No.62690

ほわいとでー大乱戦! in 魏 前編

DTKさん

ホワイトデーあたりの話も読んでみたいと言う方がいらっしゃったので、書いてみました^^

と言っても、天性の遅筆ゆえ、前編なのにもうすぐ当日なんですが……
またしても、後編は当日を過ぎると思いますが、是非ご勘弁を^^;

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2009-03-11 04:13:11 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:13797   閲覧ユーザー数:9932

「はぁ~~~~……」

 

霞は元気がなかった。

肩を落とし、一人街を歩く。

だらしなく足を引きずりながら、負のオーラを垂れ流しにしている彼女には、戦場を疾駆する勇将の姿は微塵もない。

そう、彼女がこんなにも気落ちしている理由は……

 

 

 

 

 

「……あれ?お~い、霞ーー!!」

 

俺は街を視察がてら散歩(逆か?)していると、肩を落としフラフラと歩いている霞を見つけた。

声をかけるが、反応はない。

 

「お~~い!霞ってば」

「ひゃっ!?」

 

近づいていき、肩に手をかけると、霞は飛び上がらんばかりに驚いてしまった。

 

「なっ、ななな、なんやっ!!一刀やないの!?」

「お、おう……どうしたんだ霞?何だか元気がないみたいだけど…」

「な、何を言うとんのや!!ウチはめっちゃ元気やでっ!!」

 

と霞は、如何に自分が元気かをアピールするため、街中で愛用の飛龍偃月刀をぶんぶんと振り回す。

 

「なっ!なっ!?メチャメチャ元気やろ!!?」

「ちょっ……危なっ!…分かった分かった!!元気なのは分かったからっ」

 

俺が納得(?)すると、霞は偃月刀を収めてくれた。

 

「と…ところで一刀は、こないな所で何しとるん?」

「俺か?俺はちょっと、街の視察に、な」

 

散歩がてらだけど……

 

「そーなんやー!ウ、ウチも似たようなもんやねんっ」

 

と、元気そうではあるものの、霞は俯きがちで、どうも俺と視線を合わせようとはしない。

…俺、何かしたっけ?

 

「そっか…じゃあ、一緒に回るか?」

「か、かか、一刀がそない言うなら…」

 

と言うと、霞はようやく顔を上げてくれた。

が、すぅっと上がる視線は俺の目には届かず、顔より少し下、首回りで止まってしまった。

 

「……一刀?その襟巻きは…?」

「ん…あぁ、これか?」

 

霞は俺がしているマフラーが気になったようだ。

まぁ、ちょっと派手なデザイン(ハート柄)だし、霞の前じゃ、まだしてたことないもんな。

 

「これは、華琳に貰ったんだ。この前のバレンタインデーにさ」

「ばれんた、いんでー………」

「実はこれ、華琳の手作りでさ…」

 

ちょっと照れながらマフラーの説明をするのだが、どうも霞の様子がおかしい。

 

「手作り……」

「霞?」

 

間近で呼んでも、反応がない。

いよいよこれは変だと、俺は霞の顔を覗き込む。

 

「…霞?」

「………ん?んな!なんやっ一刀!?何かあったんかぃ?」

「それはこっちのセリフだよ。…どうかしたか?どこか具合でも悪……」

「な、なーーんでもないんや!!……せや、ウチちょ~~っと用事を思い出したわ!それじゃーーー!!!」

 

ダーーっと疾風の如く駆け、地平の彼方へと霞は姿を消した。

霞は、自分で走っても速いらしい……

 

…………

……

 

「ってか、どうしたんだ、霞は?」

 

 

「はぁ~……アカン、アカンなぁ~…あないな態度とってしもうたら…っ!」

 

でも…ばれんたいんでーにいなかったウチは…

ウチは、ばれんたいんでー、と言う言葉を聞いて…

一刀が嬉しそうな顔をして、襟巻きを華琳から貰ったと言うのを聞いて……

あんな顔されて、そんな話されたら…ウチは……ウチは………

 

………………

…………

……

 

「あ~~もう~~じれったい!ウジウジすんなやウチっ!!」

 

パンパンッと、景気良く強めに自分の頬を張る。

過ぎたことを、どうこう言うてもしゃーない!

意志を強く持つんや!

ちょっとやそっとじゃ、揺るがん自分をちゃんと持つんや!!

 

 

 

 

 

だけどある日、街を歩いていると……

 

「おいっ北郷!!一体いつになったら店が決まるのだ!?」

「だから!俺はさっきからどこでも良いって言ってるだろう!?それを春蘭がいちいち文句をつけてくるんじゃないか!!」

「なんだとー!?私がいつ、不平不満をぶちまけ、子供のように地べたに寝そべって駄々をこねただとーー!!」

「そこまで言ってねぇっ!!」

 

向こうからギャーギャー言い合いながら、一刀に春蘭、それに秋蘭がやってきた。

どうやら、昼食の店を決めているらしい。

ウチは咄嗟に物陰に隠れ、様子を窺った。

 

「……ならば姉者。このラーメン屋でよかろう?」

「ん~…しかしな秋蘭。今日はラーメンと言う気分ではないのだ…」

「……それを文句って言うんだよ」

「もっと私の今の気分にあった、最高に美味い料理があるような気がするのだ」

「「…………」」

 

春蘭の駄々に、さしもの二人も呆れてるようや…

…おぉっ、あの秋蘭の顔は、何か思いついたみたいやな?

 

 

 

 

 

まったく……春蘭のわがままにも困ったもんだな…

 

「…そう言えば一刀。この前のばれんたいんでー、姉者の猪口料理は美味かったなぁ…」

「えっ?あ、あぁ、うん…」

 

突然どうしたんだ、秋蘭は?

確かに、あの時の猪口料理は、思いのほか美味かった。

……まぁ、あの料理を作ったのは流琉だけどな。

 

「あの料理を超える美味な料理など、そんなにあるはずがない……そうは思わんか、一刀?」

「そ、そうなのかぁ~?北郷?」

 

秋蘭の度を超えた(?)お世辞に、顔が蕩けはじめた春蘭。

はて、秋蘭の意図は………――っ!そういうことか…

 

「そうだな秋蘭。春蘭の猪口料理を超えるものなんか、あるわけないもんな!」

「あぁ、その通りだ、一刀」

「そ、そうなのか……♪」

 

よしっ!俺と秋蘭は、春蘭を有頂天へと誘い込むことに成功した!

 

「でだ姉者。今の姉者が求める最高の料理が何かは分からんが…ここはどうだろう?」

「昼食をどこで食べるかなんて、些細な問題だとは思わんか、春蘭?」

「そ~だなっ♪私はそんな些細なことは気にしないぞ、秋蘭、北郷!」

「じゃあ、今日の昼食はこのラーメン屋にしようか」

「あぁ」

「よしっ、今日は私のおごりだ!三杯でも四杯でも食べるがいいっ!!」

 

 

 

 

…………

三人が仲良さげに店に入っていくのを、ウチはぼんやりと眺めていた。

 

「…ほら、あれや。三人とも普段から一緒に飯食うてるし、別にばれんたいんでーがどうのとか、関係あらへんよ……なっ!?なっ!!?」

 

誰ともなく、呼びかけてみる。

とにかく、ばれんたいんでーとかは、なんも関係ないねん!

 

と、再び道を行く。

すると程なく、向こうの道から変な一団が現れた。

 

 

 

「なぁなぁお前、数え役萬☆姉妹の新曲聴いたか!?」

「あぁ、『ばれんたいんでーきっす』だろ?当然!」

 

……どうやら、張三姉妹の追っかけみたいやな…

何か、ばれんたいんでー、っちゅー単語が聞こえたんやけど……

 

「可愛い歌だよな~…相変わらず、よく分からない言葉があるけどな」

「バカやろう!あれがいいんじゃないか!!」

「うむ、あの愛らしいお口から、不可思議な言葉が紡ぎ出される……あんなに萌えることはないだろう」

「萌え、か……確かに、そうかもしれないな」

「しかし噂によると、あの意味不明な言葉は、天の国のものだとか何とか」

「天の国?」

「あぁ、俺も聞いたことがある。確か『天の御遣い』と呼ばれるお方が城内にいるらしく、その方が天和ちゃんたちに、色々と言葉を教えているんだそうだ」

 

天の御遣い…一刀のことかな?

確か前に、華琳にそう言えと言われたとか何とか、聞いた覚えがあるな。

 

「なるほど、それなら納得だな。なんせ天の国の言葉なんだからな」

「「「うんうん」」」

「ちょっと待てみんな!俺の知ってる話では、その天の遣いは男で、天和ちゃんたちを手篭めにしてるそうなんだ」

「な、なんだって!!」

「それは本当か!?」

「噂だ!あくまで噂だろ!?」

 

……おうてるな、噂。

ってゆーか、三姉妹の追っかけ多いなぁ~…

今まで全部、違う奴が喋ってんで?

 

「俺が聞いた別の話だと、新曲の『ばれんたいんでーきっす』は、ある男を意識して作った曲らしい。…まぁ、それがその天の御遣いとやらかは、分からないがな」

「何だとっ!あの曲が、実は一人の男のために…っ!?」

「そういえば俺見たかも…この前の満月の日、郊外の聖地に天和ちゃんたちと男が一人いたのを…」

 

 

…そっか、張三姉妹は一刀のために、曲を作ったんやなぁ……

そっか……ばれんたいんでーきっす、か……

 

 

「その男、許せねぇな!」

「あぁ!見つけたらやっちまおうぜっ!」

「待て待て、そもそもそいつの人相が分からん」

「しかも、その男が天の御使いだとしたら、噂によれば王のお気に入りらしい…」

「うむむ……迂闊には手出しできないというわけか…」

「いや、そんなことは関係ない!」

「そうだそうだ!」

「討つぞ、天の遣い!!」

「「「おーーー!!」」」

 

 

後ろで一刀の生命が脅かされてるのも耳に入らず、ウチはフラフラと家路につくのだった……

 

 

「――っ…ばか!死になさいっ!!」

 

(バタンッ)

 

私は勢いよく、一刀の部屋を飛び出す。

 

「ふぅー……ふぅー……」

 

…胸のドキドキが止まらない。

私としたことが、一刀による唇の奇襲に、取り乱してしまった。

あれじゃ……まるで私が、一刀のことが好きで好きで…照れてるみたいじゃないっ!

 

 

…………

……

 

 

ふぅ……

でも、今日の主目的だった襟巻きは渡せたし、それに…

 

「ほわいとでー…か」

 

良い話も一刀から引き出せたし…

 

「局地戦では負けたけど、長期的には私の勝ち、ってところよね?」

 

と、自分の中で納得する。

 

…………

……

 

「あっ…そう言えば、結局ほわいとでーがいつなのか、一刀に言わせてなかったわね……」

 

今から一刀のところに戻るのもなんだし…

明日一番にでも、一刀に吐かせましょう。それが良いわね……っ!

 

「へっ…くちん!」

 

私はハッと口を押さえ、慌てて周りを見回す。

思った以上に、くしゃみが可愛くなってしまった…

誰にも見られてないかしら……?

 

一通り辺りを見渡しても、とりあえず人影らしきものはなかった。

ほっと息をつくと、背筋に寒気を感じた。

 

「……そろそろ部屋に戻りましょう。冷え込みも厳しいしね…」

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

「へっへっへ…良いこと聞いちまったなぁ~」

 

華琳去りし後、一刀の部屋近くの物陰から、怪しげな影が一つ現れた。

そのシルエットはまさに、芸術が爆発していた……

 

 

また別の日、城内を歩いていると、中庭に敷物を敷いて、一刀に季衣、流琉の三人がいるのを見かけた。

 

「お~い!こんな所で何しとんのや?」

「あ、霞さん」

「霞ちゃんだ~。やっほーー」

「おう、霞か」

「………ぐー」

 

三者三様(四?)の反応を示すみんな。

テクテクと近付くウチに、一刀が説明をしてくれる。

 

「いやな、流琉がお菓子を作ってくれたから、みんなでお茶してたんだよ」

 

なるほど。確かに見慣れないお菓子に、お茶が用意してある。

 

「なぁなぁ、ウチも食ってええか!?」

「えぇ、どうぞ!たくさん作りましたから」

 

皿に乗ってるお菓子を一つ取って、口に放り込む。

……こ、これはっ!

 

「どうです、霞さん。お口に合いますか?」

「メッチャ美味いやん、これ!初めて食うたけど、なんて言うお菓子なん?」

「これはねっ、ちょこって言うんだよ~」

「猪口~?ウチ、猪はちょっと嫌いと言うか、苦手なんやけど…色々と面倒やし」

「猪口違うわ!…っていうか、もうそれ春蘭がやったけどな」

「なっ…!渾身のボケやったのに……」

 

まさか、春蘭に先を越されてたとは……

っつーか、そういやこの前、そんな話をしてたような…?

 

「まぁ…春蘭の場合は、マジだったけどな」

「…………」

 

……マジなんかい

 

「と、ところで、ちょこっつーと、ちょっと耳慣れない言葉やけど、やっぱり天界の言葉なんか?」

「あぁ、そうだよ。チョコは天界のお菓子なんだけど。この前、作り方を流琉に話したら作ってくれてね」

「へ~、さすがは流琉やな!」

「そんな……♪」

 

照れる流琉を見ながら、ウチは二つ目に手を伸ばす……

 

「このちょこは、兄ちゃんのばれんたいんでーのために作ったんだよねー」

 

季衣のその言葉に、ピタッと手が止まる。

 

「?どうしたの、霞ちゃん?」

「い、いや、何でもない……そうか、ばれんたいんでーになぁ…」

「そうなんだよ~!兄ちゃんも、すっごく美味しいって褒めてくれてさー」

「それで兄様が、またちょこを作ってくれないか、と仰ったので、急いで作ったんです」

「そ、そうなんや…あは、あははは……」

 

空笑いをしながら、中空で止まっていた手をゆっくりと戻す。

冷静になれ、ウチ…平静を保つんや……

と自分に言い聞かせ、さっきから触れんかった話題に話を振る。

 

「と、ところで…これは何をしとるん?」

「………ぐー」

 

そう、最初一刀たちを見かけたときは気付かんかったけど、一刀の股座に顔をうずめている(?)物体。それは…

 

「あぁ、風のことか。いや、この前のバレンタインデーのときに膝枕をせがまれてな?したら、どうも気に入っちゃったみたいなんだよな…」

「ぶー……兄ちゃんの膝はボクの場所なのに~……」

「まぁまぁ季衣。風さんだって疲れてるんだから、今日は我慢しなさいよ」

「ぶ~~……」

「ほらっ、ちょこたくさん食べていいから」

「うん……」

 

ま、また、ばれんたいんでーかい……

しかし、この風の寝顔ときたら…

八割九割が狸寝入りの風がマジ寝する、一刀の膝枕か……

えぇなぁ~……

 

「……霞?」

「…はっ!」

 

あ、あかん!ウチ、物欲しそうな目で見てしまってたやろうか!?

一刀に変な娘やなと、思われてしもたやろうか!!?

 

「どうしたんだ、霞?ちょっと前から、様子がおかしいぞ?」

「な、何でもないで!?……っあ、そそ、そうやった!ウチ、ちょっと用事があったんよ!そ、それじゃ~~!!」

 

脱兎の如く、その場を去るウチ。

アカン…ウチ……ウチっ!!

 

 

 

「霞さん、どうしたんでしょうね?」

「さぁ?」

「変な霞ちゃん」

 

 

アカン…こんなんじゃアカンで、ウチ!

現状のままじゃあかん!どうにかせんと……

 

 

 

夜、ウチは一刀の部屋まで来ていた。

とにかく、一刀と落ち着いて話をせんと…

 

もう、とにかくウチらしく!小細工なしに!

正面から当たって砕けるんや!!

 

 

 

(ドンドン)

 

「一刀ー!一刀おるかー!?」

「ん、霞か~?開いてるよ~~」

「入るで」

 

ウチは意を決して、一刀の部屋に入った。

 

「どうしたんだ、こんな時間に?」

「え、あ、その…なんや……」

「?」

 

し、しもたぁ~!

こっから先は、全く考えてへんかった!!

ア、アカン……頭ん中真っ白になってしもた……

 

「霞?」

 

と、とにかく、何か言わな…

何でもエエから、目に付いたものを……

 

「そ、そう言えば一刀、エエ服着とるな~!」

「えっ!?こ、この服か?」

「そうやそうや!何や、この珍妙な柄がまた最高やで!!」

「そ、そうか……やっぱり、女の子からみると、この服は良く見えるんだろうか……」

 

一刀が無性に首をかしげる。

少し冷静さが戻り、一刀の服を改めて見てみると……

そらまぁ~、でっかい桃みたいな絵がでかでかと描かれてる、けったいな服だった。

 

「うん、カッコええと思うで、ウチは……うん」

「そうか……じゃあ、外にも着てった方がいいのかなぁ~…」

「そ…それは一刀が判断しぃや?」

「う~ん……確かに、沙和たちからの折角のプレゼントを、寝間着だけってのも、ちょっと失礼かとは思うんだけど…」

「なんや。沙和たちからの贈り物なんか、それ?」

「あぁ、この前のバレンタインデーに貰ってな……」

「…………」

 

なんや、ばれんたいんでーの天丼やな、ウチ……

お約束といえば、お約束なんやけどな…

 

「これを着て沙和と凪と真桜と、四人で街を回ったんだけど…さすがに恥ずかしくてな?街の人の視線も痛いし…だから取りあえず、部屋での寝間着限定で着てるんだけど……って、霞?」

「あぁ…何やぁ?」

「いや…ちょっと視点があってないというか、顔色が急に悪くなったというか…」

「あぁ……悪いなぁ一刀。ちょっとウチ、帰らせてもらうわ……」

「お、おう…具合が悪いなら、大事にしろよ?」

「お~………」

 

 

 

 

 

足取りもおぼつかなく、何かふわふわと浮いてるような足取りで、霞は部屋を後にした。

 

「霞、どうしたんだろうな…」

 

ここ数日、どうも霞の様子がおかしい。

 

「…何か良からぬ事でもあったのかな?」

 

俺は不安げに、霞が出て行った扉を見つめていた。

 

 

時は少し戻り、バレンタインデーから二日後……

 

 

 

私は、ばれんたいんでーの翌日、不覚にも体調を崩してしまった。

桂花たちに、強引に休まされたけど……急ぎ、私の判断が必要な案件がなかったことが幸いだったわね…

桂花によれば、一刀も風邪で、昨日は一日中寝ていたらしい。

 

 

…まぁ、それはさておいて

私は、ほわいとでーの日取りを聞き出すために、朝一で一刀を訪ねる事にした。

 

と、一刀の部屋に近くまで行くと、ちょうど一刀が部屋から出るところだった。

 

「一刀」

「ん?…あ、華琳、おはよう」

「おはよう一刀。昨日は良く眠れたかしら?」

 

まずは軽く、皮肉の先制打。

 

「…あぁ、おかげさまで一日横になってたんで、すっかり良くなったよ」

「まったく、なんだって風邪なんか引いたのよ」

「ん~…実はバレンタインデーの日に、寒空の下、風に長時間ひざまくらしてたからな~。体が冷え切っちゃったんだろう」

「風に長時間ひざまくら~!?」

 

何よそれ、聞いてないわよっ?

 

「あ、あぁ…あの日は朝から、春蘭や沙和たちに追い回されてな。ひと時、風に助けられて休める時間があったんだけど、その時に風にひざまくらしてもらってな…」

「…………」

 

風にひざまくらをしてもらったですって?

ずいぶんと聞き捨てならない、ばれんたいんでーを送っていたようね、一刀……

 

「でまぁ、そのお礼?みたいな感じで、風の昼寝の枕になったんだよ。そしたら爆睡されちゃって……まぁ、途中から起きてたみたいなんだけどな…日が沈んでも、しばらくは動けなかったんだよ」

「ふ、ふ~~ん……」

 

私が必死になって、編み物の追い込みをかけていた中、一刀は……

へぇ~~……ふぅ~~~~ん…………

 

「ま、まぁ…それはさておき、一刀。ほわい…」

「そういえば、華琳も昨日は寝込んでたんだって?」

「――っ!ど、どうして知ってるの!?」

「え…いや、昨日お見舞いに来てくれた季衣が教えてくれたんだ。『華琳さまも風邪みたいなんだー』って」

「そ、そう……」

 

桂花や稟に言って、みんなに私の病気のことは緘口令を敷かせたはずなのに…

まぁ、季衣のことだから、一刀には言っても良いと思ったのだろう。

それはそうだ。身内にまで喋ってはいけないことなら、最初からみんなに伝えたりはしない。

だから、季衣は間違ってない。

悪いのは、この状況を読めなかった私…

やはり風邪を引くと、判断力が落ちるのね……

 

「華琳……その、悪かったな」

「なっ、何が?」

「華琳の体は一人のものじゃないのにさ…俺、考えなしに……」

「だからっ!何のこと?」

 

ひ、一人のものじゃないって…

 

「いやな、俺あの日、華琳が部屋に来る前から、体調が悪いのを感じてたんだよ」

「………?」

「それなのに俺、調子に乗って、華琳にキスしちゃっただろ?多分、それで俺の風邪が華琳にうつっちゃったんじゃ……」

「わーー!わーー!!」

 

な、ななななっ……

 

「な、なんてこと言い出すの、一刀はっ!」

「え?いや、だって、このタイミングで俺と華琳が同時に風邪を引くなんて、それ以外可能性が…」

「お黙りなさい!!そ、そんなことは絶対にないわっ。例えそうだとしても、そんな事実は忘れなさいっ!!」

 

この誇り高き魏王・曹孟徳が

『男と口付けして、風邪をうつされて寝込んだ』

なんて吹聴されたら………例え相手が一刀だとしても、恥ずかしすぎる……

それに覇王の名なんて、地に落ちてしまうでしょうね…

そんな屈辱は、さすがに耐えられない…

 

「もし、こんな事を他の者に口外しようものなら……一刀でも容赦しないわよ?」

 

スッと、絶を一刀の首筋に当てる。

そういえば、ちょっと久しぶりね。こんな感じ…

 

「わ、分かった…華琳以外には、言わないことにするから」

「……まぁ、いいでしょう」

 

絶を当てられても、減らず口を叩く位の余裕ができた(できてしまった?)ようね、一刀?

 

「この話はこれでおしまい……私は一刀に聞きたいことがあって、ここに来たのよ」

「聞きたいこと?」

「えぇ、この前一刀が言っていた、ほわいとでーがいつなのか。まだ聞いてなかったわよね?」

「あぁ、ホワイトデーか。ホワイトデーはバレンタインデーの一月後だから、また次の満月の日だね」

 

一月後、か…

 

「ふぅ~ん……天界の男と言うのは、女を一月も待たせるのね?」

「え!?…いやまぁ、一応そう決まっていると言うか、男としても、ちょっと準備の時間が欲しいかなぁ~なんて……」

 

私がちょっと不満気に言うと、一刀は少し慌て気味に言い訳をする。

…こういう所は、素直に可愛いわね♪

 

「ふふっ、冗談よ、冗談!…でも、一刀が欲しいというその一月で、一体どんな素敵な贈り物を用意してくれるのかしら?楽しみねっ」

「なっ…は、ははっ……華琳の期待に応えられるよう、努力するよ」

「そうね、せいぜい私を満足させられるよう努力なさい。………楽しみにしてるっていうのは、本当だから、ね?」

「華琳…」

「下らないものを贈ってきたら、許さないんだからね。一刀!」

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

一刀と華琳から、約五間ほど離れた草むらに、二つの影があった。

 

「へっへっへ…またしても、良い情報を手に入れちまったなぁ~」

「そですねー。華琳さまのことだから、夜討ちか朝駆けのどちらかと踏んで、徹夜で張ってた甲斐がありましたー」

「……起きてたのは、ほとんど私だったけどね」

「ぐー……」

「寝るなっ!」

「おぉっ!徹夜明けの疲れた体には厳しい仕打ちなのですよー」

「だから!徹夜で起きていたのは、私だとっ……」

「何言ってんだ姉ちゃん!俺だってちゃんと起きてたぜ」

 

爆発した芸術は、胸を張って(?)主張する。

 

「嘘おっしゃい!アンタだけ起きていられるわけないでしょ!大体、一言も喋らなかったじゃないの」

「いやいや、お前さんと二人きりと言うことで、俺も緊張して無口になっていただけなのさ」

「なっ……そんな言い訳が通用するとでも…」

「まぁまぁ、いいじゃないですか、そんなことはどうでもー…」

「そんなことで済ませるの!?」

「とにかく、これで作戦が立てられるってもんです~……協力してもらいますよ?」

「どうして私が……」

「いやぁ~…いつぞやの華琳さまの件は、苦労しましたねぇ~」

「くっ…効果などなかったというのに………はぁ、分かったわ。協力すればいいんでしょ?」

「むっふっふ……ほわいとでーが楽しみですねぇ~……」

 

 

「はぁ~~……」

 

ウチは深くため息をつく。

 

ここ数日で分かったことがある。

ウチ以外、ばれんたいんでーに居た人らは、みんな確実に、一刀の好感度が上がっとる…

なんか、ウチだけ取り残された感じや……

ウチの旗だけ、立ってない感じや………

 

「はぁ~~~~…………」

 

二度目のため息…

ため息をつくと幸せが逃げるっちゅーけど、ウチは端から不幸やねん……

ウチは中庭の端っこの方にしゃがみこんだ。

のの字でも書いて、いじけることにしよ…

 

 

…………

……

 

 

「おやおや~?お悩みのようですねー霞ちゃん?」

「だ、誰や!?」

「そんな霞ちゃんに耳寄りな情報が~」

「な、なんや、風か……あんま驚かさんといて~な…」

 

いつの間に近づいたのか、風が後ろに立っていた。

 

「驚かせてしまって申し訳ありませんー…ところで霞ちゃん。悩める霞ちゃんに朗報~!お兄さんの好感度を上げる、耳寄りな情報があるのですよ~」

「なんやて!!」

 

そ、そない都合のいい話が……?

 

「はい~、実はですね……」

「ちょい待ち……そない都合いい話、どこまで信じてええんや?それに、そんなえぇ話があるなら風、自分が使えば……」

「いえ、これは霞ちゃんじゃなきゃ出来ないお話なのですよ~」

「ウチしか出来ない?」

 

どういうことや?

 

「はい~そうなのですよー。それに……」

「それに?」

「お兄さんのことで悩んでる霞ちゃんを、放ってなんか置けないですよー。私たちは同志じゃないですかー」

「風っ……お前ってやつは……っ!」

 

風がウチのことを、そこまで心配してくれてたなんて……

感動や……ウチは今、猛烈に感動しとるでーー!!

ウチは風にすがりつき、手を取り、謝意を表す。

 

「ありがとうな、風…」

「霞ちゃんは私の言うとおりにすれば、お兄さんの好感度が急上昇なのですー」

「急、上昇……」

 

そうなったらウチも、みんなと同じように、一刀と仲良うできるんかな…?

ウチは意を決して、風に疑問をぶつけてみる。

 

「なぁ風……もしウチが風の言うた通りにすれば、一刀とウチの間に、旗は立つんかな?」

「旗、ですか~?」

「せや!ウチ以外の娘らは、みんな立ってんねん!なぁ、風!?どないやねん?」

「…良く分からないのですが、きっと大丈夫なのですよー。上手くいけば、お兄さんとの旗も立ち、らぶらぶ萌え萌え道に突入ですー」

「ら、らぶらぶ、萌え萌え道……」

 

よう分からんが……なんや、甘美な響きやなっ!

 

「でっ!?ウチはどないしたらえぇのん?」

「それはですね……」

 

 

バレンタインデーから、早1週間。

バレンタインの日に満月だった月も、もう下弦の月になろうとしていた。

 

「う~~~ん……」

 

未だに俺は、ホワイトデーのお返しを何にするか、決めかねていた。

天界のお決まりなら、飴とかマシュマロ?とかなんだろうけどな…

 

「さすがにそれじゃ納得してくれないよなぁ~」

 

などと考えながら、何か良い物はないかと、街に視察がてら物色(やっぱり逆か?)にきていた。

 

「服にアクセサリー、小物、お菓子に本……」

 

天界に居た頃は、女の子にプレゼントなんか贈ったことがないから、こういう時って全然分からないよ…

華琳に指輪を贈ったときは、明確な目的(?)があったし

こういうフリーな感じはなぁ~……

 

「こういうときに及川がいりゃ、少しは役に立つんだろうけど……」

 

……まぁ、他のときには役に立たないから、いなくていいけど。

 

「とりあえず、もうちょっと歩いていみるか」

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「う~~ん……」

 

なかなか見つからない…というか、やっぱりさっぱり分からない…

 

「さて、どうしたもんか…」

 

と立ち尽くしたそのとき、通りを寒風が強めに吹きぬけた。

 

「うぅ~……寒い」

 

とにかく、この時代は寒い。

天界にいたときはなかなか実感できなかった、温暖化、と言う問題を、こうして身をもって体感することになるとは…

ただ今の俺は、かなり歩いたと言うのもあるが、華琳がくれたマフラーをしているから暖かだ。

何より、華琳の温もりを感じられるのが、温かい。

 

「寒いのは寒いものの、マフラー一つでこんなにも違うものなんだなぁ~…」

 

街を見回しても、俺みたいに毛糸製のものは少ないが、布一つ首に巻いて、寒気が入るのを防いでいる姿を良く見かける。

 

「先人の知恵、恐るべしってところだな」

 

 

…………

……

 

「――!そうだ、これなら…」

 

 

「な~~~んですってぇ~~~~!!!」

 

私は稟ちゃんと一緒に、桂花ちゃんの部屋を訪ねていた。

最初は私たちの訪問を訝しがっていた桂花ちゃんも、華琳さまとお兄さんのことについて内密な話がある、と言うと、すんなりと通してくれた。

で、事情を少し話し始めると、冒頭のように叫びだしたのですよ。

 

「あの孕ませゴミくず男が、華琳さまに○○して―――を××だなんてっ!!」

「いえ~、そこまでは言ってないのですがー……」

「同じようなもんよ!あの変態が、華琳さまから手編みの襟巻きを下賜されただけでも腹立たしいのに、それを口実に、今度は華琳さまに贈り物をして気を惹こうなど……許すまじっ、北郷一刀!!」

 

相変わらずお兄さんと華琳さまを掛け合わせると、桂花ちゃんを熱くさせるのは簡単ですねぇ~…

 

「おのれ…あの男、どうやって八つ裂きにしてやろうかしら……」

「でですねー。そのことについて、桂花ちゃんと私と稟ちゃんの三人で、今後の方策を決めたいと思いまして」

「三人?風と稟も、北郷を邪魔する作戦の片棒を担ぐというの?」

「はいー」

「…えぇ」

「二人とも、アイツとは仲良いわよね?それなのにどうして?」

「いえー、私としては、消えたり現れたりするような人に、華琳さまと良い仲になってほしくありませんしー。稟ちゃんは……桂花ちゃんと一緒で、華琳さまにぞっこんですから~」

「え、えぇ……」

 

桂花ちゃんは稟ちゃんを一睨みした後、私と稟ちゃんを値踏みするように観察し、あごに手を当て思案顔。

恐らくは、私たちの真意や、自分一人の時と私たち三人での作戦の成功率、あるいはこれが罠である可能性やその対処法などなど……

桂花ちゃんの頭の中では、色々な計算がなされているのでしょう。

はてさて、どういった結論になることやら…

 

 

…………

……

 

 

「……分かったわ。まずは力を合わせて、害虫・北郷一刀を屠りましょう!稟、一時休戦よ」

「え、えぇ……そうね」

「では、決まりですねー」

 

そう言い、私はスッと手を前に出す。

その上に桂花ちゃん、最後に稟ちゃんの手が乗せられる。

 

「それじゃ桂花ちゃん。号令お願いしますー」

「分かったわ……」

 

すぅ、っと息を入れ、精神を集中する桂花ちゃん。

たった三人の号令とはいえ、語句を慎重に選んでいるようですねー

と、カッと目を見開き、桂花ちゃんがお腹の底から声を上げる。

 

「みんな!華琳さまに寄り付く憎き害虫・北郷一刀を、いよいよ滅殺する時が来た!!私たち三人は力はなくとも、千や万の兵にも匹敵する頭脳がある!己が能力を存分に発揮し、勝利を掴むのよ!!」

「おぉ~」

「…おー」

 

 

 

 

 

かくして、桂花・風・稟という魏の頭脳がここに集結し、北郷一刀に牙を剥いた。

 

また、ホワイトデーのお返しを何か思いついた一刀。

その一刀からのプレゼントを心待ちにしている、華琳。

そして、風から授けられた策を元に、みなに追いつくべく行動する霞。

 

その他、色々な人の想いや思惑を乗せ、決戦の日は刻一刻と近づく…

 

 

 

「と言ったわけで、続きは、ほわいとでー当日だぜ!」

「何言ってるの、風?」

「いえー、私は何も言ってないのですよ?」

「言ったのはオレオレ!」

「これは前に言ったセリフよね、風…」

「……おぉっ!」


 
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