No.610026

第三話

資源三世さん

イナズマイレブンGO 二次創作。作者HPより転載

2013-08-18 19:27:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:836   閲覧ユーザー数:836

サッカー部の存続を賭けて、剣城とのPK対決が決まり、風雲急を告げる雷門サッカー部。そこへ颯爽と現れたのは数々の異名を持つ雷門の守護神であった。

 

 

『三本目のゴールポスト』

 

「さあ、俺のシュートを止めるのはどいつだ?」

 

「それは……」

 

「俺だ!」

 

 円堂が言うよりも早く、一人の男がどこからともなく声をあげるのだった。

 

「誰だ?!」

 

「俺ですよ、監督」

 

「お、お前は……」

 

 颯爽と姿を現したのは、雷門のGKのユニフォームを着た少年であった。その姿を見た円堂は、驚きの色を隠せないまま、彼に声をかける。

 

「本当に誰だ?!」

 

「え? いや、俺ですよ、三国ですよ。雷門のゴールキーパーの」

 

「な、なんだって?! ……今の雷門にゴールキーパーがいたのか」

 

「ちょっ! い、いますよ! な、なぁ、お前らからも何かいってくれないか?」

 

「そういえば、人数合わせで一人入れていたような……」

 

「し、神童? 今、さりげなくとんでもないことを口走ってなかったか?」

 

「三国先輩ってゴールキーパーだったんですね。一人だけユニフォーム違うし、全然、シュートを止めないから、てっきり他の学校の生徒がゴールポスト役をやっているのかと思ってました」

 

「天馬、お前は俺をなんだと……。いや、そもそもゴールポスト役の人ってなんだよ! そんなポジションないだろうが! しかもなんで他の学校の生徒がそんなことしてるんだよ! おかしいだろ!」

 

「えーと、よくわからないんだが…… 千国は雷門のゴールポストでいいのか?」

 

「千国じゃなくて三国です、九百九十七多いです。あとゴールポストじゃなくて、ゴールキーパーです!」

 

「おいおい、本当かよ? 俺、てっきり雷門のゴールキーパーは俺だと思ってたのにさ……」

 

「あなたは監督でしょうが! 年齢的に出られないでしょうが!」

 

「いや、まだまだ半ズボンだっていけるぜ!」

 

「半ズボン履くとかそういう問題じゃないですよ!」

 

 青春真っ盛りといわんばかりの爽やかな笑顔を見せる円堂であったが、三国はあっさりと却下するのだった。しかし、それを見ていた神童は新旧GKの二人を見比べて、小さく頷く。

 

「いや、監督は若作りだからなんとかなりますよ。三国先輩でも、たまに年齢詐称疑惑がたつくらいで済んでるわけですし」

 

「え? 俺にそんな疑惑たってたのか?」

 

「はい。でも全然、ゴールを守れないんでどっちでもいいかって納得してもらってます」

 

「さすが三国先輩です!」

 

「やるじゃないか、万国」

 

「俺たち相手に十点とられただけのことはあるな」

 

「どういう納得のされ方されてるんだよ、俺は! あと、万国じゃなくて三国です。九千九百九十七多いです」

 

「じゃあ、GKは俺がやるから、三億はゴールポストでどうだ?」

 

「いや、良くないですよ! あと三億じゃなくて三国ですから! 神童、お前からも何か言ってくれ!」

 

「三国先輩がゴールポストですか……? そうですね、俺もそれでいいと思います」

 

「って、なんで納得してるんだよ! 天馬、お前だけは俺の味方だよな? な?」

 

「やっと雷門にもGKが入るんですね! これで三国先輩もゴールポスト役に復帰できるじゃないですか。それでそのユニフォームってどこの学校のですか?」

 

「さりげなく俺を学校からも追い出そうとするな! GKはユニフォーム違うんだよ! あとゴールポスト役なんてないからな!」

 

「え? じゃあ、なんで三国先輩はフィールドに出てるんですか……?」

 

「キーパーだよ! ゴール前にいるのはキーパーだろ! 雷門イレブンなのに、俺を抜いたらイレブンじゃなくなるだろうが!」

 

 どうしても譲ろうとしない三国の気持ちを汲んで、円堂は一つの提案をする。

 

「そうか、そんなにGKをやりたいのか。よし! なら、剣城の側のGKをやってみたらどうだ?」

 

「おい、ちょっと待て!」

 

 なさかの提案に咄嗟に反論したのは三国…… ではなく剣城であった。それもそうだろう。自分たちが前半だけで十点を入れた相手をGKになどしたくないし、ついでに雷門の選手である三国に公平なプレーを期待することなど無理である。そもそも全力を尽くしたとしてもゴールを守れるとも思えない。だからこその反論であったが時、既に遅かった。

 

 剣城の肩に、ぽん! と、手が置かれる。剣城は嫌な予感を抱きつつも振り返れば、そこにはとてもいい笑顔でサムズアップをする三国の姿があった。

 

「剣城、今からお前のゴールは俺が守ってみせる!」

 

「なんであっさり納得してるんだよ! つーか、この勝負がどういうことか分かってるのか?! 俺が勝ったら雷門は潰れるんだぞ、おい!」

 

「ははっ、俺が勝てると思ってるのか?」

 

「何、爽やかに答えてるんだよ! むしろ、これ、わざとだろ? わざと押し付けたんだろ? それっぽく、いらないもの押し付けるんじゃねぇ!」

 

「いらないものとはなんだ! 三国先輩は『三本目のゴールポスト<オーバー・ワン>』の異名で恐れられる雷門のゴールキーパーだぞ! 本当は嬉しいんだろ?」

 

「くそっ、三国先輩が奪われるなんて……! まさか剣城がここまでしてくるなんて思わなかったよ! このムッツリめ!」

 

「誰がムッツリだよ! つーか、さっきと言ってることが違うだろ、おい! そんなに欲しけりゃ返してやるよ!」

 

「剣城…… 気持ちは嬉しいが、既にチームは決まってしまったんだ。それを引き離すなんて真似、監督として俺には出来ない」

 

「三国先輩を奪われながらも正々堂々と勝負を受けるんですね。さすがです、監督!」

 

「いや、それ押し付けてるだけだろ! おい、あんたからも何か言ってやれよ!」

 

「不安になることはないぞ、剣城。なぜなら俺はたとえ雷門が不利になろうとも、お前を裏切ったりはしない! みんなに裏切り者と呼ばれても、俺は自分が決めたことを裏切ったりはしないからな!」

 

「格好良く言ってるけど、実力が伴ってないだろうが!」

 

「それじゃあ、PK勝負を始めるか」

 

『オォー!!』

 

「オォー! じゃねぇよ! 勝手に話を進めるなよ、ちくしょうが!」

 

 こうして無理矢理に三国を押し付けられた剣城の波乱の勝負が今、幕を開ける。

『二本目のクロスバー』

 

「勝負は五回。それで決まらなかったらサドンデス方式。後攻終了時にどちらか片方だけがゴールを決めるまで続ける。これでいいな?」

 

 円堂のルール確認に、剣城と神童はお互いに頷く。

 

「雷門からはキッカーがキャプテン、キーパーがオレ…… じゃなくて天馬か。フィフスセクターからはキッカーが剣城、キーパーが死国」

 

「死国じゃなくて三国です! 近いようでとんでもなく遠くなってるじゃないですか!」

 

「え? あぁ、そうか? まあ、名前なんてなんだっていいだろ。この試合で俺たちが勝ったら剣城をもらう代わりに三国はフィフスセクターに入って、もう会うこともないんだから」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! な、なんで俺が追い出されることになってるんですか?!」

 

「え? だって、そうしないと部員が十一人越えるだろ? だから、剣城が増えた分、一人を譲ってやろうってことになったんだよ。なあ、剣城?」

 

「いや、いらねぇよ、こんなの! 勝手に余計な条件つけんじゃねぇ」

 

「こんな感じで剣城とは話がまとまってるからさ。新しい環境でも頑張ってこいよ」

 

「いや、話かみ合ってませんよね?! というか、なんでこのタイミングだけ名前が正しいんですか!」

 

「よかったですね、三国先輩。俺なんて、まだ名前で呼ばれたことないのに……。もう戻ってこないでください」

 

「おい、神童。なんでものすごく恨みがましい目で俺を見るんだ? ……う、うおぉー! ここは絶対に勝って雷門に残るぞ、剣城!」

 

「って、俺を巻き込むな!」

 

 剣城までも巻き込んで、三国は今までにないほどの強い勝利への執念を垣間見せるのだった。その姿を見ていた神童はなんとなく円堂に話を切り出す。

 

「三国先輩が勝ったら、雷門サッカー部は廃部だってこと、教えておいたほうがいいでしょうか?」

 

「いや、世の中には知らないほうがいいってこともあるだろ。ここは知らせないでそっとしておいてやろうぜ」

 

「試合前に無駄に気をつかわせることはないということですね。敵に対しても配慮するなんてさすがです、監督! 三国先輩もそう思いますよね?」

 

「ああ、そうだな。だが、隠すつもりがあるなら俺に同意を求めないでくれないか?」

 

 知りたくもないことを知ってしまった三国は先ほどまでの勝利への執念から一転、苦悩に満ちた表情でとぼとぼとゴールへと向かうのだった。

 

「それじゃあ、PK戦を始めるぞ!」

 

 全ての準備が整い、円堂の号令のもと、遂にPK戦が始まりを告げる。

 

『さあー、雷門サッカー部の存続を賭けたPK勝負がついに始まりを告げました!』

 

 どこからともなく実況用のマイクを持った生徒がその場に姿を現す。彼は注目が自分に集まるのを感じてか、それとも決まったパターンなのか、一度、トーンを抑えて一礼と共に名乗る。

 

『解説は私、角馬歩が努めさせて頂きます。さあ注目のPK戦、一回目の先攻は神童選手がシュートを見事に決めたため、追い込まれた剣城・三国ペア。ここで剣城選手が決めなければ、雷門の勝利がほぼ確定となります!』

 

 ゴールへ向かう途中の三国は全力で円堂達の元まで戻る。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! なんで俺のPK戦が飛ばされてるんですか?! しかも、俺、負けてるじゃないですか!」

 

「いや、尺の都合っていうのがあってさ。ほら、試合開始がずいぶんとずれちゃってるけど、試合は第三話中に終わらせないといけないだろ? だから削れるところは削っておかないと」

 

「何言ってるかよく分からないですよ!」

 

「こんなことも分からないんですか? ふっ、そんなんだから『二本目のクロスバー』なんて呼ばれるんですよ」

 

「いや、そんな呼ばれ方した覚えはないんだが……」

 

「いえ、きちんと呼んでますよ、俺が!」

 

「本人の前で堂々と陰口叩くな! つーか、神童、お前は俺に何か恨みがあるのか? そもそもだな、監督の話が分かったとしてだ」

 

「分かったならいいじゃないか。それじゃあ、続けるぞ」

 

「いや、分かったじゃなくて、わかったとしてですよ! なんで削れるところで俺の試合を削るんですか?! むしろ、今のこのやりとりを削るべきじゃないですか?」

 

「わかったよ。じゃあ、三国がゴールの前に立ってたことに気づかなかったことでいいだろ? クロスバーが見えたもんだから、うっかり間違えたんだよ。よくあることだな」

 

「あぁ、よくあるうっかりですね」

 

「うっかりってなんですか、うっかりって! そもそも、クロスバーが見えたから間違えるってどういうレベルですか? 俺の存在はクロスバーと同じレベルですか?!」

 

「それより、ちゃんと剣城を見てやれ。ここであいつが決めないとお前たちの負けがほぼ決まるんだからな」

 

「話そらしやがった!」

 

 円堂たちの話を傍目に、剣城と天馬のPK勝負はすでに始まりを告げていた。神童と三国の勝負とは打って変わって、ひどく張り詰めた空気が余計なものは全て、存在しないものとしていた。今、ここにいるのは戦う二人、それだけの世界だ。

 

「くらえ……」

 

 緊張感が最大になったところで剣城が動く。

 

「デスソード!」

 

 禍々しいオーラを纏い襲いかかる剣城のデスソード。空気を裂き突き進む一閃、その切っ先が狙いすますのはゴール…… ではなかった。死の剣は僅かのブレもなく、真っ直ぐに天馬へ突き刺さる。

 

「え? う、うわぁっ!」

 

「天馬!」

 

 今の天馬に襲い来るデスソードを止めることは叶わず、その体ごとゴールネットへ叩きこまれてしまった。

 

『ゴ…… ゴ、ゴール! 松風選手ごとゴールへ突き刺さったーーー!』

 

 デスソードの直撃を受けた天馬は、勢いを失ったボールと共に地面へ転がるのだった。神童はすぐに天馬の元へ駆け寄り、その体を抱きかかえる。天馬自身には力が入ってないらしく、ぐったりともたれかかってくる。

 

「天馬、大丈夫か?!」

 

「す、すみません、キャプテン。俺、もう…… ダメかもしれません……」

 

「喋るな! これ以上、無理に喋らなくていいから!」

 

「は、はい……。で、でも…… これだけは……」

 

「なんだ?」

 

「……グ、グラウンドで横になれば、女子のスカート覗けるかと思ったけど、フェンスが邪魔で…… よく見えないんです……! がはぁっ!」

 

「……喋るな! これ以上、本当に喋らなくていいから!」

 

「これじゃあ、なんのために倒れたのか…… 本当…… わから……ないですよ……! うぅっ!」

 

「天馬? おい、しっかりしろ、天馬!」

 

 神童の呼びかけも虚しく、天馬は悔しそうに涙を流しながら、意識を失ったのだった。

 

「ふっ…… これでお互いにキーパーはいなくなったな」

 

「剣城、貴様、それが目的か?!」

 

「いや、お互いじゃないだろ。俺はまだ無事だぞ」

 

 それとなく割って入る三国だが、剣城は目を合わせることなく、話を続ける。

 

「こうなったら俺とキャプテンでキーパーも兼任して、決着でもつけますか? もっとも天馬の二の舞で負けるより、ここで負けを認めておくほうが楽だとは思いますがね」

 

「いや、だから、俺は無事だぞ。剣城、お前のゴールは俺が守ってやるからな」

 

 力強く拳を握りしめ、アピールする三国だが、神童も目を合わせようとせず、天馬の体を押し出す。

 

「いや、天馬はまだ戦える! 天馬の心臓はまだ動いている!」

 

「キャ、キャプテン…… あなたは鬼ですか…… ぐはぁっ!」

 

「はっ! そのざまで何が出来るっていうんだ?」

 

「しっかりしろ、天馬! お前はたった一度で諦めるのか? 不可能だって決めつけて終わってしまうのか? 違うだろ、俺の知ってる天馬はそんなやつじゃない!」

 

「キャ……プテン……?」

 

「毎日、毎日、登校中にドリブルしながら風を起こして、さりげなく女子のスカートをめくろうと試してるじゃないか! どんなに失敗しても諦めず、改良に改良を加えて、諦めることなんて最初から頭にないみたいに!」

 

「さりげなくとんでもないこと暴露していいのかよ?!」

 

「キャプテン…… そう……です…… よね」

 

「な、なんだと?!」

 

 神童の励ましが効いたのか、天馬はゆっくりと頭をあげる。その姿にはうっすらと、だが確実に燃え上がる生命の炎が垣間見えた。

 

「たった一度の失敗がなんだ……っていうんだ。俺は…… 俺は…… 絶対に諦めたりしない!」

 

「ば、馬鹿な……、俺のデスソードをまともにくらって起き上がるだと?!」

 

 驚愕する剣城の前で、天馬はしっかりと立ち上がってみせるのだった。

 

「すみません、キャプテン。俺…… 見えそうで見えないのも、それはそれで興奮するってこと……忘れてました。キャプテンのおかげで大事なこと、忘れずにすみました!」

 

「よし! いけるな、天馬!」

 

「はい!」

 

「ちっ……! こうなったら何度でも踏みつぶして、立ち上がったことを後悔させてやるよ!」

 

 激しい戦いはまだまだ始まったばかりだ。

『一枚目のゴールネット』

 

 

「フォルテシモ!」

 

「バーニング・キャッ……うわぁっ!」

 

 神童のシュートに対して、三国はバーニング・キャッチで対抗しようとする。だが、洗練された見た目とは裏腹に、強烈な威力を持つハーモニクスを三国が止めきれるわけもなかった。

 

『神童選手の必殺技を前に、三国選手は為す術なし! 一枚目のゴールネットを弾き飛ばして、そのままゴールへと突き刺さったー!』

 

「誰がゴールネットだ!」

 

 神童がシュートを決め、わずかに優勢になろうとも剣城は何らプレッシャーも感じた様子も見せずに必殺シュートを放つ。

 

「くらえ、デスソード!」

 

「フェンス・オブ・がはぁっ!」

 

 フェンス・オブ・ガイアを発動するよりも早く、剣城のデスソードが一枚目のゴールネットを貫いてゴールを決める。

 

『ゴ、ゴール! 剣城選手も再び強引にシュートを決めたぁ! 十回戦目を数えながら、またしても勝負がつかなかったぁ! この勝負、一体どうなるのか見当もつかないぞ!』

 

「って、なんで俺は剣城のシュートまで止めてるんだ?!」

 

 PK戦はお互いに一歩も譲ることなく、激しいせめぎ合いとなった。神童が必殺シュートでゴールを決めれば、剣城もまた三国をゴールへ叩き込む。

 

 その意地と意地、プライドとプライド、なにより負けられない思いのぶつかり合いは五回で決着がつくようなものではなかった。サドンデスに突入してもお互いになんらプレッシャーを感じた様子も見せず、がら空きのゴールへと次々にシュートを決めてゆくのだった。

 

『ゴール! ゴール! ゴォール! またしても決着がつかないまま、十五回戦目に突入だ!』

 

 そうは言っても一向に決着がつかない状況に、少しずつだがもどかしさばかりが募リ始めているのも事実だった。

 

『神童選手、剣城選手、双方とも譲らないままに三十回戦目に突入だ!』

 

 ただミスをしなければいいのならともかく、終わりの見えない勝負ではメンタルの強さが鍵となる。

 

「はぁ…… はぁ……。こ、今度こそ決着をつける!」

 

 神童は息を切らしながら、ゴール前に立つ。かなりのシュートを撃ち続けたことに疲労はあったろう。だが、それは同じ数のシュートを決めている剣城と比べても消耗の仕方が格段に大きかった。

 

「キャプテン、やけに息があがってませんか?」

 

「……あぁ。これは思ってたよりもまずいかもな」

 

 神童の様子がおかしいことに円堂は初めて厳しい表情を見せる。それを引き金にして天馬の緊張は次第に高まってゆく。その緊張した空気は意図しなくとも神童にも伝わる。

 

「フォル……テシモ!」

 

 当然、そんな状態で放ったシュートが完璧であるはずもない。

 

「バーニング・キャッチ!!」

 

 三国は神童のシュートをバーニング・キャッチでねじ伏せる。

 

「な、なんだと?!」

 

「うおぉーーー!」

 

 バーニング・キャッチで抑えつけられながら、なおもゴールへと向かおうと荒ぶるボール。力と力、技と技、三国とボールの激しいせめぎ合い。もし、万が一、偶然、奇跡的に三国が勝ったとしたなら、それはそのまま剣城の勝利に繋がると言っても過言ではない。

 その場にいた者たちはその決着にの注目を集める。時間にして二秒、三秒程度。なのにひどく長く感じたそのせめぎ合い。その決着は……

 

「うわぁーーーーー!!」

 

 三国を打ち破り、かろうじてボールはゴールネットを揺らしたのだった。

 

『ゴ、ゴール! 神童選手、かろうじてゴールを決めたぁ!』

 

「あ、危なかった……」

 

 神童は気持ちが途切れて、そのままへなへなと地面に座り込んでしまうのだった。異変を感じた天馬はすぐに神童の元へ向かう。

 

「キャプテン、大丈夫ですか?!」

 

「あ、あぁ……、大丈夫だ」

 

 口では大丈夫だと言っても、その心の深い所は既に折れてしまっていた。いつにも増して目は死んでおり、立ち上がろうとする素振りすらなく、ぼーっとしたままだ。

 

 三国の守るゴールにシュートを決めるだけという、とても簡単なことの繰り返し。それだけのはずなのに、失敗が許されないのにいつ終わるかも分からないという二つのプレッシャーは知らず知らずのうちに神童を蝕んでいた。

 

 気づけば、三国がシュートを止められなかったことに、まだ勝負のプレッシャーが続くことに神童は心なしかがっかりとしていた。

 

 普段なら、三国にシュートを止められそうになったというとてつもない屈辱に、自分自身を許せずに心を燃え上がらせたはずなのに……。

 

「邪魔だ……」

 

「え?」

 

「デスソード!」

 

 いまだ立ち上がることの出来ない神童の目の前を、剣城のデスソードが横切る。次の瞬間に響き渡るのは二つの悲鳴。

 

「うわぁっ!」

 

「ぎゃあっ!」

 

 黒き剣はその射線上にいた天馬、三国の二人を貫いてゴールへと突き刺さった。

 

「な、なんで俺まで……」

 

『な、なんと! 剣城選手、シュート位置の遙か後方からゴールを決めたぁ! これは神童選手への当て付けか?!』

 

「て、天馬……!」

 

 地面に膝をつけたまま、神童ははじき飛ばされた天馬へと手を伸ばす。その姿を見下すように冷たい人影が歩み寄る。

 

「さあ、キャプテン。さっさと決着をつけましょうよ」

 

「剣城、貴様……!」

 

 背後から見下ろしてくる剣城を、神童は睨みかえす。天馬がやられたことでかろうじて戦意を取り戻したようだ。だが、それも一時的なものに過ぎないことは、誰が見ても明白だ。一回、二回は防げたとしても、長くはもたない。

 

 決着は着いたも同然と思われた時だった。

 

「まさか、神童を相手にここまで粘るとは……。流石といったところか?」

 

 この窮地を打ち崩す援軍が到着したのだった。


 
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