No.61815

あけるりSS『極めて近く、限りなく遠い世界に』達哉side

夜明け前より瑠璃色な-Moonlight Cradle-新キャラ、シンシア・マルグリットのアフターストーリーです。
私的に納得のいかないラストだったので、執筆させて頂きました。
前半は達哉サイドの話になっています。

2009-03-06 13:38:30 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3406   閲覧ユーザー数:3055

シンシアルートのアフターストーリーになります。

本編未攻略の方には思いっきりネタバレになるので、回れ右して下さい。

 

 

 

 

「・・・達哉くん」

「・・・・・・・・・」

「達哉くん」

「あ、はい。何ですか、カレンさん?」

呼ばれていることに気付き、俺は慌てて声の主、カレンさんの方を振り向いた。

カレンさんは心配そうな顔で俺を見ている。どうやら何度も呼ばれていたらしい。

 

「家まで送りますよ。もうこんな時間ですし、さやかや麻衣さんに心配されますよ?」

「あ・・・そうですね」

携帯を取り出して時間を確認する。午前1時ちょっと前。

もうシンシアが帰ってから1時間が経とうとしていた。

 

「傷の手当てもしないといけませんね」

「そういえばそうですね」

悲しみのせいですっかり忘れてたいが、さっき黒服の連中と戦った時に色んなトコを擦り剥いていた。

思い出したら痛くなって来た。それだけじゃなく、よく見ると服もどこかで引っ掛けたのか破れている。

こんな格好を二人に見られたら大騒ぎになりそうだ。

 

「・・・すいません。やっぱりもう少しここにいます。どうぞ、俺のことは置いて帰って下さい」

「しかし・・・」

「お願いします」

「・・・分かりました。さやかには私から連絡しておきますね」

「ありがとうございます」

そう言うとカレンさんは階段の方へと歩いて行った。

 

やがてそのカレンさんの姿も見えなくなる。

真夜中の公園には俺以外誰もいない。

フィアッカさんもさすがにもうここにはいないだろう。

 

「シンシア・・・」

俺の頬を涙が流れ落ちる。

耐えていた涙がついに出てしまった。

だが、もう誰も見ていない。だから泣いてもいいよな?

今だけは、今だけは泣いてもいい。そう思わずにはいられなかった。

「リース」

「タツヤ。何?」

シンシアと別れてからちょうど1年。

俺は礼拝堂に来ていた。ここに来ればリースに会えると思ったから。

そして予想通りリースはここにいた。

 

「久しぶりだな。でも悪い。今日はリースに用じゃ無いんだ」

「・・・・・・私に何の用だ?」

エメラルドだったリースの瞳がルビーのような赤に変わる。

 

「もう会わないつもりだと言ったハズだが?」

「すみません。でも、どうしてもお願いがあって来ました」

「・・・シアのことでか?」

「はい」

「ここにはエステルもいる。今夜0時。あの場所で会おう」

それだけ言うと瞳の色が元通りのエメラルド色に戻った。

 

「タツヤ、何をするつもり?」

「俺は今俺が出来る限りのことをしたい。それだけだよ」

リースは何も言わない。大体察しは付いているのだろうか?

 

「それじゃまたな。たまには左門に食べに来いよ」

「気が向いたら」

リースはそっぽを向いてそう言った。

深夜0時少し前。近くには俺以外誰もいない。

 

「まだ約束の時間まで10分もあるぞ?」

しかし誰もいないハズの場所から声が聞こえた。

考えるまでもなく、フィアッカさんなわけだが。

 

「フィアッカさんも早く来てるじゃないですか」

微かな電子音と共に、フィアッカさんが現われた。

 

「ここに来るのは1年ぶりだな」

「俺もそうですね」

物見の丘公園のモニュメントの横。

シンシアと別れたあの日からここに来ることは無かった。

ここに来れば嫌でも別れた時のことを思い出してしまうから。

 

「早速だが、用件を聞こうか」

「俺を教団に入れて下さい」

俺は迷うことなくそう言い切った。

大学に入ってからずっと考えていたことだ。

 

「タツヤ、そこまでシアに拘らなくてもいいだろう?お前にはお前の人生がある」

しばしの沈黙の後、フィアッカさんはそう言った。

俺が何故教団に入りたいのか分かっているからこその問いだ。

 

「そうかも知れません」

「本来、私もシアもお前と出会うことなど無かった。700年も昔の人間なのだからな」

そう、普通なら出会えるハズも無い。700年なんて人間の寿命を遥かに超越している。

 

「でも、出会えた」

「偶然・・・いや、この場合は運命と言った方がいいのかな」

「リースやフィアッカさんと出会えたのも運命だと思いますよ」

運命なんてちゃちな言葉を使うことも無いと思っていたが、この無数にある平行世界の中で唯一出会えたのだ。

それを運命と言わずして、何を運命というのだろう?

 

「おおよそ理由は分かるが、詳しく聞こう」

「あれから1年。俺は大学の月学科に入って月学を中心に勉強しています」

「知っているよ。月学科始まって以来の天才だとな」

「ガムシャラに勉強しただけですよ」

ただ、ただガムシャラに勉強した。

勉強することで、シンシアに少しでも近付ける気がして。

でも・・・

 

「ダメなんです、今のままじゃ」

「何がダメなんだ?」

「空間跳躍技術。あれは大学で頑張って勉強したくらいじゃ1000年掛かっても無理なんです」

「そうだろうな。それどころか重力制御技術すら不可能だろう」

フィアッカさんの言う通り、今の技術では到底辿り着けないレベル。

世界で研究されている最新技術ですら、そんなもの高レベルなものは無い。

一生掛かっても不可能だという絶望感。それが俺の心を支配していた。

 

「だから教団に入りたい、と?」

「そうです」

少なくともロストテクノロジーを管理する教団なら、そのレベルの研究は行われているハズだ。

半ば不可能だと理解しつつも、一縷の望みを捨て切れない。

 

「前も言ったハズだ。現代人に知りえない知識を広めたくは無い」

「でも、教団はロストテクノロジーについて研究しているんでしょう?」

「・・・そこに加えて欲しいというのか?」

「そうです。そしてそれは俺が地球人である限り正攻法では不可能なことだと思っています。違いますか?」

いくらフィーナが地球と月の関係を良好にしても、近いうちにそんな深い部分に地球人が入りこめるようになるとは思えない。

少なくとも、俺が生きている間には不可能なことだろう。

 

「月王家すら把握していないロストテクノロジー。俺にはその知識が必要なんです」

「仮に私が口利きしたとしても、だ。地球人であるお前には困難な道が待っているぞ?」

「自分で決めた道です」

そう、迷いは無い。むしろ今動かなければ俺は後悔するだろう。

今出来ることを全てしたい。それは大学で月学について勉強することじゃない。

「ふぅ、シアと二人きりの時に聞いた話だ。タツヤは聞いていないだろう」

「何の話ですか?」

「ターミナルには8人のタツヤが来た」

「それは聞いてます」

確かターミナルに行った時、そんな話をされた。

 

「では、その8人のタツヤが来た世界のことはどうだ?」

それは初耳だ。他の世界、パラレルワールドでの俺がどうしてたか何て全く聞いていない。

 

「初耳ですね」

「他の7人のタツヤにはそれぞれパートナーがいた」

「パートナーって言うと恋人ですか?」

「そうだ。しかも全員相手が違う。モテモテだな」

そんなこと言われても全く実感が湧かない。

少なくとも、この世界の俺はシンシア以外とそんな関係になったことは無いのだから。

他所の世界の俺はそんなにもモテるのか?

 

「他所の世界でパートナーになったということは、この世界でもそういう関係になる可能性が0というわけではない」

「それがどう関係するんですか?」

「シアのことを忘れろとは言わん。だが、二度と会えないことは事実だ。死んだとでも思って、違う相手と添い遂げるべきだ」

二度と会えない。それは確かに死んだと考えても不思議じゃないだろう。

事実、マルグリット姉妹はお互いに死んだものだと思っていたわけだし。

でもシンシアは違う。ここからは見えないけれど、果てしなく遠いけれど、確かに生きている。

 

「二度と会えないなんてことは無いですよ。俺がきっと」

「この世界のテクノロジーで空間跳躍を可能にすることが、タツヤが生きている間に出来ると思うか?」

「それは・・・」

俺は返答出来なくなってしまう。

 

普通に考えれば不可能だ。それは分かっている。

空間跳躍技術関連のロストテクノロジーはシンシアが全て回収してしまった。

つまり空間跳躍技術を0から生み出して行かなければならない。

しかもその礎となった重量制御技術も現代ではロストテクノロジーとして扱われている。

普通にやっていたのでは、1000年掛かろうが辿りつけないだろう。

だからこそ・・・

 

「分かってますよ、そんなことは。俺があと100年生きようが間に合わないなんてことは」

「では何故?」

「俺は少しでも早くシンシアをターミナルから解放してやりたい。その為に出来ることをしたい」

俺が生きている間に二度と会えないことが分かっていても。

1年でも、1日でも、1分でも早くシンシアをこの世界に戻してやりたい。

 

「・・・・・・幸せ者だな、シアは」

「え?」

「そこまで誰かに想われるなど、そうそう出来ることではない」

フィアッカさんは目を閉じて薄く笑った。

 

「だが、事はそう簡単なことではない」

先ほどとは打って変って真剣な表情で俺を見る。

 

「全てを犠牲にするくらいで無ければ、タツヤの望みは叶えられないだろう」

「覚悟の上です」

「二度と家族と会えなくなってもか?」

「それは・・・」

「教団に地球人が入る。情報漏洩などあってはならない。どうなるか分かるだろう?」

監禁、まではいかないとしても、二度と地球には戻って来れないと考えるべきだろう。

 

「タツヤ、お前が言ったことだ。家族は一緒にいるべきだと」

「そうですね」

「そう言ったお前が家族と別れる道を選ぶというのか?」

矛盾。自分で否定したことを、自分がしようとしている。

傍から見れば酷く滑稽だろう。

 

「シンシアとフィアッカさんと同じですよ」

「同じ?」

「離れていても絆があります。どんなに離れていても俺と麻衣と姉さんは家族です」

「詭弁だな」

「自分でもそう思いますよ」

互いの顔を見合わせて笑う。

 

「・・・本当に良いんだな」

さっきとは打って変った真剣な瞳で俺を見る。シンシアと同じ赤い瞳で俺の心まで見通すように。

「後悔はしません」

「分かった。しかし本当にお前はバカだな」

「自分でもそう思いますよ」

「ナツキやミドリと結ばれていれば、こんな苦労はしないで済むというのに」

・・・菜月や翠?

 

「ええ!?あの二人と付き合ってる世界もあるんですか!?」

「ああ。そうだな。未来の大変さを比較するなら、あの二人は比較的楽だ」

未来の大変さって・・・

菜月はまだ分かるが、遠山と?想像出来ん。

 

「あとはサヤカなんかもまだマシだな」

「姉さん!?」

その世界の俺は一体どういった経緯で姉さんと付き合ってるんだ?

全くもって想像が出来ない。

 

「ミアなどはもう遅いが、比較的楽な未来だっただろうに」

「・・・ミアってミア?」

「他に誰かいるのか?」

もう何がなんだか分からない。

可能性の数だけ世界があるってことだったが、そんな世界も存在するのか。

これで4人。

 

「あと3人もいるんですか?」

「ああ。それもお前ほどでは無いが、困難な未来が待ち受けているであろうタツヤ達がな」

もう十分過ぎるほどの衝撃を受けた。

続きを聞きたいような、聞きたくないような。

 

「そうだな、エステルなどはミア以上の苦労が待っているだろう」

「・・・エステルさん?」

「ああ」

あの司祭様のことだよな。いつ何をすればそんなことになるんだ?

 

「月の司祭と、なんて世間体が大変だろう」

「た、確かに」

「まぁ世間体で言えばマイなんかも大変だろうが」

「そりゃ麻衣は妹で・・・す・・・し・・・」

いまなんとおっしゃいましたか?

 

「兄と妹、禁断の愛という奴だな」

「はいいいいいいいいい!!!???」

「しかし、妹に手を出すのはどうかと思うぞ?」

俺に言われても困る。俺は一切手を出してない。

麻衣に劣情を抱いたり・・・はしてないと思う、多分。

たまにドキッとすることはあるけど、大丈夫。

 

「近親同士だと遺伝子上の欠陥が出来て」

「あと一人は誰なんですか!」

「何だ、人がせっかく問題点を教えてやろうとしているのに」

それを俺に教えたところで全く意味が無いと思うんだが。

それに実妹ならともかく、麻衣は義妹で血は繋がっていない。

まぁこれは二人だけの秘密なので、フィアッカさんにも黙っておくが。

血縁的な問題ならむしろ従姉弟である姉さんの方が問題だろう。

 

「あと一人は私だ」

「・・・・・・は?」

再び脳が停止する。

 

「お、俺がフィアッカさんと!?」

「冗談だ」

盛大にずっこけた。

 

「こんな話で冗談なんて言わないで下さいよ」

「正確にはリースだ」

「なんだ、リースだったんですか。・・・・・・リース!?」

他所の世界の俺はどうなってるんだ?

同じ俺とは思えないくらいに思考回路が違うのだろうか?

 

「シアとの未来の次に困難な未来が待っているだろうな」

「そりゃ・・・そうでしょうね」

リースにはフィアッカさんが宿っている。

それだけじゃなく、二人はロストテクノロジーを死ぬまで管理するという使命がある。

シンシア同様、俺と付き合ったからと言って、決してそれを放棄することは無いだろう。

 

「その世界の俺は幸せなんですかね?」

「さぁな。私も聞いただけだ。想像もつかないよ」

実際に会ったわけでも、見たわけでもない。

だが、なんとなく幸せなんじゃないかと思えた。

 

「さて、私は帰るとするよ。もう夜明けだ」

そう言われて東の方を見ると、既に空が明るくなり始めていた。

 

「タツヤも帰らないとサヤカ達が心配するぞ」

「あ、フィアッカさん!」

「来週の同じ時間。全ての準備を済ませてここに来い」

全ての準備。それは持ち物などだけでは無いだろう。

親しい友との別れ、それを指していることは想像に難くない。

 

「また来週会おう」

そう言うと同時にフィアッカさんの姿が消えて行く。

俺は見えないが、その場でフィアッカさんを見送る。

 

 

 

 

「シンシア・・・」

きっとシンシアがこのことを知れば怒るだろう。

自分の人生を犠牲にしてまですることでは無い、と。

だがそれはシンシアも同じことだ。お互いに自分のことを棚に上げている。

 

頭上に高く輝くあの月。あの地に俺は行く。

夜空に瞬く星々。シンシアも見ているだろうか?

 

「たとえ何年、何十年、何百年掛かろうとやってみせる」

俺はそう決意し、家に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

続く

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余りにシンシアルートの最後が納得行かなかったので書きました。

シンシアsideも書いて完結になる予定。

あのラストは余りにもトップをねらえ!の最後を彷彿とさせるわ。

正直ああいうラスト苦手。やっぱ完璧なハッピーエンドに仕上げたいですし。

タイトルはもちろんスーパーロボット大戦Aから。このタイトルはマジでお気に入り。

ってことでシンシアsideの公開をお待ち下さい。おそらく数日で完成します。


 
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