No.612060

アニネプDD!第二話 【マジェコンヌの兇刃(カニバリスト)】

【Caution!Caution!Caution!Caution!】
今回、作者と協力者の悪乗りによりR-18Gレベルの表現が含まれております。ロムとラムが好きな人は確実に気分が悪くなると思われるのでこの警告を見たら即座にブラウザバックを推奨します。
正直すまんかった
【注意ここまで】

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2013-08-24 20:41:07 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:2733   閲覧ユーザー数:2618

~ルウィー 市街一角 トナカイ車~

「ルウィー……初めて来たよ……」

 

雪降る白の国ルウィーのメインストリート。トナカイが引くトナカイ車の中でネプギアは珍しくはしゃいでいた。

傍目からすればちっともそうは見えないが少なくとも普段のネプギアをよくしるネプテューヌから見れば大ハッスルに値するほどにははしゃいでいる。席に膝を付き外を眺めていることからもわかる。ただし表情はちっとも変わっていないのだが。

 

「ネプギアが行きたそうな空気かもし出してたからねー、ぬふふーん♪」

 

そのネプギアの様子をみて上機嫌のネプテューヌ。彼女が上機嫌じゃない時の方が珍しいかもしれないが上機嫌。

互いに喜ぶのをみて嬉しそうな姉妹。感情表現は正反対だが姉妹だけあって通じ合うものはあったようだ。

 

「ロムちゃんとラムちゃんが遊びに来てほしい、といっていたみたいなの。ブランさんはまだ子供だから他の国に行くの許してくれないらしくて」

「あー、ブランあのへんカッタい部分あるもんねー。そんなことしてるとーノワールみたいにボッチになっちゃったりー、胸が堅いまま成長しなくなっちゃうのにねー!」

 

「本人を目の前にしてよくそんなこと言えるわねアンタ…てか誰がボッチよ」

 

散々言い放つネプテューヌの真正面で額に青筋を浮かべるノワール。その隣ではユニが冷や汗をかいており何時爆発するかもわからない状態になっていた。

が、それも気にすることなくネプテューヌは続ける。

 

「まぁまぁ。それに面と向かっていったほうが自分を変えるきっかけになるよー?」

「不真面目駄女神に言われたくないわよ!……あ、そうだ。面と向かって言った方がいいのよね……?」

 

突如悪い顔をするノワール。そして何かを察したユニとネプギア。ネプテューヌだけが多少の嫌な予感を感じながら聞き返す。何かミスったか、ノワールに弱みを取られるようなことをしてしまったのか。そう自分の発言を反芻する。

そして――――――その発言があった。

 

「ブランの胸が堅いまま成長しない……だったかしら」

「ねぷぎゃあああああああああ!!!ノワール様それだけはお願い!マジ勘弁して!わたしまだ死にたくなーい!」

「恨むんなら安易な発言と言い逃れした自らを恨むことね!」

「マジすいませんでしたノワールさまァ!」

 

四人しかいないとはいえ公共の乗り物の中で土下座するネプテューヌ。狭い中でも器用に小さい身体をはめ込むように土下座する様はなかなかにシュール。

 

「……(どうします?)」

「……(あたしたちがどうかできるもんじゃないわ)」

「……(でしょうね)」

 

姉二人を余所に目で会話する妹二人。そして土下座するネプテューヌの背中を踏みつけるノワール。

さらにシュールさが増した車内を気にしないように、笑わないように耐えながら御者はトナカイを走らせ、ルウィー市街の中を駆けた。

~ルウィー教会内部~

教会……というより城のような形のルウィーの教会。

(女神の大きさとは反して)かなり広々とした教会の中、悪戯好きな女神候補生が二人もいるため見た目の厳格さからは想像もできないほどににぎやか……というより騒がしい教会だった。

 

「いやっほーぅ!!」「わーい……」

 

騒ぎ飛び跳ねながら走り回る二人の少女……というよりは幼女。

大きい声で前を走る妹【ホワイトシスター・ラム】と小声で後につく姉【ホワイトシスター・ロム】。双子の女神候補生は本日も教会内で働く侍女に色々と悪戯を仕掛けていた。現在は悪戯に成功しその侍女から逃げている状態のようだ。

 

「ロム様、ラム様ー!今日という今日は許しませんからねー!」

 

二人ほどではないが小柄の侍女が二人のあとを追いかけ走る。

だが小さくすばしっこい二人との距離は縮まらず時折二人同時に止まって「べー!」と挑発しながらも未だ捕まえるには至っていなかった。

幼いとはいえ一応種族女神の双子も見た目より体力はあり、それを毎日のように追いかける侍女。月日がたつにつれて鍛えられた持久力が結果徐々に追いかけっこの時間が延びることに。

双子は喜んでいるからともかく侍女としてはたまったものではない

 

「お待ちなさあああい!!」

「いーやー!」

 

「ロム様ー!ラム様ー!!」

「逃げるー……」

 

右に追えばば左に逃げ左に追えば右に逃げと侍女の手をすり抜けるように逃げ回る双子。

今日もまた逃げられるのかと侍女が諦めかけた瞬間。

 

『う  る  っ  せ  ぇ  え  え  え  !  !』

 

ズガァン!という最早破裂・爆発のような音を立てて近くの巨大な扉が勢いよく開かれた。

そこから現れたのはこの国、ルウィーの守護女神【ホワイトハート・ブラン】。

目が紅く光り、「ふしゅるる」とおおよそ人型の生物が出すようなものじゃない息を吐きながらブランは双子と侍女の三人を睨んだ。

 

「おいテメェら、仕事中は静かにしろっつったよな……」

「も、申し訳ございません!」

「あ、お姉ちゃん…」「お姉ちゃん!みてみてー!」

 

大きく頭を下げる侍女をスルーして双子がブランの元に駆け寄り一冊の本を渡す。

表紙に【クリスティアン漂流記】と書かれたその本はブランのお気に入りの小説のひとつだった。

悪戯好きの妹達が、自分で読むわけも無く、自らに渡す。

この時点で嫌な予感しかしていないブランだが、今からではどうにでもならないと諦めてその本を開いた。

 

「なっ………こ、れ、は………」

 

ブランは絶句した。

小説のページにでかでかとブランらしき似顔絵がクレヨンで描かれていたのだ。隣のページにもでかでかと全体を使うように鰐の絵が描かれている。

色の濃いものを多く使われたそれはもう一部埋まり断片的にしか読めなくなってしまっている。

反応をいまかいまかと待つ双子にブランは声を震わせながら聞いた。

 

「おい……コレは、なんだ……」

「おねえちゃんの似顔絵!」「ラムちゃんとかいたの……」

 

えへへ、とはにかむ双子。その様子をみてブランは、弾けた。

 

「オレの大事な本に………テメェラァァァァ!!!」

「おこったー!」「逃げるー……」

 

完全にキレたブランを見て楽しそうに逃げ始める双子。

愛用のハンマーまで持ち出して追いかける辺り完全に容赦がなくなっている。

 

「待ちやがれェェェ!今回ばっかりはマジ許さネェからなァ!」

「わーい!」「わー……」

 

完全に侍女を置いてけぼりにして走り去るルウィーの女神姉妹。

呆然とする侍女に背後から突然声がかかった。

 

「相変わらずですわね、あの子達は」

 

侍女が振り返ると、そこにはリーンボックスの女神【グリーンハート・ベール】が佇んでいた。

慌てて姿勢を正そうとしたら「そのままで結構」ととめられ、とりあえず向きなおす。するとベールは三人が走り去っていった方向を見て話し始めた。

 

「ブランを気遣ってのことなのでしょうが……少し踏み込みすぎかもしれませんわね。ご苦労、お察ししますわ」

「い、いえ!」

「………ああ、ごめんなさい。引き止めちゃったかもしれませんわね。お仕事に戻ってくださる?」

「は、はひっ!失礼します!」

 

噛み噛みのまま慌てて走り去る侍女。

ソレを見てからベールは少しだけ表情を暗くした。

 

「……何でしょう、この不快感は」

 

誰もいない通路でベールが一人呟く。

ぞわぞわしたなんとも言えない不快な何か。それを感じ取ったからブランの後に出てみればいるのは侍女だけ。さすればあれが原因かと思っても唯の侍女にしか見えず。

杞憂だったのか、とため息をはき戻ろうとすると―――

 

「あ!ベールもいた!ベールー!」

 

妙に聞き覚えのある明るい声が聞こえた。

声の方向を向くと、ブランたちが走り去っていった方向からブランたち三姉妹に加えプラネテューヌとラステイションの姉妹が追加されて向かってきていた。

誰が図ったことかはわからないがここに友好条約式典以来ゲイムギョウ界に存在する全ての女神が集合したのだ。

~ルウィー教会 内部庭園~

通路で立ち話も、ということで教会内にある庭園にやってきた一行。

姉四人は丸いテーブルを囲みお茶をし、妹四人は少し離れた場所で遊んで(意味深)いる。

ラステイションのものに決して見劣りしない庭園にユニとネプギアは(わかりにくいが)喜んでいた。

 

「まぁそれでね、ルウィーに新しいテーマパークが出来たって聞いたからね。ノワールと妹達連れて遊びにきたのSA!」

「…イストワールから『ウチの駄女神共に女神の心得を教えてやってください』とは聞いているわ」

「ああ、それはいいよ。どうせ大して役に立たないし」「悪かったわね」

「テーマパークの噂は聞いていますわ。この際ですし、皆で遊びに行くのもいいのでは『バシュン』……」

 

ベールが言い切る直前、全員の眼前を【何か】が通っていった。

目視しづらく、高速で一直線に飛ぶことができ、さらにこの場に存在しえるもの……。四人揃って妹達の方向を見た瞬間、全員が察した。

 

「ごめん姉さん!ちょっと手首が曲がりすぎちゃって…」

「動きに色々つけるのはいいですけどそうして誤射してはかっこよさもなにもないですね」

 

その方向に立っていたのはユニとネプギア。互いに愛用の武器を持っているが、ユニの持つ銃からは硝煙が立っている。

ふとベールが反対方向を向くと柱に弾痕がついていた。間違いなくユニの放った銃弾だ。

 

「ユニー!軽々しく人のいるところでそれやらないって言ったでしょ!」

「ごめんなさいー!!今日こそはできると思っててー!」

「それで軽々しく出来たら練習はいらないのよ!!」

 

ノワールの説教が始まったところで、空いた席に興がそがれたように詰まらなそうな表情のネプギアが座る。

ユニは雪の上で正座してノワールの(長くなりそうな)説教を聴かされている。若干かわいそうに思ったネプギアだがスルー。

 

「さて、話を戻しますが。ルウィーのテーマパーク、確かスーパーニテールランドでしたか。折角揃っているのですから全員で行ってみるのはどうでしょう!」

「あ、いきたいいきたい!」「いきたい……わくわく」

 

ラステイション姉妹を気にしないことにして提案したベールに真っ先に食いついたのはロムとラム。子供らしく楽しみにしている表情を見てブランが少しだけ表情を暗くした。

「なにーどうしたの?もしかしてあの日?」と聞こうとしたネプテューヌを殴り飛ばし、考え込んだ後にブランは言い出した。

 

「妹達を連れて行ってもらえるかしら」

「ねっぷん……ブランはー?え、もしかして本当に「もう一回殴られてぇかテメェ」アッハイすいません」

「…私は、少し、用事があるから…いけない」

 

妙に歯切れの悪いブランに疑いを眼差しを向けるネプテューヌとネプギア(というよりベール以外全員)。

だがブランはバン、と机を叩きながら立ち上がり、有無を言わせぬまま「私は、いけない」ともう一度言い瀬を向け去っていった。

 

「なんだったんだろうねーブラン。妙に機嫌悪かったけど」

「お姉ちゃんのセクハラが一端を担ってそうだけどね」

「えー。あんなのただのジョークだよーねぷ子さんジョークー」

 

「なんにせよ、ブランの許可は下りているのですから。ロム、ラム。あなたたちはどうします?」

「いくー!」「いく………」

「わかりました。ネプテューヌのほうは……まぁいうまでもないでしょう。ノワール」

 

双子、そしてプラネテューヌ姉妹の協力を取り付けたところでベールはいまだ説教中のノワールに声をかける。

が、聞こえていないようだ。延々と女神とはなんたるか、守護とはなんたるかをユニに説教しており、なんだかんだで生真面目なユニも大人しくソレを聞いている。

あれではいつ終わるのか判らない、というわけでベールが決行した計画。それが―――

 

「ノワール?皆テーマパークに行くようですがどうします?」

「この説教が終わったら行くわ」

「誰への説教でしょうか?」

「そりゃユニ………って、え?」

 

ベールに一瞬気を取られ目をそらした隙に、ユニの姿が消えていた。

それどころかベールと共にいたはずのプラネテューヌ姉妹+双子すら消えている。

どういうことか、と困惑するノワールにベールは笑顔でこういった。

 

「もう皆出発しましたわ?」

「………」

 

置いていかれたことに呆然とするノワール。

相変わらずですわね、と零しながら放心状態のノワールの手を引いて先に出発した一行の後を追った。

~ルウィー市街 スーパーニテールランド~

ここ最近オープンしたテーマパーク、それがスーパーニテールランド。ルウィーの有名なコミック(ゲームが先だが)、スーパーニテールブラザーズを題材にしたテーマパークで、原作のコミック、ゲームを元にドット絵のような風景が広がっている。ところどころ空中にモンスターの絵柄のついたコインも浮いており、小さい子供が目当ての絵柄を取ろうと躍起になっているという光景もあった。

 

「わーい!」「わーい……」

 

そしてその【子供】の範疇にはこの双子、ロムとラムもばっちり納まっていた。

到着したと同時に我先にと走り出しあっちこっちのコインを見定め始めている。

 

「へー、あのコミックあんまり読んでなかったけどこんなに人気なのねー」

「ルウィーでは一番人気らしいですよ。それそのものを題材としているんですから。まるでどこかのネズミみたいですね」

 

そしてロムとラムを追いかけながらテーマパークのパンフレット両手に話し込むユニとネプギア。

表情は相変わらずだが二人とも楽しんでいるというのが見て取れた。

 

「なんだか引率の先生の気分ですわ」

「せんせー!バナナはおやつに「入りませんわよ?」ねぷ~ん……」

「え、もしかして私も児童扱い?」

 

そしてそのユニとネプギアを微笑ましく見守る四女神-1。

長身のベールにとってはノワールすら子供扱いでネプテューヌとノワールの手を引いている辺り恐らくロムとラムに次いでこのテーマパークを楽しむつもりなのだろう。

つれられる二人もそこまで悪い気はしていなかった。

 

「しっかしまー、なーんでブランはこないかなー。ロムちゃんとラムちゃんのあの楽しそうな姿見たくないのかなー」

「不思議な点はいくつかあるのだけどね……」

「本人がいかないと言っていたのですから詮索するのは野暮というものですわ。ソレを考えるくらいなら、あの二人から目を放さないようにするのがブランのためだと思いますわ」

「まぁ、ネプギアとユニちゃんもいるし大丈夫だとは思うけどねー」

「いや、寧ろ安心できないから」

 

手頃な位置にあるベンチに手頃な値段のアイスクリームを揃って買って舐めて妹達を見守る女神三人。

正体を知る人がいたらかなりシュールな光景だ。

 

「そういえばさ、ノワールってソフトクリーム何派?やっぱ黒の女神だから黒ゴマ?」

「その理屈ならあんたサツマイモだけどいいの?」

「ねぷ子さんは好き嫌いしない清い子なのねぷ!」

「何派の話なのに好き嫌い関係ないでしょ!私はバニラ派よ!」

「あ、わたくしはバナナ派ですわ」

「髪色!やはり髪色が関係しているの!?わたしは永遠の紫!つまり……!?」

 

((やっぱりサツマイモなんだ))

 

三人がソフトクリーム談義で盛り上がっている頃、妹四人はというと。

何故かネプギアとユニまで混じってコイン集めに精を出していた。

 

「スライヌ、ネコリス、ダイコンダー……」

「シーボーイ、シーガール、ベーダー……」

「馬鳥、スパイダー、カブリカエル……」

「チューリップ、テリトスとドカーン……あーもう!全然いいのみつからない!」

 

四人の持つ大量のコイン。

古今東西様々なモンスターが描かれたものだが、レアに当たる【異常種】が描かれたものは一枚もなかった。

モンスターの中でも特に危険なものを【異常種】としさらにそこから【ドラゴン種】【フェンリル種】【ドルフィン種】の三つに分けられ、前回ネプテューヌとノワールに退治されたエンシェントドラゴンもドラゴン種にあたる。

このスーパーニテールランドにあるモンスターコイン。古今東西なので勿論異常種のモンスターが描かれているもののどこかに隠されていたりしていてそう見つかるものではなかった。

現にネプギアが跳びまわって(比喩ではない)集めたのも空中に浮いているという比較的見つけやすいものだったためかレアものではなかったのだ。

 

「はー……」

「案外疲れるものですね、こういうの」

「全然そう見えない……」

「はふ………」

 

四人揃って近くにあった土管に腰掛け真上を見上げると、どこまでも広がる青い空と点在する金色のコインが視界にはいる。

一人だけ平然な顔しているが全員結構疲れており、結構息も荒い。

子供とはいえ走り回ると体力を使うのだ。回復も早いのだが。

 

「そこまでしてブランさんにレアモノをお土産にしたいんですか?」

「……お姉ちゃんは、いじわる」「でも、わたしたちの大好きなお姉ちゃん!」

「子供らしい姉妹愛ね……」

「ユニちゃん、嫉妬が漏れ出てます」

 

心なしか目が緑色になりかけているユニを余所に、ネプギアがふともう一度空を見上げる。

すると、新しくコインが空中に現れるのを目にした。しかも心なしか他のより光って見える。

手を翳しそのコインまで続く足場を出現させる。女神がよく使う一時的な円形の足場だ。

 

トン、トンと跳び移っていき中に浮かぶコインを手に取る。

そこには今にも吠え出しそうな勇ましい龍の顔が描かれていた。ネプギアはそこまで詳しくないのだがとにかくドラゴン種なのは間違いないとし、降りてロムとラムに見せた。

 

「これ……デッテリュー!?」「わーい……!」

 

おめがねに適ったらしく諸手を上げて喜ぶ双子。どういうことかとネプギアは思ったがユニからの「最上級のレアものなのよ」という補足を受け納得。それなら確かにお土産には上等だ。

 

「ありがとう…ネプギアちゃん…」「ありがとうネプギア!」

「どういたしまして」

「……ねぇ。アレ、どう思う?」

 

ユニが指差した方向を全員が向く。

そこには、ネプギアが取ったデッテリューの絵柄の入ったコインがずらーっと並び、裏路地のほうに続いていた。

最上級レアコインが大量に並んでいるというあからさま過ぎる光景となっていた。

 

「デッテリューのコインがあんなに沢山!」「おみやげ……」

「いや、怪しすぎでしょう」

「確か、ここのコインって全部ランダム生成だから………可能性としては…うん、やっぱない」

「でもあるんだからとらなきゃ!」「いっぱい……」

 

先ほどまでの疲れもなんのそのとばかりに双子揃ってコインの道をなぞり始める。

全てが小さな二人でも取れる高度に浮いているのもあり嬉しそうに回収していっている。

 

「……どう思う?」

「あからさま過ぎて逆に罠ではないと思います」

「いや、普通に罠でしょ。……罠ってさ、何の罠?」

「恐らくロムちゃんとラムちゃんを狙った………あ」

 

二人が気付いた時には既に遅く、ロムとラムの姿が見えなくなっていた。

丁寧に全て回収していたのかデッテリューコインも視界内には一枚もなくなっている。まさかあのあからさまな罠に引っかかるとは、とネプギアも流石に呆れていた。

 

「ユニちゃん、お姉ちゃん達に連絡を。私はロムちゃん達を探します」

「了解。犯人がどんなのかはわかんないけど気をつけてよね!」

 

ネプギアはユニが走り出した方向とは真逆、ロム達が行った(はず)の方向に向かい階段のように円形の足場を疎らに作り飛び移る。そして近場にあった建物の屋根に乗り走り始めた。

 

「一体どこに………っ」

 

突然ネプギアが脚を止める。

ネプギアの眼前には自分の位置からまるで道案内をしているかのようにデッテリュー模様のコインが並んでいた。すぐに建物の影に隠れているが、裏路地の方に続いているようだ。

自分まで誘っている。即座にそう理解し、ネプギアがとった行動。それは―――

 

「上等です……」

 

その誘いに、乗ることだった。

屋根を走り屋根から屋根へ飛び移りコインが示す道を追いかけるように進んでいく。

 

一番端の建物から飛び降り、テーマパークの端ともいえる辺りでコインの道は途切れていた。

盛大な音を立てて着地し、辺りを見渡した時、ロムとラムの姿があった。ただし、捕らわれた姿で。

 

「げっ、もうきやがった!どうするんすかトリック様、最優が相手じゃあちと厳しいっすよ!」

 

そこにいたのは黄色い巨大なぬいぐるみと、鼠柄のコートを来た女性。そしてぬいぐるみの両手に抱えるように捕らわれたロムとラム。大きな手で口ごと覆われ悲鳴すら出せない状態のようだ。

女性のほうがぬいぐるみに慌てた様子で話しかけると、ぬいぐるみは『アクククク』と男女の声が混じったような機械音声で笑い、その後ネプギアに話しかけた。

 

『汝、最優の女神候補生パープルシスターに相違ないな?』

「……だったら、なんだっていうんですか。」

 

ネプギアも剣を出現させぬいぐるみに剣先を向ける。「うおっ!?」と驚く女性を余所にぬいぐるみは面白そうに笑い揺れている。挑発されていると感じ取ったネプギアは表情を暗いものにした。

 

『シツレイ。我輩の名はトリック・ザ・ハード、しがない犯罪者をしている』

「……私を呼び寄せた理由はなんですか。ここであなたが殺されないとでも思っているのですか?」

『一つずつ答えるなら……誘拐の証人が必要でね。汝ら女神候補生のどちらかに目撃されなければならなかった。そして汝は我輩らを見逃さなければならない。なぜなら汝は我輩を殺せないからだ。ほうれ』

 

トリックと名乗るぬいぐるみはロムとラムを盾にするように前に突き出した。

正しく人質。腕の稼動範囲がどのようなものであろうと即座に盾にする自信があるのだろう、とネプギアは思った。

その結果、剣はしまわず構えたまま、トリックのハナシを聞くことにした。

 

『さて、我輩は汝ら女神に対しゲームを申し込む。拒否するのは自由だが…幼女がどうなるかはわからんなぁ。我輩は幼女が大好きなのだ』

「………ルールは」

『期限は今日より2日間。我輩達を見つけ、幼女達を無事取り返せば汝らの勝ちだ。そちらは四女神と候補生二人の六人で構わんよ?』

「……それだけですか?」

『まぁ、追加のゲームがないとはいえんなぁ。まぁ精々気張るがよいぞ、我輩はかくれんぼが得意なのでな。では失礼させてもらおうか……そぉれっ』

 

突然トリックが長く大きい舌を伸ばしネプギアを襲う。

咄嗟に手に持つ剣で受け止めると「ガキィン」という金属音が響き、ネプギアの体が弾き飛ばされる。

すぐに足元に足場を生成して着地。向きなおすと既にトリック達の姿はなく、代わりに一枚の紙が置かれていた。

怪しみながらもそれを手に取り、読み始めた。

 

【ルール】

【我輩の勝利条件:二日間幼女二人を護りきる 女神の勝利条件:二日以内に幼女を奪い取る

ゲーム期間:現在より二日間 ゲーム範囲:ルウィー市街内のみとする

ゲーム参加者:トリック・ザ・ハード、リンダ、ネプテューヌ、ネプギア、ノワール、ユニ、ブラン、ベール

以上8名以外のこのゲームへの干渉を禁じる。これを破った場合、敵対するチームの勝利とする。】

 

「……上等、ですよ」

 

一人残ったネプギアが、かすかに呟いた。

~ルウィー教会内 庭園~

「わざわざ女神全員を名指しで呼びつける……ですか」

 

ロムとラムがいなくなりテーマパークに行く前より静かになった庭園。

ブランを除いた女神全員でトリックが残したルールの書かれた紙を置かれたテーブルを囲んでいた。

流石に誘拐という事態だけあって不真面目なネプテューヌもそれなりに真面目顔だ。

 

「相当な自信があるみたいね。少なくとも四女神全員を一気に相手するほどには」

「全ての女神が一同に介しているこのタイミングで実行したことからもよくわかりますわ」

「で、そのトリック…なんだっけ?そいつを見つけてバーン!してロムちゃんとラムちゃんを取り返せばいいんだよね?」

「追加のゲームもあるかもしれない、と言っていました」

 

この場にブランの姿はない。

誘拐がした後、すぐに執務室の前に侍女を配置し執務室に閉じこもってしまった。

ネプテューヌが何を言っても「帰って」の一点張り。仕方なくブラン以外の五人の会議となっている。

 

「ブランも素直じゃないよねー。そもそも素直じゃないのはノワールの専売「殴るわよ?」すいません」

「…そういえば、シェア探知は?あの二人でも残留シェアぐらいあると思うけど」

「ブランがあの様子だし、教祖ミナも見当たらない。望み薄ね」

「いい手だと思ったんだけど………」

 

ユニが挙げた方法、シェア探知。

女神は人間とは違い血液の代わりに(というわけでもないが)シェアエナジーで存在、生存、行動している。

残留シェアというのは言わば足跡や血痕のようなもので探そうと思えばゲイムギョウ界内でなら女神の居場所を探知できる、というもの。

ただしそんな大層なものであるが故極秘、存在を知るのも教祖・女神・女神候補生ぐらいだろう。そしてさらに権限があるのは女神と教祖。各国に二人しか存在しない。

とはいっても当の守護女神であるブランは執務室に篭り、教祖ミナも慌ててそれどころではない様子。結果、ユニの案は却下されてしまった。

 

「ネプギアのいうトリック・ザ・ハードの姿を考えると、潜伏しようにも移動で相当目立つはずですわ。…何か痕跡は探し出せないでしょうか?」

「目立ちはしていましたが……少しだけですが浮いていました。なのでそういった痕跡は見出せないでしょう。聞き込みでもすれば一発……と思いたいですがあちらがルール違反と取る可能性があります」

「問題はそれだよねー……。私達だけで探し出して助け出すってのも結構な無茶振りだよー?」

「だからこそ、ゲームとして挑んできたわけでしょ。私達の追跡を逃れる算段がある、または私達一度に相手する自信がある、ってわけね」

「前者であってほしいわ………ん?あれ、ブラン……さん、よね?」

 

全員が頭を抱えたところに、ユニが突然あらぬ方向を指差す。

全員がその方を向くと、窓の奥にブランの姿が見えた。執務室の窓なのだろう。

問題はそれに詰め寄るような動きをしている髪以外ピンク姿の少女(身長的には幼女に分類されるかもしれない)だった。

 

「あのピンク色………もしかして!セットアップ!」

 

その幼女を見た途端ネプテューヌが立ち上がり、突如女神化。先ほどの執務室の扉の方に低空飛行し始めた。

 

「ちょ、ネプテューヌ!?」

「皆急いで!はやくしないとブランが危ない!」

 

柄にも無く妙に焦っているネプテューヌに困惑しながらも、全員でネプテューヌを追いかけた。女神化はしていないので見失いかけていたが。

~数分前 執務室~

「ロム……ラム……」

 

体育館かと思うほどに広い執務室の中央で、ブランは執務用の椅子に座り執務用のパソコンが置かれている机に突っ伏して呟いた。

自分がついていけなかったから、ロムとラムが浚われた。そんな自己嫌悪が自分を覆い尽くしていくのがよくわかっていた。だから、全く動けない。

そんな時、隣から妙なエフェクトつきの声が聞こえた。

 

『我ながら随分と情けねェ姿だなぁ……』

「………」

 

突然聞こえた【自分の声】に反応し、その方向を見る。

すると、半透明のブランが呆れたような表情で突っ伏したブランを見ていた。

『はーぁ』と露骨なため息まで追加している。

 

「……何の用なの」

『恩のある宿主様と可愛い義妹がピンチだから一肌脱ごうってだけだよ』

「…いらないわ、ロムとラムは私が助ける」

『女神仲間の連中とロクに話もしなかったじゃねぇか』

「うるさい……」

 

ブランの周りを笑いながらぐるぐると飛び回る半透明ブラン。

自分の姿をして自分の声をしているだけあって余計不快感が募っている。

その中でも必死に考え、直後思い至った瞬間のことだった。

 

「そうだ、アレを―――」

 

『ガ   ラ   ッ   !   !   !』

 

突然、謎の大声と共に執務室の扉が開かれた。

同時に部屋の外からフラッシュが焚かれ『やべっ』と言い残し半透明ブランが姿を消す。

そしてフラッシュを背に一人の髪以外ピンクの幼女と黒子のような風貌をしマイクやカメラを手に持った人間二人が走りこんできた。

 

「誰……?」

「わたしはアブネス!!幼年幼女の味方よ!!!」

 

ビシィ!と効果音がなりそうな勢いでブランの鼻先に指を突きつけるアブネスという少(幼)女。

『みろ、またおかしな奴が出てきたぞ』と今度は8割透明でアブネスの横に出てくるブラン(仮)に一瞬噴出しかけながらもブランはアブネスを睨みつけ、聞いた。

 

「……何の用?」

「ああ、そうだった。中継スタート!」

 

アブネスがマイクを受け取り高らかに宣言すると黒子の一人が持つカメラに●RECの文字が浮かび上がり、可動を始めた。

それと同時にアブネスの表情が貼り付けられたように笑顔になり、声も若干高いものに変貌した。

8割透明ブランは黒子たちの後ろで『頑張れよ宿主様ー』とのんきに手を振っている。一瞬殴りたくなったブランだがぐっと堪えた。

 

「全世界の皆ー!幼年幼女のアイドル!アブネスちゃんでーっす!今日はルウィーの幼女女神、ブランちゃんのところに来てるゾ☆」

 

ウザッ。ブランが最初に抱いた感情はソレだった。

必要以上に可愛らしく、何かしらの欲をかもし出させるような雰囲気のアブネスを見てロムとラムを心配して落ち込んでいた気分が文字通り吹き飛んだ。

顎で合図すると後ろで笑ってる8割透明ブランが寄ってきてブランの中に吸い込まれる。アブネスや黒子たちには気付いていないようだ。

 

「おいテメェ、さっきから人んチ乗り込んで「ところで!妹のロムちゃんとラムちゃんが誘拐されたってうわさは本当なの!?」!?…何で知ってやがる…!」

 

ロムとラムが誘拐されたことはまだ女神達と教会関係者しか知らないはず。この異常事態に教会内に言いふらすようなのがいないと思えば誘拐実行現場にいた、とかか……

とブランが思案する間にもアブネスは捲し立てるようにブランに詰め寄る。

 

「ほんとなんだぁ~!アブネス、心配……で!可愛い妹を誘拐された気分はどうなの、ブランちゃん?」

「…テメェら、人の傷抉りに来たんじゃぁねぇだろうな……」

「そんなことないですよぉ~!わたしは純粋に幼女を心配しているの!それで、ロムちゃんとラムちゃんは何故浚われてしまったの?ブランちゃん」

「ぐっ……それは、私が……」

「責任はブランちゃんに?!それは本当なのですか!?」

 

ブランに返答させる隙さえ与えず次々と言いくるめるアブネス。

元々会話そのものが苦手なブランはその勢いに飲まれ、少しずつ反論が減ってきていく。

それを好機と見たか、アブネスは切り出した。

 

「皆さん!幼女女神は何も釈明できません!やっぱり、幼女に女神は無理「随分と荒っぽい手段に出たわね、アブネス?」なにぃっ!?」

 

突然、開かれたままの扉から女神化したネプテューヌ、パープルハートが飛び込んできた。

瞬間移動かと思うレベルのスピードでアブネスに接敵したネプテューヌはカメラに映るように棘のついた篭手の指先をアブネスの喉元に突きつけた。

やろうと思えば少し力を入れて突くだけでアブネスのか弱い喉を貫通できる、故に脅迫が成立したのだ。

 

「げっ、ぱ、パープルハート!」

「一部始終聞かせてもらったど……なるほど、関係者は貴女だったのね」

「……な、なんのことよ!」

 

パープルハートを一目見た瞬間、アブネスの顔が青くなった。

かつて(数ヶ月ほど前だが)、幼女に女神は無理だ、幼女を守れを掲げて動き始めたアブネス。その最初の標的となったのがネプテューヌだったのだ。

あの手この手でおろそうとするも【パープルハート】に看破され惨敗。

しかも【パープルハート】であれば幼女ではない、ということもあり散々ぼこぼこにされた挙句一切の収穫がなかった、ということで一種の天敵でもあったのだが、これについては今は割愛。

 

「あの二人が誘拐されたことは私達女神含め少数しか知らないはずよ。噂といっていたけど……それ、どこ情報?」

「き、企業秘密よ」

「ならいいわ。そうね、直接殴るのは容易いけど真面目にやりましょうか」

 

アブネスとブランを退かし、一人カメラに映りパープルハートは一礼し、話し始めた。

 

「テレビをご覧の皆様、こんにちは。私はプラネテューヌの女神、パープルハート・ネプテューヌです。ホワイトハート・ブランに代わり皆様にお伝えします。現在、この国の女神候補生ホワイトシスター・ロム及びラムが誘拐されたという噂ですが…これは真実です。我々女神が捜索に赴きます」

「やっぱり!」

「おい、ネプテ「落ち着いてブラン。私を信じて」……くそっ」

 

横で驚きながら喜ぶアブネス、そしてネプテューヌを睨みつけながらもたしなめられるブラン。

ネプテューヌは黒子の後ろ、自らの入ってきた扉を見ながら続けた。

 

「ロムとラムを攫ったのはトリック・ザ・ハードと名乗る者。この者は私達女神に対してあるゲームを持ち込んできました。ネプギア!ゲームの紙を」

 

声を少し大きくさせ呼ぶと同時に遅れてネプギア達も執務室に到着した。

そして突然呼ばれ近づくネプギアから紙を受け取り、カメラに大々と映した。

 

「これがトリック・ザ・ハードより送られたゲームのルールです。これには二日以内にロムとラムを救出すれば私達女神の勝ち、とあります。そしてもう一つ、女神以外のこのゲームの介入を禁ずる、とあります」

「だから極秘で……」

「いいえ、ここまで来たらもうこれを利用するしかないわ。このテレビを見ている皆さんに、一つ宣言させていただきます。ルウィーの女神ホワイトハート、プラネテューヌの女神パープルハート、ラステイションの女神ブラックハート、リーンボックスの女神グリーンハートの名を以て命令します。【女神以外の全ての者はこの誘拐問題にこれ以上関わることを禁ずる】!【之を破った場合、女神に対する明確な反逆・敵対行為を行ったとして極刑に処す】!!」

「「「「「!!!!????」」」」」

 

突然の宣言に来て早々のネプギア達は勿論ブランとアブネスも驚いた顔をしている。

何かまずったか、と思いながらもネプテューヌはアブネスのいる方向を向いた。

 

「このゲームにもしトリック・ザ・ハードが勝利した場合、ロムとラムがどうなるかはわかりません。ですが私達はそれを防ぐために今ここにいるのです。まさかとは思うけれどアブネス?【幼年幼女の味方】であるあなたが【幼女の危機に加担する】なんてこと、ないわよね……?」

「と、当然よ!幼女を護ることがわが人生、我が祈り!アブネスちゃんからもお願いよ!ロムちゃんとラムちゃんを助け出すため、みんなおねが………ハッ!」

「ありがとうアブネス。物分りが良くて助かるわ」

 

それをきいてやっとアブネスがハッとするが既に遅く、ノワールとベールによって黒子たちが退去させられていた。

載せられたことを怨みネプテューヌを睨むと、それを気にもせずににっこりと笑み、女神化を解いた。

 

「そんじゃま、悪いんだけどー、ここからは女神同士の秘密のお話ってことでいいかなー?」

「ムックィイイイイイイイイ!!!覚えておきなさいよぉぉぉぉぉ!!!」

 

まんまと載せられたアブネスがヒステリックな叫び声を上げ、(主に)ネプテューヌに向けて棄て台詞を吐きながら走り去っていく。

騒がしい十数分が過ぎ部屋が静けさを取り戻したところで、ブランが口を開いた。

 

「……ごめんなさい」

「謝ることないってー。正直な話ねぷ子さん私怨ましましだったしー」

「まぁ、これで不穏分子に対する牽制はできたでしょうね。ネプテューヌにそんな知能があったのが驚きだけど」

「ぬぁにぃをぉ~!ねぷ子さんだってねー!女神化すればすごいんだぞー!」

「すれば、ね」

 

唐突に言い合いを始める女神二人を余所にベールがブランに語りかけるように話し始めた。

ユニとネプギアは暇なのか互いの姉の口喧嘩を見物している。それでいいのだろうか、妹として。

 

「ブラン。全てを貴女一人で背負う必要はありませんわ。ネプテューヌではありませんが…仲間、なのですから」

「…………」

「では、こうしましょう。細かいことは妹達を助けてから考える。それでどうでしょうか?」

「……ありがとう、ベール」

「どういたしまして」

 

ブランが微笑んだ途端、体がぐらつきベールに倒れこんだ。

体格に差があるため倒れることはなかったが、ブランはか細い息を続けている。

 

「ブラン…!?……過労、でしょうか」

「ねぷっ!?ブラン大丈夫なの?!」

「わかりませんが……シェア枯渇とは違うようですわ。恐らく疲労……または精神から来るものだと」

「となると……探索は明日からね」

「いえ、そうとも限りませんわよ?」

 

全員の疑問の表情にベールは不敵な笑みで答えた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ブランを侍女に預け、気付けば既に夕方近く。

執務室ではベールがブランの執務用PCに向き合い、そのほか四人が後ろから見守っていた。

 

「ルウィーの人工衛星【テラビュー】はご存知ですわね?」

「……なんだっけ?」

「10年前ぐらい前までルウィーでやってた人工衛星による地上写真サービスよね?」

「ええ。ですがあの衛星は現在も稼働中。テラビューの欠点ともいえた低解像度を克服するソフトをリーンボックスの研究所が開発しましたので、ブランと話し合い秘密裏に計画を進めていましたの」

「ルウィーとリーンボックスで先を行こう、ってことだったのね……」

「ずるーい!ねぷ子さんもおうちでゲイムギョウ界旅行したーい!」

 

動きだけ憤慨するネプテューヌとノワールを尻目に次々とベールの眼前に画面が映し出されていく。

その中に地上写真とはまた別の画面が出ているが、誰も気にすることは無く続きを見守っている。

 

「いいえ。これを全世界、一般公開する予定ですわ」

「一般公開!?国民にもってこと?」

「はい。といっても言い出したのはブランですけど。【友好条約を締結したのだから、四つの国で等しく利用するべき】だと」

「ブランが…」

「公開するタイミングを窺っていたのですが、今が其の時でしょう。これとルウィーのシェアエナジー探知を合わせ二人のシェア残留を照らし合わせれば現在位置がわかるはずですわ」

 

ベールが言い終わると同時にPCがCompleteの文字と共に機械音を鳴らす。

ちょうどいいとばかりに早速ルウィーの女神専用アカウントで探知機能を呼び出し、地図と共に照らし合わせていく。

 

「ここが現在位置なのだから………あら、ここは…」

 

探知機能が導き出した最もシェア残留が多い場所、つまり二人の推定現在位置。

それはルウィー市街の中央付近に存在する最近開園したテーマパーク、【スーパーニテールランド】の内部だった。

 

「誘拐が発生したのもここのはず……思ったより移動はしていなかったようですわね」

「今すぐいこ、ベール!」

「まぁお待ちなさいな。決行は夜、閉園時間が過ぎてかつブランが目覚めてからにしますわ。あの子の妹ですもの、私達が出来るのはお膳立てまでですわ」

 

ベールのこの言葉に、既に行く気満々だった女神候補生二人が盛大にずっこけて姉から突っ込みを受けたのはいうまでもない。

~夜 ルウィー市街 スーパーニテールランド 倉庫内部~

薄暗い倉庫の中。夜の帳も降り、すっかり静かになったテーマパークの裏にある倉庫の中。

トリックによって連れられたロムとラムが目を覚ますと、まず目にはいったのはお互いの体を縛る縄だった。

両手を巻き込み両足まで等間隔で巻かれたロープはロムとラムの二人ではまず解けはしない。魔法でも使えれば、と思ったが発動体の杖はない。

自分達は何も出来ない、ということをすぐに思い知らされた。

 

「目が覚めたか」

 

突然、別の方向からロムでもラムでもない声が聞こえた。

二人揃ってその方向を見ると、ネプギアより少し小さい程度の少女が二人と同じように捕らわれていた。

不健康な青白い肌や座った大勢で床まで届いてなお余る赤紫色の大きなツインテールが特徴的な少女はロムとラムを見つめ一瞬苦笑した。

 

「捕らわれているというのに、き…お前達はのんきだな」

「あんたは……?」

「わ…たしか?わたしは…ヴイ。お前達と同じようにあの悪趣味なぬいぐるみにとらわれた不幸な少女だよ。女神候補生ロム様、ラム様」

「あ、あんたは抵抗しないの!?あんなのに捕まってるのに!」

「私は女神とは違う。抵抗したところで変わりはしないさ」

 

まるで諦めているかのようなヴイにラムが食って掛かる。が、あっさり受け流される。女神はこの世界に八人しかいないし、自分と同種族ということ前提に入れていたことにすこしだけしょんぼりするラムとロムだった。

二人が目覚めて数分のこと、ぽいん、ぽいんと何かが飛び跳ねる音が倉庫の外から聞こえだした。スライヌでも迷いこんだのかと思う音だが、音の正体が現れることでその希望ははかなく砕け散った。

 

『幼女の寝起きキタ――――――――――――!我輩マジ天才!何せ幼女女神がHU☆TA☆RI!!』

 

男女の声が合わさった機械音声のような声を発する黄色い巨体。トリック・ザ・ハードそのものだった。

ガチガチと歯を鳴らし、舌なめずりをする姿にロムはすっかり怯えきり、ラムも怯えながらもロムを庇おうと芋虫のように這って前に座る。

 

「ぃようトリックとやら。いつになったらだしてくれるのかね」

『おっとそれはまだというものだよヴイ殿。我輩としてはお主を捕らえるつもりはなかったのだがな』

「はっ……どうだかな。それで、その女神候補生二人をどうするつもりだ、お前…」

『ふむ、まだ前菜には早い時間だが教えてしんぜよう』

 

ぽいん、ぽいんとトリックの巨体が飛び跳ねながら三人に近づいていく。

『どちらにするか』と悩んだ挙句、近くにいたラムを舌で巻き取るように捕らえた。

 

「きゃあああ!?」「ラムちゃん……!」

『さて、幼女諸君、そしてヴイ殿。貴殿らは【食】に関心はあるかね?』

 

ラムを舌で捕らえながらも器用に話しはじめるトリック。

舌から溢れるネバついた液がラムの髪やコートや体を徐々に滑らせ、抵抗を難しいものにしていく。

 

『食とは、生命が等しく行う生存のための一歩だ。そこから味を感じ食感を感じ質を感じる。ただ欲を埋めるためではない娯楽でもあるすばらしき行いだ。人はそこからさらに食を料理へと昇華させた。同じ材で幾種類もの新しき食を生み出す。素晴らしい!実に素晴らしい。我輩は人でないが故に羨ましい!この図体では料理はできない、故に我輩は人ではないが故に我輩が憎い!素晴らしき食の境地へと我輩は至ることができないのだ!』

 

高々と説を垂れ流すトリックを呆れた様子で見るヴイ、怯えたまま一言も話せないロム、そして離せ離せといい続けるラム。

誰一人として聞いてはいないが、そんなことは関係ないとばかりにトリックは続ける。

 

『故に、我輩は考えた。我輩が食せるものの中で最も美味であり、飽きないものは何か。それを見つけたのだ。幼女だよ』

 

全員が時間が止まったように動きを止めた。

トリックが散々言っている食に関すること。そしてその結果幼女に至った。

そして、幼女ということで自分達が連れてこられた、ということは――――――。

この答えにたどり着くまでに、数秒もかからなかった。

 

「ぬいぐるみ!貴様まさか……そいつを、食う気か……!?」

「やめ……て………!」

「い、いや!離して!はなしてよ!ロムちゃん!おねえちゃん!だれか、だれかぁ!!」

 

ラムが必死に抜け出そうとするもぬるぬるとした舌に締め付けられるだけ。自分の抵抗は抜けられトリックの締め付けは強くなる一方。

少しずつ近くなるトリックの大口に、ラムの声はよりいっそう大きくなる。

 

「いや、いやあぁ!たすけて!だれか!!だれかたすけてよぉ!!!」

『この世の全ての命と幼女に感謝を込めて―――――――――』

 

『い  た  だ  き  ま  す』

 

 

――――――バキ ゴリ ジュル ブチュ ゴキュ バリ メキ

 

「ぁ……ぁぁ……」

「……」

 

まず頭を一呑みするかのように頬張り、喉を食いちぎった。その後笑顔で口に残っていると思われる頭を咀嚼ゴリゴリと硬いものや時折ブチュ、といった何か弾力のあるものをかんだような音が響く。

頭を失い、行き場を失った血が噴水のように首の断面からあふれ出ているのをまるでジュースを飲むかのように首無しの体を傾け飲み続ける。

少ししてもう溢れる血もなくなった体を眼前に持ち、片手で胴体を持ちもう片手で右腕を肩から千切り、スティック菓子を食べるかのごとく口に入れた。

少しずつ、少しずつ短くなって消えていき、最後にパリッ、と薄く硬いものを折る音が鳴った。

そしてもう一度目前に持ち上げ、今度は左腕を、千切った。

既に一滴も飲みつくされたのか断面から血が溢れることはなく、行き場をなくした紅いホースのようなものや白い骨が結合部位をなく切先のようにとがった状態で折れている。

同じようにスティック菓子のようにボリボリと音を立てて食べていく様を見て、ロムがふっと倒れこむ。ヴイが様子を見るも、ショックで意識を失ったようだ。

この後を考えると、今意識を失うのは寧ろ幸運だろう、とヴイは少しだけ考えていた。何せ、恐怖を感じる暇がなくなるからと。

 

両腕がなくなったそれをトリックは上下を回転させ、両足をしゃぶりつくように口に含む。

バリバリバリ、メキメキメキと両足を器用にかみ続け、胴体に到着したところで噛み千切る。

文字通り達磨となったそれをみて、トリックは恍惚とした雰囲気を出し始めた。

 

『我輩、好きなところは最後までとっておくターイプ』

 

達磨の胴体を頭から口に含み、大よそ半分のところで噛み千切る。

既に血のなくなった胴体は春巻きのように断面から【中身】が溢れて出てくる。

ゴリゴリと骨を噛み砕く音とグチュグチュと内臓類が潰される音が同時に鳴り響き音だけ聞けば豪華な肉料理でも食べているようにも聞こえる。

止めるものは何も無く、胴体まで服ごとラムを丸ごと食い尽くした後、トリックの表情が歪んだ。

 

『んんん~!!!美味!実に美味であった!子供の羊が珍味となるように、生まれて間もない卵が様々な食事に必須の食材となるようにやはり食うなら幼女に限る!』

「少なくとも人間にはわからん感覚だよ。それで、貴様は間違いなく女神候補生を食った。完全な宣戦布告だ」

 

嬉しそうに左右に揺れるトリックにヴイは恨めしそうに言い放つ。

だがそんなことは想定済みとばかりに指を振り、口ずさむように何かを唱えだした。

 

『女神の再構成とやらは初めてだがやる価値はある。少し急いでみるか。【iesuokiasinadarakonumariesohuokimagem】』

 

妙な呪文(?)を唱え数秒すると、トリックの体が徐々に縮む。

それどころか色まで徐々に変わり、少しずつだが人の形になっていく。

ヴイも「こんなことまでできたのか……」と驚愕混じりの言葉を吐いた。

 

「問題は、なさそうだな」

 

再びトリックが口を開くころには耳に残る機械音声のようなものは消え、響く声は先ほど食われたラムのものとなっていた。

いや、声どころではなく姿形まで、そのままそっくりラムのものになっていたのだ。

 

「さて、我輩の秘策その1【偽者というブービートラップ】だ。どうなるか楽しみだなヴイ殿?」

「わたしに振ることでもないだろう…。……ラムは、死んだのか」

「ああ、死んだよ。あっけなくも人のように虫のように家畜のように死んだ」

「……恨まれるぞ」

「ふむ、幼女に睨まれるのも悪くはないが……悲しまれるのはよくないな」

 

トリックの姿が歪み、また黄色い巨大なぬいぐるみの姿になる。

戻ったらすぐに何かもごもごと口の中をうごめかせ、何かを呟いている。

 

『少し待て…今検索…みつけた、再構成中だ……骨はどれだ、少し歪むか……?』

 

そうして少しもごもごした後、長いベロを口に収納する。そして、何かを巻きつけて口から出した。

舌に巻かれたもの。それは先ほど食われたはずのラムだった。

丁寧に服や帽子まで元に戻り眠るように気絶して巻かれていた。

 

「生死自由、か……末恐ろしいな」

『リミットは10分程度だがね。だから味に感激しているとたまに蘇生を忘れてしまう。我輩の悪い癖だ』

 

『隠しておかんとな』と呟きながら巻かれたラムを倉庫の端に隠し、トリックが再びラムの姿に変貌した。

 

「私が貴様の正体を言わない確証はあるのか?」

「初対面の貴様と、姿形だけだが救助対象の証言じゃあ信憑性に差はあるだろう?」

「………」

 

もう話す事はないといいたげにヴイは口を閉じた。

ラムとロムも起きず、時だけが過ぎていく。

 

暇を持て余したか、トリックが口を開こうとした途端。倉庫の扉が突然開かれた。

 

「そこまでですわ!!」

 

扉を蹴破り、長槍を持って飛び込んできた金髪の女性、リーンボックスの女神のグリーンハート・ベール。

突入してすぐに周りを見渡し、トリックの姿がないことを残念そうにしている。

だが捕まっている三人(ロム、ラム、ヴイ)のうちにトリックが混じっていることは気付いた様子はない。

 

「ベールお姉ちゃん!」

「ようやく救助が来たか」

 

喜ぶラム(トリック)、未だ目を覚まさないロム、そして表情はわかりにくいが安著した様子のヴイ。

見知らないヴイの存在に驚いたベールだが、ヴイの「別口の拉致被害者だ」という言葉で一時納得した。そもそも本人の言葉からしても別口というのは本当なのだろうと決めた。

 

「ロム、ラム。無事でよかった……これで私達の勝ちですわね」

「……?」

「こちらの話ですわ。さぁ、帰りましょう」

 

ラム(トリック)の手を取り、ロムを背負いヴイをつれて倉庫を後にするベール。

バタンと倉庫の扉が開かれ、静かな倉庫に戻った。

隅に隠されたラムを残して。

~スーパーニテールランド 倉庫前~

ベールが一人で「まず交渉をしますわ」と言って突入した後、ロム、ラムと見知らぬ少女を連れて戻ってきた。

そこにトリックがいないというのが拍子抜けだったが、ブランは心底安心したという表情でロムとラムの体を抱いた。

 

「ロム……ラム……よかった……」

「お姉ちゃん……」

 

今にも泣き出しそうなブランの頭をラムがそっと撫でる。

「わたし達、大丈夫だよ!」と笑顔で言うラムにブランは抱きしめる力をさらに強めることで答えた。

 

「それにしても、トリック・ザ・ハードの姿がなかったのはおかしいですわ。これではこの時点でゲームが終わり私達の勝ちになりますわ」

「ブラン、感動の再開は後にして……ねぇラム。トリック・ザ・ハードがどこにいるか知らない?」

 

ラムに聞いたのはパープルハート。「あんた元の姿だと話し進まないから女神化しておきなさい」というノワールの案により半強制的に女神化状態になっている。

それだけあって真面目になり、ラムに質問を始めた。

 

「知らない…。私達を見て散々【食】がどうとか言ってたけど……少し舐められたりしたぐらい」

 

そういうラムの体は全身が唾液のようなべとべとしたもので覆われている。

ふむ、とパープルハートも納得した素振りを見せ、全員(ブラン、ロム、ラム、ヴイ以外)に向きかえった。

 

「あれだけ自信満々に仕掛けたゲームがこんな単純に終わるわけがないわ。多分、まだ何かある。警戒は怠らないようにね」

「ところで……ロムとラムはともかくとしてあなたは一体?このゲームの参加者ではないようですが」

「確かに。関係者じゃないのに何でこんなところに?」

 

手頃な場所にもたれかかっていたヴイにベールとノワールが懐疑の目を向ける。ヴイも「まぁわかってた」と言いたげに説明を始める。

 

「わ…たしはヴイ・サートルネ。今日このテーマパークに観光にきてたらいきなり黄色いぬいぐるみに襲われて捕まった哀れな犠牲者。感謝いたします、女神様」

 

大仰しく礼をするヴイ。

昼からこの深夜まで捕まっていたにしてはロムやラムと比べて妙に余裕がある。それにトリックが定めたルールにはヴイの名はない。トリックが攫った、と言うならばルール違反にも取れる。

だが、ネプテューヌがそれを聞いても「昼からずっと捕まっていた。ロムとラムとは関係のない別口の被害者」という姿勢を崩さない。それはまるでトリックをルール違反から庇っているようにも見えた。

だが、昼から捕まっていたのが事実なら、そもそも【彼女はルールを知り得ない】。そのベールの意見により、ノワールとネプテューヌの二人も渋々その立場を認めた。だが、未だ懐疑の視線は向いてる。居心地の悪さからか余裕そうなヴイも冷や汗を垂らしていた。

 

「それで、ラム?あなたには詳しいことを聞かなければなりません。知る限りで、敵…トリックの内情などを教えてもらえませんか?」

 

ベールの質問に首を傾げるラム。

ブランはラムとロムを休ませたがっているが「未だ奇襲の目は残っているのですよ?」という言葉に反論できず、黙りこけた。

ラムも姉の為ならと胸を張る。

 

「なんというか……えーっと、皆をここに呼び出すためにわたし達を攫ったんだと思う。わたし達にも舐め回すぐらいしかしなかったし……多分そういう趣味だと思うわ」

「許せねぇ……」

「どうどうブラン。それで、ラム?ロムは一体……?」

「ロムちゃん、舐められてた時一回口に運ばれかけてたの。その時に、だと思う……」

 

必死に思い出す様子のラムからブランはさっと目を逸らす。

ラムとロムにとっては酷いとしかいい様のないことだ。全身くまなく嘗め回され、未遂だったとはいえ食われかけたのだから。思い出したくないのも無理はない。

最悪、一種のトラウマになりかねない………。

ここまで考えた時、ブランは一つの疑問を抱いた。

 

「……ねぇ、ラム」

「なぁに、お姉ちゃん?」

 

「何で、そんなことを【ぐらい】で済ませられるの?」

 

ラムの表情が、固まった。

すぐに困惑したものに戻るも、その一瞬を逃すほど間抜けはネプテューヌ(人間)ぐらいしか女神には存在せず、全員からの視線が一斉にラムに刺さった。

 

「だ、だって、生きてたんだもん。それぐらい安いものよ!」

「ラム……本当のことを言って。何故、嘘を付くの?」

「嘘なんてついてない!わたし、嘘なんて……」

 

いやいやと頭をふるラム。

その何かを否定するような素振りにネプギアが何かに感付いたか、ラムに近づいた。

 

「ラムちゃん、知っていますか?」

「………?」

「女神って、嘘を付くときに耳が紅くなるんですよ」

 

その言葉にネプギアとヴイと気絶しているロムを除く全員が咄嗟に自らの耳を摘んだ。

あまりにも判りやすい姉と親友にあきれ返り、ネプギアも思わずため息をつく。

 

「え、ね、ネプギア……嘘よね?」

「ええ。嘘です。ですが……マヌケは見つかったようですよ」

 

全員の視線が再びラムに集まる。

ラムもまた、周りと同じように両の耳を押さえている。自らのしたことにはっとなったか、諦めたように俯いた。

 

「……チェック、ですよ」

 

決着はついたとばかりにネプギアは剣を抜き、ラムの額に突きつける。

一瞬ブランが止めようとするがそう行動してしまった以上止めるにも止めれない。暫く沈黙が続く中。

唐突に、ラムが噴出すように笑い出した。

 

「く、くっくっく………アクククククククケケケケケケケケキャキャキャキャキャキャキャ!!!その通り!」

 

突然笑い出したラムに一瞬気をとられ、ラムに未だ眠っているロムを奪われる。

最初に動き出したネプギアが斬り飛ばそうとするもロムを盾にされ寸前で止める。その結果悠々と浮かびラムがロムを抱え一行から近い建築物の上に降り立った。

 

「アククク、我輩がまさかこんな手に引っかかってしまうとは。鈍ったな」

「やはり、ラムちゃんではないのですね」

「その通り!我輩こそ稀代の犯罪者!」

 

バッと手を広げるラム。次の瞬間ラムの体が歪み、次々と変色、変形しながら巨大化していく。

数秒後、ラムの面影は消え昼にネプギアが目撃した黄色い巨体、トリック・ザ・ハードが姿を表した。

 

『トリック・ザ・ハードである』

「テメェが……!ラムはどうした!」

『そう猛るでない白き女神よ。物事は全てレイによって為さねばならない。この場合は【冷】だな』

 

ロムを頭に乗せ、嘲るように笑うトリック。

あまりにもわかりやすい挑発にブランも歯をカチカチと鳴らし怒りを抑えきれずに今にも殴りかかりそうになっている。

 

『さて、おぬし達は見事我輩を見つけ出した。だがぁ?残念ながら幼女二人を取り返すまでには至っていない。ゲームは続行だ』

「あら、この場の女神全てを相手に出来る自身があるのかしら?」

『だからこそこのゲームに挑んだのだよ。後は直接対決だが……丸一日というのはいささか長いな。ここは追加ルール宣言させてもらおう!』

 

ロムを真上に投げ飛ばし、背中についた円盤のようなものを追いかけるように飛ばすトリック。

円盤についた紅いパーツ四つが分離し、ロムを載せた円盤を囲むようにピラミッド型に配置され、それぞれのパーツが紅い光で覆われる。

閉じ込められたロムを助けようとブランが飛び出しかけたが、すぐにトリックが静止した。

 

『やめておけ。あれが外部から衝撃を受けたとき、爆破される。以下に女神といえど至近距離での爆破には耐えられぬ。我輩も幼女を殺すなんてことはしたくない。それに主らのためでもある』

「ロムを閉じ込めることがアタシ達のためだぁ…?冗談も大概にしやがれ!!」

『本気だよ。我輩とて腕に覚えもあってな。お主ら六人との戦いは熾烈なものとなるだろう。それから守っているのだよ。それにもあの子が死してしまえば、助け出す対象がいなくなり事実上主らの敗北となるぞ?』

「………ルールを聞きましょうか」

『それでこそだ。ついてくるがよい』

 

上空にロムが入ったバリアを漂わせながらトリックがぽいんぽいんと跳ねていく。

逃げ出すつもり、とも取れそうだが跳ねる速度も距離も小さく、真上にロムが入った入れ物を漂わせている辺り本当に案内するつもりなのだろう。

そう判断したネプテューヌがノワール、ブラン、ベールに女神化の指示を出す。普段なら聞き入れられないが女神化している状態だけあって信頼があるのか渋々と三人も応じた。

 

「お姉ちゃん、私たちは……」

「ユニは私達についてきて、潜伏しながらロムを助け出すチャンスを窺って。ネプギアはこの倉庫の探索。ラムを探すの。恐らくまだあの中に隠されていると思うわ。女神化は温存ね」

「……うん」

「了解!」

 

剣を持ち走っていったネプギアを見送り、四女神+1もトリックを追い移動を始める。

空を飛ぶ四人に対して女神化のできないユニは屋根から屋根に跳び移る労力のかかる移動を強いられることに。若干額から汗が溢れている。

 

「姉さん!せめて運んでくれてもよかったんじゃないの!?」

「戯け、神たる(アタシ)が運びやの真似事なぞするものか」

「テメェら真面目にやる気ないだろ」

「ふん、これだから余裕のない奴はこまる。常に余裕を持って行動せねば胸も育たんぞ?」

「胸関係ねぇだろ!!!」

「はいはい静かに」

 

唐突に喧嘩を始めるノワールとブラン、二人宥めるネプテューヌ、そして完全に無視してトリックを見据えているベール。

誰一人としてまともなのがいない辺り女神って生半可(な精神)じゃあできないものなのだ、とユニは歪んだ納得をしていた。

 

追いかけ続け、到着したのは遊園地の端にあるゴミ捨て場らしき場所。フェンスを軽々と飛び越え着地したトリックは四人に向きなおした。

 

『さて、ようこそ麗しき女神達。幼女に換算できる女神がたった一人しかいないことが残念でならない』

「テメェの戯言には付き合ってられねぇ、さっさとルールを言いやがれ!!」

 

怒り心頭のブラン。今にも暴れだしそうなのをトリックの手が静止する。

『まぁ落ち着きたまえ』そういっているだけなのに無理やり頭が冷静さを取り戻した。

そのことに困惑しながらもブラン、そして女神達も武器を向けた。

 

『上の幼女の救出方法はきわめて簡単。我輩にまいったといわせることだ。なにやら潜ませているようだが我輩は約束は守るよ』

「テメェをぶちのめせばいいってことだろ……」

『いかにも!幼女ながら物分りがよくて助かる。ただし制限時間を設けさせてもらおう。10分だ。10分以内に我輩を打ち倒せなければ、上のバリアーの爆破機能が作動する。理解頂けたかな?』

「上等だ!10分もいらねぇ、3分でカタをつけてやるよ!!!」

『ならばよし。ほれ、よおいスタート』

 

トリックの合図と同時にブランが飛び出し、両腕で持つ大斧をトリックの頭に叩きつける。

ガチィン、という響きのいい音と共にトリックの体が一瞬つぶれ、ゴムのように弾け飛ぶ。

 

「追撃、行くわよ!」

 

続いてネプテューヌが飛んだトリックを追いかけ、接敵すると同時に膝で胴体を蹴り上げ、そして軽くくるりと宙返りしながらトリックの膨らんだ腹部に勢いのついた踵を落とす。

元々重量のあるだけあって蹴りという加速がついて落下。

黄色い巨体が瓦礫の中に埋まり、『うぐぐ、幼女じゃない攻撃はくらっていてつまらん』と余裕のある呟きと共に飛び出してくる。

しかし、そこに待っていたのは視界の空一杯に埋め尽くされた剣と槍だった。

空に絨毯のように敷かれたそれはすべてがトリックの方向を向き今にも飛び出しそうになっている。

 

「血は期待できない、堕ちなさい」

(アタシ)を楽しませろよ遊具風情が」

 

空に待機していたベールとノワールが同時に腕を下ろす。

それを合図に剣と槍の絨毯がトリックに降り注いだ。

トリックに直撃したかザクザクと革を斬る音、外れて瓦礫に当たったんのか金属音を立てて弾かれる音。似種類の音が十数秒なり続ける。

 

剣と槍を撃ち尽くし、落とした場所から少し離れるベールとノワール。そこにネプテューヌ、ブランも合流し四人揃ってトリックがいた砂塵を見守る。

弾かれる音のほかにも確実に当たったと思われる音もしていた。ダメージはあるだろうと推測した其の時だった。

 

『女神達………まさかとは思うが我輩を見くびってはいないかね?だとすればそれは侮辱だぞ?』

 

トリックの声が砂塵の中から響いた。

『ふぅん!』といった掛け声と共に砂塵が払われると、そこには多少の掠り傷のような傷しかダメージの見えないトリックが先ほどと同じように座っていた。

少なからずあるだろう、と思っていた四人だが意外を突かれる。

 

『そして今のが全力だとすれば……これは単に我輩がお主らを過大評価していたことになる』

「嘘、何故あれだけしか!?」

『知りたいかね?』

「いらねぇよ!今からぶちのめすテメェのことなんてなぁ!!!」

 

ニヤニヤと嘲るようにしているトリックに向かってブランが再度近づく。

特に反撃しようともしないトリックを疑問に思いながらも、気にせず大斧を振りぬく。

 

「テンツェリン、トロンペェ!!!」

 

ぐるぐると自分の身を回転させ勢いをつけて横から大斧を叩きつけるブランの必殺技。

まるでサンドバッグのようにトリックの体が殴り飛ばされ、飛行線上にあった瓦礫の山にトリックが頭から突っ込む。

すぐに頭を引っこ抜き、転がり落ちて着地するトリック。吹き飛ばされたり刺さったりで埃が大分ついているがそれこそ傷らしい傷はついていない。それどころか先ほどつけた掠り傷程度のものですら消えていた。

 

『諸君、お主等は起き上がり小法師と言うものを知っているかな?倒されても必ず起き上がる不思議な人形なのだが』

「しらねぇよ!!」

 

再びブランの振るう大斧がトリックの頭を叩き割る勢いで襲い掛かる。それを甘んじて受けながらも大きく傾くだけですぐに起き上がる。

 

『我輩も似たようなものなのだよ。七転び八起き、諦めぬ限り勝利があるわけだ』

「くっ……!」

 

ネプテューヌの蹴りが腹部に突き刺さり、大きく浮き上がるもふわぁ、とゆっくり着地する。

ノワールとベールの援護射撃も大して意味があるようには見えない。

いくら殴ろうとへでもないように笑うトリックに着々とブランのストレスがたまっていくのが場の全員に感じ取れた。

 

『ほれどうした?もう3分が経過したぞ?あと7分で我輩を打ち倒せるかな?』

「舐めんじゃ、ナメくさってんじゃね『ほら隙アリだ』

 

数mは距離があったはずのトリックの顔がブランのすぐ近くにある。

大口を開け、ブランを迎え入れるかのようにすぐ近くにいた。世界がゆっくりになるなか、ブランの目にはトリックの口の中、深遠に近い黒が見え――――――

 

「ブランッ!!!」

 

―――すぐに、遊園地の夜空が映った。

ふと見ると、ブランの目にはネプテューヌが映っていた。食われる直前、ネプテューヌに抱えられ飛ばされたのだ。

 

『ふぅ、残念だ。だが、収穫はあったがね』

 

そういうトリックの口には、何かが挟まっていた。

大よそ脚程度の太さのものだ。雪のように白く、まるで自分のもののようだ、とブランが思ったところで、突然激痛がブランを襲った。

 

痛みを感じたのは、右足。とっさにその場所を見ると、そこにあるはずのものが、なかった。

 

「まさか、あれって……!」

『幼女女神の脚、実に美味である』

 

ボリッ、と硬めのお菓子を食うような音を立ててトリックの口の中にブランの脚が消える。

 

「う、あああぁああっ!?」

「落ち着いてブラン!急いで修復するから!」

 

暴れだしたブランを宥めながら、ネプテューヌはブランの脚の切断面に手をかざす。

血の変わりに白い光、シェアエネルギーが漏れ出す中、手をかざしたところから徐々に元の状態に形成されていく。

 

「ノワール、ベール!すまないけど少し押さえていて!」

「やっているわこの戯けが!」

「けど、ダメージにはなっておりませんわ」

「足止めできれば充分よ!」

 

ネプテューヌに抱きつき荒い息を吐くブラン。

肉体の切断など何十年ぶりなのだからショックを受けているのだろう、と判断し少しずつブランの脚を直していく。

太股から膝、脛と形成していきもうすぐ、と思ったところだった。

 

『経過時間は5分、ここで勝負を決めに行くとするか!』

 

突然トリックが動き出し、大きく飛び跳ねる。

着地と同時にトリックを中心に大きく砂煙が巻き上げられる。

勢いの強い砂煙はすぐに四人を襲い、覆い隠した。「折角治療が終わったのに」と愚痴りながらネプテューヌが拳を振るい、破裂音と共に煙を晴らす。

既に、トリックの姿はなかった。

 

「逃げられた!?」

「あの短い時間で……?」

「ユニ!彼奴めが逃げたぞ!」

「ん………はっ、あ、あの変態ヤローは!?」

「あれ、あたし、どうなった……?」

 

ネプテューヌ、ベール、ノワール、ブランそれぞれ異なった反応をして辺りを見渡す。

トリックの姿はない。だが、すぐに別の異変が起こっていた。

 

ブランが、二人いたのだ。

~倉庫内部 そのころのネプギア~

ベールの動いた際に残る残留シェアを手立てにラムを探すネプギア。

その心中ではラムのことではなく、別のことを考えていた。

 

「ヴイ・サートルネ……」

 

呟くようにその名を呼ぶ。

今まで出てきたことのない名前、本人は別口の誘拐被害者と言っていたがゲーム中のトリックにそんなことをする余裕があるとも思えない。何よりゲームへの介入といわれたら女神の勝利にすらなりえてしまう。

明らかに怪しい。少なくとも【巻き込まれた哀れな人間】ではないことだけは確かだとネプギアは結論付けた。

 

ベールの通ったと思わしき道を通り、扉を蹴り開き、転がるように入り剣を振り警戒する。

倉庫の一室には何かを縛った後のような乱雑に置かれた縄や、無造作に溜まった血がネプギアの目を引いた。

 

「血……新しいものですね。飛び散った血…まるでここで殺しあいが起こったかのような……」

 

きょろきょろと室内を探し回るネプギア。隅に置かれた積荷の間に向かうように何か液体が伝っているのを見つけ、それを追うと、積荷に挟まれ、意識を失ったラムが両腕を縛られ置かれているのを見つけた。

 

「………よかった」

 

呟きながら、そっとラムを腕に縛られた縄を使って引き寄せ、肩に担ぐ。

体格的にもおかしな光景だが女神の筋力なればこそできる芸当だ。

 

「ラムちゃんは救出完了……お姉ちゃんは………あれ?」

 

ふと、ネプギアの頭に疑問が過った。

回想されるシーンは、自分達が姉、ネプテューヌの指示を受けている間のこと。

四女神とユニでトリックを追う。ロムはトリックに捕まっているためこれで7人

そして自分、ネプギアはラムを救出するために倉庫に突入。そこで一人。

【そこにいたはずのヴイ・サートルネを全員がわすれていた】、ということになるのだろうか。

少なくとも姉は気付いていなかった。いつの間にか、ヴイがいなくなっていたことに。

 

「まさか………!」

 

気付いてからのネプギアの行動は早かった。

すぐに再度扉を蹴り開け来た道を爆走。急いで走り続けた。

最悪の事態を防ぐために。疑惑が真実でないことを祈りながら。

~スーパーニテールランド端 ゴミ捨て場 瓦礫山~

「テメェ!よくもあたしに化けて出てきやがったな!」

「それはあたしの台詞だ!さっさとぶっ潰されてロムを返しやがれ!!」

 

二人に増えたブランが互いに睨みあい大斧を突きつけ合っている。

どちらが本物なのか、少なくともブラン達以外にはてんで見分けがついていない分対応に困っていた。

 

「治療も終わっちゃってたから両方きちんと脚も在る……どう見分ければいいの…?」

「ふん、神たる(アタシ)が騙されるとでも思うたか。こんなのは簡単だ。貴様ら、少しこちらを向け」

「「なんだよ」」

 

同時に同じ声で振り返るブラン*2。異質な光景に若干引きながらもノワールは二人の間に入る。

何をするのかと思った瞬間。ノワールの手が左右にいるブラン……の、胸に伸びた。

 

「なぁっ!?」

「て、てめっ!?」

 

「…………こちらのほうが小さい!よって本物はより小さいこちら「アホかァ!!」72(なに)をするだァー!?」

 

小さい方といわれたブランがノワールを殴り倒す、グーで。

思わず選ばれなかったブランも呆然。そしてベールとネプテューヌまで呆然としていた。

 

「ああもう、このバカに頼ったのが間違いだった!」

「テメェ偽者の癖に胸が大きいとかフザけんじゃねぇぞ!!!」

 

何故か胸の談義で取っ組み合いを始めたブラン二人。

殴られたノワールは女神化が解除されていないあたり気絶とまではいかなかったようだが倒れたままのようだ。

 

「……どうする?これ」

「……ネプテューヌは、そちらの小さい(仮)のブランを」

「了解…」

 

小さいと評されたブランの首筋にネプテューヌの手刀が、何も言われなかったブランの後頭部にベールの槍の柄が突き刺さる。

不意を撃たれた二人はあっさりと意識を失いばたりと倒れた。

それを確認したかのように上空に浮かぶロムを載せたバリアーがパリンとガラスのように割れる。バリアーが支えになっていたのか円盤はロムを乗せたままゆっくりと地上に落下した。

ここぞとばかりにユニが飛び出し、ロムを回収して跳ぶ。着地した瞬間、ボンと小さな音とともに円盤も爆発した。

 

「よくやったわ、ユニ。さて、後は両方ふん縛っておけば完了…「おねえちゃん!!」ネプギアも終わったみたいね」

 

ラムを担ぎながら走ってくるネプギアを見て、ネプテューヌも一息ついて女神化を解除した。

倒れている二人のブラン、片方が女神化が解除されたがもう片方は女神化状態のまま。女神は意識を失うと女神化が解除される。これで一目瞭然となった。

 

「一時はどうなるかと思ったけど………このゲーム、わたしたちの勝ちだよー!!」

 

ネプテューヌが両手を上げ、高らかに宣言した。

ここに、トリック・ザ・ハードが始めたゲームは、幕を閉じた。

~同時刻 ルウィー市街 路地裏~

「………三つ目」

 

「チビっ子、よく取れたっチュね」

 

「信頼できる、仲間」

 

「悪役らしくない台詞ッチュね。最後はリーンボックスっチュね、急ぐっチュ」

 

「うん……もうすぐ、会えるよ……」

 

「チビっ子!だから急ぐッチュ!」

 

「…………また会おう、正義の女神達」

~翌日 ルウィー教会~

「ごめんなさい………」

 

トリックがしかけたゲームが終わってから日が昇った朝。

ブランの姿を取ったトリックはベールの一撃が原因か元に戻らなくなり、ルウィーの地下で拘束されることになり、この事件は終息した。

結局教会の止まった他国女神達一行に加え、ロムやラムまで集めたブランは開口一番に謝罪し、全員に向け頭を下げた。

 

「え、なに?謝罪会?どゆことブラン?」

「私は、結局何もできなかった……ロムとラムを助けたのも、結局は私じゃない、みんな……私は、姉失格……」

 

ぽろぽろと涙を流すブランに真っ先にロムとラムの二人が駆け寄る。

「ごめんなさい」とロムとラムを抱きしめて謝り続けるブランに、次によったのはノワール。

 

「なーに言ってんのよこのまな板は」

「まなっ……てめぇ、こちとら真剣に「だからこそ駄目なのよ」……っ」

「別に私達は礼がほしくてやったわけじゃない。謝罪がほしくてやったわけじゃない。その……仲間だから、助けたの。それだけよ!今回のことで負い目があるんなら別の機会に私達を助ければいいわ、それだけ!いくわよユニ!」

 

顔を赤くしながら吐き捨てるようにいうノワール。流石に恥ずかしかったのか言うだけ言って有無を言わさずユニをつれて部屋に戻っていった。

その様子がおかしかったのかネプテューヌとベールの表情にも笑みが毀れる。

 

「そーそー。ノワールの言うとおりだよブラン。わたし達は仲間なんだからさ!一人で出来ないことがあったら助け合おうよ!ほらネプギア!わたしたちもいこう!」「あ、うん………」

「ブランの柄ではないかもしれないけど、使える手段は使うのが賢いやり方ですわ。これを貴女が借りにするかどうかは貴女次第。では、私も失礼しますわ」

 

変わらないネプテューヌ、考え込んでいるネプギア、微笑むベール。

三者三様で部屋を後にし、残ったのはブラン、ロム、ラムの三姉妹。涙目のブランの頭を双子はそっと撫でた。

 

「ロム……ラム……」

「お姉ちゃん……助けに来てくれて、ありがと……」

「おねえちゃん達のおかげでわたしたち帰ってこれたんだから!」

 

屈託のない笑顔を浮かべる二人を見て、ブランが抱きしめる力を強くする。

何度も「ありがとう」と呟くブランに、「おねえちゃん」と答えるロムとラム。三人の姉妹は、この後ネプテューヌが戻ってくるまでずっと抱き合っていた。

 

 

十分後。

立ち直ったのか、キリっとした表情のブランが戻った一行を待ち構えていた。

 

「立ち直ったみたいね、ブラン」

「ええ…。まずは、感謝を。妹達を助けてくれてありがとう」

 

ぺこり、と再び頭を下げるブラン。だが先ほどと違って表情は笑顔そのものだった。

 

「今回、私は妹二人の分あなた達に二つ借りができたわ。女神ホワイトハートも関係なくブランとして、私は恩を返したい。だから、何かあれば私達は絶対に協力すると約束する」

 

「……あんた、私の話し聞いてた?」

「姉さんツンデレが過ぎるから意図が「誰がよ!」あいたぁ!?」

 

姉の拳骨を受け悶絶し転がるユニ、そして慰めるネプギア。

ブランがなんとか漂わせていたシリアスな空気が一瞬にして崩され、ネプテューヌとベールもなんともいえない微妙な表情をしている。

が、ノワールの言うこともわかる、とネプテューヌが付け足した。

 

「仲間にそんな遠慮しなくていいよー。実際最近そんな戦闘する機会ないしさー。楽しかったし」

「ネプテューヌほどお気楽ではありませんが、そう借りと重く受け止める必要もありませんわよ?」

「わかってる。……でも、妹の命を助けてもらってありがとうで済ませられるほど、お気楽じゃない」

「それはねぷ子さんがお気楽だといいたいのかなー!?」

「誰も言ってないでしょそんなこと!」

 

ねぷー!と鳴くネプテューヌとのわー!と鳴くノワールがにらみ合う。

互いに両手を挙げながら鳴いてにらみ合うというなんともギャグな姿に再度形成されようとしたシリアスな空気が音もなく崩れ去った。

 

「ま、まぁ。何事もなく終わってよかったですわ」

 

なんとか軌道修正しようとしたベールだが、言い放った一言にロムとラムがビクっと体を震わせて反応した。

「どうしたの?」とブランが聞くものの二人とも「なんでもない」というだけ。

どうみてもなんでもない、といえる状態だが強情に話そうとしないので二人も気にしないことにした。

 

「では、私達はこれにて失礼させてもらいますわ。ほらネプテューヌとノワールも夫婦漫才は中止なさって?」

「何が夫婦漫才よ!?」「そーだそーだ!ねぷ子さんまだノーマルだもん!」

「ネプギアとユニも、何時まで転がっているんですの?」

「姉さん…割と本気でやってくれたわ……」「ユニちゃんのただでさえ低いINTがさらに……」

 

ベールの言葉に割りと普通に反応するラステイション姉妹、そしてギャグで返すプラネテューヌ姉妹。ここまで反応に姉妹の特色が出ると割りとベールまで面白くなってきている。

が、帰ると言ったので妹達を姉二人に任せ、他国女神一行は騒がしく教会を去っていった。

 

 

三人だけ残った執務室。

先ほどまでいた連中が騒がしかっただけあっていなくなれば寂しい雰囲気の中でふと、ブランが溢した。

 

「……ロム、ラム。私、女神としてまだ未熟だったみたい。ちゃんと、あなた達を守れるようにならないと」

「お姉ちゃん……」

「だいじょーぶ!そのころには私達、お姉ちゃんみたいに強くなっちゃうから安心して!」

 

少しだけ表情の暗いブランにラムが笑顔で答えた。

ロムもこくこくと頷き、肯定の意を示している。

 

「ロム……ラム……」

『ま、姉妹仲が良くて結構じゃねぇの?』

 

思わず二人の名を呼ぶブランの脳裏に、『自分ではない自分の声』が響く。

それと同時にロムとラムの後ろにうっすら半透明のブランが現れた。少し離れたところで三人を羨ましそうに見つめている。

 

(……もう一人の、私。今まで何をしてたの)

『何とは酷い言い草じゃねぇかよ、そっちが冷静さを欠いて変身するからこっちは出てくる暇もない。出力調整ってめんどくせぇんだぞ?』

(……)

『ま、最後の手段としちゃあ【オレ】の存在をばらすつもりではあった。そうしなくとも解決したってのはまだ時じゃないってことだ。暫く寝させてもらうよ、主人格様』

 

半透明のブランがそのまま姿を消す。

自分達を見ていなかったことを不思議がるロムとラムだったが、ブランは「なんでもないわ」とだけ答えて二人を抱く力を強めた。

~ルウィー市街 一角のある民家~

ルウィーの中でも人通りの少ない一角に存在する民家。

そこに、いつの間にかテーマパークから姿を消したヴイの姿があった。

きょろきょろと周りに人がいないことを確認し、特にボロボロの扉に張り付きコンコン、とノックする。

 

「審判の時」

「魔の女神」

 

聞こえてきた男の声にヴイが答え、扉が開く。

素早く部屋に入り扉を閉めると、薄暗い部屋にソファーに横になりながらヴイを睨む男性と、壁に寄りかかり腕を組みながらヴイを見つめる女性が出迎えた。

 

「遅かったな、マジック……トリックはどうした」

「捕まったよ。あの阿呆、最後の最後で欲を出したようだ」

「して、見捨てたのか」

(われ)の目的は女神の力を見据えることだった。奴の主義趣向はどうでもいい。それよりもジャッジ、ブレイヴ。我々の動くときは近い」

 

二人の間を歩き、ヴイは部屋に置かれた壊れかけの王様の椅子に腰掛ける。

ジャッジと呼ばれた男性は「ヒッヒッヒ」と笑い、ブレイヴと呼ばれた女性は特に反応もせず「ふん」と鼻を鳴らす。

 

「マジック。動く時は近いと言っていたな、トリックはそのままにしておくつもりか」

「彼奴は裏方だ、直接戦闘には向かない。故に放置する。これから始まるのは女神との全面戦争だ」

「ヒッヒッヒ、楽しそうじゃねぇの。女神共の肉は柔らかそうだからなぁ、千切って潰すのが楽しみだ」

「ジャッジ。我々の意義はあくまで主の敵を排すること。無用な殺生は慎めよ」

「うるせぇかたっくるしいんだよブレイヴちゃんよお!」

「貴様は慎みが無さ過ぎるのだジャッジ」

「はいはいそこまでにしておけ馬鹿共。……貴様ら、主はリーンボックスへ向われた。ここ数日で四国を飛び回っているようだ。恐らく近く、何かが始まる。準備しておけ」

「「Yes,mam」」

 

売り言葉に買い言葉というレベルで喧嘩を始めようとしたジャッジとブレイヴを落ち着かせ、ヴイが真剣な表情で話す。

二人も真面目な表情で答え、屋内の壊れかけの家具を片付け始めた。

 

「…………」

 

ヴイは小忙しそうに駆け回る二人を眺めつつ、ふと天井を見上げる。

古びた家屋の天井からは木の粉が時々降りかかり顔に当たる。それを気にもせず、ジャッジとブレイブにすら聞こえぬように呟いた。

 

「待っていてくれ……マジェコンヌ様……」

~次回予告~

「ボクは5pb.!リーンボックスのアイドルで、教会直属の密偵さ!」

 

                                 「ああ、ちょっとゲームが長引いてしまいまして……てへっ☆」

 

「掃除よ掃除!部屋も心も綺麗に保たなくて何が女神よ!」

 

                「コンパちゃん……ネズミと人の枠を越えた天使…!」

 

                                      「あなたたちを助ける。それが私の恩返し」

 

「ネプギアは皆を守ってね!お姉ちゃん超あっさり解決っちゃうよー!」

 

                                    「仕方ない、か……こうして働くのは何ヶ月ぶりかしら」

 

              「女神というルール。出来損ないの私が、この世界(ゲーム)のルールを根底から壊す……!」

 

次回、リーンボックスの開宴(ガールズナイト)

※次回予告はあくまで予定であり実際にその台詞が使われるとは限りません

~原作との(ry(二話時点)~

ブラン(ホワイトハート)

白の国【ルウィー】の守護女神。基本物静かだが実は激情家。冷静に振舞おうとはいしているがすぐに感情が高ぶり口調が変わる。努力はなかなか報われていない様子。

心裏にもう一人の自分がいるらしくちょくちょくブランの視界にのみブランの姿を借りて現れる。もう一人のブランは口調こそ荒っぽいが結構な策略家。ある意味平常のブランの正反対ともいえる。ブランを【主人格様】と呼んでおりちょくちょく手助けしようとしているが実はうまくいっていない。実体を持たない故の哀しみなのだろう。

女神化した時にこのもう一人のブランを呼び出すことが可能なのだが現在は隠している。もう一人のブラン曰く時がまだ来ていない、らしい。

実は愛用のハンマーには恥ずかしい名前がつけられているらしい。が、やっぱり恥ずかしいので誰にも公開していない。

 

ロム&ラム(ホワイトシスターズ)

白の国の女神候補生。姉がロム、妹がラムだが双子なので大して区別はされていない。

悪戯好きのまさに子供のような性格の二人だがトリックに誘拐された際の経験から姉を守れるほど強くなろうと決心する。

だがその時のトラウマや年齢相応の好奇心や無謀さが邪魔をしてなかなかうまくいっていない。だが決して諦めず修行に入れ込んでいる。でもいたずらはたまにするらしい。

この双子だが互いの姿に見せかける(ロム→ラム、ラム→ロムに姿を変える)ことができる。だが基本的に二人一緒に行動しているし二人とも後方支援の魔法使いタイプなので現状大した意味はないが、成長の余地はあるらしい。

ロムの使う杖は【D(ディメンション)・ラム】、ラムの使う杖は【F(フラッシュ)・ロム】と二人の使う杖にはそれぞれ互いの名前をつけている。

 

ベール(グリーンハート)

緑の国【リーンボックス】の守護女神。基本的には気楽な雰囲気を漂わせているがネプテューヌ以上にやるときはやるタイプ。

一国だけ女神候補生がいないことを気にしておりちょくちょく他国の女神候補生(特にネプギアとラム)にちょっかいをかけては追い払われている。だが決して懲りないというある意味原作に一番近い性格をしている。

主な武器は槍。オーダーメイドで作らせた槍で【アースティアーズ(大地の涙)】と名づけた。別に地属性とかそういうのはついていない。ある意味一番地味な武器である。

女神化時に進化先を指定しておくことで【エボルヴ】という特殊な女神化を行う。条件を満たすたびに次々と強化されている長期戦型のユニット設計となっている。今話ではヴァンパイアという血を流したり飲むことで強化されるタイプだったがトリックがぬいぐるみ故血を流さないため未強化で終わった。

 

ヴイ・サートルネ(マジック)

ルウィーの一角に住む謎の少女。トリック・ザ・ハードと知り合いのような雰囲気を出していた。

右目を覆う眼帯と腰どころか膝まで届く長く赤いツインテールが特徴的。

家ではマジック、と呼ばれているらしい。

実は結構な甘党で好きあらば砂糖ましましホットミルクや蜂蜜ましましアップルパイを食べたりしている。でも太らないのが密かな自慢。

 

???(ブレイヴ)

ルウィーの一角でヴイと住む女性。

長い金髪と赤い瞳と長身(ベールぐらい)が特徴。

トリコロールカラーが好きらしく私服は赤、青、白の三色のみを使っている。周りからの評判は当然良くない。

【仁義】や【信念】といった言葉と子供が好きで気高きSAMURAIであろうと常に心がけているがそもそもSAMURAIって何といわれても答えられない程度の知識しか持っていない様子。

同居するジャッジとは犬猿の仲でよく喧嘩してはヴイに止められている。

実はラムとロムに会ったことがある。

 

???(ジャッジ)

ルウィーの一角でヴイと住む男性。

黒のスーツと帽子、青い瞳と背負う大斧(ブランとは違い双方に刃があり、柄もかなり長く作られている)が特徴。

かなりの乱暴者で目を合わせれば「何ガン飛ばしてんだオラァ!(CV○村悠一)」と因縁つけて斧を振り回すぐらいには気性が荒い。

好きなものは水と肉と戦い、嫌いなものは生意気な女。恐らく女神のことを差しているのだろうが身内の二人(ヴイとブレイヴ)もばっちり当てはまっておりよくブレイヴと喧嘩している。

 

???(トリック・ザ・ハード)

ゲイムギョウ界随一を名乗る電子犯罪者。

なのだが今回は何故か自ら出てきてロムとラムを攫い、色々した後四女神と決闘するも焦ってブランに姿を変えたことが原因で敗北し、ルウィー地下で拘束されることに。

【食】に関して何かしらの思い入れがあるらしいが、つまりは幼女好きである。

実はヴイ、ジャッジ、ブレイブの同居人の一人。一人だけ黄色い巨体だが擬人化が出来る。だが変化先が食ったことのある相手に限定されるため姿自体は幼女になりがち。


 
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