No.613845

まりちゃん誕生日SS

初音軍さん

画集からの情報で。まりちゃんの誕生日のお話です。楓とこれからも仲良くしていってほしいという気持ちを込めて。百合の卵たちには幸せになってもらいたいです(*´ェ`*)

2013-08-30 00:36:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:556   閲覧ユーザー数:556

(三人称)

 

「まりちゃん、あそぼ~」

「うん~」

 

 誕生日の日に結衣の家に遊びにきていた、まりは暫くの間結衣と話してから

何気なく外に出た時に声をかけられて振り向くと前に知り合った楓の姿があった。

 

 まりの表情が晴れやかになって、勢いよく飛び出していくが途中で躓いてしまい

楓に寄りかかるように倒れてしまう。

 

「わっ」

 

 近くにあった柱に身を預けてまりを支えると、シュンッとしたすまなさそうな

表情で謝るまりの顔を見て楓は笑顔を向けていた。

 

「ごめんなさい」

「ううん、二人ともケガしなくてよかったよ」

 

 まりの胸の内はこの近所では初めて出来た友達だからドキドキやワクワクが

膨れ上がり、テンションがすごく高まっていた。

 

「あれ、何か落ちた?」

「あ、それは…!」

 

 楓の傍に落ちた小さな箱を拾おうとしたら、慌てた様子で楓がソレを拾い上げる。

 

「これは何でもないの」

 

 明らかにさっきと様子が違う楓にまりは少し戸惑っていると、そんなまりに遊びに

いこうと声をかけてきた。今さっき驚いたばかりだったが楓の誘いにつれられて

すっかり落とした箱については頭から抜けていた。

 

 

「こうえん~♪」

 

 両腕を横に上げて公園へご機嫌に入っていくまり。その後ろから楓がにこにこと

して続いていく。天気は晴れていて雲と空のバランスがとても良い。

 

 そんな気温高い環境ながら、気持ちの方が強く優先されていて

二人とも暑さを気にしないように遊んでいた。

 

 途中で水分補給するために結衣から手渡されたお金で二人分のお茶を自販機で

購入してから近くにあったベンチに腰をかけてお茶のペットボトルの蓋を開ける。

 

 冷たい飲み物が喉に通っていく感覚が気持ちが良い。

二人は「ふぅっ」と一息つくと、少し離れた場所から京子が歩いてきていて、

まりたちに気づくと走って近づいてきた。

 

「どうしたの、まりちゃん。こんなとこで」

「楓ちゃんと遊んでいたの」

 

「あー、この間の」

 

 京子のその一言に二人は「?」の文字を浮かべるような表情をしている。

それはそうだ。二人に気づかれないように後を追っているのを京子は思い出して

いるのだから。

 

「ううん、なんでもないよ。それよりあんまり暗くならない内に帰りなよ」

「え?」

 

 まりは京子に言われて辺りを見回すとすっかり色合いが変わってきていた。

 

「遅いとみんな心配するからね!じゃ!」

 

 そういって手を振って帰る京子を見送った後、なぜか表情が晴れないまり。

楓に向き合ってから片足のつま先部分で土を蹴ってから。

 

「じゃあ…おそいとみんなにしんぱいかけちゃうし…かえるね」

「あ、まって!」

 

 背を向けて帰ろうとするまりの腕を楓が掴んで動きを止め、続けて言葉が飛び出す。

 

「渡したいものがあるの…」

「なに?」

 

 きょとんとするまりに先ほど落として慌ててしまっていた箱を差し出した。

 

「誕生日プレゼント…」

 

 少し赤らめた顔をした楓がやや俯き加減でそう呟くと、まるで移ったかのように

まりも照れながら箱を見つめていた。

 

「開けていい?」

「うん」

 

 箱を包んでいた紙の上に縛ってあるリボン。これを順番に丁寧に解いていってから

まりは蓋を開けた。

 

「わあ・・・」

 

 そこにあったのは手作りの輪の形をした物体であった。すごく軽くてまるで

プラスチックのような素材で使われているもので、真ん中の部分にはビーズで

装飾が施されている。

 

「綺麗…」

「それこの間お祭りで見つけたんだ。ほら、楓も同じの買ったの」

 

 おもちゃと言われればそれまでだが、まりにとっては本物の指輪並みに嬉しい

ものであった。大好きな友達と同じものを身につけられる。それだけでどれだけ

喜びに満ち溢れることだろう。

 

 友達という気持ちがこの時から少しずつ変わっていくことをまりはまだ知らない。

指輪を薬指にはめてから、その手を胸の辺りに当てたまりは静かに鼓動が強くなって

いくのを無意識に感じていた。

 

「ありがとう。ずっと大事にしてる」

「うん」

 

 二人で見つめあってから微笑んだ。

どれだけお互いを見ていただろう。気づかない間に時間は過ぎて遠くから二人を

呼ぶ声がそれぞれ聞こえてきた。

 

「楓、ここにいましたの?遅いから心配したんですのよ」

「お姉ちゃん」

 

「まりちゃん。あんまり遅くなるとお母さんに心配かけちゃうよ。帰ろう」

「おねーちゃん」

 

 ほぼ同時に二人を捜し当てた向日葵と結衣はお互いの存在に気づいて苦笑していた。

仲良すぎるのもちょっと大変かなって、目で会話をしているようだった。

 

 そのことに気づかないまりと楓は腕を引かれながらも、互いに視線を外さないでいて。

今度はまりの方から楓に向けて言葉を投げかけた。

 

「また、また…遊ぼうね!」

「うん!」

 

 楓の返事に嬉しいはずなのに、少し目にジンッと来てしまい。目を瞑った。

じわじわと熱くなった部分から汗のようなものがにじみでる。そう、涙である。

 

 これからも機会はそう多くはないけれど、遊べる約束をした。

楽しいことが増えて嬉しいはずなのに。まりの目から涙が溢れて止まらなかった。

それを見た結衣は少し驚きながらも、指についてる指輪を見て微笑んだ。

 

「よかったね、まりちゃん」

「うん…」

 

「大事にしなよ…」

「うん…!」

 

 指輪とも楓とも言わなかったがまりは何となくわかっていた。二つとも大事に

しないといけない。この指輪が指にはめられなくなるほど大きくなっても

あの親友の傍に居続けられるために、そうまりは決心していた。

 

「楽しみだなぁ…」

 

 泣き笑いをして結衣の手をぎゅっと強く握り返してまりは歩く。

前へ、先へ。時間をかけて…。

 

 そして二人はいつしか親友の枠を超えて付き合う関係になるのだが。

それはまた別のお話となる。

 

 それまでは小さな気持ちを秘めながら二人でその気持ちを育んでいくのだった。

 

お終い


 
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