私は落とされた。骨が砕ける音がかすかに聞こえた。
視界が赤い。奴らの靴がどこか歪んで見える。嫌なにおいがする。
力が出ない。動かない体は燃えるように熱く痛む。思考と意識が奪われていく。
また衝撃。私は殴られたらしい。
「 」
私はなにか問いかけられた。鈍痛。
答えることなど出来やしない。奥底から込み上げ喉に纏わりつく血が煩わしかった。
力さえあれば私は奴らに対抗できたのだろうか。力さえあれば、妻も子供たちと離れることはなかったのだろうか。
家族を守り切れたのだろうか。
私に力さえあれば……
レイシーは心身の負担から附しがちになってしまった。これも私のせいだ。
自分が情けない。ふがいない。
私は彼女に最良の治療を与えられるように、研究を急いだ。結果だ。結果が出なければタージェントでは評価されない。反映されない。
なにかを見つけなければ、私はあの時のようにまた平穏を失ってしまうのだ。
仲間内では私を殴ろうとする者が増えた。私が結果を横取りするようなことを行ったからだ。
私にはあざができたが、レイシーに見せることは無い。彼女にはもうなにも心配してほしくない。
子供たちは養子に行ったようだと伝えた。立場を上げたおかげで彼女は信じたようだ。私はまた嘘を抱えた。
見つけ出したレパードはエルシャールを名乗っていた。ならエルシャールは?どこへ消えた?まさか死んだのか?
私は彼を引き取りたいと養父に申し出た。しかし断られてしまった。仕方のないことだ。私だって平穏を壊されたくなかった。
彼のことはそのままにして私は立ち去った。そしてもう探さなかった。彼らはもういない。あの頃は戻ってこないのだ。
彼女が死んだ。
私にはなにもなくなった。もう研究しか残っていない。この研究こそが、どこにも居場所のなくなった私が存在していることのただ一つの証明だ。そのために私は一層研究に打ち込んだ。
レイシー。私は君の夢を叶えてみせるよ。アスラント文明の謎さえ解けば光が見える。謎さえ解けば報われる。私たちは救われるんだ。謎さえ解けば――…
私は遺跡へ出向するまでの立場になった。
ある時幼い少女が泣いていて、それがやけに引っかかった。のちに我が組織に従わなかった男の娘だと知った。
私はその子を引き取った。バラバラになった家族、死んだレイシーやエルシャールへの贖罪かもしれなかった。気がつけばサインをしていて、彼女は私の娘となった。私は自分にまだ良心があったことに驚いた。彼女は優秀だった。私は彼女に格闘を教えた。組織は危なかったし、生きるには自分の身を自分で守れる力が必要なのだ。いざと言う時に対抗できるように。
私はこのころからひどく物忘れが増えた。気がつくと部下が結果を報告していて愕然とした。目にしたくない惨劇だった。私はそれを振り切るかのようにあの子に説いた。強くなければならない。優しくなければならない。かつてエルシャールに説いていた言葉だった。エルシャール。消えてしまった私の息子。私たちの子供。やがてあの子はまっすぐに育ちロンドンの大学へ行った。研究を手伝いたいという言葉が嬉しかった。私は平穏を得た。そう、私は平穏を得たのだ。やっと。やっとだ、あとは解明だけだ。アスラント文明を紐解く。なんのために?なんのためだったか、そうだレイシー、君のためだ。私のためだ。置いてきた私たちの大切な家族が豊かに暮らせるように、人類を繁栄させればそれがかなうはずだ私のたいせつなじんるいの大切なたいせつな、
私の記憶はそこで途切れている。
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