No.61274

生まれし者~闇の剣~

マーマンさん

大切な物を対価に、自分の夢を叶えてもらうと言う都市伝説、黒猫。その伝説は、本当に存在して・・・

2009-03-02 22:51:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:498   閲覧ユーザー数:470

 

その女性は逃げていた。ただひたすら、それから逃げる事だけを考えて走っていた。12時も過ぎた夜道、空は厚い雲に覆われ、月の光は届くことなく、等間隔に並んだ街灯だけが、女性と道を照らしている。

 

しかし、女性の後ろには、後を追う影はない。それでも、女性はただただ逃げていた。女性は、後ろを振り向いた拍子に、道につまずき転んでしまう。すぐに立ち上がろうとしても、足に力が入らず、立ち上がることが出来ない。それは、一歩また一歩、女性に近づいていき・・・

 

「いやぁぁぁぁあ!」

 

女性は、気を失った。

 

 

県立桜葉高校。その名の通り、校舎を挟む様にして桜の木が立ち並び、風が吹くたびに桜の花びらが舞い踊る。しかし、今は美しい花びらは散り、青々とした葉が風と共に揺れていた。

 

放課後になり、少年、木口侑佑はポケットにしまっておいた携帯電話を取り出した。待ち受け画面には、新着メール有り、の表示。メールを開いてみると、侑佑のアルバイト先の店主からだった。

 

至急、店に集合!!! チョコレートも忘れずに!

 

内容を確認し、携帯電話を閉じると、高校の近くにあるコンビニに向かった。侑佑のアルバイト先の店主である、宮島玲は大の甘いもの好きで、週に3回は桜葉高校の近くにあるコンビニに、今回の様に買い物を頼むのだった。

 

「ねぇ、聞いた? また、黒猫が願いを叶えてくれたって、書き込みが」

 

いつも買っているチョコレートを持って、レジに並んでいると、桜葉高校の桜マークのバッチの生徒の話し声が、耳に入ってきた。

 

黒猫、と言うのはこの近辺に存在する都市伝説で、願いと同等の対価を渡すことで、その願いを叶えてもらえると言う、最近ネット上の掲示板で話題になっている。強い願いを持つ者の夢へ黒い猫の姿で現れると言うのが、名前の由来にもなっている。

 

レジで会計を済ませ、侑佑は玲の待つ店へと向かう。

 

 

桜葉高校から徒歩でアルバイト先の店は、15分の場所にある。ちなみに、侑佑の住んでいるアパートは、店から5分の場所に住んでいる。木造造りで2階建ての店(と言っても、働いている者は、店主と侑佑しかいない)は、門から敷地内に入ると、切りそろえられた芝生が生え、広い庭の左手には太い桜の木が風と踊っていた。

 

玄関まで続く石畳を歩きながら、この場所に来ることが当たり前になっている自分に苦笑した。もちろん、アルバイトなのだから通うのは当たり前なのだが、よく辞めずに続けているものだと、自分を褒めたくもなる。

 

侑佑は、チャイムを鳴らさずに両開きの扉を開けた。瞬間、目の前に黒い物体が現れ、次の瞬間、胸に衝撃を感じ気が付くと侑佑は青空を見ていた。

 

「痛ッ・・・玲さん。何なんですか、いったい!?」

 

「えへへ。だって、待ちきれなかったんだもん」

 

「どいて下さい。苦しいです」

 

侑佑のお腹の上でコロコロと笑った少女、宮島玲はゴメンと言ってすぐにどいた。整った顔立ちに、160cm弱と言う小柄な体に、世の女性が羨む様な大きな胸、そして、くびれた腰。童顔の玲は、一見すると侑佑と同い年か、年下に見えるが実際には、侑佑よりも年上の19歳だ。

 

「何言ってんですか、待ちきれなかったのは、このチョコレートでしょ?」

 

「あっ、ばれた?」

 

玲は、肩まで伸びた茶髪の髪を悪びれた様子もなく笑いながら、人差し指でクルクルといじる。玲は、侑佑がコンビニで買ってきたチョコレートを受け取ると、さっさと家の中に入っていった。

 

ふと、コンビニで話していた女子高生の話を思い出した。黒猫、その正体が自分とさほど歳が離れていない玲だと、思う人はいないだろう。もしかしたら、存在自体を信じていない人がほとんどかもしれない。

 

この木造作りの家が、黒猫である玲の活動拠点であり、住まいでもある。侑佑の仕事内容は、玲のアシスタントを主として、玲の代理人として依頼人のもとまで出向き、依頼をこなす事もしばしば。

 

侑佑は、玄関で靴を脱ぐと、フローリングの廊下を歩き始める。廊下の両側には等間隔で、3つずつ両開きの戸が並んでいた。そのうちの1つが、開いているのを侑佑は気づくと中を覗き込む。部屋は、5m四方の畳の部屋で、四つ角には1m弱の高さのロウソク立ての上で、ロウソクがオレンジの炎を発していた。光が一切入り込まないこの部屋には、ロウソクの炎の光だけが部屋を照らしている。この部屋が、玲が他人の夢の中に入り込む場所だった。

 

術者。自分の中の精神力を用いて、科学ではなしえる事の出来ない奇跡を生み出す者の事を言う。始まりは、弥生時代の卑弥呼からとされ、限られた血筋の者にしか扱う事が出来ない。この力を持つ術者が世間に、気づかれる事無く他の人間と変わりなく生活して行けるのも、人の記憶を操る術を持っている為だった。しかし、次第に術者の数も時間が過ぎるたびに減っていき、今では玲を含め、日本では数えられる程までになってしまっている。

 

 

 

 

 

 

 
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