No.614547 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第五話2013-08-31 21:01:55 投稿 / 全13ページ 総閲覧数:9183 閲覧ユーザー数:6572 |
「ごちそうさまでした」
朝食が終わり、璃々はしっかりと皿を侍女の人の所に持って
いく。
「ありがとう、璃々ちゃん」
侍女の人はそう言って璃々の頭を撫でると、こっそりお菓子
を渡していた。どうやら璃々はすっかりマスコット的な存在
となっているようで、時々こうして物を貰う事がある。とり
あえず虫歯には気を付けておかないといけないな…まさか黄
忠さんと出会った時に璃々が虫歯になりましたじゃあまりに
も申し訳無い話だしね。
「さあ、璃々。部屋に帰るぞ」
「は~い」
俺は璃々の手を握って食堂を出て行く。
「またね~、お姉さん」
「また明日ね~、璃々ちゃん」
出る前にこうやって侍女のお姉さんと挨拶を交わすのも日課
になっている。噂では璃々とこれをしたいが為に侍女の人の
中で食堂当番の競争率が高くなっているとかいう話を聞いた
が…それは忘れておこう。
俺が李儒さん達に連れられて董卓さんの城に来て既に十日余
りが経っていた。李儒さん達は来たその日から何やら董卓さ
んと話をしているようだが、俺と璃々はそこから外されてい
るのでこれといってする事も無く、こうして朝食に食堂に行
く位で、後は部屋で二人で本を読んだりして一日を過ごして
いる事が多い。お金をあまり持ってないので出かけないとい
うのもあるのだが。(ちなみに昼食と夕食は部屋に運んでも
らっている。最初は三食共そうしてたのだが、朝は特に侍女
の方々は忙しいそうなので食堂に食べに行っている)
「おお~い、そこの兄ちゃん~」
帰り道で俺にそう声をかけてくる人がいるのでそっちを向く。
「俺ですか?」
「おおっ、そうやで。今此処には男は兄ちゃん一人しかおらん
やろ?」
そこにいたのは…随分と大胆な格好をした女の人だった。羽
織袴を身に付けてはいるが、羽織は肩からかかっているだけ
で後は胸にさらしを巻いているだけ、下半身の袴は両側に大
胆に切り込みが入っていて、何と言うか…いろいろ眼のやり
場に困る格好だ。
「うん、どうした?何かついとるんか?」
「い、いや、別に何でもないです」
「そうか?じゃ、ええけど」
「ところで…何か用ですか?」
「用が無かったら声をかけたらあかんのか?…っちゅうのは冗
談で、兄ちゃんの事やろ?月の大事な客と一緒に来たっちゅ
うんは?」
月…?誰だ、それ?俺が首を捻っていると、
「まだ董卓お姉ちゃんの真名は聞いてないよ」
璃々がそう答える。真名…何だそれ?
「ああ、そうやったんか。そりゃ悪かったな。それじゃ答えら
れんへんよな」
「ええっと…少々申し訳無いんだけど」
「何や?」
「真名って何?」
俺のその質問に女の人だけでなく、璃々も固まる。…何か俺
聞いたらダメな事を聞いたのだろうか?
「嫌やな~兄ちゃん、そんなボケいらんから」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん本当に知らないみたい」
「ほんまか!?…ほんまに真名知らんの?」
「は、はい…俺の国にはそんな風習は無いもので」
俺がそう答えると女の人は感心しきりに首を振っていた。
「はぁ…そうかぁ、余所に行くと色々あるんやなぁ。じゃ教え
ておくと、真名っちゅうんはその人間を現す神聖な名前の事
や。そしてその名は家族と本人が許した者のみが呼ぶ事を許
される。それ以外の人間が呼んだらその瞬間に首斬られても
文句は言えんのや。兄ちゃんも気を付けや」
…何つう一見さん殺しの風習だ、それ。今までたまたまそう
いう事が無かっただけとはいえ、俺は運が良かったという事
なのだろうか?
「あれ?それじゃ璃々の名前は…」
「璃々は璃々だよ」
「ああ、正確にはある程度の年齢になったら名前と字を貰って
産まれた時につけられた名前が真名になるんよ。だからこの
子はまだその名前だけいう事やな」
そうだったのか…しかし真名って今まで聞いた事も無い話だ
し、此処は本当にただの過去というわけでもなさそうだな。
「ところで…あんたらの名前は何て言うんや?」
「そういえばそうでした。俺の名前は北郷一刀。姓が『北郷』・
名が『一刀』、字と真名っていうのは無いです」
「璃々は璃々だよ!」
俺の自己紹介にまた女の人は固まる。
「真名が無いって…」
「はぁ、あえて言うなら『一刀』が真名ですかねぇ?」
「そうなんか?…へぇ、そうなんか。って事はウチは今あんた
の真名を預かったいう事や。ならウチも真名を教えんと不公
平やな」
「そもそも名前も聞いてないですけどね」
「あっ…そうやったな。悪い、悪い。ウチの名前は張遼、字が
文遠、真名は霞と書いて『しあ』や。よろしゅうな、一刀」
「あ、ああ、よろしく…でもいいのですか?初対面の人間にそ
んな神聖な名前教えても?」
「先に教えてくれたんはそっちやんか。それに…一刀になら教
えてもええってウチの勘が告げとるから大丈夫や」
勘ねぇ…何かそんなんばっかりだな。あれ?今この人張遼っ
て言ってたよね…それじゃ、まさか…あの遼来々?
「張遼さんって……『霞や!』…それじゃ霞さん…『敬語もい
らんで!』…ええっと、霞?」
「何や?」
呼び捨てで真名呼んだらようやく返事するって…まあ、本人
がいいなら問題無しなんだろうが。
「霞ってもしかして武官をやってたりするの?」
「そうや、月…董卓に頼まれてな。此処で世話になってるんや」
そうなのか…あれ?張遼ってこんなに早く董卓に仕えていた
っけ?…もはや今更か。
「ところで…一刀の腰にささってる剣ってあんま見た事無い形
しとんな」
霞は俺の刀を興味深げに見つめる。
「ああ、これは俺の国の武器で『刀』っていうんだよ」
俺は刀を抜いて霞に見せる。
「へぇ…綺麗な刃やな」
霞は刀の刃紋をうっとりとした顔で見つめる。
「こういうもん持ってるって事は…一刀も武官なんか?」
「いや、俺は剣術は習っていたけどそういうのは。俺の国では
俺くらいの年齢で戦場に行く事はほぼ無いしね」
「へぇ…随分と平和な所から来たんやな」
霞はそう呟いていたのだが、
「まあ、それはともかく剣術を習っていたいうんならちょっと
見たいなぁ。一刀、ウチと手合わせしよう」
突然そう言って俺を中庭の真ん中に引っ張る。
「ちょっ、ちょっと…いきなりそう言われても」
「女からの申し出を無碍に断るなんていい男はせえへんでぇ!」
霞はそう笑顔満開で言い放つ。何か頭痛くなってきた…でも
このまま絶対引き下がらないだろうしな…はぁ、仕方ない。
「ちょっとだけなら…でも出来れば審判役みたいな人がいてく
れた方が…」
「それもそうやな…おっ!お~い、輝里!ちょっとこっち来い
や!!」
霞はたまたま眼に入ったらしき人を呼ぶ。
やってきたのは黒髪のツインテールの女の子だった。
「どうしました、霞?」
「ちょっとこいつと模擬戦するんで審判やってや」
女の子は霞がそう言うと、俺の方を何か値踏みをするかの様
に見つめる。
「この方が?失礼ですが、霞と手合わせ出来る程の腕とは…」
ちょっとだけムッとしないではないが、正直俺もそうは思う
ので何も言わない。
「まあまあ、ちょっとだけやから」
「はあ、霞がそう言うのなら…私は董卓様の下で文官として仕
えております徐庶と申します。お見知りおきを、北郷殿」
徐庶…あの?でもあの徐庶なら董卓に仕えた事は無かったは
ずだけど…あれ?そういえば…。
「俺の名前を知ってるのですか?」
「はぁ、董卓様よりお客人の名は聞いておりますれば」
「でも霞は俺の名前を知らなかったようだけど…」
「霞は確かその時領内の巡回に出てましたから…多分報告書は
行ってるはずですが見てはないのでしょう。褒められた話で
はないですが」
そう言われた霞は明後日の方を向いていた。
「まあ、それは後で詠に報告しておくとして…模擬戦の審判で
したね。それでは両者共少し距離を置いて構えてください」
徐庶さんの声と共に俺も霞も武器を構える。ちなみに璃々は
既に離れた所に座って観戦モードだ。
「それでは…始め!!」
徐庶さんの合図と共に霞は一気に距離を詰める…しかし。
「なっ、いない!?」
俺は瞬時に横に飛び、霞が俺の姿を見失った瞬間に斬りこむ。
しかし俺の一撃を霞は簡単に防ぎ、俺が距離と取ったと同時
に武器を構えて嬉しそうに笑う。
「ふふふ…なかなかやるやないか。こりゃ思ったより楽しくな
りそうや」
それと同時に霞から一気に闘気が溢れ出してくる。
「あの…出来れば少し位加減してくれても…」
「無理でしょう。それだけ北郷殿がお強かったという事ですし。
大体こんなに闘気を出してる霞を前にしてそんな軽口が叩け
てる人に対して手加減なんて選択肢は私でもありませんよ」
俺の嘆願は徐庶さんによってあっさりと却下される。
「さあ、覚悟はええか?行くで!!」
霞はそれまでよりさらに速く力強い一撃を繰り出してくる。
「くっ、こうなったら…」
俺はそれを何とかかわすと、両足に気を込めて霞の横を通り
抜け様に横薙ぎの一撃を繰り出す。
少し距離が離れた所で振り向くと、霞は左腕をさすりながら
もますます嬉しそうな笑みを浮かべてこっちを睨みつける。
「あ痛たた…浅手とはいえ、まさかウチが一撃もらうとはなぁ
…くくくっ、くくくくくくっ…こりゃ、ええ!!こりゃええ
で!!久々に楽しくなってきたで!!」
そう言い放つ霞の体からはさらに強い闘気が溢れ出てくる。
やばいな…こりゃ俺死ぬな。どうせ戦わなきゃならないんだ
ったら、最初からちゃんと準備をしてからやるべきだったな。
今更言っても仕方ないが。
俺がかなり悲壮な決意で刀を構えたその時、
「そこまで!!」
その空気を切り裂くような強い声がして、その声がした方に
俺達が振り向くとそこには董卓さんと賈駆さんと呂布さんと
陳宮さんと…あと一人初めて見る銀髪の女の人がいた。ちな
みに今の声は董卓さんが言ったようだ。さすがは太守、威厳
に溢れた声だ。
「何や、月。今ええ所なんやから邪魔せんといてくれんか」
「ダメです。北郷さんは大事なお客人です。大怪我でもさせて
しまったらそれこそ取り返しのつかない話になります」
「ウチがそんなヘマするわけ『いいえ、今の霞さんではそんな
にうまく手加減出来るとは到底思えません』…ぶう、そない
にはっきり言わんでもええやんか」
霞は文句を言いながらも構えを解く。それと同時に張り詰め
ていた闘気も霧散する。やれやれ、どうやら助かったようだ。
俺が一息つくと、そこに霞が寄って来て耳元でこう呟く。
「今度は邪魔されん所で思い切りやろうな♪」
…正直、二度とごめんなのだが。
そう思いながら俺がため息をついていると、今度は銀髪の女
性が話しかけてくる。
「しかし、あの張遼にあそこまで本気を出させるとはなかなか
やるではないか。私も是非手合わせ願いたいものだな…おっ
と、自己紹介がまだだったな。私の名前は華雄だ。よろしく
頼むぞ、北郷」
おおっ、この人が華雄だったのか。確か関羽に討ち取られた
人だったな…あれ?それだけだったっけ?
「何かかなり失礼な事を考えてなかったか?」
「いえいえ、そんな事は無いですよ。華雄さんといえば猛将に
して良将として有名な方ですよね?」
「えっ!?…いや、それ程でも…なかなか口のうまい奴だな」
俺が慌てて言ったお世辞じみた言葉に華雄さんはまんざらで
もなさそうな顔をしていた。
「まあ、何か困った事があったら言ってくれ。私で力になれる
事なら相談に乗ろう」
華雄さんはそう言うとはにかみながら去っていったが、その
唇が俺がさっき言った『猛将にして良将』という言葉を噛み
締めるように繰り返してしたのを見逃す事が出来なかった…
これもじいちゃんから習った事とはいえ、読唇術が自然に出
てしまう俺って一体…。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「あ、いや、何でもない、何でもないから」
少し渋い顔になっていた俺は璃々の言葉に慌てて取り繕って
いた。そんな俺の様子に璃々は首をかしげていた。
璃々は結構鋭いからあまり誤魔化しもきかなそうだ。
そんな一刀の様子を李儒達が遠くから眺めていた。
「ほう…なかなかじゃな、あやつも」
「ええ、この間の動きや今回の手合わせの動きを見ると、北郷
殿は少々独特な…密偵や隠密のような術を身に付けていると
考えて良いようですね」
「あれなら洛陽の様子を見てこれそうな気もしますな」
「…北郷にそこまで頼むのか?本来なら妾達とは何も関わりの
無い者ぞ。妾は反対じゃ、今の洛陽は危険すぎる」
「姉様が北郷殿の身に危険が及ぶ事を心配するのは分かるので
すが…あれだけの動きならば」
王凌の提案に李儒は渋い顔をするも、李粛は鋭い眼差しで一
刀の事を見つめていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は…ただ霞と輝里を出したかっただけという話も。
そして一応董卓軍の面々を総出演させてみました。
実は、今回の戦いは一刀の本来のスタイルではありま
せん。作中でも一刀が言った通り、完全に準備して臨
んでいません。完全武装スタイルの一刀の実力に関し
てはまた後ほど。
次回は…二通り考えている事がありますがどっちを先
にするか考え中です。
それでは次回、第六話にてお会いいたしましょう。
追伸 華雄さんが一刀の名前を知ってたのは彼女はちゃ
んと報告書を読んでいただけですので。
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お待たせしました!
前回、董卓の所に無事たどり着いた一刀達。
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