昔々あるところに大きな城壁に囲われた国がありました。この国の周りには好戦的な国が多く、
身を守るためには城壁が必要だったのです。そんな国ですから、兵士に志願する若者は少なくありませんでした。
その中に、硬い鎧を身にまとい最前線に立つ兵士がいました。彼の名前をそうですね、鎧兵としましょうか。
この鎧兵、過酷な戦場で生き残り、味方の盾となることを誇りに思っていました。そんな彼ですから、周りからの
信頼が厚く、王ですら彼には一目おいていたのです。
鎧兵「当分戦場へは行かずにすむかな」
彼は戦が嫌いでした。なにより、争いごとが嫌いだったのです。ならなぜ彼は、戦場でたっているのでしょうか?
彼は、何よりも傷つく人を見たくないのでした。他人が傷つくぐらいなら自分が傷つけばいいと思っているのでした。
その一つの意思を貫くために今日も戦場に立つのでした。
兵士1「いやぁ、鎧兵がいるから俺たち楽できるよなぁ」
兵士2「違いない、さらに剣兵がいるから後方にいればいいもんなぁ」
そんな、話し声が聞こえてきます。彼は誇りに思いながら、何か違和感を感じます。それもいつものこと。
気にせずに、訓練場を後にします。そうそう、先ほどの兵士たちの話で出てきた剣兵ですが、鎧兵が盾ならば
彼は文字通り剣。鎧兵が開いた道を最速で走り、敵に甚大な被害を与える剣の達人です。
二人の天才により、この国は守られているといっても過言ではないでしょう。
剣兵「よう!元気そうだな。」
鎧兵「ああ、なんとかな。」
取り留めのない会話をして二人は別れました。
それから数ヶ月経ちました。平和な時は終わり、新たな戦場が生まれたのです。
隣国の兵が何万と攻めてきたのです。鎧兵は決まった通りに道を作っていきます。多くの兵をなぎ倒し、
蹂躙していきました。
そこで、鎧兵は見たこともない兵士に出会います。大きな鉄球を持った兵士でした。
鉄球兵はその鉄球を振り回し、鎧兵に向かってきます。鎧兵は防げると思ったのでしょう、盾を構え関節を締めます。
ガツン、グチャ。
盾が砕け、鎧も砕け散りました。
盾が砕け、鎧も砕け散りました。
鎧兵「なん...で...」
たたらを踏み、なんとか立ち直しました。鎧兵はたった一撃で満身創痍になってしまいました。
しかし、ここで、鎧兵が引けばより多くの人が傷つけられると彼は知っていたからです。
何度も、何度も、鉄球を受けました。それはもう、気が遠くなるほど、何度も。
何度その体に鉄球を受けたのでしょう。彼はもう立ち上がれませんでした。その様子を見ていたはずの兵士は
皆、逃げ出した後でした。誰も彼を助けようとはしなかったのです。大きな城壁に兵士たちは逃げていったのです。
...彼は死んでしまったのでしょうか?いえ、最後の力を振り絞り彼も城壁へとたどり着いたのです。
城壁の中に入ってきた彼を迎えたのは冷たい国民たちの目でした。
「帰ってきたのかよ」
「よくこんな姿を晒せるな」
口々に彼を責め立てました。次に彼が目を覚ましていた時には全てが終わっていました。
結果だけ伝えるなら、この戦は勝ちました。新兵器が開発され、剣兵が活躍をしたからです。
そうして、鎧兵はこの国にいられなくなりました。彼を讃えていた国王も、兵士も、誰も彼も
彼を不要とみなしたのでした。
傷だらけの体を引きずりながらこの国を出て行ったのでした。
了
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絵本風に書いてみました。どこかの国のどこかの兵士の話です。
伏線なし。短編よりも短いかもしれないです。