No.623589 超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 ルウィー編2013-09-29 08:59:09 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:521 閲覧ユーザー数:514 |
「前回の……私…?」
「テケリ・リ」『えぇ、貴方とは違う貴方。ネプギアという娘に主様は関わっていたのでしょう』
プラネテューヌの一番大きく長い建物のプラネタワーの一角。
元々倉庫の部屋を職務室に改造した場所で女神候補生であるネプギアと夜天 空の従者であるポチ。
涼しい笑みを作りながら腕を組みポチは口を動かし始めた。
「テケリ・リ」『それが、時空なのか次元なのか流石に検討するだけの材料がないのでどちらともいえませんが、主様はあなたが生まれる前にあなたと出会っているのでしょう』
「えっと…いきなり、時空とか次元とか言われても……」
「テケリ・リ」『あぁ、すいません。ちょっと難しかったですね』
ポチは、今にも崩れそうな書類の山を一度整え椅子から立ち上がり、部屋の隅っこに置かれたホワイトボードをネプギアの見やすい場所まで運び、懐からペンを取り出して絵を描き始めた。それは一本の太い二本の線に幾多に書かれた線から葉っぱのような形を描いた。その形は間違いなく木だった。
「テケリ・リ」『この世はありとあらゆる可能性……オムニバースの中にあります。そして、区切りを作るために別々の物理法則が存在する多元世界をマルスバース。私達が存在している世界はユニバースと言います。これは、その例です』
木を例とすれば、幹をオムニバース、マルチバースは枝、各ユニバースは葉と考えることができる。
ネプギアは、それを見た時にぽんっと手を叩く。
「空さんは、
「テケリ・リ?」『並行世界を知っているのですか?』
「おねえちゃんがやっていたゲームでそんな設定があったんです」
なるほどとポチは頷く。
確かに別世界、別空間は色んな世界でもよくゲームで使われている設定だ。
凶暴な獣のような爪牙はない人間は想像力が豊かだ。それは時に繁栄を時に滅亡に進んでしまう欠点がある。まるで、そうなる未来こそが当たり前だと言わんばかりに。
「テケリ・リ」『並行世界はマルチバースと考えてもらった方が分かりやすいかもしれませんね。ただマルチバースはあくまで可能性。並行世界は空想ですから』
例えばA世界とB世界があるとしよう。
A世界の貴方はある日、あまりにいい天気だったので、散歩をしたら車に跳ねられて死んでしまった。
B世界の貴方はある日、あまりに悪い天気だったので、家に引きこもって遊んでいた。
この出来事に誰かが「こうあったら良かった」という空想が並行世界であり、その可能性の中にあるのがマルチバースだ。
宇宙と言う果てしない無限の空間は独立をして、その次元を超えた隣には別の宇宙が存在する。その中で、誰が死に、誰が生き、破滅、救済されるのは全て、ある一定の法則の元での可能性だ。マルチバースは可能性故にいつか終焉があるが、並行世界には終わりがない。
「つまり、存在するのが前者で、存在しない確率があるのが後者ということですか?でもゲイムギョウ界というマルチバースの中じゃ、空さんは時空じゃなくて、別次元の私に会った事だと思いますけど…」
「テケリ・リ」『素晴らしいですネプギアちゃん……確かに普通ならそうなんですけど、主様は何でも出来るチートアイテムを持っていますから』
「チート……アイテム…?」
「テケリ・リ」『えぇ、そうですね……例で言えばアク〇ョンリプ〇イと考えてもらった方がいいかもしれませんね。この世の
うんうん、とポチは頷きながら写真を仕舞いホワイトボードを元に戻した。
あれは運命だろと、因果だろうと簡単に捻じ曲げ変えてしまう禁忌にして神聖のレプリカアイテム『旧神の鍵・儀典』。
レプリア故に出力は安定しない、出来ること制限されている。なにより、夜天 空がそれを所持していることは、望みが絶対に叶わないように鎖として縛っているだけだ。邪神と対峙することで使え、無理やり使えば。体に大きな負担が掛かる。無理に作動した際の夜天 空は、血反吐を吐きながら悶え苦しむ姿をポチは見たことが合った。
「そのチートアイテムを使って、この世界の過去の私と会ったことがあるのか……」
「テケリ・リ」『別次元の貴方と面識があるのか、こればかりは本人に聞いてみないと分かりませんね』
謎は、暗黒に埋もれたまま。
ネプギアは、難しいことの考えすぎで少し頭が痛くなってきた。
反対に涼しげな顔でポチは椅子に座り、テキパキと書類の掃除に取り掛かった。邪魔しないように私室に戻ろうかと考える中、そういえば空さんはいつも注意だったり、指導だったりでプライベートなことが聞けなかったことに少し残念な思いがあったので、ネプギアはポチ個人について聞いてみることした。
「あの……ポチさんって凄く……馴染みやすい名前ですね」
「テケリ・リ」『そうですね~。主に犬とかに名付けられる名前です。因みに主様が名付け親ですよ』
誇らしげにドヤ顔を決めるポチにネプギアは頬を掻いた。
「えっと……ポチさんって人間ですよね?」
「テケリ・リ」『はははは、面白いジョークですね。私はショゴスっという人工生命体ですよ』
「………えっ?」
人工生命体ーーーそのワードにネプギアは目を開いた。
「テケリ・リ」『古のもの野郎に奴隷目的として作られたスライムですよ。貴方が見ている私は本当の姿じゃありません。』
名も知らない星で肉体労働の為にあらゆる器官を自己創造することで様々な状況に対処することができるのをコンセプトに人工的に生み出された漆黒の粘液状生物がポチの本当の姿ーーーショゴスという生き物だ。
「奴隷…?ポチさんが…?」
「テケリ・リ」『えぇ、働く手を奴らは造ったのですよ』
昔を思い出すようにポチは目を閉じた。
巨大な都市を建設するために用意された故に知性は疎く、変わりに肉体労働に特化した生物。
生み出された当時は自分たちの境遇に全く疑問は無かった。むしろ、疑問に思う心も知性も無かった。
だが、ショゴスも時間を掛けていくことで進化していき、ある個体は自分から構築した脳を固定化させ知能を高めることに成功したのだ。
「テケリ・リ」『あまりいい環境で働くことは無かった。そんな日々に私達は自由を求めて造物主と戦った』
ーーー鳥のようになりたい。
知能を会得して、知性を高めたジョゴスは空を見ながら全員に伝えた。
望むなら羽で造られた翼も、獲物を捉えるための嘴と足を作れるのに、自分達には自由に飛ぶ空が無かった。知能を持った彼らは、奴隷として働かされるその運命を壊すことを決意したのだ。
「……どうなったんですか?」
「テケリ・リ」『私以外、全員死にました』
「ッ!」
激しい戦いがポチは今でも覚え、そして手を震わす。
高い生命力を武器に戦った。しかし、生命力は無限ではなく次々に仲間は倒れていった。命からがら追っ手から逃げ延びたその時、気が付けばポチは一人になっていた。
最初は嬉しさのあまり、泣いた。涙を流す器官がなかったが、声で泣いた「テケリ・リ!」と独特の鳴き声で勝ち取ったと青空に響かせた。
やりたいことを始めた。みんなで語り合った鳥になって自由に飛んだ。怪我が原因か上手くイメージした器官を作れなかったが、それでもよかった。ただ、誰にも縛られず生きていることにポチは喜べた。
「テケリ・リ」『最初はやった!と大はしゃぎしましたけどね……時間が過ぎるにしたがって何だか寂しくなったんですよ』
脳に受けたダメージで呼吸器官がうまく作れない。
それはつまり、誰かと話すことが出来ないと言うことだ。
絞り出して声を出す。「テケリ・リ」と掠れた声。同じ種族か、古のものしか分からない言語。
みんなは、気味悪い者を見るように離れていく。悲しかったが、ポチはそれを受け入れた。これが自由への代償かと自傷した。
「……そこで空さんと会ったんですか?」
「テケリ・リ」『えぇ、ちょっと冷静じゃなくなって古のものに見つかってしまい本当に死んでしまいそうな時に』
幾ら高い生命力を誇るショゴスと言っても、限界があった。
なんとか逃げ延びたが、既に虫の息。いつ生命活動が終わっても可笑しくなかった。
雨が降り注いでいる灰色の空を最後として見上げていると、突如空の色が変わって雨が止んだ。傘を手に持ち見下ろしてくる空の姿にポチは一瞬、天からの遣いかと思った。
ーーー生きたい?
静かな声で問われた。それを理解したポチは全身全霊で「テケリ・リ」と答えた。
「テケリ・リ」『強引な人でしたよ。私を治療した後、目が覚めるといきなり契約した。今日から僕の為に働けって言ってきたんですよ!?流石にムカついて反撃に移りました』
「……結果は?」
「テケリ・リ……」『デコピン一発で鎮圧されました……』
生まれて初めて、敵わないと存在を知った瞬間であった。
「テケリ・リ」『やっと自由を得れたのにまた奴隷に逆戻りで物凄く落ち込みましたよ。しかも今度は単体でユニバースを破壊するぐらいに強いんですよ。だから、逃げました』
「……えっ?」
「テケリ・リ」『私、逃げ足には自信がありますから、魚に化けて泳いでいたら、いつの間にか隣で泳いでい私を捕まえてきたんですよ』
ポチは夜天 空の奴隷にされたと思っていた。
だからこそ、逃亡の刑罰は肉体的にも精神的にも苦痛を伴いものだと思っていた。
家に持ち運ばれ、何をされるかポチは裏切った造物主より圧倒的に強いレベルではなく、次元が違いすぎるその大きすぎる存在に心を震わせながら、睨んでいた。そして、夜天 空は元の姿になったポチを見て
ーーーシャワー浴びてくるから、冷蔵庫から牛乳出しておいて
まるで友人にでもお願いするような軽い口調で夜天 空は言った。
ポカーンと刑罰を覚悟していたポチは呆気に取られた。
そんなことを気にしていない空は、ポケットから部屋の簡易的な地図を渡した。そこにはキッチンらしき場所に赤い丸印が掛かれていた。
「テケリ・リ」『……優しんですよ。主様は酷く醜く無残なほどに』
それから、空とポチの奇妙な生活が始まった。
最初は、雑用からだった。窓を拭いたり、机を拭いたり、どこから現れる紙の束を空の元に運んだり、ポチはその日々の中でとても不気味な思いを抱いていた。
自分の作業は、誰がどう見ても下っ端の行いだった。なのに、いつも隣に空がいて怒る訳でなく、嫌味を言うこともなく、普通に「ここはダメ」「あっちをお願い」と一緒に手伝ったり、効率のいい掃除の仕方を教えてくれた。
発達していた脳のレベルは人間と比べればまだまだで、覚えきれないこともあり余計なことをして物を壊してしまったことも数々あったが、空はそのことを気にせず最初にポチの身を案じてくれた。
今まで体験したことがない環境に戸惑いながら、ポチは奴隷と言うより従者として活動していた。
そうしているうちに一つの疑問が浮かんだ。「なぜ自分を従者に選んだのか?」と噂に聞いていた世界を破滅させる邪神と同等かそれ以上の実力者なのに、一人だけ死にかけの自分を拾って真摯に向かいあったのかを。
そして空は、拾うときの状況を思い出すように言った。
「テケリ・リ」『主様は言ってくれました。家を探している様に見えたから……っと』
空は、優秀な人材を求めていたのでない。又は都合のいい駒を作ろうとしたのではない。
ポチの手伝いは、ただのオマケなのだ。空は捨てられたペットを慈悲の思いで拾う様な感覚でポチを拾って自分の家をポチの帰れる家にしたのだ。
「……私と全然違いますね」
「テケリ・リ」『あの方は差別しますからね。……恐らく主様と貴方との仲はそれほど良くはなかったのでしょう』
ポチ、それはありふれた名前かもしれない。
しかし、それは主となった空が一番最初にポチに譲った最初の物だ。
「私、空さんと会った時、もう一度ちゃんと話したいです」
「テケリ・リ」『ええ、主様はお友達がいるにはいるですが……個性的過ぎて、主様はどう接していけばいいか分からなくて、素直になれないんですよ。変な所でツンツンするんです』
ポチは、視線を外して窓から見える青空を見た。
あの青空の下、きっと自分より大切に想っている空の親友である零崎 紅夜と共にいるだろう。
ポチは、祈る様に静かに瞳を閉じる。
「テケリ・リ」『あの、自分で何もかもを背負って暴走してしまう主様をお願いします』
ポチは従者として、空の背中しか追うことしか許されていない。
紅夜は親友として、空と肩を並べて歩むことを許された。
空の心に根を伸ばして枯れることなく成長していく復讐の思い。その成長を止めることを少しでも枯れさせて軽くしてやることが出来るのは、きっと全ての次元と時空の中でも親友である彼しかいない。
ポチの脳裏には、初恋の女性と言った空とその女性の写真が浮かんでいた。
名前はレインボーハート。
この世界の最初の女神であり、
◇
「くしゅん!」
「…風邪か?」
「うーん、風邪なんて引くような体質じゃないんだけどね~」
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その4