No.613583

太守一刀と猫耳軍師 第9話

黒天さん

今回の後半から拠点です。

一刀が地味に小遣い稼ぎをしてることが発覚。

2013-08-29 02:49:28 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:12085   閲覧ユーザー数:8908

「これはもう決まりよね……」

 

遠征から帰ってきたその日、この日はみんな休もう、ということでそれぞれ自室に戻っている。

 

汜水関での戦いでも、虎牢関での戦いでも、洛陽でも、率いた兵こそ少なかったとはいえ戦の主軸になったのは北郷軍。

 

洛陽の城に居た兵は少なかったが、それを知っていて何の躊躇もなく突撃をかけた北郷軍の一人勝ち。

 

他が遅れて入ってきた時にはもう制圧が終わった後だったのだから。

 

「どう考えてみても、他の諸侯よりも頭1つも2つも抜けてるどころか、他の所は何しにきたの、っていう領域よね……」

 

勝てた一番要因は情報。汜水関にしても虎牢関にしても、あれだけの事前情報がなければおそらくここまでの活躍は見込めなかったはず。

 

確かに、私が袁紹の性格をよく知っていて、命令の先読みをして対策を立てられた事も大きいのだけど……。

 

噂もほとんど聞かなかった董卓に何故予め目をつけて調べ、間謀を潜ませる事ができたのか。

 

「やっぱり、この戦が起きる事を知ってたのかしら」

 

そうとしか考えられない。

 

それに今回の北郷の行動は今後を考えればとても理に適っている。

 

董卓と賈詡を手元に残すという弱点こそ負ったものの、華雄、張遼、呂布の3人をその部隊の主要人員ごと味方に引き入れた。

 

3人とも、董卓を助けてもらった恩義と、これから先も董卓を守るために、と。北郷に忠誠を誓ってくれた。

 

兵は集める気になれば多くを集める事もできるが、その兵を率いる事のできる将は貴重。

 

特にここには今まで主要な将は関羽と張飛しか居なかったのだから。

 

将にあわせて新兵を訓練する手間が少なく、文字通り即戦力としてつかえる軍を得たんだから大した物。

 

弱点は隠しきれる見込みが十分ある、だから利点のほうがはるかに大きい。

 

「華雄は猪武者ぶりが気になるけど適材適所を考えれば優秀、呂布は何を考えてるかわからないけど、名前を聞けば敵兵が震え上がり士気が落ちる、居るだけで意味がある。

 

張遼は、言うまでもなく優秀……。曹操がほしがりそうな人材だわ」

ふと曹操の事を思い出す。堂々とした姿、美術品のように整った顔立ち。名指しで私をほしいといいに、こちらの陣地までやってきたこと。

 

私にかけられた賛辞と、飛びつきたくなるような条件。

 

この領地を通らずに曹操の元に向かっていたらどうなっていただろう。きっとあの頃の私なら、曹操を崇拝し、仕えたかもしれない。

 

「でも私の心はもう決まってるわ……」

 

あの男の部屋に行こう。やはり、男だというのは気に入らない、それを差し引いても、あの男には仕えるだけの価値がある。

 

北郷の部屋の前に立ち、覚悟を決めてドアを叩く。北郷の元いた所ではコレをやるのが礼儀らしい。

 

中から開いてるよ、という間抜けな声。私が部屋に訪ねて行った事が余程意外だったのか、問題があったのか、とたずねてくる。

 

「違うわよ」

 

どうしようかと一瞬考え、私は膝をついて礼をする。

 

「私は今日から正式にあなたに仕え、忠誠を誓うわ。汜水関でも虎牢関でも、この軍が一番名を上げたのは明白よ。

 

だからあなたに真名を預ける。私の真名は桂花」

 

視線をあげると目を丸くして驚いた表情の北郷。

 

そして難しい顔をしながら確かめるように、私の真名を呼ぶ。嫌悪感は全くないといえば嘘だけど、悪い気はしない。自分で認めたのだから。

 

「なによ、不満なの?」

 

「いや、ようやく桂花に認めてもらえたとおもうと嬉しくてさ。

 

本当は家臣っていうの、あんまり好きじゃないんだけどね。俺的にはみんな仲間だからさ。

 

これからもよろしく」

そう、私はこの男の家臣になった。命令されればそれを聞かなければならない立場。もう客分とは違う。

 

だからいろいろ覚悟をしてこの部屋に来た。その……、伽を命じられる可能性もあったんだから。

 

あれやこれやといろいろ想像してしまったのは事実。それを思わず口に出してしまった私に北郷が近づいてくる。

 

まさか本当に犯す気!?

 

思わず体が震えてしまう、覚悟はとうに済ませたつもり。

 

でも北郷が触れてきたのは私の髪、ゆるく私の頭をなでてくる。一瞬心地いいと思ってしまった自分が信じられない。

 

そして嫌悪感よりも先に来るのは恥ずかしさ。

 

「こ、こら、撫でるんじゃないわよ! 妊娠したらどうするのよ!」

 

それから北郷が私にいったのは、酒に付き合ってほしい。

 

なによ、さんざん覚悟してきた私がバカみたいじゃない。この部屋に来るまでどれだけ私が悩んだと思ってるのかしら。

 

私の湯のみに注がれた酒を軽く煽れば、口当たりが優しく飲みやすい。

 

やはり遠征から帰ってきたばかりで体が疲れてるようで、お酒が回るのが早い。

 

はふ、と一つため息。それを見て北郷が楽しそうに笑う。

 

やられた……。これじゃあの時と同じじゃない。このあとしばらく話して、眠そうだという理由で私は部屋に返された。

 

不覚にも、少し残念。って思ってしまった自分が憎かった。

 

気合の入った掛け声と、金属を激しく打ち合わせる音が響いてくる。

 

今日は午後からは休みでどうしようかと考えてぶらぶらしていると、それが聞こえたので俺はそちらへいってみた。

 

「華雄と、霞か」

 

2人が鍛錬を行っている場所の近くに座り、その様子を眺める。

 

2人の戦い方は全く違う、華雄が力技で押すとすれば、霞は速さと技、というところか。

 

俺が見る限りは2人の勝負は互角ってところだろうか。

 

その様子をぼんやりと眺めていると、華雄の戦斧が弾き飛ばされる。どうやら勝負あったようだ。

 

「あ、ご主人様やん、どないしたん?」

 

こちらに気づいた霞が手を振ると、華雄も振り返ってこちらを見る。

 

「いや、別にどうもしないけど。鍛錬してる音が聞こえてきたから見に来ただけで。今日は昼から休みでさ」

 

「主も休みか、私と霞も午後から予定があいていてな」

 

「そうなんだ。じゃあ丁度いいから3人で街にでもいかない? 丁度街に行こうかと思ってたけど、1人でいこうとすると護衛つけろって愛紗がうるさいしね……」

 

実際、護衛なんて必要無いんだけど。忍者隊の連中が2~3人はだいたい近くに居るから。

 

最近だと時代劇よろしく、呼びつけると、「ここにおります」とかって現れるようになった。

 

それではウンと言わないあたり愛紗も融通がきかない。

 

「お、ええやんええやん、ご主人様オススメの食いもん屋でもおしえてーな」

 

「主のおごりでな」

 

「了解、じゃあ行こうか」

 

華雄と霞の3人でぶらぶらと街を歩く。

 

これでも暇をみては街を歩いているので町並みも見慣れてきているし、顔見知りもできてくる。

 

「太守様いつもご苦労様です。こちら宜しければ」

 

「あ、どうも」

 

店の軒先から声をかけられ、竹で編んだ籠に入った桃なんぞをもらってみたり。

 

「お連れの方は太守様のイイ人で?」

 

「ははは、だったら良かったんだけど、この2人は最近うちの軍に入った将軍……になるのかな? すごい強いから手を出さないよーに」

 

2人を紹介なんぞしつつ、もらった桃を2人に1個ずつ投げ渡す。

 

おじさんに美人とかかわいいとか言われて気恥ずかしそうな2人を見てなんだかほんわか。

 

「ん、甘い」

 

「ええ街やなぁ、ここ。市もめっちゃ賑わっとるし、みんなええ顔しよる」

 

「それにこれだけ民に好かれる太守というのも珍しい。それだけ良い行いをしてきた証拠だな」

 

「威厳はないけどな、歩きながら桃かじっとる奴が太守やーって言うても、他所やったら信じへんで」

 

霞の言葉に苦笑。桃で小腹を満たしながら、2人をどこの店に案内するかを考える。

 

「霞と華雄はどんなもの食べたいの? 屋台で食べたいとか、店で座って食べたいとか」

 

「んー、昼ごはんは食べたしぃ、あまーいモン食べたいな、なー華雄ちゃん」

 

「こ、こら、霞っ!」

 

なんだか恥ずかしそうな様子の華雄に、いたずらっこの表情の霞。

「華雄って甘いもの好きなの?」

 

「う……」

 

俺が問いかけると華雄が顔を真っ赤にする。

 

「そやでー、華雄ちゃんはものすごい甘党やねん。さっきの桃やってもうぺろっと食べてしもとるし」

 

「へー……」

 

「わ、悪いか!」

 

「いや、悪くないけど。可愛いなーって思っただけで」

 

可愛い、と言われるとゆでダコのように真っ赤になる華雄。ヤバイホントに可愛い。

 

あの華雄にこんな一面があったなんて……。綺麗系の凛々しいお姉さんのイメージがあったのに。

 

「ご主人様ウチはー?」

 

「霞も可愛いと思う」

 

擦り寄ってくる霞の頭をなでなで。猫みたいだなぁ、こうしてると……。

 

「んー、甘い物のおいしい所ならあそこかなぁ」

 

実際自分も甘いもの好きだからそういう店はいくつか見つけている。

 

なんといってもコンビニのあまったるーいお菓子で味覚を破壊された現代っ子なのだから。

 

甘いものは当然好きだし、甘いもの食べたかったし。。

 

確か砂糖を開発したのは中国だが、それは400年頃。

 

この時代には無い……ハズなんだけど、どうにもこの世界には貴重品ながら砂糖があるらしい。

 

どちらかといえば蜂蜜をつかったもののほうが多い感があるけど。

 

まぁ、おかげで甘い菓子にもありつけていた。しかも焼き菓子がある、これは主に俺のせい。

 

小麦粉は既にあったので、鍋屋にダッチオーブンを作らせて、それを菓子屋に持ち込み、簡単なケーキの焼き方を教えたのだ。

 

バターはラードで代用。タマゴも砂糖も貴重品のため結構お高い菓子になってしまうが、これが結構ウケがいい。

 

後、ダッチオーブンは特許のような形で技術を売り、毎月売上に応じて俺の懐に金が入って来るようにしているため俺個人の懐事情も中々よい。

 

他にも竹で作った泡だて器とか。

 

鍋屋のオヤジに、あんな約束しなきゃよかった、とかってイヤミ言われるけど、まぁ本人も儲かってるのでイヤミいいながらも顔はいつもにこやかだ。

 

心底、アウトドア好きの友人と子供の頃にバターケーキを教えてくれた母に感謝した。

 

だって太守なのに小遣い制なんだもの……。ダッチオーブンとか売り出す前は懐が寂しいってもんじゃなかった。

 

物思いにふけってる間に目的の店にたどり着く。

「なぁ、ここって結構ええ菓子屋ちゃうのん?」

 

「ん、そうなるかな。大丈夫大丈夫、菓子代ぐらい払えるから」

 

「本当か?」

 

大丈夫大丈夫、なんていいながらお店に入る。

 

「あら太守様じゃないですか、新作のお菓子が出来た所なんですよ、ぜひ食べていってくださいな。お連れの2人の分も出しますから」

 

「あ、ほんと? じゃあお願いしてもいいかな」

 

そういってテーブルに案内される。華雄と霞もそのまま席につく。しばらくして菓子とお茶がだされる。

 

見た感じ、バターケーキに桃が入ってる感じっぽい。流石一流の職人、うろ覚えの基礎教えただけでもう自分のものにしてるとは……。

 

2人の様子を見れば、見慣れない菓子に興味津々といった様子。

 

「い、いただきます!」

 

華雄がそれを口に運ぶ。ああ、幸せそうな顔だ……。自分でも食べてみるとなるほど美味い。

 

「めっちゃうまいやん、こんな菓子初めて食うたで」

 

「こんな菓子があったなんて私も知らなかった。い、一体いくらする菓子なんだ……」

 

「あ、今日はお代は結構ですよ、ふふ、太守様にこのお菓子を教えてもらったおかげで随分儲けさせてもらってますし。今じゃウチの看板商品ですよ」

 

よく儲けてるのは知ってる。この菓子も売上の一部が俺の懐にはいってくるから。

 

基礎の菓子とは別物だからもういいよっていってるけど、律儀にお金収めてくれるいい人だ。

 

まぁそれを差し引いても相当儲けてるみたいだけど、今回みたいにちらほらサービスしてくれるし。

 

店主の言葉に華雄と霞がバッと俺の方を向く。

「な、何?」

 

「う、嘘だろう? 主がこの菓子を考案したなんて」

 

「ちょっと信じられへんわぁ……」

 

「本当ですよ。だから太守様には足を向けて寝られません、ふふ……。じゃあ私は奥に戻るのでごゆっくり」

 

華雄と霞……特に華雄から尊敬の視線が。なんだか気恥ずかしい。

 

「これは主の居た所の菓子なのか?」

 

「うん、そうだよ。向こうじゃ特に珍しいものでもなかったんだけど。作るのも簡単だしね。コッチじゃ道具がないからなかなか苦労したよ」

 

特にダッチオーブンの温度管理が。試作で何度焦がした事か……。材料費だってバカにならなかったし。

 

「今心底、汜水関で主に拾ってもらってよかったとおもったぞ」

 

「こんなとこでかいな、華雄は根っからの甘党やもんなぁ」

 

「い、いいだろ! 甘いものが好きでも!」

 

「ウチも甘いもんは好きやけどな。まぁこれで華雄はこの国から離れられんよーになったな。くくく……」

 

霞が楽しそうに笑う。俺もつられるようにして笑うと、また華雄が顔を赤くする。

 

「こうして話してると、2人が仲間になってくれてほんとによかったと思うよ。2人とこうしてお茶飲みながら話してると楽しいし」

 

「んもう、そないゆーてウチらをたらし込もうおもとるんやろ、この女泣かせ。華雄もまんざらでもなさそうやし」

 

「な、なんでそうなるんだよ!」

 

「し、霞! 怒るぞ!」

 

華雄が赤くなって霞に詰め寄る。

 

このあと、おみやげにこの菓子を買い、のんびり3人で喋りながら市を周り、この日の午後は過ぎていった。

 

 

 

あとがき

 

どうも、黒天です。なんと、お気に入りに入れてくれた人が100人を超えました!

 

すごく嬉しいです。書くのも楽しくてしょうがないのでどんどん書いていきますよー。

 

さて、今回は前回の最後の部分の桂花さん視点と霞&華雄さんの拠点っぽい感じでした。

 

華雄さんが随分と可愛い感じになってしまいました。どうしてこうなった……。

 

ダッチオーブン云々については、

 

『自分視点で普通に思いつくから一刀が思いついてもおかしくない』って感じでかきました。

 

構造が難しいシロモノではなかったはずですし。

 

原作だといつもお金に困ってるイメージがあったんで少し何とかしてあげたかったという所も……。

 

次に、この前ちらっと話した司馬懿さんですが、折角登場するなら早いほうがいいよね!

 

ってことで拠点の途中ですが次回か次々回あたり登場予定です。私の頭のなかでキャラが固まりさえすれば

 

チミっ子枠で、性格の候補としては、寂しがり、年寄り口調、甘えん坊、恥ずかしがり、あたりのいずれかが候補かと思ってます。

 

ツンキャラもありですが今のところ優先度低めかな。詠と桂花どっちかとかぶりそうな気がするし。

 

まだ悩んでるのでこんな性格がいい!っていうのがあれば上記の中でもそのほかでも、コメントしてもらえると嬉しいです。

 

書きやすそう、と思ったのがあれば採用するかもしれません。

 

あと、折角登場するなら出番多いほうがいいよね!

 

ってわけで本郷軍に加入予定。華琳さんとこがどんどん大変なことになっていく……。

 

登場自体反対、っていう人はいませんよね……?

 

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

 

追記:今日ふと思いついて桂花さんの動画見たんですが、虫とか爬虫類嫌いなのは公式みたいですね。

 

これでこの後も安心してネタにできます。

 

追記の2:そういえば登場させるといいつつ司馬懿の真名考えるの忘れてた……。どんなのがいいでしょうね……


 
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