No.625835

三匹が逝く?(仮)~邂逅編・sideメイズ~

赤糸さん

 この作品は小笠原樹氏(http://www.tinami.com/creator/profile/31735 )、峠崎ジョージ氏(http://www.tinami.com/creator/profile/12343 )、YTA氏(http://www.tinami.com/creator/profile/15149 )と私、赤糸がリレー形式でお送りする作品です。

 第1話(http://www.tinami.com/view/593498
 前話(http://www.tinami.com/view/621232 )

2013-10-06 23:21:10 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3490   閲覧ユーザー数:2747

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレクシス=エマニュエル・ル・ロワイエ公爵邸崩壊事件に於ける結果報告書。

 

”精霊使い”ジェラール=ロジェ・デュカスの確保。

 

 ――――以上。

 

 

 

 

 

『アルカンシェル』諜報部『英知の姿(フォルム ドゥ ラ サジェス)』所属

 ――――――――――――――――――――――――――――――――鏡の迷路

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャン、荷物は――――外か。それとユウ、ウチの看板娘を口説くんじゃない」

 

 ユウタが現れた事で若干? の混乱が見られる店内にのんびりとしたグスタフの声が響き渡る。

 外の荷車を見て興奮したジャンは、食材一式を投げ出して来ていた。

 絶賛硬直中のジャンの視線の先では、ギルドで竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の二つ名を誇る青年が、ランク紫で『銀の月』看板娘の一人の手を握っている。

 

「ジャン、それとメイズ。外の荷物を――ん?」

 

 拾って来てくれ、と言い掛けたグスタフは店の外に特徴的な外見の知人を見つけた。

 真っ白な短髪に黒色の眼鏡、顔の中心に刻まれた大きな傷跡。

 筋骨隆々の巨躯が、ウェスタンドアから見える隙間を狭めていた。

 

「おう、ジム…………ああ、今日は販売か。入ってくれ」

 

 マスターの声とドアを開けるキィ、と言う音が重なり、野菜が満載された籠に加え、店外に放置されていた野菜の袋と肉や魚が詰まった箱を軽々と肩に担いだジム・エルグランドが入って来る。

 

「しばらく振りですグスタフさん。……荷物はいつもの場所で?」

 

「ああ、頼む」

 

 慣れた様子で次々にカウンターの上に箱を積んでいくジムの巨躯と、置かれた端から荷物をカウンターの中へ下ろして行くグスタフの矮躯(と言ってもメイズより一、二センチ低いくらいだが)が対照的だ。

 突然の闖入者に、店内に居た者達の反応は様々で――ソフィは、巨漢とそれに続いて入って来た二人の子供を見てどんな関係なんだろう? と首を捻っており、ジャンはジムの外見に心当たりがあるのか、びくりと体を震わせて再び硬直してしまった。

 ユウタは面白そうなものを見る目で、グスタフとジムの遣り取りを見物している。

 メイズはと言うと、

 

(あの一件の関係者がまた一人……か。今日は厄日かしら……はぁ)

 

 見覚えがありすぎる人物が入って来たのを見て、こっそりと溜め息を漏らしていた。

 直接の面識は無いとはいえ同じ日のほぼ同じ時間で、ユウタに続いてジムまで現れては見えざる何かの力が働いているとしか考えられない。

 これでエルフィティカまで来たら、と想像してメイズは怖気を震う。

 

 

 

 

 

 故に――メイズは、ジムが自分を見て微かに眉を動かした事に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――十数分後。

 

 幸いにもメイズが危惧していた事態にはならず、現在の『銀の月』はゆったりとした空気が漂っていた(硬直していた誰かさんも、グスタフが料理を始めると我に返って席に着いている)。

 店の外には依然として荷車が置かれており、そこから少し離れた所にジムが曳いて来た荷車が置いてある。

 ギルドでも有数の赤と、近寄り難い外見の黄。

 この二人が居る為か、お昼時だというのに店内には彼等と、店の常連客しか座っていなかった。

 だと言うのにグスタフはまるで意に介した様子も無く、仕入れたばかりの新鮮野菜(エルグランド農場直送)とジャンが運んで来た食材相手に腕を揮っている。

 大き目のフライパンで炒めていた卵とご飯に、ほぐした焼き鮭の身を手早く混ぜ合わせてから皿に盛り付けると、野菜箱からレタスを一玉取り出して一口大の大きさにちぎって加えた。

 

「よし…………ん、こっちも頃合だな」

 

 綺麗な半円形に炒飯を盛り付けたグスタフは、蓋をしていたもう一つのフライパンの火を消し、蓋を持ち上げる。

 

「わぁ…………!」

 

「……ぅ、な、なあグスタフのおっちゃん! 早く食べさせてくれよ!」

 

「ん~……この香り、いいねぇ……」

 

「やったー! エビギョーザだー!!」

 

「……決めた。今日はとことん食う! 食って色々忘れるぞ!」

 

(こいつは……ウチで採れたゴマ、か……!)

 

 たちまち、立ち上る蒸気と香ばしいごま油の香り。

 炒飯を作っていたものよりも更にワンサイズ大きいフライパンの上には、キツネ色に焼けて所々焦げ目が付いた海老餃子が湯気を上げていた。

 その様子を見て、誰かがごくり、と喉を鳴らす。

 席に着き、今か今かと待ち構えていた面々はめいめいに歓声を上げた。

 

「全員、『おまかせ』で良かったな? 上がったぞ……メイズ」

 

「了解、マスター」

 

 ユウタ、ソフィ、ジャン、ジム、アル、リサ、それと自分。

 計七人分の鮭レタス炒飯が乗ったお盆を、メイズは絶妙なバランスで全員が座るテーブルに運ぶ。

 その後ろから、グスタフが大皿に盛った海老餃子を運んで来た。

 

「そら、冷めない内に食べな」

 

 グスタフの、その声が終わらぬ内に誰もがスプーンや箸を取り、料理に手を付ける。

 アルとリサの子供組は午前中の街歩きと労働でお腹が減っていたらしく、ものも言わずに黙々とスプーンを動かしていた。

 ユウタもまた、一口目を食べてからは結構な勢いで料理を口に運んでいる。

 ジムは彼が持つと短く見える箸を手に、一口一口確かめるように料理を口にしていた。

 ジャンは何かに取り憑かれたかのように、凄い勢いで料理を口に詰め込んでいる。

 その様子を見て、メイズはゆっくりと箸を動かしながら――

 

「――んがぐぐっ!!?」

 

「はい、ジャン。お水」

 

 なみなみと水を注いだコップをジャンの前に置く。

 咽ながらも必死に水を飲むジャンを見て、メイズの頬は自然と緩んでいた。

 

 

 

 

 

 そして――。

 

 

 

 

 

「マスター! お代わりっ!!」

「「「「「「速っ!?」」」」」」

 

 ソフィは、ユウタやジャンですらまだ半分くらいしか食べ切れていない、グスタフ特製大盛り鮭レタス炒飯の二杯目を要求していたのだった。

 

 

 

 

 

 食事が終わると、ユウタは何か思い出したらしく「やば……帰ってからアイツに挨拶してなかった……」と呟き、メイズに「いずれまた、会いに来るよ」と笑顔で手を振りながら店を後にした。

 

「ごちそうさまでした。グスタフおじさん、とっても美味しかったです!」

 

「美味かったー! 兄ちゃん、次もまたここが良いなー!!」

 

「そん時はな。グスタフさん、御馳走様でした」

 

「ああ、また来いよジム。やっぱりお前さんの所の野菜が一番良いからな」

 

 お腹を擦りながら先に店の外に出た子供達を追って、「必ず」とグスタフに返事したジムは去り際、ドアのすぐ側で営業スマイルを浮かべて御辞儀をするメイズにだけ聞こえるように、

 

 

 

 

 

「”あの時”のはアンタか。屋敷に囚われてた奴等を解放してくれた事、感謝する」

 

 

 

 

 

 ごく小さな声でボソリと呟き、そのまま店を後にする。

 ジムが去った後も、メイズはしばらくの間、御辞儀をしたままの体勢で目を閉じていた。

 

(…………気付かれていた、のか)

 

 また一つ心労が増えたとばかりに、ランク紫の佳人は床に届くほどの深い溜め息を吐き出したのだった。

 

 

 

 

 

 その日の夜。メイズは自室の机に肘をついて思考の淵に沈んでいた。

『銀の月』に間借りしているその部屋には、元々置かれていた家具以外の物は殆ど置かれていない。

 ベッドと小さな机に椅子、クローゼット。あるのはそれだけだ。

 二十そこそこの女性が生活するにはやや殺風景とも言える空間。

 部屋の主は、屋外から聞こえる酔っ払いの声や虫の音色などが聞こえていないかのように、椅子に座ったまま微動だにせず、ただ瞑目している。

 

 ――。

 

 ――――始まりはいつもと同じだ。

 

 狭く薄暗いあの部屋で、胡散臭い上司から仕事の依頼を受ける――そう、これまでと変わる事無く。

 王位継承権を持つ貴族が所有する屋敷の調査という簡単な仕事だったが、関わっている人物の所為かなかなかに報酬も良かった。

 本来、その調査結果を元にギルドのエージェントが派遣され、違法召喚の取調べか行われるという話だったのだが……。

 何故か三日後には再度呼び出しを受け、また同じ場所での仕事を頼まれた――屋敷へ突入する、ギルドのエージェントとは別行動で。

 

 ギルドから正式に派遣された人員はランク赤が一人。

 ――ユウタ・コミネ。

 『銀髪翁』ジャン・ピエール・ドゥ・ラ・パトリエール卿と深い関わりを持つ異世界人。

 また、翁やマスター(グスタフのこと)の特別推薦を受けて赤に任命された稀有な人物である。

 以前にマスターから聞いた話では”こちらの世界”へ来てすぐにドラゴンを倒した上、とある才能を開花させた。

 それに加えて、元居た世界でかなりの場数を踏んでいたと言う事情もあって、マスターやご老体は赤への推薦に踏み切ったのだ。

 

 そして、非公式に事件へ介入してきた人物が一人。

 ――ジム・エルグランド。

 ロワイエ公爵の屋敷があった森に住んでいて、ギルドランクは黄色。

 孤児院出で、それ以前の経歴は不詳。

 現在は森で自給自足の生活を送りながら、時折町へとやってきては孤児院を訪れたり、自分で育てた野菜の行商をしたりしている。

 特記事項としては――――王族の末であり継承権十一位でもある人物と何某かの繋がりを持ち、その人物からの依頼で動くことがある、という事。

 ギルドランクは黄色だが、最上位ランク赤を殴殺したイレギュラー。

 

 コミネだけが赴くのであれば適当に幻術でサポートして最終的には公爵を確保させれば良いだけの仕事だったが、前述のイレギュラーが加わってきた為に少しばかり仕事が面倒になった。

 コミネ、エルグランド両者共に大貴族との関わりがある為、最終的にはそちらの息が掛かった者達の介入が予想される。

 隠密裏に事を運ぶという訳には行き難い仕事になったな、とメイズは感じていた。

 現地に到着後は依頼通りに屋敷の外で待機、コミネ達の突入後に屋敷から逃走を図る者達の無力化に務めた。

 事前に下調べをしていた”有力人物”の内、”檻”に囚われた傭兵に釣られて外へと出て来た”精霊使い”を無力化出来たが、彼の確保で手一杯だったのだ。

 何しろ、懸念事項が”やって来た”のだから。

 森へと迫っていた軍は(後から判明した事だが)十一位の仕業だった(してみるとエルグランドが屋敷を貫いて放った光条は外で待っていた彼等への合図だったのだろう)。

 突入の合図を受け、思った以上の速度で屋敷へと接近する軍が”檻”に囚われぬ様にと、メイズは”檻”の解除を急ぎ、傭兵達に関しては軍の手柄として残して置いた。

 流石に、軍が到着するまでの間に傭兵達を”収容”し、且つ痕跡を完全に消すのは無理と判断したからだ。

 やむなく”精霊使い”のみの確保で終わったが、上司は成功報酬に金貨十枚を上乗せしてきた(金貨一枚は平民成人男子の初任給に値する)。

 その理由として、屋敷の警備責任者であった事や、貴重な補助装置持ちであった事などが含まれる。

 また、元はギルドの高位ランカーだった事も報酬増額の一因だろうか。

 

 とは言え、どうでもいいことだ、とメイズは思う。

 ご老体や十一位――貴族連中の思惑がどうであれ、仕事は達成したのだから。

 今回の事件の最中に召喚された男――”虹のエルフィティカ”の件もあるが……そちらはご老体や十一位が対処するのだろう、自分にお鉢が回って来る事は無い筈だ。

 

 コミネに関してはご老体から厄介な仕事を回されている身の上と聞くし、案外今後も関わり合いになるやもしれない。

 ――と思っていたら一週間後に関わる羽目になった。

 食えない上司に呼び出されて手紙を渡され、とある場所を通るコミネに手紙を渡し、返事を聞いて来い、というものだ。

 その際、”手紙を渡す時は必ず手渡しで渡す””別の人間に変装する、或いは幻覚を被って接触する。以上の二点を禁じる”という条件を付けられた。

 申し訳程度の仮面を渡されて着けて行った訳だが――成る程、あの仕事はコミネの訪問への布石だったか、とメイズは溜め息を吐く。

 既にこちらの存在を知られたのだ。今後は彼絡みの厄介な仕事につき合わされるのかも知れない。

 また一つ、深い溜め息を吐くメイズだが実のところそこまで嫌気が差している訳ではなかった。

 コミネは有力貴族と繋がりはあるものの、それに阿るような気質の男ではない。それだけは確かだ。

 ならば、偶には巻き込まれるのも悪くは無い。

 

 

 

 

 

 エルグランドとは……今後も関わる可能性が極めて高い、とメイズは見ている。

 あの仕事の際に自分の存在を気取られたから、という理由だけではない。

 地下から屋敷に潜入しようとしていた彼の中に”視えた”アレは――。

 

(あの狂人の仕業と似ていた。――奴とは違うけれど、方向性は限りなく近い)

 

 過去の記憶を辿るメイズの脳裏に浮かぶのは、”元の世界”での、とある仕事で遭遇した一人の男の姿。

 

 忘れもしない。あの赤い部屋に、狂笑を響かせていた白衣の男を。

 

 自身の”最高傑作”に致命傷を負わされたことに、怒りや嘆きを示すどころか満面の笑みを浮かべて死んでいったあの男を。

 

 

 

 

 

 ――元はヒトであったモノ。

 

 ――ヒトが”二度”変異したモノ。

 

 ――動物や鳥が変異したモノ。

 

 

 

 

 

 あの世界に溢れていたありとあらゆる生命体を執拗に収集していたその男は、ある大企業の研究員であり、とあるプロジェクトを推し進めていた。

 しかし、他の企業から横槍が入って研究は頓挫。プロジェクトは消滅したかに見えた。

 だが、男は諦めていなかった――そう、プロジェクトは隠密裏に進行していたのだ。

 

 

 

 

 

 プロジェクト名は、奇しくもエルグランドの異名と同じ『キマイラ』。

 

 

 

 

 

 そのプロジェクト内容は――

 

(――やめよう。奴は既に死んだ人間だ、”ここ”にはいない。それよりも――)

 

 ここで今起きているかもしれない事象と同列視するのは早計とメイズは思考を断ち切り、エルグランドへと意識を切り替えた。

 ――以前、聞いたことがあるが、エルグランドには時折刺客が差し向けられているらしい。

 その全てが返り討ちにあっているのだが、誰の息が掛かっているのかは不明なのだとか。

 ソルティドッグなら何か知っているのかもしれないが……。

 

(”向こう”での”アレ”と同じ様な事が起きているとするなら、エルグランドは被検体の可能性が高い――辿っていけば元凶に辿り着ける、か?)

 

 何故かは解らない。

 だが、この世界に居るであろう”あの男”に似た存在を放置するなと、メイズの心は警鐘を鳴らしている。

 精霊世界の視覚を通して、地下から屋敷へと侵入せんとしていたジム・エルグランドの中には色とりどりの光が渦巻いているのがメイズには”視えた”。

 

 そして、狂人が造り出した”最高傑作”もまた――。

 

(――――胸糞悪い)

 

 頭を振って、メイズは脳裏に蘇ってきた過去の残像を追い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「公爵サマは砂漠で行き倒れ、”精霊使い”は”翼”をもぎ取られたか。――まあ、順当な結果だなぁ」

 

 一本のロウソクの光だけが灯る、暗く、狭い部屋で男はひとりごちる。

 

「お次は”虹”が空に架かるのかねぇ……? さて、誰がカップを手にするのやら」

 

 ごきごきと肩を鳴らしながら、男――ソルティドッグは興味無さ気に呟くと、机を占拠する書類と格闘し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 

 短い……。

 完全に難産でした……薄いにも程がある。

 折角ユウタとジムが来店したのにあまり絡ませられなかった、他にも色々、書ける所はあったと思いますが今回はこれが限度でした。

 えらく投げてしまいましたが樹氏、続きを宜しくお願いします。

 

 

 

 

 


 
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