第六話、『明かされた真実・後編』
俺は鞘名の冷たく凝った心を解き放つことができた。
おかげで鞘名は朱里とすっかり仲良くなった。戸籍上は朱里が姉の立場にあるとはいえ、朱里が常に敬語で
あるせいか、朱里の方が妹に見えてしまった。
同い年だし、どちらでもいいとは思うのだが。一応、朱里の方が誕生日が先なので姉なんだけどね。
…まあ、解放したら解放したで暴走したのか、鞘名は朱里と一緒に朝風呂を浴びるという暴挙に出た。
一応、鞘名には「仕合で汗をかいた」という大義名分があるのだが、仕合をしていない朱里を巻き込んで
無理矢理風呂に突入していくという点が暴挙だった。
しかも、ばあちゃんは風呂を沸かしていた。それ自体は鞘名のためなのだろうが、鞘名の暴走が加速することになった。
「ほ~ら、朱里ちゃん、お風呂行くよ~!」
「はわわ~!ま、待ってくだしゃ~い、鞘名しゃ~ん!」
南無。
風呂から上がってきたのは、風呂上がりのはずなのに何故かテカテカした鞘名と、何故か疲労が浮き出たかのような
表情をしている朱里だった。
朱里曰く、
「…どうして私の周りって発育がいい人ばっかりなんだろう…クスン」
とのことだった。
…あー、主に桃香とか愛紗とか…朱里と齢が近い面々でも発育が良い娘はたくさんいたからなぁ。軍師連中だと穏か。
それに、朱里は鞘名に体のあちこちをいじられたらしい。それも嬉々として。
…どうやら変態なのは俺だけじゃなくて、北郷家の遺伝子のようだ。うん、そうに違いない(←必死)。
しかし、風呂上りにテカテカして上がってきた鞘名を見て、俺は何故か再び桃香を幻視していた。
割と桃香もそういうケがあったような…華琳も酔った桃香にいきなり胸を揉まれたとか言ってたし…
―そこまで考えて俺は気付いた。
「…桃香も、俺の義妹だったな」
心地よい風が、北郷邸を吹き抜けていった。
朝飯を済ませた後、俺達は3人で町に出た。
ばあちゃんに買い物を頼まれたのと、俺が鞘名の木刀を折ってしまったので、新調するためと。
まずは剣道用具店に赴き、木刀を購入(これは俺の自腹で購入)。
続いてばあちゃんから頼まれた買い物をすべく、馴染の茶屋と和菓子屋に行き、お茶とお茶請けを購入した。
しかし、なんでまたこんな買い物を。茶葉は確かになくなりそうだったけど、お茶請けはまだあったはずだが…?
今日は親父たちが来るし、それに備えてかな。
…いや、それにしても多いだろう、これは。お茶請けなんてそう大量に出すものでもないし。
他に客でも来るのか?
一方、鞘名と朱里は俺と別れて雑貨屋に行っていたらしく、お揃いの装身具を購入してきた。
鞘名は「良いかな?」なんて無邪気にじゃれついてきたし、朱里も嬉しそうに購入したものを眺めていた。
―もう大丈夫だな。この二人も、すっかり姉妹だ。見た目は逆転してるけどね。
「―お父さんたち、もう着いたって。今メールが来たよ」
鞘名の携帯に親父からメールが届いたようだ。何故俺には届かない。
「でしたら、早く帰った方がいいでしょうね。『お話』もしたいですし」
「そうだな。さっさと帰るか。暑いし」
「そ~だよね~…って、お兄ちゃん、黒いシャツなんか着てるから暑いんだよ」
「まずったな。白系にすべきだったか」
「一刀様の場合、割といつも黒系のシャツを着ていらっしゃったような。外史でもほぼずっと聖フランチェスカの
制服でしたし」
「え、お兄ちゃん制服で外史に行ってたの!?」
「ああ、でさ、何が面白いって、ポリエステルだから光を反射しやすいだろ?だから『天の羽衣』って言われて
俺の正装扱いになってたんだ。十文字もそうだけど、俺のシンボルと言ってよかったな」
「お兄ちゃん、外史では十文字を使ってたんだ。まあ北郷だし、そうなるよね」
そう、何やかや他愛も無い話をしながら家路につく俺達。
こうして鞘名と気兼ねなく外史の話題で話せるようになったのは正直言ってありがたい。
隠すにしても大きすぎる隠し事になってしまうし、罪悪感が半端ない。
家族で隠し事をするっていうのは、俺はごめんだ。
「でさ、『お話』にはあたしも参加した方がいいのかな?」
一転して問うてくる鞘名に、俺は答える。
「ああ。お前も北郷家の一員で、俺と同じく外史からやって来た人間の血をひいているからな。
お前にも、北郷家三代にわたる宿命を知ってもらうことになる」
「そっか…わかった。覚悟は決めておくよ」
鞘名は真剣な表情のまま、俺の答えを受け止めた。
「さて…ばあちゃんとお袋が"誰"なのか…」
「何か一大スペクタクルな雰囲気ですね」
「一大どころじゃないでしょ」
「はわわ、そ、それもそうですね…」
すっかり横文字を使いこなすようになった朱里だが、確かにもう一大どころの話ではなくなっている。
もう大河ドラマ並みの物語を書く自信があるぞ。
「…それにしてもさ、朱里ちゃん」
「はい?」
「その『はわわ』って、口癖?」
「はわわ!?こ、ここここれはですね、その、あの、えと」
「ああ。伏龍孔明っていう異名と共に、『はわわ軍師』なんて呼ばれてたよ。他の国からも」
「もーっ!!一刀様~!!」
なんて、真剣な話をしていても俺の周囲はやっぱりがやがやと騒がしくなってしまうのだった。
ま、いつものことだけどね。
北郷邸に帰りつくと、親父たちのではない靴まであった。
「お客さんが他に来てるのかな?」
「みたいだな」
女性用の靴なので、たぶんばあちゃんの知り合いだろうか。
しかし、親父たちが来たタイミングで来客とは、何か意味深だな。
「―ようやくおかえりだわ」
「―おかえりなさい、一刀君、鞘名ちゃん」
俺にも見覚えがある二人だった。
「ただいま…って、あれ?
「疑問符が多いように感じるけど、まあいいわ。私たちは桜花に呼ばれたのよ」
「呼ばれた?」
「ええ。久しぶりに旧交を温めようってね」
俺の問いに答えたのは淋漓さんだった。
淋漓さんはばあちゃんと同年代なのだが、ばあちゃんと同じで異様に若く、二十代後半から三十代前半くらいにしか見えない。
まあ、北郷家も全体的に若いような気がするけどね。お袋なんて今でも十代に間違われるくらいだ。
「…そちらの子は?」
次いで、俺に問いかけてきたのは珠里さんだ。この人はばあちゃんよりさらに若い。下手をすれば二十代前半くらいに見える。
いや、そうにしか見えないんだが。年齢はみんな七十は超えているはずなのに、恐ろしい人たちだ。
そんなことを考えていて問いかけに応えないのは失礼極まりないので、俺は思考を断ち切って質問に答えた。
「この子は朱里。俺の…まあ、彼女だ」
「は、ははははじめましゅて!し、朱里と申しましゅ!」
ありゃ、鞘名の時は噛まなかったのに、ここで噛んじゃったか。
「―あははっ、もう、昔の珠里にそっくり!」
「笑わないで下さいよ、淋漓さん…」
「…あー、自己紹介させておいてそれを置き去りにしないでもらえる?」
何故か思い出話を始めようとする二人にツッコミを入れる。
「あはは、ごめんなさい。もう、年を食った証拠ね。すぐ昔話をしたがるんだから」
「したがったのは淋漓さんでしょ…」
愉快そうに笑う淋漓さんに対し、珠里さんは憮然として文句を言っている。
…今のは珠里さんが正しい。こっちを置き去りにして思い出話を始めようとしたのは淋漓さんだし。
弁護は出来ない。
「ごめんってば。じゃあ、気を取り直して。私は南雲淋漓よ。よろしくね」
「初めまして、朱里ちゃん。東山珠里です。ごめんなさい、置いてきぼりにしちゃって」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしましゅ!じぇんじぇん気にしていましぇんので、大丈夫でしゅ!」
…うーん、やっぱりカミカミだなぁ。もう無くて七癖、三つ子の魂百まで、だな。
そんな風に話をしていると、部屋にじいちゃん、親父、お袋、そしてばあちゃんが入ってくる。
「おう一刀。聞いたぞ、お前。夫婦揃って妹をコテンパンにしたんだって?」
開口一番そんなことを訊いてきたのは俺の親父、北郷
「必要に迫られて、だ。好き好んでコテンパンにしたわけじゃない」
「コテンパンにしたこと自体は否定しないんだな」
「否定しようにもできないだろ」
「今のあたしじゃお兄ちゃんや朱里ちゃんにはかなわないよ。もう闘気を出された時点で正直胸が苦しかった。
まさに王者の風格!って感じだったよ」
そう言って鞘名がフォローしてくれる。王者の風格って…俺にそんな風格があったかなぁ?
まあ、三国統一の象徴とかで三国を束ねる役目も果たしてたし、王者の風格ってものがあってもいいのかな。
…って、俺は始まりの外史から王だっただろうに。今さら何を言っているのか。
「ほう…一刀、お前も免許皆伝を受けたと聞いてはいたが、そこまで強くなったのか?」
「んむ。今の一刀には儂でも本気を出さねば確実に負けるわい。本気を出したとしても、勝率は四割程度じゃの」
「そんなにか!?こりゃ、俺も敵わないな」
今度はじいちゃんがフォローを入れてくれた。
北郷家内ではじいちゃんに勝てる=化物、みたいな図式が暗黙のうちに成立しており、じいちゃんに勝てる親父も十分
化物なのだが、この図式には続きがあり、本気のじいちゃんに勝てる=武神、というのがあるらしい。
今の所、本気じゃないじいちゃんが相手でも勝てるのは俺と朱里、それに親父とお袋、そしてここにいる淋漓さんくらいだ。
そして、本気のじいちゃんに勝てる(あるいはその可能性がある)のは、その中から俺の両親を抜いた三人になる。
…化物一家だな、こりゃ。
愛紗、春蘭…人外魔境なんて言って悪かった。こっちの方が遥かに人外魔境だった。
その後はとりとめもない雑談をしながら、時間の流れに身を任せていた。
だが、俺達としては早いところ『話』をしたいのだが、関係者ではない二人が帰る様子がまるでない。
縁側から吹き込んでくる風が少し冷たくなってきた頃、俺は遂に焦れてばあちゃんに声をかけた。
「…なあ、ばあちゃん」
「あら、どうしたの?お茶のおかわり?」
「そうじゃなくて…」
一呼吸置き、本題を切り出す。
「『話』をするんじゃなかったのか?」
俺の言葉に、ばあちゃんの目がすっと色を変える。
「…そうね。そろそろ、いいかしらね。ねえ、悠刀さん?」
「んむ、そうじゃの。もういい頃合いじゃろうな。貴刀も常盤も、淋漓も珠里も、覚悟は良いかの?」
「え?」
淋漓さんに珠里さんまで『話』に巻き込むのか?
「どうして淋漓さん達まで?」
「…うむ、今だから話すが、この二人はな…」
「―私たちも『話』をするために来たの。桜花に呼ばれてね」
淋漓さんが、じいちゃんの言葉を引き取った。
「な…」
「驚くのも無理ないわね。あなたや貴刀君は一人しか連れてこなかったみたいだけど、私たちは四人でこっちに来たの」
「…えっとね、わたしは自分でついてきたんだけど、淋漓さんは自分の意志とは関係なく…」
「不本意では決してないのだけれど…まったく、韓信の奴があそこでいきなり背中を押したから、ロマンチックの欠片も
なかったわよ」
「淋漓さんが素直にならなかったのがいけないんでしょ」
「な、なにを言ってるの?」
「とぼけたって無駄です。皆がわたしたちを見送ってくれる中で淋漓さんだけそっぽ向いてたじゃないですか」
「そんな細かいこと、もう忘れてよ…」
「お忘れですか?わたしが誰なのかを」
「もう今は関係ないじゃない!」
もうお互い七十を過ぎた頃だというのに、女二人でかしましい淋漓さんと珠里さん。
そこにばあちゃんが割って入った。
「はいはい、またグダグダになるんだから思い出話をはじめないの」
「グダグダの筆頭が何を言っているのよ」
「いいから、今は一刀達に話してあげなくちゃいけないことがあるでしょ?」
「そうですね」
「…わかったわよ」
珠里さんは素直に、淋漓さんは渋々と言った感じで、それぞれ言葉の矛を収めた。
そして皆が席に着き、お茶とお茶請けが行きわたったところで、いよいよ本題に入った。
「…さて、もうみなが承知しておると思うが、ここにいる者は全員『外史』について知る者じゃ。
一刀よ、お前が行ったのは後漢王朝末期、後の三国志の時代で間違いはないな?」
普段はあまり見せない、厳しい口調でじいちゃんが問うてくる。
「…ああ、それで間違いはないよ」
「んむ。儂や桜花たちが秦との戦いや楚漢戦争、前漢成立後しばらくまでの時代。貴刀と常盤が後漢王朝成立直前から
成立後しばらくまでの時代じゃ。それは把握しておるの?」
「貂蝉から聞いて知ってるよ」
それはもう知っていることだ。今さら驚きはしない。
「うへぇ~、みんな凄い時代に行ってたんだねぇ…」
一方の鞘名は驚きすぎて逆に大声を出せなくなっていたのか、感嘆するかのような口調だった。
しかし、凄い時代に行っていたというのは俺も同意だ。狙ったかのような時代に行っているみたいだな、みんな。
…ああ、そうか。乱世でなければ『天の御遣い』は象徴以上の意味を持たないか。
改めて自分に与えられていた称号と照らし合わせて考えると、納得がいった。
「…では、先ずはここにいる外史出身者の素性を明かすこととしよう。まずは朱里、お前からじゃ」
「はわわ、え、えと…姓は諸葛、名は亮、字は孔明、真名を朱里と言いました」
「あらあら、伏龍孔明とは…これはまた大物ね」
「何だか親しみを感じます。わたしも軍師でしたからね」
聞き捨てならない言葉を聞いた。珠里さんは軍師だったのか…。
「…ここから先、驚くことになるじゃろうが…三人とも、覚悟は良いかの?」
次は誰の番だろうと考えを巡らせていると、じいちゃんが声をかけてきた。
どうやら、知るのに覚悟を要するほどに歴史上重要な人物たちのようだ。
「ああ、いいよ」
「もう何でも来いって感じ」
「はい」
三者三様の答えを返すと、じいちゃんが思案顔になり、ややあってまた口を開いた。
「うむ…一人一人明かしていくよりは一気に明かしてもらおうかのう」
「え、一気に?」
「そうじゃ。お前もそのくらいの度量はあるじゃろう。大陸統一を成し遂げた王なのじゃからな」
それとこれとは話が別な気が。
「…わかった。それでいいよ」
「んむ。では、珠里から順に言ってもらおうかの」
見ると、珠里さんは俺から見て最も左手に、右手に向かって順に淋漓さん、お袋、そしてばあちゃんといった構図だ。
何故か俺は異様な気配を感じた。もしかしなくても歴史上の偉人達であろう目の前の人たちに、ある種の畏敬を
抱いているのかもしれない。四人が揃うと目に見えないエネルギーが空間に満ち満ちたようだった。
「…じゃあ、わたしから、言いますね」
「―わたしは、張良。字は子房です」
「―我が名は項籍羽!世に聞こえた西楚覇王とは私のことよ」
「―劉秀、字は文叔。世祖とも呼ばれる光武帝よ」
「―私は劉邦、字は季。高祖と呼ばれているわ」
「…」
俺は呆然としていた。
偉人であることは予想していたが、よりにもよって、といった面子だ。あまりにも名が広く知れ渡った、
俺が知る三国の王たちも真っ青なほどの偉人たちだ。
「は、はわわ…張子房に、西楚覇王、世祖・光武帝に、高祖劉邦…はわわわわわわわわわわわわ」
唇どころか全身をわなわな震わせ、うわ言のように繰り返す朱里。朱里自身、歴史に名を刻む偉人なのだが、
目の前にいる四人は当の朱里にとっても歴史上の偉人たちだ。当然の反応だと思う。
「…………………………」
鞘名の方を見れば、元々大きい瞳を目一杯に開き、口をあんぐりと開けて四人の方を見て固まっている。
「…まあ、こうなるじゃろうとは思っておったがの。儂らも一刀が外史に行っていたと聞いたときには同じくらい
衝撃を受けたのじゃ。勘忍しておくれ」
いや、驚きの度合いが違い過ぎると思うんですが。
…しかし、冷静に考えると一つの事実に思い当たる。
度々桃香が鞘名に重なって見えたのは…そういうことだったのか。
「…だから、鞘名に桃香を見たんだな…」
「…!そ、そうかもしれませんね」
「桃香?誰の事?」
桃香が誰の事だか当然知らないお袋が問うてくる。
「劉備玄徳だよ。俺が外史の中で出会った、唯一の劉姓の人間」
「あら、中山靖王の末裔ね。どういう関係だったの?」
「俺が一緒だった時は俺が盟主だったけど、格としては同じで、代表は劉備だった。
俺が魏や呉にいた時は、敵対したこともある」
「…?どういうこと?」
…まあ、お袋たちの暴露大会が終わった後は俺の暴露大会になるわけで。
俺はまだわなわな震えている朱里はそのままにしておき、
鞘名にしたものと同じ説明を三人に(ばあちゃんは既に知っているので)繰り返した。
……………………………………………………
「………そうか…俺や父さん以上に数奇な運命を辿ったんだな、お前は…」
話を終えると、普段は気楽な親父が、腕組みをしてこれ以上ない程に難しい表情を浮かべていた。
「しかし、奇妙な話よね。外史が輪廻するなんて」
そう言ったのは淋漓さんだ。
「…貂蝉曰く、望まれる限り外史は新生し続けるらしい。俺は何らかの要因によって外史に囚われ、
やがて抜け出せない『閉じた輪廻』に閉じ込められたんだ。だが、運が良かったのか、孫策が命を落とした時に
それに気付き、大陸統一を成し遂げて数年後、泰山を経由してこっちに戻ってくることができたんだよ」
幾度となく繰り返される物語。それは知らぬ者には良いが、知った者にとっては地獄でしかない。
どれほど悲しみ、そしてそれを未来につなげようと思っても、終端を迎えれば全てが振り出しに戻る。
そして、また同じ悲劇が繰り返されていくのだ。
なんと不毛なことか。
「恐ろしい話ね…記憶がリセットされるとはいえ、何度も繰り返される物語だなんて…」
かぶりを振るお袋。それはそうだ。知らない方がいい真実なのは間違いない。
「流星に乗り舞い降りし天の御遣い、その知と徳を以て乱世を救わん…もはやこれは北郷の一族に生まれた者の
宿命になったのかもしれないな。それにしても一刀は特殊すぎるだろうがな」
親父がそれに応じる。親父たちもそんな預言とともに乱世に降り立ったのだろうか。
まるでどこかの白いヤツみたいだ。世界が争いに疲れ果てた時、どこからともなく現れて、人々の意志を繋ぎ、
やがて戦いが終わると、何処かへと去って行く…。
天の御遣いとは、そういう存在なのだろう。俺はどこかの白いヤツに自分の役割をなぞらえ、感傷に浸っていた。
しかし、次の瞬間。
「………ほへ~、もうなんか世の中の全てがどうでもよくなってきた~」
その緊迫した雰囲気を、桃香ばりに間延びした鞘名の台詞がぶっ壊した。
「お兄ちゃんが外史に行っていて、朱里ちゃんが外史の出身者ってだけでも驚きなのに、
張子房に、西楚覇王に、光武帝、おまけに高祖劉邦?もう一生分驚いたよ~」
疲れ切ってしまったかのような表情を浮かべる鞘名。それはそうだろうな。鞘名の言う通りだ。
歴史上の偉人たちが親族や先祖どころか、親や祖母、しかもその知人の人たちまでそうなのだから、
聞く人が聞けば驚きのあまりエ○ソ○スト現象を起こすだろう。中身と外身がひっくり返る的な。
…想像がえげつなかったか。アレはトラウマものだった。うん。
その後は外史の話題に花を咲かせていた俺達だったが、ここから本当の本題に入らなければならない。
そう、貂蝉からの手紙の件だ。
俺は話を続けようとする皆を制すると、じいちゃんに問いかけた。
「…じいちゃん、あれから手紙は読んだか?」
じいちゃんの顔が、見る間に険しいものに変わる。何も言っていなくとも発せられる雰囲気に気圧され、
皆は黙ってしまった。俺にとっては好都合なのだが。
「…お前、本気なのか?」
「ああ、本気も本気さ。それが俺の責任だ」
「本当にその気なのね?覚悟はもう決まってるの?」
じいちゃんの問いに答えると、横合いからばあちゃんが心配そうに言ってくる。
「もう覚悟は決めた。俺は迷わない。俺達の過去を否定したくないから」
決然と答えを返した。
「何の話?」
「過去を否定するって、どういうこと?」
「…お兄ちゃん、まさか…!」
不思議そうに訊ねてくる淋漓さんとお袋。そして何かに気付いたらしい鞘名。
おそらく鞘名の読みは正しい。
「…外史は今、崩壊の危機に陥っている。そして、あの外史が崩壊すれば…あの外史の存在を前提として
再構築されたこの世界もまた、崩壊してしまうんだ」
俺に続き、朱里もまた、恐るべき事実を話し始める。
「外史を形成する莫大な想念の力が行き場を失くし、外史に『綻び』ができてしまっているんです。
一刀様が介在しない形で新生してしまった外史には、想念の力が指向すべき『想念の集積点』が存在しません。
それを新たに生み出さない限り、外史の崩壊は避けられません」
じいちゃん達は険しい表情を浮かべ、事情を知らなかった両親や淋漓さんたち、そして鞘名は恐怖の表情を浮かべていた。
「…想念の集う場所である『想念の集積点』を見出すことができれば、外史の力が安定し、『綻び』を修復できる。
今、肯定派管理者たちが『綻び』に対処しているが、そう長くはもたない。そうなれば、あの外史も、この世界も、
全てが無に帰す」
そうだ。だからこそ、あの外史を救わなければならない。
そして、それを躊躇えば、それは俺達を結びつけ、育んでくれたあの外史を拒絶したのと同義だ。
幾つの思い出があるかもわからないほど長く過ごした、あの外史を救うため。
「―俺達は、再びあの外史に旅立つ」
あとがき(という名の言い訳)
みなさんこんにちは、Jack Tlamです。
最近貧血気味なのでちょいちょい執筆速度が落ちてきてますが、頑張りたいと思います。
もちろん、身体は大事にします。
秘密大暴露の回、そして新たなオリキャラ達。
項羽と張良。大人物です。
鞘名が朱里を連れて朝風呂を浴びに行った際、「百合~ん」なことがあったかはご想像にお任せします。
振れ幅が極端すぎてそっちの方まで行っちゃった感じです。
今回は一刀達が再び外史に旅立たなければならないと明かすところまでで止めましたが、
次回はそれを受けたその後の各キャラの反応やら行動やら、そして戦いへの備えやら、雑多なことを
お送りしたいと思います。
鞘名が桃香に似ているというのは、劉家の血筋ということで。
秘密を知った時の反応については…人間、驚きすぎると悲鳴も上げられません。はい。
鞘名は桃香と違って勘が良いので、一刀が言いたいこととかはすぐに理解します。
前回まではもうあれです、居場所を失うっていう焦燥から勘まで曇っていたんです。
それがもう晴れたので、勘の良さも復活。いい妹ですね。
一刀が天の御遣いという存在について考える部分は、あれです。どこぞの白い流星のことです。
それの後継なども含め、ずっと見守ってきた某大佐がある主人公に、それについて語った台詞を基にしています。
役目を終えれば去って行く…御遣いと○ン○ムには、似通った点が多いと思います。
では、また次回に。
追伸 徐庶の真名をどうしよう…(思案顔)
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『真・恋姫†無双』を基に構想した二次創作です。
無印の要素とか、コンシューマで追加されたEDとか、
その辺りも入ってくるので、ちょっと冗長かな?
無茶苦茶な設定とか、一刀君が異常に強かったりとか、
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