勇太side
朝、ベッドから起きる。目覚ましを止めて時間を見る。短針は5を刺している。
現在地、高町家にあるとある一角の部屋。
なのはの隣部屋。そして僕の部屋である。
「ふわぁ…さてと」
あくびを一つ、立ち上がって背伸びをする。カーテンを開いてもまだ、外は少し薄暗い。なぜこんなに朝早く起きたかというと…
場所は道場へと足は向かう。と、その前に顔を洗って自分の顔を見る。
うわっ、寝癖やば…眠そうな顔してる…
「おはようございまぁす…」
「おはよう、勇太君」
挨拶をすると、道場には士郎さんが木刀二本を持って素振りをしていた。
「今日は僕と少し剣を交えるかい?」
ただ、少し眠そうだね。
と士郎さんに苦笑された。朝は弱いんだよ…昔から…
自分は結構低血圧で朝はキレやすい体質のようだ。薄目を開き、意識を覚醒させる。
僕は棍棒を持ち、士郎さんの前に立つ。
そして、準備が整ったとき同時に足を踏み出し、士郎さんの二刀と交える。
木の乾いた音、そして道場に響く足音、吐息の音だけがそれぞれ聞こえ、朝の静かな稽古を続けた。
稽古を終えて、ほどほどにしておき僕は家に戻った。
そして再び時間を見ると、そろそろ7時になる。
なのはも起きる時間かな、学校に行く準備しないと。
『ねぇ、勇太』
「どうした?」
『何で紹介してくれないの?』
「もうちょい待ってほしかったんだけど」
『ムリ』
はぁ全く。
『いや、今回の話は僕の出番少なそうだから早めに挨拶をね』
不意にびっくりした方は謝る、ごめん。
『彼』は外ではしゃべっていない。
匣兵器の中でしゃべっている。
彼の名は、ケルディオ。
ユニコーン型匣兵器だ。彼は形態変化 ができ、槍の武器に変わる事が出来る。属性は大空だ。
これはおじさんから渡される前に持っていたものだ。
そして、このまま普通にしゃべっていたが、そう。普通は匣は話せない。 ケルディオは人の言葉を話せるのだ。
『そういうことだからよろしくね、みんな』
「誰に向かって言ってるんだ」
僕の武器は槍、そして己の拳だけだ。
▼ ▼ ▼
家に戻ると、すでに桃子さんが朝ご飯の支度をしていた。
なのはを起こしてきてくれる?
と頼まれて、僕はなのはの部屋まで向かった。
ドアの前まで行き、ノックする。
「なのは、朝だぞ。
学校に遅れちゃうよ!」
「…うーん」
これは起きられないか?
僕はドアを開けて、部屋にはいる。中は暗い。なのでカーテンを開けて日の光を浴びさせる。日の光を浴びれば人は起きるって言うし。
「眩しい…勇太くぅん、もう食べられないよ~…むにゃむにゃ…」
おい、寝言のテンプレみたいなのはいいから、
「なのは、起きろ。学校遅刻しちゃうよ」
僕はなのはの身体を揺さぶり、起こさせる。
なかなか起きない…
「nぁ~、あれ?
何で勇太くんがここに?」
「起こしにきたよ、もう7時」
「あぁそっか、うーん、変な夢見ちゃった…」
後で聞くから、今は起きてくれ。
それと…
「服、はだけてるぞ」
なのはのパジャマがあられもないない姿に。
「え!?」
悲鳴が出される前に、僕は退散し階段を下りた。
まぁ、その後は顔を赤くして、いろいろと攻められたりしたがなんとか収まり、学校に着いた。
学校では、極力一人で過ごそうと思っていたのに、
「さ、行くわよ勇太!」
「一緒にお昼ご飯たべない?」
「みんなで食べた方がおいしいよ、勇太くん!」
お、おいぃ…刺激を与えたらダメだと何度言ったことか…
そんなんじゃ絶対クラスの男子に何されるか………ってあれ?
何も起きない、いや、ないのはないで嬉しいんだが、そういうのって後が怖いんだよなぁ。
今年のクラスって平和なのかい?
それは嬉しいね、おおいに結構だ。まぁ僕は人見知りだし、
目立ちたくないからほどほどにしたいんだけれど、彼女たちがねぇ…
『羨ましいじゃないか』
ケルディオが首をつっこむ。お前なぁ…
毎回クラスの男子共に僕を殺すような目に遭っているのを、
お前は傍観してるのにもかかわらず、そういうことを平気で言うお前にお灸を据えたい。
よぅし…外出禁止令でも出すかな。
『や、やめてぇ~!
う、うそです…! うそだからマスタァ…!』
そして、何事もなくお昼ご飯を屋上で食べて、
『スルー!?」
今日の学校の日を過ごした。僕は彼女たちの話に相づちを打ったり、
『ねぇ、スルーなの!?』
屋上からの景色を見ながら過ごした。
『うわぁ…一度も相手にしてないよ…』
一切の授業を通り越して放課後、なのはたちは、塾があるそうで、直通で向かって歩いている。
「ここが近道なのよ」
アリサが示した近道は公園の木が多く立っているところ。
そして向かおうとしたとき…
『誰か、僕の声が聞こえますか!?』
…!
誰かの声が、頭に直接響いてくる。
これが、魔法…?
声は止んで、異変は消えた。
なのはを見ると、なのはも神妙な顔をしている。聞こえたようだ、あの声が。なのはは声がしなかった?
と、僕達に聞くも、声なんて聞こえないわよ、とアリサが一蹴り。
そして、道を通り抜けると、広い公園にたどり着いた。アリサはこれを知っていたのか、どや顔を繰り出した。
『誰か、いませんか!?』
また、あの声だ…
『聞こえたら返事をしてください!』
返事と言ってもどうやって、ってなのは…!
「なのは、どこに行くの…!」
「なのはちゃん!」
二人がなのはを呼び止めるも、なのははどこかへ行ってしまった。
おそらく、声のする方角へ向かったのだろう。僕もなんとなくわかった。
あの方角に何かある。もしかしたらこれが、魔法との出会い、なのか?
アリサとすずかは困惑していて、立ち尽くしていた。
「とりあえず、なのはを一人にしちゃ危険だし、付いていこう」
僕が提案すると、わかったわ、というアリサの返事と、うん、というすずかの返事が返ってきたため、僕はなのはが向かった道に目を向けて、走り出した。
奥になのはの姿が見えて、近づくとそこにはなのはに抱えられた、カワウソ? みたいなやつが怪我を負っていた。
ぐったりしていて、意識がない。
「こ、ここら辺に病院なんてあったっけ…!?」
「えーと、確かここは…」
「近くに獣医があるからそこへいこう」
僕は以前に、海鳴をそこら中回ったことがあるのでとりあえず海鳴の地理は知っていた。
なのは達を落ち着かせ、獣医のいるところへ、動物病院へ向かった。
「うん、怪我してるけど命にかかわる訳じゃないから安心して」
ほっ、と全員で安心してこの場は落ち着いた。
女の先生にあの子を診てもらい、大事には至らなかったようだ。外はもうすっかり暗い。
「フェレットってわかる?」
「はい、聞いたことありますけど」
え? マジで?
全然聞いたことない動物だ、ペットとして人気?
可愛い動物は好きだけどこれは知らんかった。
フェレットは顔をのぞかせてこちらを見る。なのはと…僕を見てるのか?
よく見るとフェレットの首には赤い宝石が下がっていた。
『勇太』
念話でケルディオが話しかけてきた。
ケルディオは炎だけでなく、魔法も使えるのだ。
『どうした?』
ちなみに、僕も独自に魔法を使うのを覚えるために念話をケルディオに教わっていた。自分自身の魔力じゃあ、実践のものは使えない。専門家がいれば違ってくるだろうが。
『こいつ、魔力持ってるよ』
『…やはりか。念話もこのフェレット?』
『おそらくね、どうするの?』
なんとも言えない、なぜこちらに来たのか、なぜそんなにボロボロになっているのか。
「とりあえず、こっちで預かっておくから。もう暗くなるし早く帰らないとご両親心配するんじゃないかしら?」
『あぁ!!』
三人で突然、ふと何かを思い出した。
そう、僕以外は塾だということ。
ということは必然的に一人、まぁ慣れているんだけれども。
「じゃあまたね、勇太!」
「また明日学校で!」
「勇太くん、また後で!」
「じゃあね!」
今日はこれにて終了。さて、帰りますか。
『最近勇太は外に出してくれないじゃない?』
いきなり何だね?
『最近はずっと勇太の部屋でゴロゴロなんだけど…』
要は引きこもってるから外に出してくれってことだろ?
『流石マスターだね!』
はぁ、だから…お前は外に出られちゃ困るの。
実在する動物ならまだしも、ユニコーンとかお前…架空の動物やんけ。
『いいじゃん、今は人がいないし』
はぁ(二回目)、わかった。
ただし、人がきたら動くなよ。ぬいぐるみになれ。
『なにそれ…』
僕の肩に乗って、ってのは大きさ的にムリだからおんぶしてってのはどうだ?
『わぁーい!』
大喜びして、ケルディオはすぐに飛び出して背中に抱きついた。
僕は前足を掴み、肩に背負った。
鞄は腕に引っ掛けって運ぶ、い、意外と疲れる…
帰るまでに体力持つだろうか?
「ほら、いい運動だよ!
頑張れ頑張れ!」
くぅ…ムカつくわぁ…
次は逆に僕がお前の背中にのって楽になってやるんだ。
というちゃちな決意を固めて、僕は一歩前へ出る。
夕日に照らされながら、下校道を歩く。時々、すれ違い様に生暖かい目で見られるのが、めちゃくちゃ痛かったな!
死にたかった。
歩いているうちに翠屋の近くの公園にたどり着く。やっと…もうすぐで、着くのか…
あぁ、疲れた…
「いやぁ、極楽だねぇ。
あ、あれ見て勇太!」
…なんだよ。
「なんか地面に光ってるの落ちてる!」
どうせ夕日の光に反射した石じゃないの?
「でもなんか違うんだよ」
全く、しょうがないなぁ…
確かに光ってるものが一点だけ見える。
僕は近づいて、その光を拾った。これは、宝石?
ほんの小さな宝石、僕はこれを手に取りケルディオの言うとおり、不思議に感じた。
宝石を手に僕は、宝石を顔の前に出して夕日に照らした。とても綺麗だった。
うーん…これ何の宝石だ?
「持ち帰っちゃえば?」
それは不味い気がする、ただなんとなく…触れちゃいけない代物のような気がする。
この宝石、何が不味い訳かわからないけど…
「意外に真面目だね、勇太」
意外には余計だ。
さて、これどうするか。元の場所に戻すというのが手っ取り早いが。
持ち主がいれば、ここに戻って…
「…あの、その宝石をこちらに渡してください」
僕の後ろから声を聞き、振り返る。
可愛い女の子だった、赤い目をした金髪の、同い年くらいの女の子。コスプレ? と一瞬思った服装だが、あれは…
「(あれが、魔導士)」
やはり、か。
可愛いと思ったのも、一瞬だけ。
なにせ、右手には彼女の武器であろう、おっかない鎌を持っていたからだ。
「君は?」
「…それを渡してください、私にとって必要なんです」
名前は教えてくれないらしい。
彼女がこれを必要としているのはわかったが。
「早く渡さないと、痛い目にあってもらうよ」
また、後ろからも声が聞こえさっき僕が向いていた方角へ向く。
これまた犬耳のコスプレ? と思わせる服装であったが、彼女もまた、魔力を持つ人であろう。
秘密裏にケルディオが角で僕の後頭部を押し付けて教えてくれた。
その角、地味に痛い…
「あんた達は礼儀を知らないの?
人に頼み事をするのに、何でそんな脅すような感じになってるの?」
当たり障りのないことを述べて、僕は彼女たちを見極める。
「ずいぶんと余裕だねぇ、あんた」
犬耳の女の人が僕を見下すように話しかける。
「それは私達の物なんです、だから…ってあわわ…!」
僕は宝石を投げた。下手投げでね。
英国紳士としてはね。
『勇太は日本人だよね?』
余計なことはいいんだよ。
むしろスルーしてほしい場面だった。
「渡したよ、いやぁ…君達の物とは知らなかったぁ。
最初から言ってくれ、疑ってたよ」
「…え、いい、の?」
「君のじゃないの?」
「いや、うん…ありがとう」
「どういたしたして」
僕は渡した彼女のほうに歩き、横切るように僕は去った…
「あ、あの…!」
突然すれ違い様に話しかけられると、僕は咄嗟に振り返り、彼女を見た。
「うん?」
「あなたのお名前、聞いていいですか?」
「あんたいい奴だね、あたしもあんたみたいな子に会うのは初めてだよ」
こんなのでいい奴判定されていいのだろうか?
と、疑問を持ったが彼女たちの好意は素直に受け取っておこう、英国紳士と…
『日本人、だよね』
だからスルーしろと言ってるじゃないか。
「僕は、五十嵐勇太。ここらに住んでるからまた会えるかもね」
「ありがとうございました、あの…宝石は一つじゃないので、また見つけたら…」
「わかった、君に会うまで拾ったら持っておくよ」
「はい…!
本当にありがとうございます!」
彼女は頭を下げて、嬉しそうにしていた。
「それじゃ、僕は帰るから。君も早く帰らないと親に怒られちゃうよ」
僕がこの発言をした時、彼女の目を見逃さなかった。
「…」
とても、悲しい目をしていたから。
彼女の目は、まるで…
『ぐすっ…ぐすっ』
数年前、この公園で泣いていた…
あの女の子に、似ていた。
▼ ▼ ▼
公園で時間を食ったため、もう外もだいぶ暗い。
帰ってきて、僕は早速、フェレットのことを家族に…おっと失礼…
高町家に相談した。
「うむ…で、フェレットってなんだ?」
士郎さんの一言に僕以外全員ずっこける。うん、僕も同感だ。知らないものは知らない。
イタチの仲間で、ペットとしては、人気が高いらしく、飼われている家も普通にあるらしい。恭也さんや美由紀さん曰く。全ッ然知らんかった。
「私達は飼っても別に問題ないわ。
なのはと一緒に責任もってやるならいいわよ?」
「ありがとうございます」
「もう…敬語でなくていいのに…
もっと甘えてもいいのよ?」
あっははは…
とそこは苦笑してこの場を凌ぎ、フェレットを飼っても大丈夫か会議は終了。
飼えることになった。
僕は先に風呂に入って、なのはが塾から帰ってきた途端、僕に、
「話はどうなった!?」
と、迫ってきた。顔近い…
大丈夫だよ、と話した結果を伝えてほっとしていた。
「一緒に頑張ろうね、勇太くん!」
まだ早すぎると思うんだが、とりあえず僕は笑顔で首を縦に振った。
時間がたって、僕は部屋でゲーム中。
なのはは部屋で、何をしてるのかわからないがとりあえずいる。
今日はいろいろとありすぎたけど、普通に寝れそうだ。と、思ったのだが…
まだ、今日の夜は終わらない…
時計はだいたい8時を回り、長針が半分到達したところ。
はぁ、やっとクリアした…
RPGはやっぱ長いなぁ…その分クリアした達成感は気持ちいい。
ちなみに僕の好きなゲームのジャンルもRPGだ。のんびりできるやつが好きなんだよね。
「なのは、そろそろお風呂入っていらっしゃ~い!」
「は~い!」
というやり取りを聞いて、結構やり過ぎたかなと、一旦ゲームを自重して目を休めた。
何事もやり過ぎるのはいけない、それが好きなことでも。というおじさんの言葉。
まあ…ゲームで例えを使うなんてその言葉の重みが軽くなってしまうが…
僕は立ってストレッチ。
身体や頭に血を巡らせる。
さて、先に時間割しちゃうか。
この年になると、必然的に早く寝てしまう。高校生では普通に夜中は起きていられたが、小学生で夜更かしは厳しい…
というより止めたほうがいいよな。流石に健康には気を使う。
まあ最近は小学生も健康でダイエットとかやってるが、成長を滞りさせるから止めたほうがいいぞ、
小学生は新陳代謝が活発だから適度に運動すれば余裕で痩せられる。
僕はというと、ただ単に小学生の頃から夜更かしは不味いだろうという
自分の偏見に近いが、みんなもその偏見には頷くだろう。
さ、明日の準備しよう。
『誰か、聞いているあなた。お願いです、力を貸して下さい…!』
…またか。今日の夕方で声を聞いたのと同じだ。
「勇太、どうするの?」
ちなみにケルディオは、僕の部屋ではぬいぐるみという役目を果たしながら、みんなの目をごまかしている。
他の人が来た場合は顔は無表情、人形のように動かなくなる。
このユニコーンは小学生が別に持っていたって問題なかろう。で、本題。
「わからん、とりあえず様子見だ」
曖昧な返事だが、状況も曖昧なのだ。
下手に動けば変な事に巻き込まれ…ガタン!
という、ドアを閉める音が隣から聞こえた。だが、足音はないまま、時間は過ぎた。
忍び足で誰かさんが出たあとか、それとも扉がただ単に閉まっただけか。
さて、また準備しなきゃいけないな。
え、答え? そんなの決まってる。
前者だ。
▼ ▼ ▼
で、家から内緒で外に来た訳だが…
『これは…』
「なんだよ、ここは…」
異空間、とも呼べる場所だった。
町並みは変わらない、そう…『景色』が変わってる。
色が単一になり、いや色とは呼べない色に染まっていた。
『これは、魔力結界…だね』
魔力結界?
『普通の人はこの結界に入れず、そして、あっちはあっちの空間…こっちはこっちの空間で時間が動いてる』
『要はこの結界は独立した世界ってこと、そして一番にまず、魔力を持つ人にしか入れない、もしくは認識できないってこと』
なぜ主よりも知ってたのかわからないが、ケルディオの分かりやすい説明に感謝した。道理で周りには人がいないわけだ。
『ちなみにもうここは結界内、僕らは認識できてるってことだね』
素直に喜べない、これは非常によろしくない。
どうしたらいいんだ? まずここを…
「きゃあ~!」
…!
『今のって…!』
間違いない―――なのはだ。
急ごう。
▼ ▼ ▼
なのはside
もう…!
いったいどうなってるの~!
あの声を聞いて、私はなんとなく…フェレットちゃんの眠っている病院へ向かったのはいいんだけど…
急に景色が変になって、それから…
「■ ■ ■ ■!!」
あの怪物はなにぃ!?
私は病院を離れて後ろを振り返ると、怪物がフェレットちゃんを狙っていた。
フェレットちゃんが出てきたのはいいんだけど、そしたら病院からあの怪物が出てきて病院を壊しちゃった…
「来てくれたの…?」
「え、なに? って…」
あれ、おかしいな。
人が周りにはいないはずなのに声が聞こえた。驚愕するまで三秒前、思考停止するまで三秒前。
「しゃべったぁぁぁぁああ!!」
フェ、フェレットが私に…は、話しかけてる…!?
そ、そうだよ…!
これは夢なんだよね、そうなんだよね!?
必死に私は夢を覚ます方法として、自分の頬をつねてみた……痛い…
なんか必死にやった私がバカみたいなの…
ってぇ!
落ち込んでる場合じゃない!
私は急いで、ここを抜け出した。
「…あれは、いったい何なの!?」
「…君には資質がある、少しだけ君の力を貸して…!」
何の資質?
というか、あなたはいったい…
「僕は、ある物を探しにここへ来ました。でも、僕だけじゃそれを成し遂げられないかもしれない」
彼の独白に私は困惑するばかり。
「お礼はします、だから、あなたの…魔法の力を…!」
魔法の、力…?
絵本や漫画の世界で出てきたりして、杖を使ったり、空も飛べたりするあれ?
「■ ■ ■ ■ !!」
悠長に話していた間に、怪物が追いつき、私は怪物とは逆の方向に動き出した。
咄嗟に電柱の影に隠れて、身を過ごす。でも…バレるのも時間の問題だよね…
「……!」
マズイ…!
気づかれちゃった…!
黒いモヤモヤした怪物は私…いや、ユーノくんに目掛けて向かってきた。
私は咄嗟にユーノくんを抱えて、しゃがみこんだ。怪物に背を向けた。
くっ…!
やだよぉ…こんな、ところで…
まだ、みんなとずっと一緒に…いたいのに…
私は不意に、無意識に、思い浮かべた。彼の姿を…彼の名前を咄嗟に、
「勇太くん…!」
呟いた。
小さな声で呟いた。本当に聞こえないくらいの声で…
怪物が迫る、もうダメなの?
―――呼んだか?
「ふぇ?」
私は声がした方向、あの怪物がいた方向に振り返る。
そこには信じられない光景があった。
「ウソ…!」
怪物が吹き飛ばされていたのだ、ある少年によって。
怪物は壁に激突して、動けなくなった。
そして、私は名前を呼んだ『彼』を見る。
今度は泣きそうな声で、彼を呼んだ。
「勇太くん…!!」
と。
「すまない、遅くなった。
怖い思い、させてしまったな。守るって言ったのに…」
ドキッとした。私の頭を撫でられた。
手がとても、温かい。
彼の微笑みに私は、見とれてしまった。
それに、勇太くんの姿が、全然違ったのは見間違いじゃないはず。だって…
おでこと両手には、見たことのない炎が宿っていたのだから。
「■ ■…」
怪物は、また姿を現し、勇太くんに目をつけた。
「俺を怒らせたことを後悔しろ。そして全力でこい、化け物。俺もお前を…」
―――全力で叩き潰す。
勇太くんの背中が、大きく見えた。
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とある少年、五十嵐勇太はある少女をたすけるために事故に遭い死んでしまう…
彼は、神様のミスによって死んでしまったため償いとして転生させてもらい、リリカルな世界へと 旅立つ。
彼の目に映るは何の物語か。 これは、英雄になるまでの物語。
無印編突入です。