第13章「徒歩!白玉楼!」
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俺は小町さんと離れた今、果てしなく長い石の階段を登っていた。
その階段の傍らには見事なまでに満開の桜の木が立ち並び、なんというか・・・お花見に来ている様な感覚だ。
ひらひらと飛んでくる桜の花びらを避けながら、先を進む少女の跡を追う。
彼女の名前は、魂魄妖夢。
先ほどの死神の小町さんに俺の輸送(小町さんがそう言った)を任していたそうだ。
当然、それだけでは分からないので彼女に理由を聞こうとしたのだが・・・
光助『あの、幾つか聞きたい事g・・』
妖夢「着いてから全てを話しますので」
光助『そ、そうですか』
の、一点張りであり余り話そうとしないのだ。
なんかこう・・・さみしいな。
こんな綺麗な場所を男女二人で登っていくというなんともロマン溢れる状況であるのだが、
流石に彼女がここに長く住んでいるだろう事を思うとそんな感覚は持ち合わせないのかもしれない。
そんな寡黙な少女と共に、満開の桜並木を寂しく登っていったのだった。
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暫く石段を歩き、一際大きな広場に出た。
その目の前には長く白い塀に囲まれた建物が立っており、大きな座敷を連想させる。
光助『おぉ・・・大きなお屋敷ですね』
妖夢「ここが我が主の住まう館、"白玉桜"です」
?「ようこそ、神塚光助・・・」
『?』
入口であろう大きな門をくぐった後に、遠くの館の入り口から声がした。
そこへ妖夢さんと共に歩み寄り、立ち止まる。
?「・・・・・妖夢、御苦労でした」
妖夢「はい幽々子さま」
恭しく礼をして後ろへと控える彼女。
玄関から声の主がその姿を現した。
幽々子「私の名前は西行寺幽々子・・・・この白玉桜の主です」
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光助『・・・・・・という訳で、こちらの世界に入り込んでしまった訳なんですよ』
幽々子「それはまた随分と長い間彷徨ってたのね」
俺はそのまま玄関へと上がり、長い廊下を通った後に、和室の客間へと案内された。
そこは地霊殿の宴会会場よりも長く広く、また障子に張られた蝶の模様がより一層この部屋を豪勢なものに魅せる。
そんな客間(なんだろうか・・・)にそそくさと座布団を2つ敷いた妖夢さんが"ここへお座り下さい"と言わんばかりに平手で指す。
光助『ど、どうもです・・・』
幽々子「まぁそんなに固くならないで下さいな」
同じ様にして座布団に音も無く座った幽々子・・・様はこちらに向き直ると、懐からやんわりと扇子を取り出した。
それを俺の前の机にコトンと置き、手を組み直した後にこう言った。
幽々子「紫は私の古い友人でね・・・現在彼女はこの幻想郷に張られた結界の調整の為にあちこち飛び回っているそうなのよ」
光助『はぁ・・・』
成程、それはつまり俺の近所の神社の神様が引き起こした現象の事だろうか。
その足掛かりを俺から取り出す為に、幻想郷の大気と同調させる必要があると紫さんは言っていた。
幽々子「それで、その手掛かりの・・・貴方、光助でいいわよね?」
光助『はい、どうぞ』
幽々子「光助が死んでしまったのを、こちらに一度帰る途中でたまたま見掛けたらしいのよ」
光助『は、はぁ・・・たまたま』
という事はつまり、紫さんは一度俺が居た現代から幻想郷に"たまたま"帰ってきていたという事だ。
帰ってこなかったら迎えの小町さんや妖夢さんは勿論来ないし、あの裁判が通っていたら俺は・・・・・・
考えるだけでも恐ろしい。
幽々子「それでね、此方で暫く保護してほしいって頼みに来たのよ」
光助『なるほど』
結果としては助かっている訳だし・・・感謝はしておこう。
幽々子「ま、さっきの話で詳しい事情は大体分かったわ・・・言った通り、しばらくはここで待ってなさいな」
光助『はい・・・』
幽々子「・・・・後ね、貴方は確かに死んだのだけれど、紫の頼みで事が済んだらちゃんと生き返らせてあげるわ」
光助『え・・・ええ!?』
凄い事を聞いた。
光助『い、いいんですか!?』
幽々子「まぁ原因としては此方にも非があるし、そんな事で貴方達の世界で悪評が立ったら困りますし」
光助『そ、そうなんですか・・あ、ありがとうございます!』
幽々子「ふふふ」
思わず大声でお礼を叫んでしまった。
こんな状況でも優しい人(?)は居るものなんだなぁ・・・・
紫さんの無責任な放置プレイには困りもした事もあったが、こんな手配をして下さるとは。
一度死んだとはいえ、元に戻れるというのはありがたい、生きる希望が見えてきた。
しかし、この幽々子様の"死を操る"とでもいうべき能力・・・こんな力が使えるという事は、この"あの世"でも相当偉い存在なのだろうか。
そしたらあの身勝手そうな地獄の裁判長ももう少し何とかして欲しいのだが・・・。
暫く考え事をしていた俺を尻目に幽々子様はすっくと立ち上がり、俺の後ろに待機していた妖夢さんに話し掛けた。
幽々子「じゃあ妖夢、後は"宜しく"ね」
妖夢「はい」
光助『・・・はい?』
急に立ち上がり、手の平をひらひらとさせる幽々子様の言った事に暫し疑問を持ったが・・・・
妖夢「そうと決まれば話は早い」
光助『え?』
後ろで妖夢さんが何やら呟いた・・・そして。
ガッ・・・・・ドシャァアア!
光助『うぉ・・へぎゃぶ!』
俺はいきなり腰のベルトを掴まれて、そのまま庭に叩きつけられた。
何だ、一体なにが?!
そう思い、俺を掴んだであろう人物を視認すると・・・・
妖夢「貴様は今から私の管轄化に入った!」
光助『え・・・ええええええ!?』
そこには先程まで静々とした立ち振る舞いを"見せていた"幽霊の少女、魂魄妖夢の姿があった。
静々とした態度は一変し、顔も戦争映画やらに出てくる鬼軍曹になってしまっている。
いきなりどこぞやの軍人にようになってしまった事に驚きながら彼女を見返した。
一体何を言っているんだこの娘は・・・管轄下?なんじゃそりゃ。
光助『ちょっと!一体何の事ですか!?』
妖夢「貴様、幽々子様の話を聞いていなかったのか?」
光助『へ?』
妖夢「貴様は今日からここの居候になったんだろ?まさかお前、庭師の私がタダでここに居座らせると思っているのか」
光助『いや、別にそんなつもりは・・・・』
妖夢「言い訳は無用!」
光助『ヘギャッ!』
今度は足に竹刀がビシリと振り下ろされ、俺は脚を掲げながら無様に庭を跳ねまわる。
これが彼女の本来の性格だったという事か。
・・・・正直に痛い、弁慶の泣き所を正確に叩いたみたいだ。
妖夢「これから私がお前を使い物になるまでビシバシしごくからな!覚悟しろよ」
光助『ひ、ヒェエ~・・・』
幽々子「フフフ、早速仲良くなっちゃって・・・・」
それを縁側に腰を下して見ていた幽々子様が手を口元で覆いながら微笑んだ。
光助『これのどこがそう見えますか?!』
妖夢「黙れと言ったッ!」
光助『うぉわ!すすいませんでぎゃ!』
またも叩かれる俺の脚・・・・
武士が足を狙うなんてどうかと思うんですけど。
さて、これから始まるであろう軍隊生活さながらの日々に俺はフシュウウと溜息を吐いたのでした。
-続く!-
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12章から14章までの繋ぎです。
何だか後悔してきた・・・全てを。