No.614832

第2話 出会いとゼロの意味

Minosawaさん

第2話ではあのメイドと微熱のあの子が登場します。

それではどうぞ

2013-09-01 13:46:31 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:876   閲覧ユーザー数:860

翌日

 

空へと昇っていく太陽の日差しを受けて、ヤマトは目を覚ました。

 

『やっぱり夢じゃなかったんだ』

 

そう思いながらヤマトは部屋に入りベットの中のルイズは、まだ起きる素振りを見せない。

 

「寝顔は可愛いけど…」

 

ヤマトは魔界にいる妹とルイズと重ねていた。

 

『姉さん、サヤカ、ミノル様、アキラ様、今頃魔界はどうなってんだろう』

 

そう思いながらもヤマトはある事を思い出した。

 

「洗濯しないとな・・・」

 

ヤマトはルイズの洗い物を持って、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

「迷った…まあ当然か」

 

洗濯できる場所を探してヤマトは学院をウロウロしていた。

 

「あの・・」

 

不意に後から声をかけられヤマトは振り返る。そこにはメイドの格好をした少女が立っていた。

 

「メイドさん?何で学院にメイドさんが?」

 

「もしかして貴方が噂のミス・ヴェリエール使い魔ですか」

 

彼女はヤマトの左手にあるルーンに気づいたらしい。

 

「ヴェリェールの使い魔…あの子のことか、ところであなたお名前は?」

 

「私こちらでご奉公させていただいているメイドのシエスタと申します」

 

シエスタは丁寧にヤマトにお辞儀をした。

「自分はヤマトと申します」

今まで周りにいなかったタイプの女性に出くわしヤマトも紳士のように挨拶した。

 

「ヤマト様?何か不思議と強そうな名前ですね」

 

「ありがとう、それに様はやめてくれませんか?そんな高貴な立場の者じゃないですし、せめてさんでいいよ」

 

「はい、わかりました」

 

「あっ!そうだ」

 

ヤマトはある事を思い出した。

 

「これらを洗濯したいんですけど…場所はドコですか?」

 

「ああ…私も今洗濯に向うところですから、一緒に行きましょう」

 

「本当!ありがとうございます」

 

 

 

 

「これで全部…」

 

ヤマトは腕まくりをしている状態で洗濯物を干し終えていた。

 

「すみません…ほとんどやらせてしまって」

 

「いいですよここを教えてくれたお礼ですから」

 

「それにしても、器用ですね…」

 

「まあ慣れていますから」

 

ヤマトは自分の親がヤマトの中学生くらいのときに親を亡くし、入隊するまでは自分や姉と妹の洗濯をよくやっていて、いつの間にか家事全般が得意になっていた。

 

洗濯が終わった後、ヤマトはルイズの部屋に戻った。

洗濯物は乾いたら部屋に持っていくとシエスタが言ったのでヤマトは手ぶらだ。

 

「そろそろ起こすか」

 

そう言ってルイズの体を揺さぶった。

 

「お嬢様~朝ですよ~」

 

「ふぁ…あんた誰?」

 

「誰ってあなたが召喚した使い魔のヤマトですよ…」

 

などと寝ぼけるルイズをよそに、ヤマトは昨日畳んでおいた制服を取りあげると、それをルイズに渡した。

ルイズはそれを見て、目の前の男は昨日召喚した使い魔であることを思い出したのか、手元にあった服を再び投げ返すとすっくと立ち上がった。

 

「何してんのよ、早く着替えさせなさい」

 

「は?」

 

ルイズの言葉に口をポカーンとするヤマト。何を言おうとしても無駄だと思ったヤマトは溜め息をつく。

 

「…もう少し女子としての恥じらいを持ってほしい…」

 

「何か言った?」

 

深いため息をつきながら、ヤマトはいそいそとルイズに服を着替えさせ始めた。

 

 

 

 場所は移り、トリステイン学院の食堂室。

『アルヴィーズの食堂』と呼ばれるこの場所は、まさに貴族が食事をするのにふさわしいと言えるような、煌びやかで贅沢な造りとなっていた。

 仕度を終えてこの食堂へとやってきたルイズは、その広い間に並べられた3つのテーブルの真ん中の席に座り、ヤマトを見て床の方を指さした。

 そこには、粗末なパンとスープが無造作に置かれていた。卓の上に置かれている豪勢な食事とは程遠い拵えである。

 

「床にパンって…自分はペットかなにか!?」

 

「うるさいわね…本当ならこの食堂に来ることすら許されないんだからね」

 

「差別だ…」

感謝しなさいよ、とも言いたげにルイズは鳥肉を美味しそうに頬張り始めた。

段々とルイズの性格をつかみ始めたヤマトは、これも特に何も言うことなくスープの皿に手を伸ばした。その時……。

 

「あら、ずいぶんお早いのねルイズ」

ヤマトの上から、そんな声が聞こえた。顔を上げるとそこには、ルイズと同じ制服を着た、燃えるような真っ赤な髪をおろした褐色で巨乳の美女が立っていた。

 

「あんたと同じ席にいたくないだけよ、キュルケ」

 

「あらあら、相変わらずつれないわねぇ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をするルイズとは対照的に、キュルケと呼ばれた女性はクスクス笑いながら気にもせず答えると、今度はヤマトの方を見た。

 

 

「しっかしほんとに平民を召喚させちゃうなんて、さすがねゼロのルイズ」

 

「あなたまで自分を平民って…ん、ゼロ?」

 

明らかに馬鹿にしたような口調でルイズに言うと、キュルケの横からもそもそと何かが現れた。  

 

トカゲ?とヤマトは首をひねった。見かけは確かにトカゲのそれだが、にしては大きく尻尾には炎が灯り、口から火が見え隠れしている。するとヤマトはそのトカゲを見て思い出した。

 

「これは…サラマンダーですね」

 

「あら、知ってるの?」

 

「まあ…自分の世界にはたくさんいますよ」

「まあどうせ喚ぶなら、こういうのがいいわよねーフレイム」

 そう言って、キュルケはフレイムという名のトカゲの頭を愛おしく撫でた。

しかし一方フレイムは、そんな主人の意に介さず、ヤマトの下に置いてあるパンを見つめていた。

 

「フレイムって言うのか…可愛いな…あっ!これ食べる?」

 

そう言ってパンを半分にちぎってフレイムに渡すとフレイムが喜んでそのパンを食べ始めた。

 

「あら、何か悪いわね。大丈夫?」

 

「ええ…可愛いから」

フレイムの頭をなでながら言うヤマトの素直に感心したような口調でキュルケは言うと、ヤマトは残りのパンとスープをそのまま頬張った。

 

「平民だけど、面白い使い魔ね。大切にしなさいよ。ご主人様」

最後にからかうようにルイズにそう言うと、キュルケはフレイムを引き連れてその場を後にした。

はあ、とため息をついたルイズは、そのまま去っていくフレイムを見て、そしてそのフレイムに手を振るヤマトの方を睨んだ。

 

「まったく、余計なことしてくれて」

 

それにしてもサラマンダーかぁ、とルイズは思った。

キュルケは出立や実力、ついでに容姿も認めたくはないが学院でもかなり優秀なメイジだ。そんな彼女だから、希少種ともいえるサラマンダーを召喚したということは、悔しいがどこか納得せざるを得ない。

 

『メイジの実力をはかるには使い魔を見よ』

 

 この言葉が示すとおり、改めて自分とキュルケの召喚した使い魔が、そのまま今の実力の差を如実に表しているみたいでかなり癪だった。

 

「そう言えばあのキュルケって人、ルイズの事ゼロって…」

「もう、ボーッとしてないで早く行くわよ!」

 

そう言ってヤマトの手首を掴んで、駆け出した。

 

 

その後、ルイズ達はその足で教室へと向かった。

 既に何人かが雑談していたり、本を読んでいたり、使い魔を自慢し合っていたりと中々に賑やかだ。キュルケもまた、大勢の貴族の男達の中心に座って楽しそうに喋っている。その中でヤマトを見つけると、軽くウインクをした。

 

使い魔の座る椅子はない――そうルイズが口を開こうとしたとき、それをもう察知していたのか、すでにヤマトは教室の後ろに背中をあずけていた。様々な使い魔達と共に…

 

やがて、扉が開いて中年の女性がローブと帽子を纏って現れた。

その女性、ミセス・シュヴルーズは、ルイズ達や使い魔達を見て、簡単に挨拶すると早速授業に移った。

 

「私の二つ名『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」

「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」

 

ヤマトもまた、一応興味深くこの講義を聞いていた。

 

『火・水・土・風だな…魔界とそう変わらないのか』

 

 この世界は、魔法を使うメイジが全てというようなことは幾度となく聞いてきたが、実際に見たり聞いたりすると、成程ぐらいしかない。

 

今回は『土』系統の講釈だったので、まだ全体を深く知ったわけではないが、一応聞き流す程度だった。

 

何故なら

 

『土属性って俺の属性だし…ほとんど基礎ばっかり…むしろ参加したい』

 

そうヤマトは主に土属性の魔法を得意としている男で、ルイズには自分が魔法が使えるという事を黙っているが、何故か魔法の授業に参加したいという欲求があった。

中でも極めつけが、実習で行われた『錬金』だった。ただの石くれが真鍮に変化したときは、ヤマトだけでなく周りもあっと驚いていた。

 

『錬金か…今度石ころを金とかに変えよう~』

 

心中そう思ったヤマトは今度誰もいないところで錬金でもやろうと思った。

 

「さて、では一通り説明が終わったところで――ミス・ヴァリエール、この石を錬金してみてください」

 

この指名に、なぜか先程の数倍近くのどよめきが起こった。何事だろうと訝しげに見たところに、キュルケが真っ青な状態で手をあげた。

「ミセス・シュヴルーズ、それはやめたほうがいいと思います。あの…危険です」

 

その言葉を聞いて、今度はルイズがムッとした顔で、負けまいといった感じで立ち上がった。

 

「私、やります」

「ルイズ、やめて」

キュルケの制止も聞かず、ルイズは大股で歩み寄ると、石の前に立ちサッと杖を取り出した。それと同時に生徒たちがもぞもぞと机の中に入り込んで、身を隠す行動に移った。事態を読み込めないのは、ヤマトとルイズの前に立つミセス・シュヴルーズのみである。

ふと視線を変えると、キュルケが机に隠れながらこちらを手招きしていた。

 

「あなたもこっちに来たほうがいいわ。さっきも言ったけど……危険よ」

 

「危険って…」

 

意味深に話すキュルケを見て、一体何が起こるのかと聞こうとした瞬間……。

 

 

―――ドゴォォォォォン……!!!

 

 

「ドオァァァァ~~~~~~!!!」

 強烈な閃光が全体を覆ったと思ったと同時に、大音量の爆音と大きな衝撃波が襲った。

教室は辺り一面、襲撃でもされたのかと思うほどに散らかされ、使い魔たちはこの騒動にそれぞれ騒ぎ立てる。

 勿論、この事態を察せなかったヤマトもその例外ではなく、その爆発に思い切り巻き込まれてしまい、目を回して吹っ飛ばされていった。

 

 

 その爆心地、すっかり黒こげになったルイズは、同じく煤だらけになって気絶しているミセス・シュヴルーズを見て、そして次にボロボロになった教室を見つめると、さも頑張ったような仕草をとった。

 

「ふうっ、ちょっと失敗してしまったわね」

その瞬間、周りが一斉にルイズに向かって騒ぎ立てた。

「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」

「いつも成功する確率ゼロじゃないか!」

 

『ゼロってそういう事か』

ヤマトはそんなことを思いながら、悔しそうに俯くルイズの方を見つめていた。


 
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