桃園にて誓いを結び終えた4人は、旅の準備期間を経てその3日後。
桜桑村の人総出と言う豪華な出送りを受けつつ、4人はその足を次に進む町に向け、桜桑村を発っていった。
村に背を向けて歩く際に聞こえたのは、村人たちの応援の声。
「劉備ちゃ~ん!しっかりやるんだよ~!」
「一刀!劉備ちゃんのこと、よろしく頼んだぞっ!」
「くぅっ…!あの二人が居なくなるなんて…また寂しくなるなぁ…!」
「ここは貴方たちの故郷。いつでも帰ってきていいからねー!」
「うぇぇぇん……劉備お姉ちゃぁ~ん…!」
「お兄ちゃんたち、げんきでね~!」
応援の中には、二人が村からいなくなるという寂しさのあまり涙声になるものまでチラホラと。
特に子供たちは、笑顔で手を振る者と泣きじゃくる者とで両極端。
更に、やがては大人たちもそれにつられ、熱くなる目頭を押さえる者が増えていく。
二人が桜桑村にどれ程の影響を与えていたのかが、よく分かる光景であった。
そんな出送りを背に、桃香はゆっくりと口を開く。
「…あはは、皆…泣いちゃってるね」
「だな。この村に涙は似合わないってのに………けどな桃香」
「…?」
「お前も人の事、言えないと思うぞ?」
そう言って一刀は桃香の顔に向けて指を差すと、次にその手で自分の目を指差す。
「目……潤んでるぞ」
「…あはは、ホントだ。……結構我慢してたつもりだったんだけどなぁ」
一刀の指摘に思わず苦笑し、小さく笑う桃香。
しかしその声は若干震えてしまっており、口元は不自然なつり上がり方だったため、一刀に心配させないための作り笑顔だということは明白だった。
特に見抜いた原因を突き詰めるつもりも無い。
一刀は桃香の顔を見ながら、口を開く。
「……別に泣いても怒らんぞ?」
無理に我慢しなくてもいい。
何年も住んでいた故郷を離れるというのは、誰にだって寂しいこと。
特に、優しい心を持つ桃香はなおさらだ。
村の人たちとはほぼ全員と言っていいほど交流をとっており、その絆は決して浅いものではない、寧ろ深い方だ。
だからこそ一刀は、彼女に涙を流しても構わないと言ったのだ。
しかし、桃香は一刀の言葉に一瞬笑みを浮かべつつも、フルフルと首を横に振った。
「泣かない。せめて旅立つ時くらいは……みんなに堂々とした背中を、見せておきたいから」
「……そっか」
桃香の言葉を聞いて、一刀はもう何も言う事は無かった。
涙を必死に堪える彼女の顔から視線を外し、再び顔を前に向けた。
そんな二人のやり取りを横から見ていた関羽は、一刀に向けてポツリと一言。
「……お強いのですね、桃香様は」
「ああ……俺の自慢の相棒だしな」
桜桑村を出て、4日の時が経過した。
桜桑村から町一つほどまたいだ街に到着した4人は、今後の方針を決めると共に腹ごしらえを済ませるため、街中の飯屋にて食事をとる事にした。
ちなみにその提案は一刀の言と鈴々の腹の虫との両立案。
爛漫な妹を窘(たしな)め、申し訳なさそうに謝る愛紗を宥めつつ、4人は各々注文した料理がやって来ると食事を始めた。
店にはそれなりの来客があるが、会話をするには支障のない程度だ。
「それじゃ、鈴々は先に食っててくれ」
「……なんか、早速鈴々だけ除け者にしようとしてる気がするのだ」
「ソンナ マサカ。鈴々は腹減ってる時よりも、腹いっぱいの時の方が良い案を出してくれる気がしただけさ。後でちゃんと意見を聞かせてもらうからな」
「おおー!なんとなくお兄ちゃん頭が良いのだ!それじゃあ鈴々、先に食べてるね!」
と言うやいなや、目の前にドドンと置かれた山盛りのチャーハンを勢いよく口にかきこみ始めた鈴々。
ハフハフムシャムシャと美味しそうに、そして夢中になって食事をとる様は、先程あっさり言い包められた件といい、子供っぽさを感じさせる。
いかんせん、料理の量は自重してないボリュームだが。
「あぅぅ…美味しそうだなぁ、鈴々ちゃん」
「別に先に食べても良いんだぞ?その瞬間、桃香への視線が鈴々に対する視線と同じになるけど」
「……耐え忍びます」
良い歳こいて子ども扱いされるのは勘弁願いたかったのだろう、桃香は鈴々に向けていた羨ましそうな眼を即やめた。
「ま、軽くでいいから今後の方針を固めておく程度でいいさ。詰まる部分は食後にでもしておけばいいし」
「そうですね。桃香様、辛くなったら先にお召し上がりになっても構いませんよ」
「うぅ…二人とも止めない辺りが逆に残酷だよ……それで、これからどうしよっか?」
「そうですね……現状で我々に足りない物は多いです。地位、名声、兵力……今後必要となる物が全然ありませんからね」
「一先ず、名声については足掛かりになりそうな案があるんだが……」
「と言うと?」
「天の御使い……だっけ?あれを使う」
一刀の案はこうだ。
まず、この世界にて唯一天の世界(実際には1,800年後の別世界)の知識を持っているのは北郷一刀ただ一人。
一応【管理放棄者(イレギュラー)】もいるにはいるが、今の所は派手に表舞台に出ていない辺り、未来の知識を世間へ存分にお披露目できるのは一刀しかいない。
加えて一刀には、仮面ライダーWという異形の力を持ち合わせている。
天の御使いを語る条件としては中々に揃っているだろう。
そしてその天の御使いは、賊が蔓延るこの世を収めるためにと立ち上がった桃香の元へと降り立った。
つまり桃香は天に選ばれ、天の加護を直接与えられた存在として大陸に認知され、その勢いで名を馳せることも可能となるのだ。
天の御使いについての予言の切り出しは管輅。
彼女はそれまで当てずっぽうな予言をして来ていたらしく、そのせいであまり信用されていないが、今の末な世情を考えれば困窮に苦しむ民たちにとっては藁にも縋りたい話。
まあ言ってみれば、今回の管輅の予言は各地を収める太守たちや王朝へは信用度が低く、民たちにとっては信用度が高いものとなっているのだ。
だから一刀が天の御使いと名乗る事で、名声のきっかけづくりとあわよくば兵力の新製を図ることが出来るのだ。
「…という事だけど」
「う~ん…けど大丈夫?もし一刀さんが天の御使いだと信じ込んだ諸侯の誰かが、一刀さんを暗殺しようとしたら……」
「それは私も同感です。確かに一刀殿の実力ならそこらの暗殺者など倒せるとは思いますが、危険な事には変わりません」
「ま、その辺りは追々何とかしていけばいいんじゃないか?別に俺の事は全然知られても無いのに、今から悩んだってどうしようもないだろ?それにゆっくりしてられる身分でもないし」
「う……それもそうだけどさぁ…」
まだ納得できていない部分があるのか、桃香は何か反論しようと言葉を探そうとしている。
「はいそれじゃあこの案は採用という事で、ラストもう一個くらい方針を決めておくか」
「ちょっとー!」
だが一刀は彼女が言う前に強引に話を終わらせ、次の方針を決めようとしている。
桃香はツッコミを入れたが当の一刀は名に食わない顔で進行を続行するつもり。
関羽にも何か一言言ってもらおうと彼女の方を向くが、彼女は彼女で『ラスト』という言葉に疑問符を浮かべている。
すると、そんな彼らの所へ……
「Oh~~!そこにいるのはぁ、かずぴーじゃぁないですカァー?」
のらりくらりとした口調で4人に……正確には一刀に話しかけてくる者が現れた。
一刀はその声がした方を振り向くと、表情を綻ばせつつ声の主に声を掛ける。
「おぉ!リスチャマン、久しぶりじゃんか!」
「ひと月ぶりネェ~!そう言えばもう旅に出る時期でしたネェ~」
リスチャマン、と呼ばれた男は一刀の席まで近づくとにこやかな笑顔で一刀と握手をする。
身なりは茶髪のアフロに花柄模様の黄色のアロハシャツ、下は白いズボンに靴底が5㎝位の厚さの草履と、随分と派手な恰好をしている。
背は厚底草履の所為で分かり辛いが一刀と同じくらいはあるだろう、顔はやや痩せ形で体型も細く、武術の心得は無いように見える。
現代にいても怪しさ全開の風貌に変わった口調、目立たない筈がない。
一刀と一緒にいた3人は勿論、他の来店客も彼の方へ視線を向けてしまう程だ。
そんな皆の視線にどうという反応も示さず、リスチャマンは一刀へ話しかける。
「ヤァ~、ついにかずぴーも旅に出ましたカァ~。あ、この街に来たのなら、店を出て左にある肉まん屋もオススメ。ちょ~美味しいですヨォ~!」
「はっはっは、そうかそうか。けどそう言うのは飲食店ではナンセンスだろ」
「ノンノンノ~ン!天の言葉で言われてもアチキには分かりませんヨォ~!」
「Ohもノンノンも英語圏の言葉だろ……ホントにこの大陸にある物ない物の区別がよく分からん」
「…ところでかずぴー、こちらの女の子たちはどなタァ?」
ある程度世間話をしたところで桃香たちの事が気になったリスチャマンは、彼女たちの方を指差しながら一刀に問いかける。
そして一刀はその指をへし折りつつ……
「ンノ~~~!かずぴー、いきなりシドイ!」
「人に向かって指差すな、失礼だろ」
「まったくいきなり乱暴な……あ、さっきラーメンのスープが指にかかったから気を付けテェ」
「マジかようわ、くせ!オレの手からラーメンらしき嫌な臭いが!」
「今なら汗もついてるヨォ。ラーメンと汗の混じった特別製の匂いになってるネェ」
指をへし折ったのは冗談、折れたのは話の腰である。
リスチャマンは自分の手の臭いに騒いでいる一刀を余所に、桃香たちに声を掛ける。
「どうも初めましテェ。アチキ、情報屋をしておりますリスチャマンという者でスゥ。ちなみにこの名前は職業上使ってる名前で、かずぴーから頂きましタァ~」
「そ、そうなんですか……あ、私の名前は劉備って言います」
「オォ~!アナタがかずぴーの相棒さんネェ?話は聴いてますヨォ、ちょっと抜けてるとこはあるけど、頑張り屋でとっても良い子だっテェ」
「あ、ありがとうございます…」
初対面の人にいきなり褒められたのに慣れていなかったのか、顔を少し赤らめて照れてしまう桃香。
ちなみに、先ほどのリスチャマンの話の元が一刀だったというのには思い至らなかったらしい。
「私の名前は関羽だ。りすちゃ…まん、だったか?それが一刀殿から賜った名だと言うなら、本当の名は?」
「当然ありますヨォ。けどこの名前がとっても気に入ってるのと、天の世界風な名前を名乗れるなんて凄いと思いまして、いつもこの名前を使っていまスゥ」
「…まぁ気持ちは分からなくもないが(一刀殿の名とは造りがまるで違う気がするが…)」
その疑問は妥当である。
「ケプ……鈴々は張飛なのだ!リスのおじちゃんはお兄ちゃんと仲良しなのかー?」
「リスのおじちゃん……これまた斬新な呼び方で気に入りましタァ。かずぴーとは昨年知り合ったんですヨォ。仕事を頼んだらその後もよくバッタリ会って、それから色々と交流あって今に至るんでスゥ」
「へー…あ、おっちゃん!ラーメン大盛りおかわりなのだ!あとネギもどっさりで!」
と興味を持った直後、再び張飛の関心は現在進行形の食事へと移る。
「あ、そうだリスチャマン。これから俺たち(省略)…なんだけど、なんかいいネタ持ってない?」
手の臭いに悪戦苦闘していた一刀がようやく復帰し、自分たちの事情も加えてリスチャマンに情報を求めた。
尋ねられたリスチャマンはニタニタと笑みを浮かべると、その問いに答え始める。
「良い時に訊いてくれたネェ~。それなら良い情報、しかも最近手に入れたのを持ってるんだよネェ~」
「へぇ……どんな?」
「チッチッチ。かずぴー、情報屋とこういうやり取りをする時は相場が決まってるよネェ?」
含みのあるリスチャマンの笑みを見て、桃香と愛紗は彼が何を言いたいのかを理解する。
どんなに人が良さそうでも彼は情報屋、無償で商売道具となる物を提供することがある筈ない。
「あ、そっか…こういうのってやっぱりお金が必要だよね」
「欲深い奴……と言いたいところですけど、時世も時世のうえこれも一種の商売。手持ちもそう多くは無いが仕方ありません、背に腹は代えられ――」
「ほい、チャーシュー2枚」
「おぅ、あーりがとうネェ~!それじゃあお目当ての情報、バッチリ教えちゃうヨォ~」
「「やすっ!情報屋やすっ!」」
割と高額を予想していた桃香と愛紗がハモってツッコミを入れるが、リスチャマンは喜んでチャーシューを口にほおばってるだけである。
「んじゃ、改めて聞かせてもらうぜ」
「もぐもぐ……良いですとモォ。実はここの隣の遼西郡で領主をしてる公孫賛が、州内で悪さしてる賊を討伐する為に義勇兵を募ってるらしいんだよネェ」
「あ、そういえば聞いたことがあるよ!白蓮ちゃんって領主さんやってるって!」
「…桃香様、そう言ったことはもっと早く教えていただけると助かるのですが…」
「あうぅ…すみません」
「話を進めますヨォ。それで兵の方は大体集まったようですけど、肝心の将が足りなくて不安定だそうでしテェ。とりあえず優秀な客将を引き入れたそうですが、それでもまだまだ人手不足だそうですネェ~」
「……つまり、無理に俺たちの方で義勇兵を募らなくても、俺たちを雇ってくれる可能性が少なからずあると」
「そゆこトォ。まぁその前にかずぴーたち4人のお力が、公孫賛のお眼鏡に叶わないと駄目ですけどネェ~」
そこまで話を聞くと、一刀は顎に手を当てて考え始める。
自分の目の前に居るのは、女の子ではあるが一刀の住む世界にて後世まで名を轟かせた英雄たち。
賊たちとの戦いにおいて、有能な将を用いることは非常に重要な要素となってくるはず。
武将不足の公孫賛軍にとって、彼女たちの力は是非とも借りたいところであろう。
経歴を聞く限りでは愛紗も鈴々もまだ兵を率いた経験はないとのことだが、多少時間を貰えれば何とか解決するだろう。
なんせ、あの関雲長と張翼徳なのだから。
「どう?愛紗」
期待を込めた視線を、右側の席に座っている愛紗に向ける一刀。
一方、質問と共に視線を向けられた愛紗はというと、一刀の言葉に対して力強く頷き。
「はい、問題ありません。鈴々も同様です」
自信を持った目でそう答えた。
そこまで言われてしまっては言及する気も起きるわけが無く、一刀も彼女たちを信じることになった。
「…分かった。なら次は公孫賛の所に行って、皆を義勇兵に加えてもらうように頼むってことでいいか」
「うん、大丈夫だよ♪」
「解りました」
「鈴々もいいのだ!」
桃香と愛紗だけでなく、先ほどまで料理の方に意識が集中していた鈴々からも了承の返事をもらうことが出来た。
「よし、なら決まりだな。取りあえず配属については桃香が文官、愛紗と鈴々は武官って感じになるだろうな」
「あれ、じゃあお兄ちゃんはどっちになるのだ?」
「俺?俺は別にどっちにもなるつもりはないぞ」
「「…え?」」
質問をした鈴々に加え、傍らにいた愛紗が揃って呆気にとられる。
「あぁ~……やっぱり一刀さんはそうしちゃうかぁ…」
「まぁかずぴーだものネェ」
一刀は一体どういうつもりなのか。
それを理解できていたのは2年間相棒を務めてきた桃香と、それなりの付き合いとなっているリスチャマンのみであった。
数日後、4人は遼西部の領主である公孫賛の住む街に訪れた。
事前に手に入れた情報によると、公孫賛の治めているこの街は他よりも比較的治安が良く、賊の暴動もあまり発生していないらしい。
4人が街の中へ一歩踏み出してみれば、その答えは瞭然と判明した。
街に入ってみれば、声を張って客を引き込もうとする食材やのおばちゃんや点心を販売している若者、笑顔で旅人に宿を薦める女性などが目に映り込んできた。
民の表情に笑顔の灯った、実に活気溢れる街であった。
城へと進む岐路の中、そんな街の風景を見て一刀たちは公孫賛の能力の高さを素直に実感し、感心した。
そしてこうも思った。
自分たちもいつかこんな良い街を作っていきたい、と。
城までの道は一直線で、現地の者に道案内を頼まなくても十分な程だった。
城へと到着した4人は門番に公孫賛との取次ぎを頼むと、少ししてから公孫賛に会う許可を貰うことが出来た。
最初は門番も、いきなり領主に会いたいと申し出る見知らぬものに訝しがっていたが、公孫賛から許可を聞きに戻った頃には、眉に滲んでいた皺も取り除かれていた。
どうやら公孫賛の方で、劉備と公孫賛が同じ学問を収めていたことを説明してくれたらしい、お陰で説明の手間が省けたようだ。
そして4人は門番の案内の元、公孫賛の居る応接の間へと案内された。
「桃香ぁ!久しぶりだなぁ!」
「白蓮ちゃん久しぶりっ!元気にしてたっ?♪」
応接の間にいたのは、明るめの赤髪をポニーテール状に纏めた、桃香と同い年くらいの女性であった。
数年ぶりの再会となるのだろう、公孫賛と桃香は顔を合わせるやいなや同時に駆けより、互いの体をヒシっと抱き寄せた。
両者とも嬉しさのあまり表情が綻んでおり、思い出が脳裏に蘇ってか、昔話やら盧植先生の元から離れた後の話など、学友同士二人で会話に花を咲かせ始めた。
そんな桃香たちから少し離れた所でその様子を見ていた一刀たちも、微笑ましさから思わず口元が緩くなる。
「…何か乃川を思い出すな。あいつ今頃元気に……」
しているだろうか。
と言いかけた所で、一刀は口を閉ざした。
よくよく考えてみれば自分は役目を終えれば、こちらへ来た日の翌朝には戻る手筈になっているのだ。
心配するまでもなく、次にアレと会う時はいつも通りウザったい惚気話に付き合わされることとなるだろう。
隣りにいた愛紗と鈴々が不思議そうにこちらの顔を覗き込んでいたのに気が付き、何でもない、と一刀は言っておく。
急に言葉が途切れたので何事かと思ったのだろうが、前述のとおりなので何の問題も無い。
「はぁ!?まさかお前、盧植先生のとこを離れたからずっとそうしてたのか!?」
そうこうしていると、公孫賛の方から驚嘆の声が上がってきた。
どうやら二人が学問を収めて別れた後、桃香が幽州各地の人助けを一人で行っていたという事に公孫賛が驚いたようだ。
どうやら桃香は言っていないようだが、一刀が来る辺りは一旦家の手伝いの為に桜桑村に戻っており、一刀がやってきた2年前から今日に至るまでは活動範囲を狭め、もしもの時の為になるべく村の近くで活動をすることにしていたのだが。
公孫賛の唖然とした表情に構わず、桃香はニコニコと笑顔を浮かべながらその問いに肯定する。
「うん、そうだよ?けど最近になって分かって来たんだけど、私一人じゃ大陸に住んでるみんなを笑顔にする事なんて到底出来ないんだって」
「まぁそれはそうだろうな。大陸に住む人たちを自分の手一つで安心させてやる事なんて、余程の統治者でも不可能だぞ」
「うん……でもでも!今はこうして頼りになる仲間がいてくれるんだよ!」
桃香はそう言うと白蓮の方に向けていた体を一刀たちの居る方へと向け、自身の言う仲間を彼女に示した。
自分たちの方に注目が入ったことを察した一刀たちも、3人での会話を打ち止めて白蓮と面を向ける。
先ず口を開いたのは愛紗だった。
「お初のお目にかかります、公孫賛殿。我が名は関羽、字は雲長と申します。以後お見知りおきを」
「鈴々は張飛!字は翼徳なのだ!」
愛紗に続いて鈴々も自己紹介を終え、最後は一刀に回る事となった。
「俺は姓が北郷、名前が一刀で字は無い。桃香の相棒だ」
「字が無い?それに珍しい姓だし……というか桃香の相棒って何の事だ?」
言わずもがな、一刀の言葉に疑問を抱いた公孫賛が『桃香の相棒』というワードについて、誰にともなく問いかけた。
正確には答えてくれそうな桃香と一刀の2名に対してだが。
「えへへ…実は北郷さんって探偵さんをやってるんだよ!それで私はその探偵の相棒を任されてるの」
「まぁ、これでも桜桑村や隣町とかでは頼りにされてるつも――」
「…探偵ってなんだ?」
「……………」
少し自信気に語り始めた一刀に対して、公孫賛が次に口を開いた言葉がそれだった。
この時代に探偵と言う職業が存在していなかったのは前述のとおり、公孫賛が探偵について知っているわけも無い。
肝心の幽州の太守に認知されていないことを知らされた一刀は、その場にガックリと項垂れてしまった。
「え、え~っと……取りあえず探偵って言うのは…かくかくしかじか」
「ふ~ん……まぁ便利屋みたいなもんか」
「あんたはシャーロック・ホームズもフィリップ・マーロウも他人に良いように使われる便利屋だとでも言うんか!?そんなの俺が絶対に認めんぞ!」
「……なんかよく分からんが怒らせてしまったか?」
「あ、あはは………それでね白蓮ちゃん。実は白蓮ちゃんにお願いしたい事があって来たんだけど…」
憤る一刀はさておきと、公孫賛に今回の来訪の目的を説明する桃香。
その間に怒っていた一刀は愛紗と鈴々に宥められていたという。
桃香の話を聞き終えた公孫賛は、その表情を嬉しそうなものへと変えると揚々と話し始める。
「そうかぁ!いやぁー、実は今武官が全然足りなくて困ってたとこなんだよ~。前に武官の募集を掛けてみたんだけど殆ど来てくれなくてさぁ」
「あ、それじゃあ…!」
「ああ。お前たちが良いと言うのなら、ぜひ義勇軍の将をやって欲しい。もちろんその前に軽い面談や将として相応しいかの査定をさせてもらうけどな」
「うん!愛紗ちゃんと鈴々ちゃんも大丈夫だよね?」
「はい、勿論です」
「鈴々ならラクショーなのだ!」
「ははは、その期待に適った成果を期待してるぞ?二人とも。それじゃあ桃香と北郷は文官という事で良いんだな?」
愛紗と鈴々の自信満々な返事を受けて笑いを零す公孫賛は、桃香と一刀にそう問いかけた。
しかし、一刀はその問いに首を縦に振る事はしなかった。
「いや、俺は文官とかにはならない」
「え?それじゃあ武官志望だったのか?」
文官をやらないという事は、もう一つの武官の方を受けたいのか。
そう思って公孫賛は訪ねてみたが、一刀は再び首を横に振り、否定の意志を見せた。
「いや、そう言うんじゃなくてな…そもそも俺は別の頼みごとをするために来たんだ」
「別の…頼みごと?」
「ああ、実は………」
「へぇ~……思ってたよりも広めの家なんだな。空き家っていうからもっと狭い印象があったけど」
「ホントに良い時期に来たな。ここが空いたのってつい昨日の事だったんだぞ、前の家主が冀州の方に移ることになってな」
現在、一刀は公孫賛と共に街の中にある空き家の玄関部に居る。
城での会談を終えた一刀たちは、それぞれ身の周りの整理をする時間を貰えることになった。
今ここにいない桃香たち3人は城内の各自割り振られた部屋へ行き、荷物を置きに行っている。
彼女たちの今後の配属などは、ある程度の休息を挟んでからという事になった。
しかし、一刀だけは城内の部屋には行かずこうして街に来ている。
その理由は……
「しっかし、まさかお前だけ義勇軍の配属志望じゃなくて探偵……だったっけ?の営業許可をもらうために来たとはな…流石に初見じゃ気付かないって」
「まぁ紛らわしかったよな。けど俺って兵隊を動かす知識とか全くと言っていいほど無いし、事務仕事もテキパキできる柄じゃないからな」
そう、一刀が公孫賛と共にここへ来ているのは、『探偵』の仕事がこの街でも出来るように街内での宿を決めるため。
今までの現実世界では戦争とは無縁の人生を送ってきた一刀に軍略は勿論のこと、兵を動かす事も戦術も何も分からない。
平和な桜桑村にもその手の書物は殆ど置いていなかったし、一刀も読もうとしなかった。
そんな一刀にいきなり武官文官を務めさせても、慣れがいずれ来るとはいえ荷が重いのは確定的だった。
だから一刀は愛紗や鈴々のような将軍枠に就かず、桃香のように文官として働くことはせず、自分のスタイルに最もあったこのやり方で行く事にしたのだ。
そもそも、元からこうするプランだったのだが。
「しかし、もし探偵をするために場所がどこにも無かったらどうするつもりだったんだ?まさか毎日野宿をするわけでもないだろ?」
「そのへんは大丈夫。ちゃんと情報を手に入れたから判断したし」
どうやらチャーシュー2枚を供物とした見返りは中々に多かったらしい。
民家が空くタイミングまである程度把握している辺り、あの情報屋の実力がいかに高いかを読みとることが出来る。
「ま、桃香やお前の話を聞く限り、探偵ってのは別にやましいことする仕事じゃなさそうだしな。一応仕事の成果は定期的に報告をしてもらうことにはなるけど、それさえ守ってくれるなら私は喜んで許可させてもらうよ。あぁ、ちゃんと民たちの為に働いてくれよ?」
「分かってるよ。色々とありがとう、公孫賛さん」
「別にこのくらい、礼なんて必要ないさ。なにわともあれ、桃香共々これからなにかと世話になると思うから…よろしくな」
微笑みを浮かべつつ、公孫賛は一刀に右手を差し伸べる。
その手の出し方を察するに、握手を求めているのだろう。
「ああ、よろしくな」
一刀もまた、自身の右手を公孫賛に向けて差し伸べ、彼女の手をぎゅっと握る。
こうして一刀は公孫賛の納める遼西部の街に駐屯し、旅の間出来なかった探偵業を再開することが出来るようになった。
【あとがき】
またまた時間が掛かってしまって申し訳ありませんでした。
遅れた理由としては、バイトや勉強が忙しかったと言えばまぁ当て嵌まるっちゃ当て嵌まるのですが……空いた時間でモンハン4に勤しんでて執筆に滞りが生じてしまいました。
2度目ですが、ホントに申し訳ありません(′・ω・`)
いや、でもモンハンはやっぱ楽しいですね。3週間くらい前から予約した甲斐がありました。
真モンスターや今までのモンスターのラインナップも豪華で嬉しいですが、何より段差とかを素早く駆けあがれるのは感動しましたね。
今まではハンターの身長並の高さだと必死でよじ登ってたりしてスピード感が殺がれてたのですが、今回は颯爽と登る感じでカッコイイです。
オンラインもしたいんですけど、上手く繋がらなくてイマイチ分かんないんですよね……今度問い合わせてみる予定です。
とりあえず今回で漸く公孫賛の所へ辿り着くことが出来ました。
てか、9話でこの辺りとかホント長い。このペースだといつ挫折してもおかしくない気がする(汗)
と言っておきながら、次回は拠点フェイズをやろうという予定なんですよね…言ってる事とやってる事が一致してないですね、私。
まぁとにかく、使命感に囚われず気軽に書いていけたらなぁと言うのが本音ですね。
それでは、次回もよろしくお願いします!
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第9話です。
ガイアメモリ出てなかったり変身してなかったりだと、この作品ただの原作準拠な作品になっちゃう気がしてならない今日この頃。
メモリガジェットとかもっと出番増やしてこうかな…。