~一刀 side~
近くの邑から義勇兵を募ったり、曹操軍の補充兵を宛がって貰ったりして、兵力の補充を行ったあと、俺たちは占拠した陣地を放棄して、新たな目的地へと出発した。
曹操の軍に所属する軍師、荀彧と、俺たちの軍師、朱里と雛里とソウの四人によって作戦が決められ、俺たちはその作戦に従って、黄巾党の本隊が蟠踞するという、冀州に向かって進軍していた。
「劉備、関羽、張飛、諸葛亮、鳳統、荀彧、曹操……あと、もしかしたらあの二人の女の子が夏侯惇と夏侯淵、そして謎に包まれたままだけどきっと有名であろうソウ。」
シュミレーションゲームなら、まず内政しまくりでお金を稼いで徴兵して、うらぁぁぁ!ってな勢いで侵略しまくれる面子だなぁ。
……複数プレイで始めて、脅す→降参って流れで俺TUEEEE!プレイでだけど。
―――なんて考えていると、全軍停止の伝令が駆けていく。
「……と、そんなことを考えている間に、もう目的地到着か。」
「ううー、いよいよ決戦かぁ~……緊張するね~、ご主人様。」
まさか今までゲームのことを考えていたなんて、正直に言えるはずもなく、思わず笑って誤魔化す。
「それにしても、さすがと言うべきなのでしょうか。曹操の兵の動き、見事という他ありませんね。」
「隊長の号令一つで動いたり、止まったり。すごいのだー。」
「ホントですね。良く調練されていて……これだけ見ても、曹操さんが只者じゃないっていうのが良く分かります。」
「向こうは生粋の軍人だろうしな。でも俺たちの兵隊さんたちだって、勇気に関しては負けてないさ。」
「気概一つで戦場に身を投じ、我らに力を貸してくれているのですからね。」
「勇気ですか……ケケッ。まあ武器では全く相手になりませんがねぇ。こちらの負けで。」
ソウが「まだまだ、道のりは遠そうですねぇ。」と呟いた後、桃香が言う。
「で、でも武器や軍装が見搾らしくたって、目指す場所は同じなんだから。胸を張って堂々としていれば良いんだよ♪」
「だな。……じゃあ俺たちは俺たちなりに、堂々と、力一杯戦おう。朱里、状況の説明をお願い。」
「はい!荀彧さんから提供された情報によると、今から対峙する相手は黄巾党の中心部隊ですが、兵数はそれほど多くないです。」
「あれ、中心部隊のくせに少ないの?」
「今、あそこには、黄巾党の中心人物である張角、張宝、張梁の三人が居ないみたいなんです。」
「ふむ。主力部隊は出陣中で、本拠地の防衛兵力は多くない……ということか。」
「そういうことです。」
「でも主力が居ないなら、そんなところを攻撃しても意味ないんじゃないのか―?」
「いえ、無意味ではないですねぇ。」
「あの場所には黄巾党の兵糧の約半分が備蓄されていますから。」
「……なるほど。兵力を削るんじゃなくて、食料を奪って自滅させるって考えか。」
―――と、全員でこれからの戦いについて話していたとき。
伝令(曹操)「劉備軍は横隊を組み、号令と共に敵陣に向けて突撃せよ。我らは後方より弓による援護の後、すぐに後を追う!」
「やったー!鈴々先陣っ!」
「……っと、ちょっと待て鈴々!俺たちが先陣ってそんな無茶な!」
「そうだよ!私たちの戦力じゃ、敵さん相手に時間稼ぎにもならないよ!」
伝令(曹操)「はっ、そのお考えもご尤もです。しかしこの命令も曹操様のお考えあってのこと。」
「その考えとやらは何だ?」
伝令(曹操)「まず劉備軍に敵の目を惹きつけておいてもらい、その隙に特殊部隊を潜入させ、備蓄されている兵糧を焼くのです。」
「そうすれば敵は混乱に陥り、その混乱に乗じて総攻撃、ですかねぇ?」
伝令(曹操)「その通りでございます。」
「我らを囮にして時間を稼ぐ、か。……その特殊部隊とやらは確実に成功するのだろうな?」
伝令(曹操)「はっ、そこに居らっしゃるソウ様が曹騰様のためにお作りになられた部隊。まず失敗はあり得ません。」
「お前、ソウさんから真名を許されているのか?」
「えぇ、この者も以前、特殊部隊に居た者ですから。この者が近づいてきた時、皆さん声をかけられるまで気が付かなかったでしょう?」
全員で話し合っていたとき、いくら注意してないからとはいえ、気付く人が誰もいなかったんだ。
きっとこの人の居た特殊部隊は、相当優秀なのだろう。
「……分かったよ。なら曹操さんを信じて、なんとか時間を稼いでみる。」
伝令(曹操)「宜しくお願いします。ソウ様もまた酒でも飲み交わしましょう。では!」
それだけ言うと、伝令はあっという間にどこかへ行ってしまった。
「我らを囮にするとは……一筋縄ではいかない人物のようですね。」
「組織としての力の差がありますから。こうなるのは仕方がないのかもしれません。」
「相手は組織化された軍隊。こっちは義勇兵の集まり……そういうこと?」
「有り体に言えば……」
「そっか。なら俺たちも早く組織化された軍隊を持てるようにならなくちゃな。」
「このままでは、諸侯に上手く利用されるだけになりますからね。」
「早く強くなりたいのだー!」
「この戦いが終われば……ちゃんと独立できるのかなぁ……?」
「できるのかなぁ?ではなく、して貰わないと困りますねぇ。」
「……そうですね。ソウさんの言う通りです。ではご主人様、私と鈴々は前曲を率います。」
「頼む。……気をつけてね、二人とも。」
「鈴々は無敵だから大丈夫なのだ!」
「無敵なのは知ってるけど、無敵な人でも油断すると痛い目にあうぞ?油断しちゃダメだからな?」
「合点なのだ!」
「愛紗ちゃん、鈴々ちゃんを宜しくね。」
「お任せ下さい。鈴々のお守りは得意中の得意ですからね。」
「さすが頼りになるお姉ちゃんだね。……二人とも、武運を。」
「はっ!」
「うん!」
力強く頷いた二人が、部隊を率いるために前曲へと移動していく。
「一刀殿、桃香殿、朱里は後方で全体を見て指揮、僕と雛里は本陣ほどで必要なときは前曲に向かいますねぇ。」
「分かった。基本的に指揮は朱里に任せるから、宜しくね。」
「御意です♪」
「雛里、ソウ、あまり無茶はしないでね。」
「は、はいっ!」
「ケケッ、まだ死にたくはないですからねぇ。また後で会いましょう。」
決して別れは言わず、軽い挨拶をするだけに止めたのは、無意識に己の願望が口をついたからかもしれない。
「みんな、無事に戦い抜いてくれよ……」
居るかどうかも分からない神様に祈りながら、朱里と桃香と共に後曲に向かう。
―――と、その時俺の耳に前曲から沸き起こる雄叫びが聞こえてきた。
……死が隣接する激戦が、いよいよ始まる。
「終わったと思ったら、すぐに次の戦ですねぇ。」
「でも、ここを潰せたら一気に黄巾党は弱体化するので、ここが踏ん張り時だと思います!」
「ケケッ、相変わらず頑張り屋ですねぇ。」
伝令(曹操)「ソウ様、少々宜しいですか?」
「ふむ、少々席を外します。雛里、お願いしますね?」
「は、はいっ!」
「ここら辺ならいいでしょう。」
伝令(曹操)「早速本題に入りますが、曹操様はソウ様を下に迎え入れようとしています。しかし、もし断られた場合。」
「実力で、または殺す、と?」
伝令(曹操)「はい。もし断った場合、この戦で夏侯淵様の矢で敵からの攻撃と見せかけるつもり、だそうです。」
「なるほど、随分と甘く見られていますねぇ。」
伝令(曹操)「どうなされますか?私としてはあの劉備とやらには正直、実力があるように感じられません。」
「ケケッ、実力は無くとも劉備は化け物ですよ?」
伝令(曹操)「化け物?」
「えぇ、例え死にかけの爺でさえ戦場に参加したくなるように、仕向けることが出来るんですよ。無意識のうちに、ねぇ。」
伝令(曹操)「?」
「確かに劉備は英雄の器ではない。しかし、宗教の開祖としての才能は天才……いや、天災ってやつですかねぇ。嵐に巻き込まれて飛んでいく藁のように、当たり前のように部下を増やしているんですよ。」
伝令(曹操)「はぁ……」
「ケケッ、まぁ良いです。それよりご苦労でしたね。」
伝令(曹操)「はっ、ありがとうございます。」
「ふむ、良いですねぇ。……しかし、僕は裏切らせるのは好きですが、裏切られるのは嫌いでねぇ。」
伝令(曹操)「裏切る?私はソウ様を裏切るなど考えたこともありませんが。」
「確かにそれは事実なのでしょう。でも、僕は疑り深くてですねぇっ。」
ソウは右手を軽く、右下から右上に振る。
「裏切る可能性がなくとも、殺しておきたいのですよ。」
小話『軍師会議』
「ソ、ソウ師匠。お久しぶりです……」
「少しは男嫌いが治ったので?」
「い、いえ……あの……。」
「ほう、以前別れるときに「次会う時までには必ず男嫌いを治しておきなさい。」と、言っておいたはずですが?」
「た、確かにそう言われておりましたが……」
「……桂花、僕らの軍には僕の他に男が居るのを知っていますね?」
「は、はい。あの天の御使いですよね……」
「そうです。その天の御使いと二人きりになった場合、あなたはどうしますか?」
「まず二人きりになるのがあり得ません。周りにご主人様などと呼ばせ、変態な趣味で軍を率いている者などと話したら、きっと孕んでしまいます。それに比べ、華琳様はお美しくて、カッコよくて、夜はその……激しくて///」
「……ぜんぜん変わっていないどころか、悪化してますねぇ。」
「ねぇ、雛里ちゃん。」
「どうしたの、朱里ちゃん。」
「これって作戦を考えるために開かれたものだよね?」
「うん。」
「これって作戦を考えているの?」
朱里の目線の先には、片手に酒瓶を持ち、教え子の成長のなさに頭を悩ませる自分たちの先生と、その先生の前で正座し、時折顔を青くしたり、頬を染めてハァハァと言う猫耳の少女。
「……考えてないんじゃないかなぁ。」
「僕も今までの長い人生で、いろいろな者に勉学を教えてきましたねぇ。」
「はい……。」
「そりゃあ時には、頭に人形を乗せている変な子や、鼻血を吹き出す子、メンマにうるさい子を育ててきましたねぇ。」
「はい……。」
「袁家を止めたのは別に責めたりはしません。むしろ当然だったと思いますねぇ。」
「はい……。」
「確かに華琳さんは、騰ちゃんより良い才能の持ち主で、英雄の器ですねぇ。」
「はい……。」
「しかし、同性での愛を手に入れた上に、さらに男性を嫌い、口をきくだけで鳥肌が立つなどもはや病気ですねぇ。」
「はい……。」
「最近はだんだんと女性の有能な方も増えてきました。むしろ男性の方が少ないです。しかしですねぇ。」
「はい……。」
「少ないからとはいえ、男性を嫌いで良いというのは全く繋がりませんねぇ。ヒック。」
「はい……。」
「それでですねぇ……グビグビッ。」
「あの、師匠。今お酒は……。」
「反論はまず人の話を聞いてからにしらさい!!」
「はいぃ……。」
「まず、貴女は袁家に入る前は同性などには興味がなかったのに、袁家に入ってからそんな風に変わってぇ……別に華琳さんのとこでどんなことしようが良いですがぁ、周りの男性の話が聞けず大失敗を犯すのではないかと、ぼかぁ心配でぇ……」
「誰か助けてぇ……。」
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ちなみに教え子を多くしているのは意味があることなのです。
適当とかじゃないよ?