No.614853

第3話 戦いの前兆

Minosawaさん

ついにヤマトがあの色男と接触です!

それではどうぞ~

2013-09-01 15:09:37 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:897   閲覧ユーザー数:868

教室が爆発したその頃ミスタ・コルベールは図書館であることを調べていた。

 ミス・ヴェリエールの使い魔の青年に刻まれたルーンがどうしても気になり書物を読み漁っている。

 

「これは・・」

 ある書物に目を通すとコルベールの顔色が変わった。

彼はそのまま本を抱えたまま図書館から出ていった。

 

 

本塔の最上階にある学院長室で学院長オールド・オスマンは秘書のミス・ロングビルにセクハラをかましたおかげで折檻を受けていた。

 

 

「オールド・オスマン!」

 

 突然入ってきたのは先ほどのコルベールである。いつの間にか2人とも何事も無いように振舞っているのはさすがだ。

 

「たた、大変です」

 

 

「大変なことなどあるものか、すべては小事だ」

 

 

「これを見てください」

 

コルベールはオスマンに『始祖ブリミルの使い魔たち』と書かれた書物を先に見せる。次にコルベールの描いたヤマトの手に現われたルーンのスケッチを見せた。

 それを見たオスマンの眼光は鋭くなり、秘書のロングビルに席をはずすように言った。

 

 

「詳しく説明するんじゃあ、ミスタ・コルベール」

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ミセス・シュヴルーズの錬金についての授業は、ルイズの失敗というアクシデントのおかげで中止となり、しぶしぶその場で解散することになった。 当事者であるルイズは、その責任として教室の片付けを命じられ、ヤマトと共に教室に残ることとなった。

 こういう時こそ魔法を使えば…と一瞬頭をよぎったが、そういえば召喚されたとき、基礎魔法もできないようなことを生徒が言っていたことを思い出した。

 

「お嬢様、少し休んだら?」

 

「え、でも」

 ルイズはまだ散らかった周りを見た。まだ三分の一も済んでいない。まだまだひどい有様だ。

 その惨状を見て、ルイズは何か言いたげに口を開くが、一旦気を取り直すと改めて呟くような声で言った。

 

「こうみえても掃除は得意ですからお任せください」

 

「そうね…それしかできないんだからあんたに任せるわ」

そう言うと、ルイズは教壇の上にポツンと座り込んだ。その姿はどこか儚げだった。

こういう時こそ、威張り散らして馬車馬のごとく働かされると予想していただけに、先程の失敗が余程応えたのだろうと思った。

 

 

そして、時間にして約数十分後――

 

「ふう…大体終わったかな」

 

そう言って集めたゴミを袋に入れた。

 

「笑いなさいよ…」

 

「えっ?」

 

下をうつむきながら言うルイズに振り向くヤマト。

 

「貴族なのに…メイジなのに魔法が使えない、やっても失敗ばかりで成功確率0、だからゼロのルイズよ…どう?笑えるでしょ」

 

目に涙を溜めて言うルイズ。

 

「笑えるわけないですよ」

 

「えっ?」

 

予想外の返答に驚くルイズ。

 

「ゼロのルイズ?いいや…あなたはゼロじゃない」

 

そう言って左手のルーンをルイズに見せ付けるヤマト。

 

「あなたは召喚に成功している、召喚の儀式は魔法を使う儀式、ちゃんと自分を召喚した、だからあなたはゼロじゃない」

 

そう言って集めたゴミ袋を一気に持ち、教室のドアを開ける。

 

「先に戻って構いません…自分はゴミ出しに行って来ます」

 

「ちょっと待って!」

 

ルイズがヤマトを呼び止め、ヤマトが立ち止まる。

 

「あんた…一体何者なの?」

 

「そうですね…一言で言えば…」

 

 

 

「ただの強い平民、かな」

 

 

 

笑顔で言い返したヤマトは再びゴミを持って教室を後にした。

 

「何なのよ…一体」

 

ヤマトの言った言葉に疑問を抱くルイズであった。

 

 

 

 

 

 

「暇だ~」

 

ゴミ捨てを終えたヤマトはあてもなく学院の中をブラブラと歩いていた。

 特に行き先はないが少しこの学院を探ってみるかということで色々と見回っていたのだ。

 途中、様々な人や使い魔とすれ違う。皆一様にして同じ服やマントを身にまとい、時たま変な目でこちらを見てくるときもある。…そんなに目立つ?

 

するとヤマトはルイズのことを考えた。『ゼロのルイズ』いわば『落ちこぼれ』と言うことだろう。いろいろと努力したが結果が実らない。おそらく彼女はそんな事を言われながらこの学院をすごしていたのだろう。

 

「あんな子だけど…本当は一人ぼっちで辛い目にあってん…(グゥ~)ありゃ?」

 

腹からおもいっきり鳴いてお腹を抑えるヤマト。考えてみれば朝飯は半分のパンとスープだけだったため腹の虫が大演奏したのだ。

 

「あの、お腹すいているのですか?」

と、後ろから声が掛かった。

振り向くと、シエスタが伺うような視線でこちらに近づいてきた。

 

「いや…大したことは―――」

 

言い切る前に、体から自己主張するかのごとく一段と大きな腹の音が鳴り響いた。シエスタは、クスッと屈託の無い笑みを浮かべると、ヤマトを見た。

 

「どうぞ、ついてきてください。賄いものでよろしかったらお出しします」

 

「賄い!!」

 

シエスタは、そのままヤマトを学院の厨房へ連れていくと、シチューを食事に持ってきてくれた。この世界に来てからの初めてのまともな料理が来たので、ヤマトはそれを美味しく平らげた。

 

 

「いやーこんな上手いシチューは初めてです~今度レシピを教えてください」

「いえいえ、そんな大層なものじゃありませんよ…」

 

そう言って食器を片付けるシエスタ。

 

シエスタは、さっきとはうってかわってしんみりとした口調で、そして恐る恐る言った。

 

 

「もしメイジたちが本気になったら、私たち平民が何しようが敵わないですよね……」

暗い顔をして俯くシエスタを見て、ヤマトが口を開いた。

 

「貴族って取り柄が魔法だけなんですね」

 

「えっ」

 

「だって平民のあなた方は料理を作ったり、洗濯したりと日常的な事は完璧。だけど貴族は魔法だけ、様々な種類があるにしてもそれをマスターするのはほんの一握り…そんなのが強いっていえるんですかね?」

 

「そんな…もし貴族の誰かに聞かれたら」

 

「むしろそうであると自覚して欲しいくらいですよ…」

 

そう言って食器を持つヤマト。

 

「まあ…今のは独り言として受け止めてください」

 

「は…はい」

 

ヤマトの言葉にちょっと戸惑いながら返事をするシエスタ。

 

「さて…とその独り言を言ってしまった自分に何か手伝わせてください」

 

「いえ、そんな大丈夫ですよ!」

 

「そう言わずにお願いします!!」

 それを聞いて、シエスタは顔を上げると、小皿の上にケーキがたくさん並んでいるのを見た。丁度 食後のデザートを配ろうとしたところだった。

「では、こちらを運ぶのを手伝ってくださいな」

 

「はい!お任せを」

 

 

 

 

それからヤマトは各テーブルにケーキを配っていたときだった。ある場所に人だかりが出来ていた。

 

「何だ何だ?」

 

気になったヤマトが人だかりの中に入ると、そこには左右の頬に赤い手形がついた男に謝罪しているシエスタがいた。

群衆の話によるとシエスタがギーシュと言う男が持っていた香水を拾った。それは彼の彼女のモンモランシーという少女の物だった。

だが問題はここからだ…ある少女がギーシュの頬にビンタしたのだ。そう…ギーシュと言う男、モンモランシーという恋人がいるにもかかわらず、一年生の女とも付き合っていたのだ。云わば二股と言うやつだった。

そのモンモランシーに弁解もむなしくもう片方の頬にビンタされたギーシュが香水を拾ったシエスタのせいでこうなったと激怒し今にあたると言うことだ。

 

状況と経緯を聞いたヤマトはシエスタの前に立った。

 

「ヤマトさん!」

 

ヤマトを見たシエスタはヤマトの後ろに隠れた。

 

「どきたまえ…僕はそこのメイドに用があるんだ」

 

「二股を棚に上げて、人のせいにするなんていい顔をした貴族の紳士がする事とは思えませんが?」

 

「黙れ!そこのメイドのせいで、二人のレディの名誉に傷が付いた…軽率に香水のビンを拾ってくれたおかげでな」

 

「そもそもそのレディ二人の名誉を傷つけたのは二股した貴方ではないのでしょうか?」

 

いともあっさり返される反論に、ギーシュはグウの音も出ない。取り巻きたちも笑って「そうだ、そうだ!」と口々にはやし立てる。

 

「行きましょうシエスタさん…早く行かないとあなたもあの二股貴族の毒牙にかかってしまいますから…」

 

ギーシュの額に青筋がビシリと浮いた。自身(と彼女達の)プライドを傷つけられたこと。平民にそれを指摘されたこと。挙句の果てには馬鹿にされたことがギーシュの中でついに爆発し、ヤマトに向かって杖をつきたて朗々と叫んだ。

 

「よかろう『決闘』だ! 君に貴族としての礼儀を教えてやろう!」

 

ギーシュの言葉に立ち止まり、振り返るヤマト。

 

「自分は二股を指摘しただけです。それだけで決闘に発展する理由がわかりません」

 

にらみ合う二人の隣のシエスタは顔を真っ青にして体を震わせていた。

「あ、あなた……殺されちゃう…貴族を本気で怒らせたら……」

 そしてそのまま、シエスタは脇目も振らず走り去った。入れ替わりで、今度はルイズが駆けつけてきた。

 

「あんた、何してんのよ! 見てたわよ!」

「ああお嬢様、すみませんね部屋に戻んなくて」

 慌てるルイズをよそに、未だ事態をよくわからないヤマトが呑気にそう言った。

 

それを見て、ギーシュがフフッと笑う。

 

「成程、誰かと思ったらゼロのルイズが呼んだ使い魔だったのか。道理で貴族に対する礼節をわきまえないわけだ」

「ホラ、謝んなさいよ。今ならまだ許してもらえるかもしれないわ!」

 

「残念ながら、もうこの場で決闘を宣言したんだ。今更取りやめになんてできないよ」

 

すでに勝ち誇ったような口調でギーシュはそう言うと、くるりとヤマト達に背を振り向いてその場を後にした。

「ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら来たまえ」

 

「あんた、一体どうするつもりなのよ!」

呆れた様子でルイズが叫んだ。

 

「ギーシュと決闘なんて、怪我だけじゃ済まないわ、いや、怪我で済んだら運のいいほうよ!」

良くて半殺し……などと呟くルイズをよそに、ヤマトは引き続きケーキを配ろうとして、そう言えばシエスタが配ろうとしたケーキが残っていた。

 

「お嬢様、ケーキでも召し上がる?」

「あんたね……何でそんな余裕なのよ……」

心配するのがバカバカしく思うほど、ヤマトは優しい笑みでケーキの皿をルイズに渡した。既に周りには、ヤマトが逃げ出さないよう見張りを立てている。

そんな場合じゃない。ルイズはケーキを押しのけて、この状況がどんなに大変かを教え込んだ。

「聞いて? あのね、あんたはこの世界に来たばっかって言ったわよね。だったら頭に叩き込んでおきなさい。『平民はメイジに絶対に勝てない』ここでの常識よ!」

 

「ふ~んそうなんですか?」

 

「はぁ?」

 

呑気な態度で言い返すヤマトの言葉に呆れるルイズ。

 

「大丈夫です。自分は強い平民ですよ?…それに」

 

「それに?」

 

「目の前で主人を馬鹿にされて怒らない使い魔がどこにいる…」

 

突然口調も態度も一変したヤマトに少し身震いするルイズであった。


 
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