時は数日遡る。
まだ劉璋軍が兵の準備をしていた頃、華佗率いる革命軍が劉璋軍に救援を求めたことは、漢中領主・張魯のもとにもすぐに伝わっていた。
張魯兵「申し上げます。劉璋軍に徴兵の動きがあります。やはり天師様が仰ったとおり、華佗は劉璋軍を援軍に引き込もうとしており、
劉璋側も了承した模様です。恐らく近日中に合流、こちらに向かって進攻すると思われます」
天師とは、五斗米道の創始者である
張魯「ウシシ、やはり我の予想は正しかったし!だが華佗はアホだし!あんなくそガキを仲間に引き込んだところでたかが知れてるし!」
白く透き通った肌に、綺麗な白銀色の髪は、小柄な体のせいか地面すれすれまでのびており、さらに全身を白装束に包んでいるせいで、
全体的に白いイメージを与える少女、張魯は無駄に明るく、楽天的に兵士の報告を聞いていた。
その手にはご飯大盛りの茶碗を持っている。
張魯兵「いかがいたしますか?一応兵士たちには厳戒態勢を敷かせておりますが・・・」
張魯「モグッモグッ、ウシシ、イカがもタコがもないし!ここにたどり着くには陽平関を通らないと無理だし!そして陽平関は衛ちゃん
が守ってるし!どうせ注意すべきは年増の厳顔と男女の魏延くらいだし!何の心配もいらないし!」
張魯はすごい勢いで山盛りの米にがっつき、話すごとに口から米粒を飛ばしながら明るく答えた。
張魯兵「では、張衛様にお任せすれば問題―――」
しかし、兵士が言い終わる前に張魯がビシッと箸を兵士の目の前に突き付けた。
張魯「お前はアホだし!まだ我は話している途中だし!」
そう言うと、張魯は新しい茶碗を取り出し、米櫃から米をよそい始めた。
張魯「ウシシ、我に面白い考えがあるし!まぁ取り敢えずお前もお米を食べながらでも聞くがいいし・・・!」
張魯兵「は、はぁ・・・」
張魯兵は、ホクホクに炊かれたご飯の湯気でぼやけながらも、
ニヤリと不敵に嗤っているのがはっきり分かる張魯の顔を眺めながら、戸惑いの声を上げた。
【益州、陽平関正面】
陽平関に到着した革命軍は、さっそく手筈通り陽平関攻略に動き出した。
ここで今一度、革命軍の布陣について確認しておく。
まず本陣は陽平関の真正面後方に布いてある。
最奥の天幕には総大将の北郷がおり、高順が側近として護衛をし、天幕の周りを華佗のもとに集まった武装民兵で固めている。
そして軍師の陳宮も同様に本陣最奥の天幕に入り、そこから前線に向かって指示を飛ばしている。
また、本陣最奥の天幕近くには医療班用の天幕があり、そこには華佗が常駐しており、いつでも負傷兵の処置を行えるようにしていた。
そして、予定通り呂布と張遼は奇襲部隊としていち早く左右の山道に向かい、その奇襲部隊の行動が敵方に気取られないように、
陽平関の正面では、厳顔と魏延ら劉璋軍の主力部隊が敵の目を惹きつけるように激しく暴れていた。
厳顔隊と魏延隊は怒涛の勢いで前進しており、やはり張魯軍は戦いにあまり慣れていないようで、
面白いように横陣を布いた張魯軍の兵士を蹴散らしていきながら、どんどん陽平関正門に向けて進んでいった。
もはや陣形は、適宜判断せよという陳宮の言葉に従い、消耗戦に強い魚鱗の陣から、より攻撃的な鋒矢の陣に切り替わっていた。
魏延「邪魔だ邪魔だ!貴様らのような雑魚、この魏文長の相手ではないわ!」
魏延は後ろで指揮を執るのがじれったくなったのか、陣の先頭に立ち、
巨大な金棒・鈍砕骨を水平に振り、敵兵を2人、3人と軽く吹き飛ばしていく。
魏延「桔梗様!陽動役などと言わず、このまま一気に落とせるのではありませんか!?」
魏延はやや離れたところで戦っている厳顔に向かて、あまりの手ごたえのなさから余裕の表情で叫んだ。
厳顔も魏延同様自身の陣の先頭に立ち、自慢の得物、回転弾倉式のパイルバンカー・豪天砲で敵を次々沈め、弾倉を補充していた。
厳顔「言いたいことは分かるが焔耶よ!軍師殿も言っておったが油断するな!こやつらはまだ本命ではない!門に近づくにつれて、
戦い馴れたのが出で来るぞ!」
そう叫んだ直後、厳顔は豪天砲を前方の櫓から弓で狙いを定めていた張魯兵に向かって放った。
放った弾倉は見事に兵士の腹に命中し、そのまま櫓から吹き飛ばされて地面に叩き落された。
兵力差から圧倒的に革命軍の方が不利であるにもかかわらず、士気、経験、実力全てが圧倒的に革命軍の方が高かった。
このままいけば、魏延の言うように、本当に陽動役が陽平関を陥落させるといった状況にもなりかねないほど、
厳顔隊も魏延隊も凄まじい勢いであった。
―――しかし・・・
??「ウシシ、油断していられるのも今の内だし!」
突然、何の前振りもなく、何者かの声が上空から聞こえてきた。
革命軍は反射的にその声の主を探すと、前方上空、ちょうど櫓と櫓の間辺りの空中に、白く輝く物体が浮かんでいるのが確認できた。
そのまぶしい光に眼を細めつつも、よくよく目を凝らしてみると、
その輝く物体は白装束に身を包み、半透明の羽衣をまとい、白銀の髪を靡かせた小柄な少女であることが分かった。
しかしその表情は、まばゆい太陽の逆光によって確認することができない。
魏延「なっ・・・宙に浮いている・・・だと!?誰だ貴様は!?」
魏延は、人間が宙に浮かんでいるという信じられない光景に驚愕しながら、その得体の知れない人物に対して警戒心を一層強めた。
張魯兵1「おお、天師様!!」
張魯兵2「天師様が直々においでなさった!これで我らの勝利は確実だ!!」
張魯兵3「天師様ー!!こっちを向いてくださーい!!」
対して、張魯兵たちも同様に驚いているが、革命軍側の驚きとは意味合いが違うようである。
皆そろってその宙に降り立った白き少女に向かって口ぐちに歓声の声を上げている。
張魯兵側の空気が一変した。
さきほどまで虫の息であった士気が急激に上がったのだ。
厳顔「何!?天師だと!?では奴が張魯だというのか!?ばかな!なぜ陽平関におる!?」
“天師” という言葉から、目の前の少女こそが、今回の敵の総大将である張魯であると気付いた厳顔は、
漢中にある自身の居城に籠っているものと思っていただけに、意図をくみ取れない張魯の出現に半ば混乱していた。
張魯「ウシシ、我が漢中を荒らそうとする不逞の輩がいると聞いたし!わざわざ出向いやったし!」
張魯は兵士たちの歓声を手で制すると、偉そうに腕を組み、革命軍を見下しながら言い放った。
魏延「好機です!さっさと張魯のやつを片付けて、戦いを終わらせましょう!」
張魯の出現に討ち取る好機と見た魏延は、そう叫ぶと張魯に向かって躊躇なく突撃を開始した。
総大将自らが前線に出てくるなど、よほど腕に覚えがあるか、あるいは危険を冒してでも出てくることに何らかのメリットがある、
といった理由でもないかぎり、ただの命知らずの馬鹿と言われても仕方がない。
まして、張魯は何の武器も持たず、さらに護衛の一人もつけていない。
魏延が、今が好機と張魯に向かって突っ込んだのも、誰もが納得のいく行動であった。
―――しかしそれは当然、前線に出現した理由が何もなければ、という前提ありきの話であるが・・・
厳顔「待て焔耶!張魯といえば面妖な術を―――!」
張魯「ウシシ、もう遅いし!我が五斗米道の大いなる奇跡の前になすすべもなく倒れ伏すがいいし!はぁあああああああッッッ!!!」
厳顔の制止の叫びが魏延に届く前に、張魯はそう叫びながら、両手を左右に広げて静止した。
すると、張魯の両手から白い湯気のようなもの(或いは気のようなオーラとでもいうべきか)が昇りはじめた。
そして、十分にその気が両手を覆ったところで、張魯は自らの胸の前で音を立てて合掌した。
怒号響き渡る戦場で、パチン、という掌同士がぶつかる乾いた音がありえないほど鮮明に響き渡った。
すると、張魯と革命軍の間で大きな爆発が起きると共に、眩いばかりの閃光が辺り一面に広がった。
魏延「ぐわぁッ!?め、目がッ・・・!!み、耳がッ・・・!!」
さらに、閃光が治まるとほぼ同時に、辺り一面に突然霧が発生し始めた。その霧は徐々に濃くなっていく。
厳顔「くっ、何がどうなっておる・・・!」
目の前で突然起こった爆発による耳をつんざくような爆音に視覚を奪うほどの閃光、そして突如として現れ始めた霧、
といった立て続けに起こった現象に、革命軍は完全に混乱状態に陥ってしまった。
魏延「おのれ・・・小癪な真似を・・・!!」
厳顔「これは・・・まずい・・・!」
次第に濃くなっていく霧は、やがて辺り一帯の視界を完全に奪った。
ついには革命軍の陣形は完全に崩壊し、兵たちは霧の中無秩序に入り乱れてしまっていた。
張魯「ウシシ、秘術 “
張魯兵「応っ!!」
すでに霧の彼方へと消えていた張魯の激励の言葉を聞き、なぜか張魯の術の影響を受けていない張魯兵たちが鬨の声を上げた。
【益州、革命軍本陣】
張魯出現の情報は、すぐに革命軍本陣へと伝えられた。
劉兵「伝令!先ほど厳顔・魏延両隊の前に張魯が現れたとの知らせが!」
陳宮「張魯ですと!?ありえないです!なぜ前線に敵の大将が現れるですか!?そもそもそいつは本物なのですか!?」
劉兵「しかし、張魯は空中に立ち、爆発を起こしたり、光を出したり、霧を発生させたりと妙な術を扱い、厳顔・魏延両隊を混乱状態に
陥らせたとのこと!」
陳宮は舌打ちをし、苦い顔をしながら腕を組んで唸り始めた。
陳宮「空中に立つ・・・ですか・・・むむむ、どうやら本物とみて間違いなさそうですな。しかし、張魯が出てくるのは完全に想定外
ですぞ・・・ただでさえ、五斗米道の術は不確定要素が多すぎるというのに・・・。華佗ですら、よくわからないと言ってましたし・・・」
どうする、山道からの奇襲にはもう少し時間がかかる、ここはいったん下がらせるか、
などと考えていたその刹那、陳宮はふと北郷を見た。
もしかしたら、五斗米道の術について、北郷ならば何か知っているのではないかと思ったからである。
―――しかし、そこにいるはずの北郷の姿はなかった。
陳宮「なっ、か、一刀殿は!?天の御遣いは何処に行ったですか!?」
劉兵「つい今しがた、そばに控えていた袖の長い黒い服を着た女性と共に、幕外へと飛び出されたではありませんか」
確かに高順の姿も見当たらない。
陳宮は俯き気味にプルプルと小刻みに震えたかと思うと、突如ものすごい形相になって叫んだ。
陳宮「こ~~~じゅ~~~ん!!!何やってるですか~~~~~っっっ!!!」
一瞬のすきであった。
高順が伝令の兵の言葉を聞いて驚いている隙に、北郷は驚くよりも早く、体が動いていたのだ。
現在、北郷は本陣から厳顔たちがいる陽平関正面の戦場に向かって走っているところである。
後ろからは北郷を止めるべく高順が追いかけている。
高順「一刀殿、今すぐ本陣にお戻りください!ご自身のお立場をお忘れですか!?」
北郷「勿論わかっているさ!でも、オレは安全地帯で仲間の死を見物しているぐらいなら、一緒に戦って死んだ方がマシだよ!」
高順「ですが、あなたは今総大将という―――!」
そこまで言って高順は口をつぐんだ。
北郷の目を見れば、止まらないことは一目瞭然。
ついにあきらめた高順は、もはや北郷に追いついても引き留めようとはせず、北郷のスピードに合わせて並走した。
高順「・・・わかりました。一刀様の御命、この高順が命を懸けてお守りいたしましょう」
北郷「ごめん、ありがとうなな。オレの我儘に付き合ってくれて」
高順「まったく、ねねへの言い訳、一緒に考えてくださいよ」
二人はスピードを緩めることなく戦場へと突入していった。
【第二十二回 第二章:益州騒乱④・五斗米道の妖術師 終】
あとがき
第二十二回終了しましたがいかがだったでしょうか?
ついに陽平関での戦いが始まりました。
張魯=妖術というイメージが強かったため、今回のようなぶっとんだ展開となっております。
もちろん使用するにはいろいろと条件があるわけですが、、、
そして女性としては本編3人目となりますオリキャラの張魯ちゃん。
とにかく何かインパクトが欲しかったため全身白ずくめに変な口調という感じに。
しかも空中浮遊て 笑
キャラ紹介についてはまたいずれ、、、
ちなみに陣形については完全に知ったかなので、よほど変でない限り、ツッコミは心の中にとどめていただき、
スルーの方向でお願いします 汗
最後に、この前、劉璋が男のくせに女性一人称「妾」使ってるの変だよ、というご指摘を頂きましたので、
誤解を生まないためにこの場で皆様に補足させていただきます。
ずばり、全てはstsの無知による勘違いに起因するわけなのですが、劉璋君は間違いなく男です。
この原因は、劉璋君の初期イメージが男版美羽ちゃんだったことが影響しております。
ですが、やや話数も進んでいることや、stsの脳内で、劉璋君=妾のイメージが構築されてしまっているため
(声のイメージは沢城さんか白石さん!…というかやる気のない男鹿入りべる坊か無垢さの感じられない愛染自ソラト?)
今回は修正せず、いずれ後付けの理由をちょこっと挿入することでフォローしたいと考えております。
劉璋君=女性と誤解された方々には、この場を借りてお詫び申し上げます。
一刀君との絡み?を期待させてしまい本当に申し訳ありませんでした。
今後もこのように穴だらけの拙稿になることが予想されますが、どうぞよろしくお願いします。
それではまた次回お会いしましょう!
張魯ちゃん、人を箸で指したらダメ、絶対。
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どうもみなさん、お久しぶりです!または初めまして!
今回は五斗米道の妖術師、いよいよ陽平関での戦いが始まります。
張魯の扱う妖術とはいかに・・・!
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