No.617422 リリカルなのは×デビルサバイバー GOD編bladeさん 2013-09-08 20:25:38 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:1499 閲覧ユーザー数:1462 |
件の昼。
カイトが学校をさぼった原因となった出来事を、彼らに気づかれることなく、水晶――おそらくはマジックアイテムの一種なのだろう――を通して一人の男が見ていた。
「悪い。とは思う」
少年が立ち去ったあと、悲しそうな顔で俯いている少し砕けた関西弁を話す少女。
今日という日を、楽しみにしていたはずだ。
なにせ、事故にあってから今日まで学校に来ることもできなくて。
闇の書との出会いが無ければずっと一人で。
一人の少年と少女と出会わなければ、友達もできなくて……。
そして、未だ事件の影響は……火種は残っているものの、彼女が待ち望んだ明日が漸くやってきた。
だというのに今の出来事だ。八神はやての悲しみは、想像以上のもののはずだ。
「俺が居なければ少しは違っていた。少なくとも、君が悲しむようなことは起きなかったかもしれない。だが、それでも……」
パキンッ!
男が力を入れたことによって、水晶の真ん中にヒビが入る。
ひび割れた水晶の右にははやてたちが。
ひび割れた水晶の左にはカイトが。
それぞれ映っていた。
まるで、今後の彼らを暗示するかのように……。
男はフッ、と鼻で笑う。
その光景は男が望む光景にほかならない。
「八神はやて。君のその思いだけは、決して叶うことはない――否、必ず妨げて見せよう、俺のすべてを掛けてでも……っ!」
大きな音をたてて、こんどこそ水晶は砕け散った。
パラパラと、綺麗な雪のように降り注ぐ水晶の欠片。
その中には、一人の尊大な少女の姿と、活発な赤髪の少女とピンク髪の少女……そして、一人の青年を「見続ける」金色の……それでいてドス黒い、幼く儚げな少女の姿があった。
* * *
「ただいまー!」
二人との会話から数刻、時間もすでに八時を回るかというそんな時間に、カイトは漸く家に帰っていた。
「帰ったか。遅かったな」
エプロンをつけて、闇統べる王が姿を現した。
少しフリルが付いたそのエプロンを、闇統べる王は少々気に入らなかったらしいが、子供の、それも女の子のエプロンだとフリルが多くなってしまうのも仕方がなかった。
「ん、悪かったな」
「いや? 遅くなるとしっかりと連絡もしてきたことだし、何も問題はあるまい」
ちなみに。
意外なことではあるがこの王様、一人で食事を取るのを極端に嫌っている。
今日のように、カイトが帰宅するのが遅くなるときが幾度かあったものの、闇統べる王は決して一人で食べることなく、カイトの帰りを待っていた。
当然、カイトは先に食べてても良い。とは言ったものの、決して聞き入ることなく、闇統べる王は少年を待ち続けた。
その結果、カイトが外食に頼ることは減り、とても健康に良い料理を毎日のように食べることになった(そのせいで油断すると体重が増えることが、カイトのささやかな悩みだった)。
「それでもだ。毎日、ごはんありがとう」
「……? 気にするでない。我が好きにやっているだけだ」
闇統べる王は様子が少しおかしい、カイトをジッと見るがしばらくしたら諦めたのか、視線をリビングの方へと向けた。
「暫し待っておれ、すぐにできる」
「おう」
会話もそこそこにカイトはリビングのソファーに、闇統べる王は台所へと向かった。
数分もすると、美味しそうな匂い――このスパイシーで食欲をそそる匂いはカレーだろう――が漂ってくる。闇統べる王はどちらかと言うと甘党なので、勿論カレーも甘口で作っている(それがカイトの少しの不満であるのだが、作ってもらっている以上、強く出ることは出来ない)。
だがなるほど。確かにカレーならば一度作っておけば、温めるだけですぐに出すことが出来る。あとはサラダなど彩りの良いものを一、二品作っておけば立派な夕食となる。
『この一年を振り返ろう! というわけで、まず最初に思い返されるのは……』
テレビから男の声が聞こえてくる。
年に一度、生放送されるこの番組は、海鳴市においてとても人気があるらしい。ローカル放送なので、地域密着型は勿論のことではあるのだが、とてもわかり易くまとめられ気軽にこの一年を思い返すことができると評判だ。
そして先ほどの男性こそが、この番組の顔であるコメンテーターというわけだ。
『まず思い返されるのは、冬に起きた集団昏倒事件でしょう。今も調査が続けられているようですが、原因は不明。今後の調査でも原因が明らかになるのはもはや難しいと言われています』
それは当然だ。
原因は闇の書の防衛プログラムから発せられる怨念だ。科学的にあの現象を解明できるものが居たとしたら、ナオヤに相当する人物。霊的という意味であれば翔門会の巫女のような霊的能力を持ったものだけだ。そもそも本当のことを話した所で、頭のおかしい奴としか思われないだろうが。
『ただこの事件、悪いことばかりではありませんでした。昨今人との付き合いが希薄になっていると言われますが、倒れた人々を率先して助けている人たちが数多く居たとのことです。それはとても心温まる、素晴らしいことではないでしょうか?』
この番組の人気の理由、その一つがこれだ。
事件を取り上げるという性質上、どうしても話は暗くなってしまう。それを避けるために、一つか二つ。その事件であった良いことを必ず上げる。それがたとえ、どんな凄惨な事件であってもだ。
『特に話題となったのは、今話題のボーカル・グループ「D-VA」のアヤという女性の歌でしょう。彼女の歌が、体調不良者を回復させたとの情報もあります。非科学的な話ではありますが、それだけ彼女の歌が人を夢中にさせるというものなのでしょう』
幸か不幸か。あのときの事件がきっかけとなり、D-VAが日本中に知られ、現在ブームとなっている。そのためアヤとゆっくり話す時間がないと、ジンは嬉しそうに――少しだけ寂しそうに語っていた。
『それから少し時を遡りまして、原因不明の大穴が海鳴市中心部に現れたり、一夜にして森林が荒らされていたという事件もありました。これも、先の事件と同様原因は不明。この一年、まさに"原因不明"ということが数多く発生したと言えるでしょう』
『警察からの発表とかはないんですか?』
芸人が控えめに手を上げながら問いかけた。
目立つのが仕事の芸人がそれでいいのか? と、思わないでもないが、空気を読んでこのテンションなのかもしれない。
『良い質問ですね』
コメンテーターは答える。
『ある時を堺にして、警察からの発表は一切なくなりました。まるで"そうしなければならなくなった"かのようにね』
スタジオ内がざわめいた。
普段聞くとある芸人いわく「笑いどころ」だとか、そういう役目を果たすはずのそれは、今この時だけ天然物のざわめきとなっていた。
『そうしなければならなくなった……ですかー?』
普段はバカだと言われている女性が"空気を読まず"問いかけた。
『えぇそうです。とはいえ、これは私の考えでしかありませんが』
『えー、そうなのおかしいですよー。それじゃまるで警察が犯人を隠しているみたいじゃないで……』
音が消えた。いや違う、放送が中断されたのだ。その証拠に、テレビの電源は入っているし、他のチャンネルに変えれば違う番組が映る。
……もしかしたらこれは、あのコメンテーターの特定の人物に対する抗議活動だったのかもしれない。そして、上からの圧力に潰された。
いや、それこそがあのコメンテーターの目的だったのかもしれないが。
「……どうした?」
「いや、なんでもない。なかなかに骨のある人がここには多いなと、そう思っただけだよ」
「……? なんだそれは。まぁ、我には関係ないか」
そう言って闇統べる王は料理を並べていく。
食欲をそそるカレーライ……否、カレーとナンがカイトの目の前に置かれた。
ふと闇統べる王の顔を見ると、少し笑いをこらえたそんな表情をしていた。
「……これは予想外だったわ―」
「ハッハッハ! 意外性を取り入れてみた。カレーなのはバレるが、まさかライスではなくナンを持ってくるとは思わんだろう?」
「あぁ、本当にな。これはおれの負けだな。何に負けたかは知らんが」
その他にも予想通りにサラダが置かれ、食後にはヨーグルトもあるぞ、と闇統べる王は言った。
「……どうした? 先程までとは違って、少し暗いぞ」
「いや、さっきまで見てたテレビ番組を見てさ、思い出してたんだ。"あぁ、ここに来てもう、一年近く経つんだな"ってさ」
「ほぉ……? 気になるな。ここに来るまで何してたんだ?」
「何もしてなかったよ。情けない話だが、ここに来るまでおれは、死人だった」
認めたくないことではあるが、とカイトは思う。
神から依頼された天使探索の任、それは図らずもカイトに命を与えた。なんの目的もなく、ただそこに在るだけの存在が、何かの目的を与えられ行動を始めた。
そう、認めたくない――その死人となったある種の元凶を相手に――感謝するなんてことはしたくない……。
「あぁ――うん。色々あったけど、こうしてここに居ることには、感謝したいかな」
「ふぅん……」
少し頬を膨らませ剥れるその姿は、どこにでもいる少女のようだ。
「それで? 料理の方はどうだ?」
「相変わらず美味しいよ。……まぁ、料理の腕前はオリジナルのはやてが良いからなんだろうけどさ」
「それを否定はせん。だがそれを活かすも殺すも我次第だぞ? 料理の腕をどう使うかは、料理人次第だからな!」
王様、それでいいのか?
そんなツッコミが来そうではあるが、闇統べる王はとても楽しそうなのでそれでよしとした。
「明日」
「ん?」
カレーを食べる手を止めて闇統べる王は言う。
その表情はいつもの偉そうな顔ではなく、真剣な……どことなく、はやてを感じさせるそんな顔で少女は言う。
「我は明日行動を起こす。シュテルもレヴィもどうやら完全に回復したらしいのでな」
「そっか……寂しくなるな」
「そうか、寂しいと感じてくれるか」
闇統べる王はいつもは見せないふにゃっとした笑みを浮べている。
その笑みが何を意味しているのか、カイトには読み取れなかった。
「だから」
手を、小さく白い肌をした手を、カイトへと伸ばす。
「お前にも、我と一緒に来てほしい」
「……お前と?」
「あぁ。悪魔使いを仲間にしたとなれば、我が名にも箔がつくというものだからな」
英雄:悪魔使い。
その名がどれだけの意味を持つのか、カイトにはまだ感じることは出来ない。
いや、正しく言えば聖王・覇王・悪魔使い。この三人の名前の重さだろうか? カイトが出会ったことのある異界の者たちは言った。悪魔使いとは、様々な次元世界で名を残した存在であると。
様々なというとてもふんわりとした表現が、カイトの実感をそいでいる。
「悪魔使い、聖王、覇王。特に聖王と悪魔使い、この二人の名は特別といえる」
それを知っている闇統べる王は言う。
「覇王はすべてを収めたもの。色々と失ってはいるが、それを知っているのは、おそらく彼に連なるものだけだろうな。一般人にとっては、戦争を終結させた偉大な英雄であり、王でしかない」
まっ、我ほどではないがな! と、無い胸を張って少女は言う。
そのいつものと変わらない闇統べる王の姿に、少しだけ安堵しながらカイトは見た。
「だが聖王と悪魔使いはちがう。聖王は悲劇のヒロインと言えるはずだ。だからこそ、彼女の夢見た明日を守るために、実現するために聖王教会は生まれた」
それは初耳だった。
いや、気にしてもいなかっただけで、もしかしたらクロノ辺りがすでに説明していてくれていたのかもしれない。
「そして悪魔使いはミステリーだ。男か女か。人かそうでないか。髪の毛は長かったのか短かったのか。それすら分からん。分かるのは彼が聖王と覇王、二人の友人であったことだけ。故にだ、人は彼に夢を見る。夢想とも言えるそんな夢をな。勝手なことではあるがな、どれだけ夢見ても誰も悪魔使いにはなれんというのに」
「まぁ、確かに人は誰かにはなれないだろうけどさ」
「我の真似をできるやつなぞどこにも居ないだろうがな!」
再度の高笑い。
嫌というほど見てきた其れに、安堵を覚えている自分が居るとカイトは気づいた。
「なるほどな。だから悪魔使いの名は使えると?」
「そういうことだ。それに……気づいておろう? 今、このままここにいても、貴様の願いは叶わず、貴様の願いを叶える事ができるものも居ない。だが我は違う。あいつらには貴様の願いは叶えることは出来ずとも、我は貴様の願いを叶える力がある。そう、だから……我と共に来い」
その小さな手を見る。
その小さな……真剣な顔を見る。
偉く尊大な態度で言っているが、要はただ自分と共に来て欲しいと、闇統べる王は言っているだけにすぎない。
そんなことは、カイトにもわかっている。
だが……。
「ごめん。おれはお前といけない」
「何故……っ!? ……いや、すまない。熱くなった」
カイトは首を振って否定する。
「お前が俺のことを思って手を差し伸べたことは分かってる。それがどんなに温かいものだということも分かってる。でも、それでも……」
彼女の手を握ることが出来なかった手を強く握りしめる。
ふと気がつけば、赤い水分がカイトの手からこぼれ落ちていた。
「……いや、だからこそ、俺は行けない」
「……そうか」
クルッと闇統べる王は後ろを向いた。
「今日まで世話になったな。……ありがとう」
「いや、俺の方こそ世話になったよ。ありがとう、久しぶりに楽しかった」
なんの因果か本来は出会うはずのなかった二人の運命は、再び二つに別れることになった。
片や自分の意志で、自分の道を切り開くために。
片や責任感で、自分が歩いた道を責任をもって掃除するために。
先に進むものと停滞するもの。
正反対の生き方をする彼らの道はこうして離れることとなった。
闇統べる王は明日行動を起こすだろう。自分の望む明日を手に入れるために。
もしカイトが管理局に協力する姿勢を持っていれば味方と敵、その違いはあるものの再び相見えたはずだ。
だがカイトはその道を選ばなかった。だからもう闇統べる王とは会うことはない……はずだった。
* * *
希望とは人にとって生きる糧である。だが、希望は時ととして人を狂わさせる麻薬のようなものとなる。かつてのプレシア・テスタロッサが失敗ではなく、成功したフェイト・テスタロッサを夢見たように――。
ぼーっとする意識のなかで、それは確かに見た。
かつて自分を助けようとした人が居た。けれどそれは間に合わなくて……。だからといって助けてくれなかったことに、怒りだとかそんな感情は一切ない。どこか諦めにも似た感情でしょうがないとしか思わなかった。
けれども……最後のその人は希望を残した――残してしまった。
あのときからどれくらいの時が経ったのだろう?
細かなことは分からない。けれど、それを見てしまった。
希望の片鱗。かつて約束してくれたことを成してくれるかもしれない少年の姿を――。
ドクンと心臓が跳ねた。
希望が――望みが叶うかもしれないということが嬉しかったわけじゃない。
自分を助けようとした人が、その場しのぎの嘘をではなくて、本当に叶うそんな約束をしてくれたことがただ嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくて。
でも、戦いは終わりそれは助けだされなくて……絶望して。なのにまた其れは見てしまった。
自分と共に生きてくれる、三人のうちの一人を助けてくれたその姿を――。
だからまた、希望を持ってしまった。
彼女を助けてくれたのだから、今度はきっと自分を助けてくれるはずだと……。
だから其れは、幼き少女は待ち続ける。
かつて自分を助けてくれようとした人が好きだった、あの歌を歌いながら――。
相変わらず更新が遅くて申し訳ないです。
本当はもっと更新を早くできればいいのですが、これから仕事がもっと忙しくなる可能性があり、更新は当分不定期となります。でもエタ―ENDだけはしませんので、それだけは安心して欲しいです。
以上で愚痴終了。以下はお暇な人だけどうぞ。
時間はありますか? 大丈夫ですか? では行きます。
友達から偽典・女神転生を借りてやり始めました。有志の方が作ったパッチをあてないでやると、難易度:修羅という感じになりますし、なにぶん昔のゲームなので色々と不便利だったりします。
ただストーリーはその分とても濃いものだったりします。
少なくとも心の片隅にトラウマ植えつけるぐらいは。
再販やリメイクがされておらず、値段もとても高いことになっていますので簡単にはお勧めできませんが、それでも買って損は無いレベルでは無いでしょうか?
Tweet |
|
|
0
|
2
|
追加するフォルダを選択
9th Day 歩むべき道