No.624592

訳あり一般人が幻想入り 第19話

VnoGさん

◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。

2013-10-02 21:49:48 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1025   閲覧ユーザー数:987

 

 

 

 

「アリスさんの家が騒がしかったけど、アレは何だったんだろう?」

 

「私の勘ではアレには関わらないほうがいいわ。『ナントカ危うきにホニャララ』って言うし」

 

「もうそれ何を言いたいのかわからないんだけど」

 

 雲の厚みが相変わらず太陽が顔を出すことを拒むように厚く、それでも太陽から発する鈍い光が幻想郷全体をまるでグレースケールさせたように錯覚する風景が広がる。

 それでも鬱蒼(うっそう)と緑色を強調する魔法の森上空に三人の妖精がふよふよと()てもなく漂っていた。

 

「あら、あそこに誰か気配が感じるわ」

 

 と、一人の妖精が魔法の森のある一点に指して呟いた。

 

 

 

 

 

 

第19話 見えぬ? 言えぬ? 聞こえぬ? 三妖精

 

 

 

 

 

 

 戦地から命からがら逃げてきた離反兵のように無我夢中に走って、ゼエゼエと息を切らしながら横谷は木に寄りかかる。

 本当なら周りを注視してから休憩を取りたかったのだが、心臓がそんな暇を与えないほどの苦痛に屈してしまい、へたれこむように座っていた。周りに誰かいるか、あの戦地からどれくらい離れたかわからないし考えも出てこない。

 

「あ゛あぁ……もういや。何でこんな目に遭わにゃならんのだ……」

 

 どこ行っても思い通りにいかない。危ないヤツに目ぇ付けられたし、魔理沙に謝りそこねたし、また危険な目に遭うし……なぜこうなる――横谷は今日の記憶を振り返り、自分の運の無さにうなだれる。

 

「くそぅ……早く帰してくれよ。こんなんじゃ身体も命もいくつあっても足らねぇよ……」

 

 突如として横谷に悲壮感が襲い、少し涙声で顔を手で押さえながら愚痴をこぼす。こんな事になるなら、飛び降りることなんてしなければよかった。そう思いたかったが、その嘆きは今更すぎるし、何よりこの土地に辿り着くとは夢にも思わない。

 結局自分の運の無さを呪うしかないのだ。そんな負の雰囲気に飲み込まれる前に、横谷は思いを留めて何も考えず目を閉じ、ただずっと座ることにした。

 

 ふと突然、横谷は背後になにか気配を感じた。

 気配を感じたには感じたが、足音が聞こえない。敏感になりすぎか鳥が羽ばたくような音も虫の羽音も風がささやく音や木の枝同士が擦れあう音も聞こえなくなる。

 

(? 気のせいなのか?)

 

 短期間でいろんな目にあったので、感覚がやたら鋭敏になって感じないことも感じてしまう錯覚に陥った――認めたくはなかったが、つまりビビっている――と横谷は思った。

 

「ねぇこの人何してんだろう?」

 

 不意に薄い壁から聞こえてくるようなくぐもったような、そんな言葉が横谷にもたれている木の後ろにある茂みから小さく聞こえてくる。これまた聞き覚えのない少女の声だった。横谷は顔を上げて後ろに振り向く。

 

「なんで泣いてるんだろ?」

「きっと何かやなことがあったんじゃないの?」

 

 ややぼやけてはいたが三人の妖精のような羽を生やした少女が話していた。まるで露骨な冷やかしか、自分らは横谷には見えていないと思って気にせず話しているようだった。

 

「……ねぇ、ずっとこっち見てるんだけど」

「きっと私たちの後ろの鳥でも見てるのよ、ちゃんと能力使ってるし気にしすぎよ」

「それにしては私たちをしっかりと捉えてる感じに見てるけど……」

 

 三人は横谷がこちらをずっと見ていることに慌てている様子だった。自分らがこの男には見えていないと思っているのだろうが、横谷にはぼんやりとしながらも声や全身を捉えていた。

 

 一人は、オレンジに近い金髪のセミロングにカチューシャと両側に赤いリボンをくくっている。赤のワンピースに妖精らしい半透明な羽。首もとにも黄色いリボン。特徴的な八重歯。

 また一人は、腰まである長い黒髪に、前はぱっつんヘアーに大きな青いリボン。蒼のワンピースに、前の少女とは違って蝶のような形の半透明な羽。

 そのまた一人は、少し淡い縦ロールしてある金髪に白いペレー帽、少しジト目。白いワンピースに首元に黒いリボン。こちらも前の少女とは違い上に反り返る三日月型の半透明の羽。

 

 その三人の少女がこちらを見ながらざわついている。彼女らは横谷の妄想でもなんでもない、見たことをありのままに見えているのである。

 

「ねぇまだ見てるよ、サニー、ルナ、ちゃんと能力出してるの?」

 

 いつまでも自分らに向かって注視していることにさすがに不安を感じてきたのか、黒髪の少女が二人に問いかける。

 

「当たり前でしょ。こんだけ近づいて使わないわけ無いじゃない」

「今までにも見つかったことあったけど、只の人間に私たちの能力が破られるわけないわ」

 

 残りの二人が自信持って言う。あまりに自信持って行っているので、ぼやけていることと声の小ささも手伝い、横谷は変な幻想を見ているのかと疑ってしまう。

 

「ちょい、なにやってんの?」

 

 そんな疑問を晴らすため横谷が声をかける。その瞬間、少女たちは身体をこわばりながら注目する。

 

「「「!?」」」

「…………」

 

 お互い沈黙して固まったままになる。横谷も声をかけたものの、気になって仕方なくつい声をかけたつもりだったのでその後に話す言葉は持ち合わせていなかった。ややあって少女たちは横谷に背を向けてヒソヒソと話し始める。

 

「ちょっと、何で話しかけてきたのあの人!? 私たち見えてないんじゃなかったの!?」

「知らないわよ! 多分あの男は幻覚か何か見えているのよ! 私たちに言ったんじゃない!」

「いや、それはそれで怖いんだけど……サニー、あなたちゃんと能力使えてるの? 見えていたらあなたのせいってことになるわよ」

 

 それを聞いたサニーというカチューシャを付けている金髪少女は、血相を変えて言い返す。

 

「な、なんですって!? 私はちゃんと使ってるわよ、雨降ってるわけじゃないし! むしろルナが使えてないからこうなったんじゃないの!?」

 

 サニーの言葉に今度は白ペレー帽をかぶっているルナという少女が、サニーとは対照的に冷静に努めて言い返す。

 

「聴覚だけで位置を的確に捉えて声をかけるわけ無いじゃない。どう見たってあの男は私たちを見てるようだけど。それ以前に私だってちゃんと使ってるわよ」

「なによ、私が悪いって言うの!? 冗談じゃないわ、ちゃんと出してるわよ! ルナは能力が調子悪くてバレるのが嫌だからそんな事言ってるんじゃないの!?」

「そんなわけないじゃない、誰がそんな事わざわざするのよ。私のはちゃんと機能しているわ。でもあの男が私たちのとこが見えている。となれば、サニーの能力が機能していないとしか言えないじゃない。」

「ふざけないでっ! 私がちゃんとしているって言えばちゃんとしているの!」

「ちょっと二人とも喧嘩しないで~」

 

 見かねた黒髪の少女が仲裁に入る。が、サニーの怒りは収まらない。それどころか仲裁に入った黒髪の少女に食って掛かる。

 

「大体、スターが『あそこに誰か気配が感じるわ』って言ったせいよ!」

「そんな、あれは事実を言ったまでだし。そこにサニーが『じゃあそいつにちょっとイタズラしちゃおう』って言って一人で勝手に行ったんじゃない」

「うぐっ……う、うるさいうるさい! 私は何も悪くなーい!!」

 

 サニーは黒髪のスターという少女の反論に言葉が出なかったが、強引に自分の潔白を主張する。

 

 

「おい」

「「「!?」」」

「もう喧嘩話はこりごりだ。そこらでやめて俺の話を聞け。お前らは何者で、ここでなにやってるんだよ」

 

 またしても蚊帳の外の扱いをされ横谷はしびれを切らして少女たちの輪の中に入る。その時にはぼやけていた視界もなくなっていた。少女たちは二度目の身体の硬直に入る。

 

「……なんか言えっての」

「な、なんであんた、私たちが見えるのよ!? 只の人間なんでしょ!?」

 

 サニーがいの一番にはっきりと声を出して質問する。しかし横谷はそのことに意を介さずに、

 

「質問の前に俺の話に答えやがれ」

 

 と、ドスの利いた声で一蹴する。そんな声に三人は怖がって身体を縮こまった。

 

「うぐっ……私はサニーミルクよ」

「私はスターサファイア」

「ルナチャイルドよ。私たちは妖精なの。で、あなたは?」

「俺は横谷優だ」

 

 サニー以外は慌てず普段どおりな感じに、四人はそれぞれ名前を名乗る。

 

「んで、その三人は俺にイタズラするために来たと?」

「そうではあるけど、そうではない。といえばいいのかしらね」

 

 横谷の質問にどっちつかずの解答をルナは答える。はぐらかされたのかと怒りが少し募りながらも冷静に言葉を返す。

 

「なんだよそれ、じゃあ元々何しにここに来たんだよ」

「もとはサニーが暇だ暇だって嘆いて突然外に出て、『なにか面白いことないか探しに行こう!』って無理やり誘われて、私たちの元住処がある魔法の森を探索していたらあなたを見つけたってわけなんだけど」

 

 ルナが細々とここに来た経緯を説明する。その間、ルナの口が栗のような形に上唇が尖る。恐らく癖なのだろう。

 

「確かに暇だったことは本当だからねぇ。異変とかおっきい事が起きなくなったし、美味しいもの採りに行こうとも思ったけど、あんまりいい思い出ないし……」

 

 それに付け加えるようにスターが話す。その中にある引っかかる言葉に横谷は首をかしげ、問いただす。

 

「異変てなんだよ。どう聞いても不穏な言葉なんだが」

「あら知らないの? あなたここの人間じゃないの?」

「あいにく俺は外来人なんだ。ここでどんな大きい出来事が起きたのなんか知ったこっちゃない」

「その外から来た只の人間のあなたが、なんで私たちの姿が見えたのよ!」

 

 話しに割り込んでサニーが問い詰める。自分の能力は完ペキだ、天候や怪我している以外は普通の人間に見つかることはない、と自負していたサニーにとってこの事態は納得いくわけがなかった。

 

 

 このサニーミルクが持つ能力は『光を屈折させる程度の能力』。

 太陽など光源の光はもちろん、その光源に当たるモノ達(自分自身も含め)が反射させる光を屈折させることができ、それにより見えるモノを視認不可に、なにもないところにモノを出現させて誤視認させることが出来る。

 スターサファイアは『生き物の気配を探る程度の能力』。

 つまり生物が無意識に放つ気配を認識出来る能力で、どこに隠れようとも気配を辿って探せられる事ができる。広大な魔法の森の中から横谷をピンポイントで見つけられたのもこの能力のおかげである。

 ルナチャイルドは『音を消す程度の能力』。

 読んで字の如く音を消すことの出来る能力で、ただ音を消すだけではなく、範囲指定や特定の音だけを消すことも可能。横谷が三人を見つける前の不気味なほどに音が聞こえなかったのはこの能力が原因である。

 

 

 三人は自らの能力を駆使して、魔法の森に迷い込んだ人間を道に迷わすなどのイタズラをしていた。

 失敗はたまにあるものの、それこそ見つかるなんてことはなかった。しかし何故かこの外来人には見えも聞こえもした。なぜ私達の能力が通用しなかったのか、問いたださないと気が済まなかった。

しかし横谷は両手を広げ、肩をすくめながら言う。

 

「そんなの知らねぇよ。視界も声もはっきりじゃなかったがモロバレだよ」

「嘘だッ! ここの人間に一回も見破られたことはなかった! 調子が悪かったわけでもないのになんでここのこと何も知らない外の人間が見破ることが出来るのよ!」

「サニー、紅魔館にいる人間に一回バレたじゃない」

 

 熱く語っているところにルナが言葉を挟む。しかしサニーはそのことを否定する。

 

「あれは化け物よ! 紅魔館に住む人間は化け物なのよ!」

(そんなむちゃくちゃなことを……)

 

 サニーの言い分にルナは呆れる。ここまで必死だと自分の失敗を棚に上げて、人の揚げ足ばかり取っているのではと考えてしまう。が、紅魔館に咲夜以外の人間は誰一人いない。あんな奇抜な館と住人の中にいるのだから、少なくとも只の人間ではないとも言える。横谷が会話に挟んでもう一押し言う。

 

「とにかく知らんもんは知らん。そちらさんの能力とやらがうまく発揮できなかったんだろ」

「アンタに言われたくなーい! ムキー!」

 

 サニーはサルのように顔を真っ赤にして怒り地団駄を踏む。その様子に横谷は呆れながら話を続ける。

 

「俺は只の外来人。お前らの能力を見破ることが出来るようなとてつもない能力持っているわけでも、自分自身が特殊な人間というわけでもねぇ。第一、何かしら能力持ってるなら速攻でこの世界から出ようと試すわ」

「自覚していないだけじゃないの?」

 

 ルナが口を挟む。ルナの言うようにもし意図しないで何かしらの能力を発揮していたなら、横谷にも能力を持つことが出来たという朗報の反面、それがどのような力で意図して使うことが出来ないのならあまり有用なものとはいえない。

 そこにスターも加わる。

 

「もしかして、何が身につけているものが不思議な力が宿っていたりするんじゃないかしら?」

「身に、付けているものねぇ……」

 

 そう言われ、横谷は自分の体をくまなく見回し、そしてある物に目を留める。

 

 

「それっぽい装飾品類は……これぐらいか」

 

 右腕に付けているあのブレスレットだ。他にある物は携帯やほとんど金が入っていない財布くらいだった。

それらと比べれば、この禍々しい装飾が施されているブレスレットが一番怪しい。尚且つ、あのタヱからもらったブレスレットだ。

 風水やら占いやらを昔よくやっていたし、もしこれが先祖に関わるお守りなら尚更だと考えたが、こんな悪趣味満載なデザインが、先祖代々の云々と言うのならかなり残念で残忍な先祖とも言える。

千利休や織田信長並みに変わり者で名を馳せた有名人物ならかえってありかも知れない。

 それにこういう物は、そこそこ値が張るアクセサリーショップに行けば似たようなものがある物だ。そんな物が不思議な力を宿ってしまえば、安物の数珠だって宿ることだろう。

 

「……これがもし不思議な力が宿っているってんなら……」

 

 横谷はそう言った後、右の拳を高々上げてさらに言葉を繋げる。

 

「俺を、元の世界に返してみろ」

 

 そしてそのまま立ち尽くす。十秒、二十秒、三十秒とそのまま拳を天に向かって挙げていたがブレスレットに何ら反応はない、身体にも変化はない。

 

「へっ、やっぱ何もねーじゃねぇかよ。くそっ恥ずかしい」

 

 横谷は拳を下ろす。その顔に落胆の色はない。タヱに反抗する意味で、そういう非科学的なものを信じていない横谷にとって残念ともなんとも思わなかった。むしろこれに力が宿ったらアイツに助けられたと嫌悪を抱くかも知れない。外の世界に帰りたがってはいるが、それがタヱの介入によって出来たと感じると胸糞悪い気分になる。

 ここの世界に居座れば命が無くなると思い、プライド捨てて土下座までするがあの人物が関わると唾をかける自信があるほど嫌う。

 子供時代の嫌な思い出がここまで横谷をそうしてしまった。自分の命よりもタヱに力を借りることで感じる無力感の方が、死ぬことより恥ずかしいと思ってしまっている。

 

「スーちゃんみーっけ♪」

「はっけーん♪」

 

 突然上空から二人の少女の嬉々とした声が響く。横谷は錆びついているかのように首をぎこちなく上空を見上げる。

 

「……ああ? ああ!?」

 

 横谷の顔が絶望を見ているように青ざめていく。曇天の空には紅と黒の悪魔が横谷の方を見つめながら微笑んでいた。

 


 
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