第29剣 喜びからの…
アスナSide
第27層のボス攻略を終えたわたし達はボス部屋の扉の奥にある螺旋階段を登り、第28層へ辿り着いた。
すぐ近くの主街区まで飛んで行き、中央広場にある転移門をアクティベートしたことで、ボス攻略が完全に成功したといえる。
短かった時間のはずなのに、凄く長かったような気がするのは、激動の出来事だったからかもしれない。
すぐに27層主街区のロンバールまで転移して、みんなでハイタッチを交わした。
「みんな、お疲れ様。ようやく終わったね」
少し寂しく思うけど、これから仲良くなっていけるからいいかな。
そう思っているとシウネーがなにやら真剣な表情で声を掛けてきた。
「いいえ、アスナさん。私達にはまだやるべきことがあります」
「え…?」
「打ち上げをしましょう」
聞き返そうとしたところでそう言われてしまい、わたしとクーハ君はキョトンとしてから笑みを浮かべる。
そうだね、折角成功したんだから、お祝いしなくちゃね!
「やれやれ…」
「いいね、盛大にやろうよ!」
クーハ君は苦笑し、わたしは大いに賛成する。
「予算はたっぷりあるしな!」
「場所はどうしようか?」
「どこか大きなレストランでも借りましょう!」
ジュンとテッチとタルケンも嬉々として意見を出す。そこでわたしは思った。
ここにいるみんななら、もう1つの仲間達とも絶対に仲良くなれるって…。
だからこの案を伝えよう。
「それなら、わたしのプレイヤーホームでやらない?」
それを聞いたユウキは表情をパッと輝かせた……けれど、すぐにその表情は消え去った。
彼女の代わりにシウネーが断りらしき言葉をいれようとしたけど、
ユウキはそれを遮ってシウネーの手を握りながら何かを言おうとしている。
そんなユウキの言いたいことが理解できたのか、シウネーはわたしの提案を受け入れてきた。
わたしは今のやり取りに首を傾げ、一方でクーハ君は自嘲気味な表情が窺える。
そこでこの微妙な雰囲気を変えようとしたのか、ノリが声を上げ、タルケンやジュンが軽口で応えていた。
わたしはさっきのユウキの表情、そして揺れる瞳の切なそうな色が気になりながらも、
みんなで多量の食料と酒を買い込んで、第22層にある
転移門を使って22層主街区コラルまで来て、モンスターのいないフィールドを飛びながら駆け抜けた。
「もしかして、あそこ!?」
「うん、そうだよ」
はしゃぎながら向かって行ったユウキ、わたし達もそれに続いて家の前に着地する。
鍵を開けて中に入ると、珍しく誰もいなかった。もしかして、キリトくん辺りが気を遣ってくれたのかな?
「ここがアスナのお家なんだねぇ~」
興味津々かつ嬉しそうな様子で家の中を見て回るユウキ、
わたしと他の6人は買い込んだ食料とお酒をオブジェクト化してテーブルに置く。
そして全員でテーブルに着く。
「ボス攻略成功を祝して、かんぱ~い!」
「「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」」
ユウキが取った乾杯の音頭、みんなで同時にワインを飲んで、どんちゃん騒ぎに移る。
各々が話しをしながら打ち上げの雰囲気を楽しんでいる。
「それにしても、あのボス厄介だったよな。ブレスは厄介だった、臭いし…」
「同感。ハンマーの攻撃もきつかった……だけど、達成感がある」
「仲間と一緒に強敵を倒すっていうのは、そういうところが良いんだよ」
ボス戦について話すジュンとテッチに混ざるクーハ君。
「くぅ~、一仕事終えた後の一杯が美味い!」
「何時もそれを言ってるじゃないですか……まぁ、今回は良く分かりますよ」
「んじゃ、オレから秘蔵の1本を贈呈」
「「おぉ!」」
ノリとタルケンがお酒について話していると、クーハ君がお酒を1本オブジェクト化して2人に渡し、
特にノリは凄く喜んだ表情を見せていた。
「…ていうか、オレ場違いじゃないか?」
「そんなことないって、アイツらを引きつけてくれたんだからさ!」
「アタシらだけじゃ絶対ダメだったよ」
「本当に危ないところだった」
「ええ、助けてくれてありがとうございます!」
クーハ君が短く呟いたけど、ジュンとノリ、テッチとタルケンは感謝を込めてそう言った。
「でも実際のところどうだった? ギルドを全滅させたって言ってたけど!」
「ほとんどキリトさんがやっちゃったよ。多分20人は倒してるはずで、俺は10人くらいかな?
他の2人も連携で5人くらいは倒してたし」
「はぁ~、凄いんですね~…」
ジュンがギルド戦のことを興味津々に聞き、クーハ君の返答にタルケンは感嘆の声を出した。
すっかり馴染んでるな~……でもキリトくんの活躍、わたしも見たかった…。
わいわいと話しをする彼らを目に置きながらも、わたしはユウキとシウネーと話しをしてるけどね。
「一番最悪だったのはアメリカの『インセクサイト』だよ! 虫、虫、虫ばっかり! モンスターはともかく、自分も虫!」
「そ、それはやだね…」
「私もアレばかりは思い出したくないです…」
ユウキから今までにどんなVRMMOをプレイしてきたのかを聞いたところ、そんな話しが出てきた。
わたしは思わずSAO時代の『ムシムシランド』を思い出し、うわぁっと思い、シウネーも苦笑しながら言った。
「アスナはどうなの? VRMMO歴は長そうだけど…」
「えっと、2つ、になるかな。
ユウキに訊ねられたけど、さすがにSAOのことは言い難かったので言わないことにした。
「そうなんだ~。でもこのお家、すごく居心地良いよ!」
「そうですね。なんだかホッとします……あっ!?」
「え、ど、どうしたの?」
ユウキが感想を言って、シウネーもそれに同意したところで彼女が何かを思い出したように声を上げた。
「お金で思い出しました! 私達、アスナさんに渡す分のお金を忘れていました!?」
「あぁ~!?」
シウネーの言葉を聞いて、ユウキもそれに思い至った様子。そういえば、そうだったね…うん、でも…。
「あ~…うん、いいよ。むしろいらないかな」
「え、どうして…?」
「その代わり、お願いがあるの」
必要ないという言葉を聞き、首を傾げるユウキに提案する。
「契約はお終いだけど、わたしはユウキやみんなともっとたくさん話したい、色んなことをしたいの。だから…」
1度言葉を区切って、彼女の瞳を見据えながら言う。
「改めて…みんな、わたしと友達になってください」
驚き、喜び、そんな表情を浮かべたユウキ……けれど、それはすぐに形を潜めてしまった。
「で、でも、ボク達は、春には解散しちゃうから…だから、ゲームじゃ多分、会えなくなっちゃうと、思うよ…」
「解ってるよ…でもね、短い間だけでもいいの。少しの間だけでも友達でいれば、会えなくなっても、思い出を作れるから…」
「アスナ…」
わたしのお願いにユウキは戸惑いを見せる。どうしたらいいのか分からない、そんな様子。
「あ、あの…アスナ、ごめん…。本当に、ごめんね…」
「そっか…わたしこそ、無理を言ってごめんね…」
首を小さく左右に振り、悲しそうに、辛そうに、申し訳なさそうに断ったユウキ。
その姿からどうしても断らないといけない理由があるのかもしれない。
これ以上、無理は強いたくないと思い、ここで退くことにする。
見ればシウネーも他の4人も、居た堪れない様子を見せている。
「なら、景気づけに黒鉄宮の『剣士の碑』、見に行かないか?」
「そうだね。きっと更新が反映されてるはずだし」
「なら行こうぜ! 写真撮ろう!」
そこでクーハ君が提案し、わたしとジュンもそれに同意する。わたしはユウキに手を指し伸ばして…。
「行こ?」
「…うん」
小さな笑みを浮かべた彼女と手を繋いで、第1層『始まりの街』へとみんなで向かった。
まだ少し元気のないユウキの手を引きながら、わたし達は花壇を抜けて黒鉄宮へと着いた。
奥へと進んで大広間に辿り着くと、中央には巨大で横長の鉄碑が置かれている。
碑に駆け寄ってびっしりと並ぶ文字列の末尾を見る、そこには…。
―――[Braves of 27th floor]
その文字が書かれ、さらに下にはわたし達7人の名前が刻み込まれていた。
「良かったな、ユウキ」
「クーハ…うん、ボク達の名前があったよ…」
クーハ君の言葉にユウキは呆然としながらもしっかりと答えた。その瞳は潤んでいて、わたしも胸にくるものがある。
「お~い、写真撮るぞ~!」
「それじゃあオレが撮るよ。みんなで並んで」
「何言ってるんだい、アンタも一緒に写るんだよ」
「そうそう」
「はい、一緒に撮りましょう」
「そうですね」
ジュンが少しだけ離れたところでそう言って、クーハ君が撮影を買って出ようとしたけど、
ノリとテッチ、タルケンとシウネーがそれを引き留め、みんなで写ることになる。
「ほら、ユウキも笑って!」
わたしが笑みを浮かべながら言うと彼女もそれに応えるように笑みを浮かべてくれた。
ジュンが『スクリーンショット撮影クリスタル』のポップアップウインドウを操作し、タイマーを設定して戻ってくる。
8人で並んでカウントダウンを待つ……そして、0になった時にみんな笑顔を浮かべ、クリスタルも光った。
「よし、撮れてる!」
ジュンはクリスタルを確認している。
わたしとユウキは一緒に剣士の碑を振り返って見上げ、彼女の頭を優しく撫でながら声を掛ける。
「やったね、ユウキ♪」
「(こくん)………うん。ボク、やったよ、姉ちゃん…」
「ふふ…。ユウキ、また言ってるよ」
「え…?」
そのやり取りに彼女は解っていない様子、もしかして無意識だったのかな?
「わたしのこと、姉ちゃんって言ってたよ。ボス部屋でも言ってたけど…っ、ユウ、キ…?」
「あ、ぁ…ア、スナ…」
途中まで話した言葉を聞き、ユウキは両眼を見開き、口元を手で覆い、
紫色の瞳に透明な雫を溢れさせてから、頬を伝って流れていく。
その姿を見て、わたしは言葉を呑むことしか出来ない。
「ユウキ…」
「ボ、ボク、は…」
わたしから離れるように2,3歩後ずさったユウキは、顔を俯かせてから涙を拭い、左手を動かしてウインドウを出現させた。
そして、震える指で操作すると彼女の姿は白い光に包まれ、ログアウトした…。
「ユウ、キ……な、んで…?」
なんで泣いていたの? わたしが、何かいけないことを言ってしまったの? グルグルと頭の中が渦巻いていく…。
「あの、アスナさん…こんな風になってしまって、申し訳ありません。ですが、ここは…」
シウネーは謝りながらも、なんて言葉を続ければいいのか分からないみたいで…。
「アスナさん、今日は帰ろう。顔色が良くない…」
「ぅ、うん…」
クーハ君がわたしに気を遣って言葉を掛けてくれた。
彼の言う通り、多分いまのわたしの状況は良くないと思う。
このVRMMOではそういった感情を押し隠すことができないから…。
クーハ君はシウネーに何か言っているようだったけど、内容は分からなかった。
結局そのあと、シウネー達は先に戻ることとなり、キリトくんとユイちゃんが迎えにきてくれて、自宅へと帰宅した。
「ママ…」
「だいじょうぶだよ、ユイちゃん…」
愛娘であるユイちゃんの心配そうな表情にそう返したものの、我ながら説得力がないと思った。
それをあっさりと見抜いたのか…。
「おいで、アスナ。ユイも…」
ソファに座るキリトくんに促されて彼の隣に座り、ユイちゃんもキリトくんの隣に座った。
「とりあえず、このあとはゆっくり休むんだ。明日から学校も始まるしな」
「うん……でも、夕食まで、ここにいていいかな?」
「勿論」
わたしは彼の言葉に甘えるように、その胸に顔を埋めた。
アスナSide Out
キリトSide
一頻り時間が経ち、まだ落ち込んでいる様子は見せたものの、ある程度は落ち着いたようだ。
夕食の時間になり、アスナはログアウトした。
「パパ。ママは大丈夫でしょうか…?」
「俺達はアスナを信じよう。大丈夫、ユイのママは強い人だよ」
「はい。分かりました」
当然ながら、まだ心配そうなユイを励ましておく。俺とて心配だが、彼女ならきっと…。
「アスナもユウキもクーハも……後悔だけはするなよ…」
3人のことを信じながら、そう呟く…。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
はい、今回の話でユウキがALOから去ってしまいましたね。
この作品ではアスナは既にギルドに入っていますので、あくまでも友達という言葉でユウキ達の近くに居ようとしました。
次回は明日奈が現実世界のユウキの場所へ向かう話になります。
それではまた・・・。
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第29剣です。
フロアボス終了後、良い空気だったはずが・・・。
どうぞ・・・。