第四話「イストワールとの一日(午前)」
あれから、コウタロウとネプテューヌはプラネテューヌへと戻り、イストワールたちに事の詳細を説明した。説明している時、波動を隠していた事について詳しく聞かれることとなったが、ネプテューヌが理由を話してくれたおかげ、イストワールは納得してくれたもののアイエフはそのことにまだ、納得はできていないようだった。
とりあえず、コウタロウは教会で保護することにし、監視としてイストワールを着けるという形で幕を閉じた。
それから一週間、ただ飯ぐらいをするわけにもいかなかったコウタロウは監視役であるイストワールに何か自分に手伝える仕事は無いかと尋ねる。
そこで、イストワールはここ最近までのネプテューヌがほったらかしにしていた書類整理を任せることにしたのだが・・・・
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「えっと・・・ハードゲーム工場関係の書類はこれとこれで良し・・・あとは公共関係の建築工事の書類か・・・じゃあ、付近の住民に対しての対応マニュアルと現場派遣する際の問題を少なくするために、工事の人員多くとっておくか。となると、他の道路工事関係の人員は4区と3区の人員の何人かを移動させて、舗装工事を行わせよう。となると、交通警備も回さないといけないから、国外の街にある民間警備会社に頼むとするか・・・」
こんな感じで、コウタロウは初めての仕事なのにどんどんとイストワールが教えてきたことを吸収して、すぐさま教えて貰ったこと以上の成果をだしていく。
そんなコウタロウの異常さにネプテューヌとイストワールは驚いて開けてしまった口を閉じることが、出来なくなってしまった。
そんな二人を後目にコウタロウはとんでもないスピードで、溜まっていた書類を的確かつ迅速に処理していく。
「(こ、こうしちゃいられない・・・私も!!)」
真剣に作業しているコウタロウに少しでもいい所を見せたいのか、向かい側の机に座っていたネプテューヌも真剣となって、作業を始める。
そんな行動を取ったネプテューヌにイストワールは驚愕を超えた驚愕を身に感じた。だが、彼女がここまで驚くのも無理はない。彼女の頭の中では、ネプテューヌと仕事は水と油の様に相反するものであったと言っても過言ではなく、ことある事にネプテューヌはイストワールに怒られ続けていたのだ。
それが何だ・・・いつも一緒に居て、彼女のため国のために古今奮闘していた自分がこうもあっさりと崩れていくかの様に消えていったのだ。
それも、たった一日・・否、一時の出来事によって・・・
「(何でしょう・・この感じ、この悔しさ、そして・・・この悲しさ・・)」
今までに感じたことの無い感情に囚われてしまったイストワールは一瞬、どうしていいか、分からなくなってしまった。そんな中、コウタロウは山の如く溜まっていた書類を片づけ、幾つかの書類を纏めてホッチキスで挟むと、その書類を近くに置いてあった茶封筒に入れて、その封筒を手に持ち椅子から立ち上がった。
「じゃあ、書類整理終わったから、外回りに行ってくる。」
「ねぷっ! もう終わったの!? ていうか、外回りだったらそんなに急がなくても・・・」
「いや、ちょっと確認したいこともあるから・・それにこの仕事を続けるんだったら、プラネテューヌの人たちに俺のこと知って貰えるいい機会だし。」
「そ、それはそうだけど・・・」
実直なコウタロウとは裏腹にネプテューヌは仕事が終わった後はコウタロウと一緒に居たかったので、留めることが出来なかった。
そこで、コウタロウは閃いたのか、ネプテューヌも外回りに行かないかと誘うと口にする。
しかし・・・・
「じゃあ、ネプテューヌも一緒に来るか?」
コウタロウの言葉にネプテューヌは一瞬、鈍器か何かに殴られたような衝撃を受けた。彼女の中では、これはデートをするためのビッグチャンスではないのかと・・・
「(このまま、こうちゃんに着いていけば、外回りが終わった後にプラネテューヌを案内するという口実を使ってのデートが出来る!! だけど・・・仕事サボってでもついて行くことがこうちゃんにばれたら・・・)」
もしそんなことがばれて、こうちゃんに嫌われたら・・・そんなマイナスな想像が、ネプテューヌの心を締め付けていく。普段の彼女であったら、親しい相手だろうと身内の者であろうと、いつもの様に自分の思い通りのままに過ごすであろう。
しかし、彼女は恋を知ったことで、今までの考え方が変わってしまったのだ。
そして、ネプテューヌの脳裏にはこの間の出来事が思い出される。戦闘で大きく足を引っ張ってしまった上、最後の最後まで、彼に迷惑を掛けてしまったこと。そんな事があったのに仕事をしょっちゅうサボってしまうことが彼に知れれば、嫌われてしまうかもしれない・・・そういったアンニュイな考えが彼女の頭の中で、繰り返しに流れてきた。
「い、いいよ・・・私はまだ書類整理してるから・・いーすんと行ってきて・・・」
コウタロウの誘いを惜しみながらも、嫌われないため、そして生まれ変わるため、ネプテューヌは否定の返事をした。その返事にコウタロウは少し残念そうにしながら「そうか・・」と言って、部屋の扉の前に立つ。
「じゃあ、行ってくる。出来るだけ、早めに戻って来るから。」
「うんっ♪ じゃあ、急いで終わらせて、お昼は外で食べようよ♪」
「俺は良いけど・・・イストワールはどうする?」
「え、私もそれで良いですけど・・」
「じゃあ、決まりだね! それじゃあ、とっとと終わらせちゃおっと♪」
一緒に食事に行けることに喜んだネプテューヌは一気にやる気を出して、残った仕事に取り掛かる。
それを見て、コウタロウは小さく微笑み、部屋を出ていった。しかし、イストワールも彼に続いて部屋で行こうとした時、チラッと嬉しそうに仕事をしているネプテューヌは見て、胸が少し痛むのを感じてしまう。
それから、教会を出た二人はソフトの制作会社へいき、ソフトの開発状況を視察しに行くことにした。
そして会社へ向かう道中、二人はこれから行くソフト会社のことついて話し合っていた。
「でも、コウタロウさん。どうしてソフトの視察に行くんですか? 報告書からだと、ハード会社の方を優先した方が良いのでは?」
「それもそうだけど、ここ最近のソフトの売れ行きを見ていたら、若干少しずつだけど、他国からのソフトに少しずつ客層を持っていかれているから、今回出すソフトの企画書が出来たっていうから、ちょっと目を通しておいた方が良いかなって・・」
「でも、そういったことはネプテューヌさんの方がむいているんじゃ・・」
「確かにそうだけど、おれも教会職員の端くれだから、仕事として、国民としてこの国のゲームを知っておいた方が良いと思ったんだ。それにこの間の戦いでちょっと、記憶が戻ったみたいなんだ。」
「戻ったって・・・そんな大事なことをどうして黙っていたんですか!!」
「ごめん・・・ただ、ちょっと・・」
「ただ・・・何ですか・・!」
口を濁らせるように喋るコウタロウにイストワールは先ほどのこともあってか、辛く当ていく。
「いや・・・これは後で話させて貰って良いか・・・」
「何か言えない理由でもあるんですか・・・」
「・・・すまない・・・」
「・・・・・・・・・」
そう言って、コウタロウは苦痛に歪んだ表情で、イストワールに謝罪する。
そんな彼を見てか、イストワールは何も言えなくなった。
それから、二人は雰囲気的にも会話をせずにプラネテューヌが管理しているソフト会社へと着いた。
「ここが・・・会社です。じゃあ、入りましょう・・・」
「ああ・・・んっ!!!??」
イストワールの冷めた声によって会社の中へと案内されるコウタロウ。入口の自動ドアが開いて、イストワールに続き中へ入ろうした時、コウタロウは何かを感じ取ったのか、体を180度方向転換して、後ろに振り返る。しかし、視界に映ったのは、平和そうに街を歩いている人々の姿であった。
「(おかしい・・・今、誰かが俺を見ていた様な・・・気のせいか・・)」
そう頭で考えながらも、気のせいだと判断し、先に中へ入っていったイストワールの元へと歩いて行った。
『・・・・・・・・・・・・』
その時誰も(・・・)コウタロウを見てはいなかった。
それから、会社の中へと入っていったイストワールたちは、ソフトウェア開発部署の署長に会っていた。
「お久しぶりです。イストワール様。」
「いえ、こちらこそ突然、視察に来てしまいまして申し訳ありません。」
「いえいえ、教祖イストワール様が態々足をお運びになられたのですから、当然です。」
そう言って、署長と呼ばれる30代くらいの男性はホンワリとした笑顔で返事を返す。
「ところで、今日はいったい何の御用で要らしたんですか?」
「今日は次に発売する予定のゲームの企画書が出来たというので、ちょっと様子見に来ました。」
「そうでしたか。では、少しお待ちになって下さい。」
署長はそう言って、自分の机の引き出しから書類を取り出し、それをイストワールに手渡す。
書類を手渡されたイストワールは軽く流すかの様に見ていく。そして、コウタロウはその内容を後ろから覗く様に見る。その様子を見た署長はコウタロウが誰なのかを尋ねる。
「あの~~君はどちらさんで・・・?」
「ああ、失礼。実は先日からイストワールの部下をやらせて貰っている者だ。」
「そうですか。では、もう一つ書類がありますので、そちらをご覧になって下さい。」
「ありがとう。たすかるよ。」
そう言って、コウタロウは署長の好意に甘え、もう一つの書類を受け取る。
書類を受け取ったコウタロウはそれを目の色が変わったかのようにマジマジと書類を確認する。
「(この男の目・・先ほどまでのやさしい目ではない・・何奴)」
「(このおっさん、急に目つきが変わった。さすがこの国のソフトウェアを担っているだけはある。例えるなら、このおっさんにはオーラがある・・・)」
企画書の書類を読むコウタロウ、それを見る署長、二人の間にはコウタロウの行動によって、空気が変わった。周りからもその空気を感じ取ったのか、何人かの人たちが二人の様子をそっと見守る。
そして、その隣に居たイストワールはその様子に気づいたのか、持っていた企画書を床に落としそうになってしまった。
「(い、いつの間にこんな空気に・・・)」
そして、しばらくの間、神妙な空気が続いた中、コウタロウは書類を読み終わらせ、書類を目の前に立っていた署長に返した。
それを受け取った署長は沈黙の姿勢を取りながら、目で目を見るという行為によって、感想をコウタロウから求めた。
「・・・題材はRPGで、内容はどこかシリアス差を重視して、年代を意識したとするなら十代後半から三十代・・いや、四十代を狙ったストーリー設定でした。ゲームのポティシャルも中々・・・だけど・・・・この画がゲームの世界観とマッチしてない所為で、シリアス差を大きく踏み潰している。」
「!!!!!」
『なっ!!!!』
コウタロウの一言に社のみんなとイストワールは絶句した。まさか、コウタロウがはっきりとここまで、物を言う性格であったとは思わず、しかもそれを開発部署 署長の目の前で啖呵を切ったのだ。
そんな中、署長である飯嶋 敬はコウタロウの言った一言に驚愕していた。コウタロウが言ったさっきの内容は署長自らも、心のどこかで・・・否、このゲームの企画書が完成してから、ずっと気になっていたことだった。そんな署長の僅かな心残りをこの男は気が付き、そして指摘してきた。
その時、飯嶋の中では二つの感情が沸き起こった。一つは自身の考えに付いて来れる奴が現れたことと、自分の考えよりも良い案を出せるのか? という劣等感であった。
その表情を見て、感情を読み取ったのか、コウタロウは自身が持っていた書類を署長に向かって、無言で手渡した。
署長はその書類に書かれていたタイトルを読み、次々に書類を捲ってき、内容に目を凝らしていく。
「タイトルは虎龍の花道・・・ストーリーは・・・なるほど、ゴクドウと呼ばれる裏社会の首領の跡取りとして引き取られた学生が主人公で・・・次々と起きる事件に巻き込まれる体質、そし救いようの無いほどのお人よし・・・設定は・・・あえてリアルに・・画もこういったデザインなら・・・作品にもピッタリだ・・・ゲームシステムも物語を重視しているかと思ったら、アクションバトルも初心者から玄人まで、深く遊べる様に凝ってある・・・そして、何よりすごいのが女神の居ない世界がどういった所なのかを忠実に再現している・・・こいつは・・・ヤバいぜ!!!」
署長はそう叫ぶと書類にしわが付くほどの力で、武者震いをする。周りの社員やイストワールはその様子を見て、何事か・・!? といった様子で見ている。一人を除いて・・
「・・・君・・いや、お前・・・名前は・・・?」
「剣崎・・・剣崎虎熊龍狼・・・」
「そうか・・・いい名だ・・・気に入った!! イストワール様、この男、どうかこちらで働かせてもらっても宜しいでしょうか?」
「は・・・ええ! ちょ、ちょっと待ってください!! そんな事急に言われても困ります!」
「お願いします!! せめて、シナリオライターとしてでも、是非に!!」
「あわわ~~~、ですから、おちついてくださ~~~~~い!!!!」
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遅くなって申し訳ありませんぜした。
少し、京都に旅行に行くので準備していら、遅れました。
今回はイストワールのお話の前編です。