「あら…?」
本の整理の最中、一枚の手紙を見つけた。
『 空の便箋、空への手紙 』
児童施設『三日月園』。そこは3歳から15歳までの少年少女の暮らす、いわゆる『孤児院』である。現在は院長である雀崎朔夜と15人の子供たちでごくごく平和に暮らしていた。
そんな三日月園も大晦日たる今日は大掃除の真っ最中である。子供たちは騒ぎ、多少ふざけながらも、基本が真面目であるためしっかりと自分たちの部屋を掃除している。朔夜もたったいまリビングの掃除を終え、自室の掃除にいざ取り掛かろうというところであった。
もとより朔夜自身本が好きであることに加え、ここには朔夜以上の本の虫がなんにんかいて、部屋を訪れては本をよむもんだから、年々…いや日に日に増えていく本たちに選挙された部屋を見渡して、朔夜は小さくため息をつく。
「(親ばかが過ぎますかしらね…)」
嬉しそうに本を読む子供たちがつい可愛くてたくさんの本を買い与えてしまう。結果がこの部屋だと再び小さくため息をもらし、朔夜は本へと手をのばした。
冒険ファンタジー、恋愛小説、童話。基本はそういった子供向けの児童書やティーンズ文庫だが、中には実用書に古典文学、純文学…ハウツー本まで混ざっている。図書室が作れそうだとおもいながら本棚に収めていると一冊の古い本にあたった。もう何年も前に珍しく手にした、話題になった恋愛小説である。
「(…あら…読みかけですわね…)」
きっと子供たちの誰かが読んでいたのだろうと何げなく、本を開くと、栞の変わりか、古ぼけた一枚の便箋が挟まれていた。
切手も、宛先も書かれていない。少しだけ黄ばんだ白い封筒だった。
「元気ですか?」
「変わりないですか?」
「そちらには少し慣れましたか?」
「慣れない手紙は少し照れますね。」
その先は、読めなかった。色あせていたわけではない。寧ろ白い封筒にずっといれられたままだったその便箋は驚く程綺麗な姿で残っていて、けれど滲んでぼけたその先のインクがひどくアンバランスであった。
この手紙の受け取り手は、もういない。
「(彼は私に、サヨナラすら告げずに冬の寒空の向こうに消えた…)」
それはもう10年以上も前のことで、けれど昨日のことのように鮮明に思い出せる。彼を奪ったアスファルトに冷たさも、そっと備えられた菊の花束も、彼の黒い髪も瞳も、わがままで傲慢でナルシストな性格も、けれど繊細で優しくて、なにより朔夜を、彼女を誰よりも愛していた事も
「(あなたの手が、冷たいことも…)」
「おかあ…さま…あの…本のお片付け…てつだいます…」
「おかあさま…? どうして…泣いているんですか…?」
「あら、涼さん、陽乃さん。ふふ、ちょっと目にゴミがはいってしまったんですわ」
いつも本を読みに訪れるふたり(もちろんこのふたりばかりではないが)が部屋の片付けを終えて朔夜にそう声をかける。
その言葉に朔夜は笑った。
「ねえ涼さん、陽乃さん、焚き火をしましょうか。年越しそば、お庭で月をみながらいただきましょう?」
「おかあさま、それじゃあ月見そばですよ…?」
「いいじゃないですか。年越しが月見そばでも。ふふっ」
変なおかあさま、とわらいつつ、二人共反論はないようで焚き火のための葉っぱや紙を集めにパタパタと走っていった。
きっといまごろ何人かは文句の一つも漏らしているだろうが、きっと結局みんな詰まるだろう。可愛い子供たちは、みんなそういう子であることを朔夜はしっていた。
「(年が明けますわよ、花月さん)」
「(年が明けて、来年が来たら、すぐに私は40ですわ…もうあなたより5歳も年上ですわね…)」
けれど可愛いこどもたちがそばにいる。だから
「(あなたのところに行くのは、もう少しだけ、先になりそうですわね…ふふっ)」
中庭で朔夜を呼ぶ声がする。はいはいとわらいながら、朔夜は中庭にむかう。宛先の書きたされた空への手紙を、強く握りしめて。
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シドの「空の便箋、空への手紙」をきいてたら妄想してしまった花朔。ここのつもの孤児院パロです。朔ちゃん以外のキャラクターは-10歳になってるとおもってください。 涼ちゃん、陽乃さんお借りしました