことは分からないけど、はやては大好きだよ~!」
「この中ではあたしが一番戦えるからねぇ…。戦闘面でもバンバン頼ってくれていいんだよ?」
微笑みながらハヤテはその言葉に対して返答する
「ありがとう。俺は最高の妻達をもてて、幸せだ」
暖かい雰囲気が六人を包む中、ハヤテの背にいるアンリエッタが身じろぎをする
後もう少しで教員寮にあるヴァリエール夫妻の仮寝室
夫妻には事前に感知系忍術の応用の念話で話は通している
そろそろ起きてもらわねば困るため、ハヤテはアンリエッタを起こした
「殿下、殿下。起きて下さい、もう少しで到着しますよ」
「う…ううん?あら、此処は何処かしら?確かわたくしはルイズの部屋に…」
明らかに意識が朦朧としているアンリエッタに皆は苦笑するしかない
アンリエッタの意識をハッキリさせ、彼女を背中から下ろす
そしてハヤテは烈火のごとく怒っているだろう『烈風』の待つ扉に手をかけた
さて第二十九話でした
今回も間が空いてしまい申し訳ありません
しかもその割にクオリティもそこまで高くないってもうね…
見放さずに読んでいただければ嬉しいです
さて、次回の投稿をお待ちください
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第二十九話です。お楽しみいただければ幸いです