城に攻撃を仕掛けていた呉の軍勢が降伏してから、急いで城を後にして、ようやく私達は一刀の率いる隊に合流することができた。
「……はぁ……」
紫青と話したら、一緒に行動するうちに曹操と一刀が随分仲良くなったっていうし、
正直心穏やかではない。
はっきり、自分が曹操に嫉妬してると分かる。
「お、桂花やん。やっと追い付いてきたんかいな」
「霞、大群を相手に大立ち回りしたって聞いたけど、怪我とかは無いかしら?」
「無い無い、曹操と紫青とご主人様の作戦勝ちわや。10万相手に4万でほぼ完勝もええとこやったで」
「一刀の?」
「桂花も一刀から聞いたこと無いか? 釣り野伏っちゅう戦術」
たしか聞いたことがある。簡単に言ってしまえば、囮の隊が敵を釣り、釣られた敵を伏兵により挟撃して殲滅するという物。
「誰が囮役をやったの?」
「ウチと曹操とご主人様と紫青や。何が何でも食いつかせなあかんかったから、豪華な餌にしたんやって。
それより、桂花らは大丈夫やったん?」
「平気よ、ただ、一刀に翠と鈴々が呼ばれてなかなか帰ってこないわね。もう1時間になるかしら?」
「大分こっぴどく説教されとるなこりゃ」
「でしょうね」
霞と揃ってため息をつく。
独断で突出したために軍全体、もっといえば国をも危険に晒したのだから、怒られて当然なのだけど。
「ご主人様がこれだけ怒るって相当やで?」
霞とそうやって話していると、やけに疲れた顔をして鈴々と翠がやってきた。
「うぅ、ひどい目にあったのだ」
「愛紗と星の説教もキツいけど、ご主人様の説教もキツいなぁ。
というか本気で怒ったご主人様なんて初めてみた……」
「まだ耳がキーンとするのだ……」
「私もだ、あんなに怒鳴られるなんてなぁ」
「鈴々はお勉強なんてイヤなのだー……」
「私もイヤだ……」
うなだれながら私と霞の前を通りすぎていく。おそらく、自分の隊に戻って隊の調整等の仕事をするのでしょうけど……。
2人が通りすぎてから、思わず霞と顔を見合わせた。
「曹操からのいい影響と言えるのかしらね、これは」
「そうかもしれんなぁ、あの2人への罰則に勉強か、こりゃよー効くやろなぁ」
「……、私は一体何を罰則にされるのかしら……」
「んー、あの2人抑え切られへんかったってのを重く見よったからなぁ
曹操みたいに貂蝉と一緒とか? それか、ご主人様と面会謝絶とか……」
霞の話しを聞いてぞっとした、どちらも考えたくない。
もしかして、私が一刀に呼ばれなかったのもそれで……?
「嘘嘘、お咎め無しっていいよったで。
報告を見た限り、桂花はなんも悪いないし、きっちりあの2人の隊を無事で返して戦線維持して耐え切ったんやから
抑え切られへんかったのを含めて考えても、別になんもいらんやろって」
「驚かさないでよ!」
思わず怒鳴ってしまってから気づく。霞にからかわれたのだ。
「顔真っ青にして、桂花ちゃん可愛いわぁ……。実際どっちのがイヤ?」
「期間によるわ。それで、華歆の領に向かってから変わったことは何かなかったかしら?」
「曹操とご主人様がなかよーなった他は、そうやなぁ……。
紫青が時々ご主人様の寝床に忍び込んどったとか? 夜な夜な紫青のあられもない声が……」
「なんですって!?」
「冗談! 冗談やって! 鬼みたいな顔になっとるで!?」
思わず霞に掴みかかり首を締めてしまって、はっとして手をはなす。
「死ぬかとおもたわ」
「嘘ばっかり、本気だったら私が掴みかかったって霞をつかめるハズがないもの」
「まぁ、変わったことは特にあらへんよ。だいたい紫青が連絡した通りやろ。
でも曹操らの待遇は大幅に変わるやろなぁ。孫権を討ち取ったんは夏侯惇らやから。
それに釣り野伏の布陣やら考えたんも曹操と紫青の2人やし」
「あの、荀彧様……」
「何よ」
霞と話している所へ、兵が一人やってくる。用件を聞けば一刀が呼んでいるとのこと。
「ちょっといってくるわ」
「あいよ、また後でなー」
───────────────────────
「というわけで報告は以上だ。
すまん、流石にあの2人は私じゃどうにもならなかったよ、
北郷か愛紗か星が居れば話しは違ったんだろうけど」
「采配がマズかったかなぁ……」
白蓮の報告を聞いて大きくため息をつく。
今回、桂花と共に軍の頭をやってくれていたのだが……。
「んー、まぁあそこで周喩が仕掛けてくるっていうのは誰も予想できなかったし、
救護活動の邪魔になるからって街の外の警備に出した私の落ち度でもあるし」
「鈴々と翠の話しはいいとして、華雄は?」
「私と桂花の指示にきっちりしたがってくれたよ。
変われば変わるもんなんだなぁ……。
汜水関ではすぐ愛紗の挑発に乗って、負けたっていうのにさ。
最近自発的に兵法や政の勉強もしてるっていうじゃないか」
「そうやって非を認め、変わっていけるなら華雄は将としても人としても、もっと強く成長するとおもうよ。
汜水関の時は、愛紗に手ひどく負けたけど死ぬことはなかったんだし、その事を教訓に自分を変えていってる
……、でもあの2人は変わりそうもないなぁ。華雄を見習って欲しいものだけど」
鈴々と翠の事を考えて何度目かの大きなため息をつく。
「ま、俺からちょっとキツくいっとくよ。星と朱里の隊は合流、間に合ったんだっけ?」
「呉が降伏するちょっと前だったけどな。
朱里と桂花が大変だったんだぞ? 少数の兵で呉の本隊と衝突したっていう報を聞いてから、
早く助けに行かないと、って、ずーっと落ち着かなかったんだから」
「随分心配かけたみたいだなぁ……」
「曹操は不安要素だったし。まぁ、今の様子を見る限り心配はなさそうだけどな。
私からの報告は以上だ」
「ああ、おつかれ、少しの間だけど体を休めててくれ。それと、翠と鈴々を呼んできてくれ」
「わかった、それじゃあな」
白蓮が部屋から出てから俺は大きくため息をついた。
紫苑と白蓮と華雄からそれぞれ聞き取り調査をしたが、
やはり伝令の報告の通り、鈴々と翠が突出したのが問題だったらしい。
周りの兵は、紫苑や白蓮、桂花の指示を待つべきだとたしなめたそうなのだが、
急いで追い返さなければいけない、と、勝手に隊を進めたという。
桂花からの攻撃禁止の命令を受け取ったのは華雄と白蓮のみ、紫苑は傍にいたからよく事情をわかっていたらしい。
「ちょっとキツ目のお灸をすえなきゃだめか」
どうするかと考えていると翠と鈴々がやってくる。
こちらからも報告を聞く、概ね白蓮や紫苑、華雄の言った通り。
2人を床に正座させて、軽く息を吸い込む。
「何考えてるんだお前らはっ!!
お前らが勝手に動いたがために何人の兵が無駄に死んだと思ってるんだ!」
思わず怒鳴り散らしていた。
桂花の咄嗟の策がなければこの2人の隊は全滅していてもおかしくなかったと聞いた。
「でも、戦で人が死ぬのは仕方がない事なのだ……」
「そもそも、2人が勝手に敵を叩きに行かなかったら、戦にならなかったかもしれない。
桂花は計略を看破してたんだぞ? 今回の呉との戦で何人死んだ?
孫権も馬鹿じゃない、計略の事を話せば理解してくれたはずだ」
「ごめんなさい……」
「それにだ。2人は今まで最前線で何を見てきた?
俺達に釣られて、策もなしに突出してきた敵はどうなった?
包囲されるか横撃を喰らうか、伏兵に不意をつかれるかだ。
それを自分に当てはめて考えてみたことがあるか?
自分達だけは大丈夫、なんて思ってないだろうな」
「それは……」
「今まで勝ち続けてきたから、気が緩んでいたか?
俺の居た所にはこんな言葉がある、勝って兜の帯をしめよ。
戦に勝った後こそ、気が緩んでしまうことが多いから、慎重に行動しろという意味だ」
じっと2人の顔を見据える。早く説教が終わらないか、そんなことでも考えているのだろうか。
本人がどう思っているかは分からないが、俺には反省している、というようには見えなかった。
結局2人への説教は1時間ほど続け、罰則として戦が終わった後に兵法の勉強をするように言い渡し、開放した。
2人が言い訳しようとするたび、随分怒鳴ってしまった。
どうしても死んでいった兵や、その家族たちの事を考えてると熱くなってしまう。
「やれやれ……」
2人が出て行った後に椅子に深く座りこみ、ため息をつく。
それから通路に出て兵を呼び止め、桂花を呼んできてくれるように頼むと俺は部屋に戻った。
城主の好意で部屋をかしてもらっているのだ。
「随分お疲れみたいね」
ドアが開いて桂花が入ってくる。
「鈴々と翠をかなり叱りつけたみたいじゃない」
「まぁ、な」
「それで、皆から報告は聞いてるとおもうけど、私からも聞くかしら?」
「ん、一応聞いとく」
桂花から報告を聞いて終わった頃にはそろそろ日がおちる頃か。
窓の外は薄暗くなってきた。
「報告は以上よ」
「おつかれ、華雄は随分良くなったけど、あの2人は相変わらずみたいだなぁ……」
「華雄はそのうち、愛紗にも負けない将になるんじゃないかしらね。
私も時々頼まれて色々教えてることがあるし」
「そうなのか」
「さて、これで用事は終わったし私は戻るつもりだけど……」
「俺の用事が終わってないの、分かってるクセに。それに、本当は戻るツモリもないだろ?」
立ち上がって桂花の傍にいき、軽くその髪に振れる。
「桂花とゆっくり話したかったから、報告聞くのをわざわざ最後にしたのにさ」
少し照れくさそうに、ふっと視線をそらすのがなんとも可愛らしい。
「じゃあ、今日はずっと一緒にいてくれるの?」
「そのつもりだけど、ダメ?」
「ダメなんていうわけないじゃない。離れてる間寂しかったんだから。
それより、曹操と随分仲良くなったって紫青に聞いたんだけど。
他にも、霞が紫青を部屋によく連れ込んでたっていってたわよ?」
「それは霞のホラ話だよ。まぁ華琳と仲良くなったのは本当だけど。
俺の友達になってくれるってさ」
「節操無し……。私の言った事、覚えてるわよね?」
「私を一番に見て欲しい、ってやつなら覚えてるよ。だからこうして一緒にいようと思ったんだし」
髪を撫でる手を離して、今度はその頬に触れて。
「心配してたのよ、倍以上の戦力差がある呉の本隊と衝突したなんて聞いたから」
ようやく安心した、とでもいうような、少し気の抜けた顔。
こんな顔見せるのは、俺の前でだけだろうなぁ……。なんて思いながら、手を背中にまわして引き寄せて、腕の中に収める。
そうされるのが心地いいようで、桂花は軽く体を預けるようにしてきて。
「自分の居場所があるって、いいわね。魏へ向かう前に、一刀の領地を通ってよかったとおもう」
「そうだな……。俺もそうおもう」
「私の居場所は、ここでいいのよね?」
桂花の言葉に、軽く頷いた。
───────────────────────
その後、そのままの流れで桂花を抱いた。
今は事が終わってベッドで2人してぼんやりしている感じ。
「やっぱりまだちょっと恥ずかしいわ。
あとちょっと激しすぎよ、一刀のケダモノ……。
外に声が漏れちゃってたらどうするのよ……」
桂花の言葉に小さく笑うと、少し不服そうな顔。
事が終わった後、桂花はすごく甘えてくる。
俺に擦り寄ってきたり、キスを求めてきたりしてまるで猫のよう。
「桂花とこんなことになるなんて、最初は想像もしなかったなぁ……。
筋金入りの男嫌いだったし」
「一刀以外の男は今でも嫌いよ。
でもどうしてかしら、いつからかあなただけは、傍にいても嫌な感じがしなくなったのよね」
桂花の髪を指で梳き、桂花が来た当初の事を思い出してみる。
「そういえば、脚の傷、結局残っちゃったな」
「……言わないでよ、普段見えないとこだけど、結構気にしてるんだから」
「ごめん。……そういえば、最初は「包帯の交換を口実に脚を触りに来てるんでしょ」なんて言われたなぁ」
「そういえばそんなこともあったわね、今となっては懐かしいわ。
あの頃は、早くあなたの所から出て行きたくてしょうがなかった。
でも今は、出て行かなくてよかったとおもってる。
最初は下心で親切なんだと思ってたけど、あなたはこんなにも私を大切にしてくれるもの」
両手が俺に回されて、抱きついてくる。
「触ったら妊娠する、とか随分色々言われたのも思い出した」
「ふふ、そのうち本当に妊娠させられちゃうかもしれないわね。
もうそれもイヤじゃないけど」
そういって頬を赤くしながら笑う桂花が可愛くて、軽く抱き締めたりしてみたり。
「……、桂花、ずっと一緒にいような」
腕の中に桂花を収めたまま、うとうととし始める。
桂花も目を閉じて俺に体を預けてきた。
「今日は休もう……、明日からまた忙しくなるし」
桂花が軽く頷いたのを感じながら、俺は眠りに落ちていった。
あとがき
どうも黒天です。
以前言われてた桂花の事後シーンを書いてみましたが、こんな感じで如何でしょうか?
結構甘くできたかなー、なんて思ってます。
しかし、10割デレになって罵らなくなっちゃうと何だか桂花が別人のような気がしますねー……。
さて、話しは変わりますが、
中々返信を返せずにいますが、応援メッセージをくれた皆様、いつもありがとうございます。
こちらもちゃんと確認させて読ませてもらっています。
この場を借りてお礼申し上げます。
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回は桂花さんメインなお話。
多分次回、周喩との戦になります。