彼が消えて、私は無様に泣き喚いた。あの川原で、ただひとり。声を枯らして、彼を呼ぶように。
私は、あの時、振り返ることができなかった。覇王たるこの私が、だ。
死に逝く彼を、正面から見送れないなど、覇王の所業ではあるまい。つまり、あのときの私は、覇王ではなかった。
ただの、ひとりの、女の子。
『私は後悔してないわ。私は私の欲しいものを求めて……歩むべき道を歩んだだけ。誰に恥じることも、悔いることもしない』
そんなことを言ったけれど、それは嘘だ。
後悔なら、ある。もっと早く、素直になっていればよかった。もっと甘えていればよかった。もっと。もっと。
「本当に、綺麗な月ね……」
涙で歪んでもうよく見えないけれど、彼がそう言ったのだ。ならば、見えなくとも問題ない。
幸せだった。幾百幾千人生をやり直そうとも、きっと辿り着けない。そんな幸せの中に私はいたに違いない。
『愛していたよ、華琳――』
それは、彼の最後の言葉。愛していた、なんて、そんな未来のない言葉が欲しかったんじゃない。私は、もっと――。
「愛しているわ、一刀……」
私はもっと、未来が欲しかったのに。
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あまりにも華琳さまが素敵だったのでやってしまいました。後悔はない。