No.614449 超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編2013-08-31 16:19:06 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:839 閲覧ユーザー数:794 |
「あー………」
「なに、気の抜けた声を出しているですか紅夜」
黄金色の天井を見ながら、俺に話しかけてきたのは気品が溢れる表情が似合うケイブ先輩、ベールと共に遊んだ仲間である箱崎 チカだった。
「せっかくのパーティー、浮かない顔をしては貴方の周囲の空気が悪くなりますわ。直ぐに治しなさい!」
「ん……了解」
視界を平行に戻して広がれている景色を見つめる。
豪華に装飾されたシャンデリアは美しい光を放ち、壁にはリーンボックスの歴史に名を刻んだ有名な人物達の絵が壁に掛けられ、白いテーブルにはリーンボックス特有の豊かな自然が育てた食材がプロによって調理され、その匂いは胃に強い刺激を与える。
俺達ネプテューヌチームと貴族側を呼んでの大パーティーが広がれている。
「それにしても、庶民の俺には場違いな気が……」
「紅夜、この騒動の中心人物と言っても過言じゃありませんわ!同時に最大の被害者であり貢献人です。それを労うこのパーティーで、貴方がそんなだらしない顔をしていたら、せっかくこのパーティーを提案したお姉様が悲しみます!……もし、そうなったら、許しませんからね紅夜…!」
「アハハッハ、楽シイナー、ヤッパリパーティーハコウデナクッチャ……」
月食の様な鋭い瞳でこちらを睨むチカに冷や汗を掻きながら明後日の方向に顔を向ける。
今日のパーティーは、教院側と貴族側の蟠りを無くすためにベールが開いたものだ。流石に最初は空気がぎすぎすとしていたが、時間がそれを解決してくれた。
今は、中世を感じる懐かしく心地よい音楽に誰もが笑顔を交わしながら、踊っている。
「私はもう行きますが、もう一度その腑抜けた顔をしたらぶっ飛ばしますわよ!?」
「はいはい、分かったよ」
指差して注意してくるチカに手を振って見送ろうとした。
背を向け、数歩の先で足を止め横顔が見える程度、顔をこちらに向けた
「……今回の件、本当にありがとうございます」
「気にするな」
「イヴォワール教院長があなたにしたことは、私たちが責任を取って必ず改善します」
「そうだなぁ……。やっぱり家ぐらいは用意してほしいな」
「えぇ、その点はお姉様が既に手配していますわ」
手が早いなと思った所で、チカはこちらに体を向けて頭を下げて、人混みの中に入っていく。
ーーー謙虚すぎると、嫌味と思わる時もあるから、気を付けた方がいいよ
「……あぁ」
頭に直接語られるデペアの声に小さく頷く。
流石にこんなに人が沢山いて、尚且つ公共の場で宝玉に向かって話しかけるのは変質者と思われかねない。
こういう時はデペアはよく空気を読んでくれていると思う。……エロ関係になると暴走するけど。
「それにしても……」
視線が痛い。
熱い視線やら、畏怖の視線やら、まるで英雄でも目のあたりにしているようだ。
因みに今の俺の服装は、いつもの漆黒のコートではなく黒色の燕尾服と緑色のネクタイをした正装姿だ。
パーティー会場でチカに捕まり、その服装はパーティーに相応しくないと押し付けられた。
普段は絶対に着ない服装に息が詰まりそうだと思いながら、俺はネプテューヌ達を探す為に移動を開始した。
「一苦労したあとのご飯は本当においしいね!苦労と疲労こそが最高のスパイスだよね!」
「そーだな……。コンパとアイエフもどうだ?」
「とても、おいしいです!」
「そうね。さすがグリーンハート様が厳選したコックね。いい仕事するわ」
ぶらぶらしていると直ぐにネプテューヌを発見できた。
俺と違いネプテューヌ達は何時もの服装なので、豪華な服装をした貴族側の人達や、祭服姿の教会側と比べかなり浮いているのであっさりと見つけることが出来た。
嬉しそうな顔でステーキに齧り付くネプテューヌを相変わらずと思いながら、胸ポケットから取り出した白のハンカチを取り出す。
「こっち向け、ネプテューヌ」
「んむっ?……うッんむ!」
口のまわりに付いたソースを引き取る。
ネプテューヌは最初驚いたように目をまん丸くしたが、直ぐに目を細めて気持ちよさそうにされるがままになった。
「はい、お前も女の子なんだし、もう少し落ち着いて食え」
「だが断る」
「…………」
「ごめん、ごめん。一度言ってみたかったんだ。だからそのゴキゴキと手を鳴らすのやめて!!」
テヘヘとお茶目に誤魔化すように頭を掻くネプテューヌ。
俺は、それに全くとため息を吐く。
「そういえば、次の目的地はルウィーだっけ?」
「うん、でもまだ鍵の欠片が手に入っていないから、もうちょっとリーンボックスにいるわね」
そういえば、本当にいろいろあって、鍵の欠片どころじゃなかったな。
コンベルサシオンさんに紹介されたあのダンジョンだって、収穫なしの結果に終わったらしい。
「明日になったら、心配せずに鍵の欠片ができるな」
「本当ね。二度目は、ごめんだわ」
「うんうん、流石にネプ子さんも今回の事件は本当に疲れたよ………」
「今日は一杯楽しんで、ゆっくり眠れるです……」
お互いに今回の騒動を思い出して、大変だったと痛感する。
俺なんて、この特殊体質じゃなかったら、確実にバットエンドだった。
銃に撃たれたり、高いところから落ちたり、また撃たれたり、突き刺されたり。この体じゃなかったら今頃天国から地獄にいるよな。
「あ、そういえばジャッドがあなたを探していたわよ」
「うん?ああ、分かった」
ジャッドはネプテューヌが毒に苦しみ、アイエフ達が逃げているのを匿ってくれた貴族長の義理の息子だ。
あまり話したことないが、俺に何か用事があるのだろうか?座っていた席から立ち上がり、直ぐに行こうとするとネプテューヌ達が声を掛けてきた。
「その服装すっごく似合っているよ!」
「カッコイイです。こぅさん」
「いつもの服装があれだから、そっちの服がコスプレに見えるけど似合っているわよ」
「……ありがと」
手を振ってその場を離れる。
足を進む先は、貴族たちが集まっている場所だ。
ジャッドはどこかと探すと直ぐに見つかった。だって、あいつの髪ってカールを描いている特徴的な髪型だから直ぐに見つけることが出来た。
楽しげに女性と話していたが、俺に気づき、直ぐに話を切って俺の所にやってきた。
「話はいいのか?」
「ああ……ちょっと、時間いいか?」
真剣な眼差しだった。かなり大事な話らしく俺は直ぐに頷いた。
◇
バルコニーに出た。
既に日は落ちて、丸い月が夜を照らしていた。
ジャッドは、手すりを握りながら、リーンボックスの街並みを眺めていた。暫く俺も眺めていると唐突にジャッドが口を開いた。
「実は俺、ギルドのメンバーなんだ」
「…………………はっ?」
突然の告白に思わず口が呆然と開いた。
「十年前のこと、お前はどこまで知っている?」
「えっと……教会と貴族が協力して、支配を企んだ国政院を討伐したことだ」
「……はっ、やっぱりか」
生気を感じられない笑みを浮かべて、ジャッドは俺に視線を向けた。
「国政院は、教会により弾圧に苦しんだ異端者の一団をルウィーへと逃がす為に戦ったんだ」
「え、えぇ!?………それは、本当のコトなのか?」
「真実は教会によって巧みに隠蔽された。全てのことは国政院の反乱という項目で片付けられ、貴族は何も知らず国政院を討伐して、勲章を得た」
あまりのことに頭が爆発しそうになった。
確かに、昔から教院側と国政院は教会という一括りの組織の中で仲良くやってきたはずだ。
反逆の理由は女神がいないことにより実権を握ろうとしたと言われているが、あまりに突然で出来過ぎている。
「そして、その指揮をしていたのはーーーイヴォワール教院長」
「なるほど、国政院の反乱は教会の恥と言って隠そうとしたわけじゃなく」
「ああ……自分の行った弾圧で招いた反乱の鎮圧に貴族を利用したことを知られたくなかったんだ!」
「ッ……あの、クソジジイ……!」
異端者を弾圧して、それを助けようとした国政院を反逆という名目で粛清して、貴族たちにはそれを協力したことを知られたくなかっただけに、貴族側から勲章を奪い事件にかかわった因果を全てを闇に葬ることで、全てを無かったことにしようとしたのか……!
「……どうして、俺にそんなことを?」
「俺は何も知らず踊り家族を殺した貴族側と、自分の過ちを隠す為に多くの人を粛清の名もとに殺戮を指示した教会側が許せなかった……復讐してやると、今まで反吐が出る思いを抑えながら貴族長の元で生きてきた……」
ジャッドの手が真っ白になっていく。声に嗚咽が混じってその時の怒りと悲しみを憎しみを吐いていた。
自分の家族を殺した組織に入り、ひたすら時を持った時間。それは、ジャッドのとってこれ異常にない苦痛だったんだろう。なにせ、家族を殺した相手が周囲に居る状況だ。それを抑えながら、チャンスを待ち続けた。
「………けど、この国はいま変わろうとしている……。俺はこの国の組織は大嫌いだ!………だけど、この国自体は嫌いじゃない……」
「…………」
「変わろうとしているこの国の行く末を混沌にさせるわけにはいかない……は、今まで復讐の為に全てを奉げたが、終わりだ。……お前、本当に凄いよ」
ジャッドは心底羨ましそうか表情で、肩を下ろした。
「お前の話は大体聞いた。裏切られて、幾度も殺されかけたのに……お前は決して教会に対して不信感を抱いても
ジャッドは懐から地図を取り出して俺に渡してきた。
それを受け取り、開いてみると人が近づくないような場所に赤くマークが付けられていた。
「教会を襲撃するために、ラステイションから横流ししてもらった兵器がこの場所に隠されている。……壊してくれないか?」
「………分かった。任せろ」
「ありがとう」
ジャッドは安らかな表情で俺の肩を叩き、パーティ会場に戻った。
その背中を見ながら優しい奴だと心底思った。本当に憎ければ、この国がどうなってもいいと貴族と教会の間に戦争を起こしていただろう。
しかし、彼はこの国を嫌いじゃないと言った。変わろうとしているこの国に希望を以って、自分から復讐をやめた。
ーーー人間ほど、都合だけで同族を殺す残忍さを持った生物はいない……けど、あんな人がいるから、凄いんだよね人間って生き物は
そうだな。自分から武器を捨てたんだ。今まで被っていた重い鎧を投げ捨てて疲労から解放されたあの安らかな表情を俺は造れたんだ。イヴォワール教院長は俺を人間ではないと幾度も言った。そうなんだろう、そんな存在なんだろうと、俺自身も理解している。
だからなんだ?俺は俺だ。俺は終わるその時まで、俺であり続けるだけだ。
「紅夜」
「あぁ、お前かベール」
地図を懐に仕舞い夜空を見ていると女神化状態のベールが白と緑色のドレス姿でやってきた。
その手には、二つのグラスとワインが握られていた。
「ふふっ、その服装まるでコスプレのようですわね」
「…笑うな……」
ベールにも笑われた。いつもの服装があれだから普通の服装の方が違和感があるのか?
「一杯どうです?」
「俺は、未成年だが?」
「細かいことを気にしていたら老けますわよ」
手すりにグラスを置いて、ワインが注がれる。
濃いアンコール臭に眉を細める。完全に強制だがベールが淹れてくれたんだ。これを拒否したら何を請求されるか分からん。
「紅夜、貴方は引き続きネプテューヌのパーティーとして旅に出るのですか?」
「………あぁ、そうだな」
「出来ればこの国に残って、私の元で組織の再構築に力をお借りしていただきたかったのですが……」
ワザとらしく残念そうにベールは声を出す。表情は優しく微笑んでいた。
「貴方がこれをやると決めたことはきっと正しいこと、だから私は静かに見送りますわ」
「……ありがとう、ベール」
「こちらこそ、貴方のお蔭で色々目覚めましたわ……ありがとう、紅夜」
お互い感謝の言葉を交えて、グラスを持つ。
優しい風が森に吹き、波を起こすように静かなリズムを刻む。
「緑の女神グリーンハート様、この国の輝かしい未来を願って乾杯」
「ふふっ、紅夜もうまくなりましたね」
グラスとグラスを小さく合わせる。聞こえがいい、ガラス音が小さく響く。
闇夜の空に浮かぶ月は、俺達を見守る様に心地いい冷たさと共に見下ろしていた。
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その29
最終話