No.620264

外史の果てに 第二章 天に遣える者として(二)

あさぎさん

お久しぶりです。
仲良くなる回とか入れるより物語進めた方が良いかななんて。
例によって短いんですけどね。
これくらいの方が読みやすいかな、なんて。

2013-09-17 06:43:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5233   閲覧ユーザー数:3756

「水鏡学院…?」

 

玉座に座る彼女の口から放たれた言葉に、一刀は首を傾げた。

 

「えぇ。そこには大陸中の才女が居て、日々その才能を磨いているという。

仲達という軍師を得たとはいえ、まだまだ軍師は足りないのよ」

 

「つまり、そこに行って軍師になりそうな人たちを引っこ抜いて来い、と」

 

「理解が早くて助かるわ。それと貴方は仲達を連れて行きなさい。

ここでの生活に慣れたとはいえ、一人で旅するのはまだ無理でしょう」

 

斜め後ろに控えていた仲達を振り向くと、にこりと笑みを浮かべる彼女。

 

旅と聞いて一瞬不安にもなったが、彼女が同伴であれば何も問題はないだろう。

 

むしろ、他の場所を見ることができる良い機会じゃないか。

 

ただ一つ、なぜ自分なのかという疑問だけが残ったが、それを見越したのか曹操は質問をする前に答えてくれた。

 

「貴方を行かせる理由は二つ。一つは貴方には色々な場所を見ることが今後生きていく上で経験になると思ったから。

二つ目は、貴方には人を惹きつける才があると、そう判断したからよ」

 

前者の理由は良く分かった。

 

一刀のような入りたての人間に対してまでも気を使ってくれる辺り、やはり曹操は優しい心を持っているのだろう。

 

だが二つ目の理由には心当たりがまるでなかった。

 

「前者はとても有難いんだけど、後者のその…人を惹きつける?ってのは…」

 

「----貴方、最近春蘭の訓練に参加しているわね?」

 

隠していたわけではない。

 

ただ、言われてみれば曹操にはこのことを言っていなかったことも思い出した。

 

曹操の後ろに立っていた夏候惇と目を合わせると、互いにしまったという表情を浮かべているのが分かった。

 

「あぁ。別に責めるつもりじゃないのよ。ただ秋蘭から最近兵たちのやる気が以前と比べて高いと聞いてね。

聞くと貴方が訓練に参加し始めてからだそうじゃない」

 

「そうなのかな。あんまりそういうのは分からないけど」

 

「将に求められる能力というのは一概に強さだけではないわ。兵たちと同じ立場で考えることができ、尚且つ共に歩めるということ。

先頭に立って率いるだけではない、これは私や春蘭にはない能力よ」

 

歴史上の超有名人たちと比べられること自体が分不相応だと思うというのは、きっと言わない方が良いのだろう。

 

あまり過剰にそういう態度を取ると彼女はきっと良く思わないだろうから。

 

「それにね。貴方は分かっていないでしょうけど、私の軍に既に打ち解けているというのはそれはもう凄いことなのよ。

私も貴方の後ろの仲達も、ここまで男と距離が近くなったことはないんだから」

 

この言葉には少し納得できた。

 

というのも、ここが少々百合の香りが漂う場だというのは仲達から聞いて何となく分かっていたから。

 

ゆえに、男である一刀がこうして曹操たちと普通に会話しているというのは、かなり異様な光景なのだろう。

 

「取り敢えず、理由に関しては理解できたかしら?」

 

「こういうのは自分ではよく分からないから、君が言うのならということで納得しておくよ」

 

「あら、殊勝な心掛けね。ならこの件に関してはお願いするわね。優秀な娘を期待してるから」

 

「御意、応えられるようには善処するよ」

 

”良い返事だわ”

 

そう言って笑う曹操を背に、これから向かう場所でどのようなことが起こるのかと頭を巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、話題の水鏡学院では二人の少女が多くの生徒たちに見送られて、今まさに学院を旅立とうとしていた。

 

「では先生、行って参ります」

 

「お世話になりました」

 

前者は黄金色の髪に小さな帽子を被る少女。

 

後者は紫陽花色の銀の髪に尖がり帽子を乗せた少女。

 

行き過ぎた才覚を持つ二人には、臥龍・鳳雛という仇名が師によって付けられていた。

 

混迷した国を見て、彼女たちは使えるべき主人を求めることを決意した。

 

「行ってらっしゃい。二人とも気を付けてくださいね」

 

穏やかな笑みを浮かべるのは、周りの少女たちとは少々離れた年齢の女性と呼ぶべき容姿の者。

 

彼女こそ、この学院の創設者でありここにいる生徒たちの師であった。

 

見送るのは二つの小さな背中だったが、師である彼女にはその背中が実際の何倍にも大きく見えていた。

 

いずれ訪れる戦乱の世に、彼女たちは間違いなく大きく羽ばたくだろう。

 

そしてその戦乱の先、彼女たちにはそんな時代を生きて欲しい。

 

そんな儚い願いを密かに込めて、師…水鏡は二人の生徒を静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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