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魔法少女リリカルなのは -九番目の熾天使-

第二十九話「漂流者」

2013-08-16 23:25:39 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:11422   閲覧ユーザー数:5522

 

 

 

 

「……ここか」

 

 ミッドチルダ中央区のとある大きな病院の前で俺は一人呟いた。何故ここに来たかというとそれはフェイト達の話を聞いて気になったからだ。

 

 別に善意で来ているわけでは無い。だが、自らの過ちに気付き人生をやり直すことに成功した彼女が今どんな様子なのか見に来ただけだ。

 

「すいません、プレシア・テスタロッサさんの病室は何処ですか? 見舞いに来たんですけど」

 

「あ、はい。プレシアさんの病室は504号室ですよ。エレベーターを出て右に真っ直ぐに進めば分かると思いますよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺はナースから情報を聞き出し、プレシアの病室に行き着いた。そして扉を僅かに開けて中の様子を見る。そこには以前と変わらない姿で、しかしどこか覇気や精気の消え失せたプレシアが窓の外を眺めていた。

 

「……あと何年持つかしら? そう長くないのは確かなんだけど……」

 

 プレシアから吐き出される言葉は憂いに満ちていた。

 

「思えばあれから私はフェイトに何か出来たのかしら? ……償いは出来たのかしら? 私は……母として何かをしてあげられたかしら?」

 

 自分が本当に何かしてあげられたかという不安がプレシアの心をかき乱す。ただ黙って死を受け入れるそんな姿に俺はつまらなさを感じ、その場を去ろうとする。だが、

 

「……いいえ。まだ何もしていないわ。まだ何も!」

 

 俺は足を止めた。

 

「私は何もしてあげられていない! だけど、今の私には何も出来ない。でも、たった一つできる事があるわ。それは、生きる事」

 

 ほう、と俺は感心した。

 

「私が死ねばあの子が悲しむ。それならこの命尽き果てるまで精一杯生きるわ! あと1年がどうしたというのよ! 私は最低でも2年は生き延びてみせるわ!」

 

 自ら言い聞かせるように静かに宣言するプレシア。前言撤回しよう。プレシアに覇気も精気もちゃんと残っていた。最後まで生き足掻こうとしていた。だから俺は一つ試すことにした。

 

「ルシフェル」

 

【彼女のバイタルデータは既に獲得いたしました】

 

「相変わらず仕事が早いな。さて、じゃあここから退散しよう」

 

【イエス、マスター】

 

 俺は扉をゆっくり閉めてその場を去る。

 

 何の為に俺が彼女のバイタルデータを得たかというと、それは後ほど分かるのでここでは割愛しよう。

 

「ならばあと2年は生きて見せろプレシア。そうしたらお前の望みは叶うかもしれないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「せあっ!」

 

「遅い」

 

「くっ! まだまだぁ!」

 

 月日は更に流れて翌年

 

 いつものように平穏に暮らしていた俺はノーヴェと一緒に訓練をしていた。

 

「うおぉおお!!」

 

 迫り来る拳撃のラッシュ。常人には不可能な速度で打ち出されるそれは一発一発がコンクリートを砕くほどの威力がある。だが、

 

「これも遅い」

 

 俺は全てを避け、あるいは受け流し、防いだ。一応言っておくが、今の俺は全身装甲(フルスキン)ではなく、右腕だけを部分展開している状態である。つまり、ほとんど生身である。

 

「くそっくそっくそぉおお!!」

 

 当たらない事にイラだったのか、更に速度を上げるノーヴェ。しかし、そのせいで精度は落ちている。

 

「ただ速ければいいってもんじゃない。相手の急所を的確に狙い、フェイクも時折入れろ」

 

 とは言ってもそう簡単に修正できるものではない。そもそもノーヴェの拳は決して遅い訳じゃない。ただ俺が異常なだけだ。

 

 そして俺は余裕の表情で躱しているが、実際はかなりギリギリな状態である。いくら強化改造されたこの肉体でも音速に近い拳を避けるのはかなり辛い。己が肉体のみで戦っているのでQBやQTも使えないから避けるのが難しいのだ。

 

 それでも俺は頑張って避けるがな。こいつの成長の為には俺が余裕でないとダメだから。でも、少しずつ躱すのが難しくなって俺は次第に受け流すか受け止めるようになっていた。

 

「こんのぉおおお!!」

 

 そしてノーヴェの渾身の一撃が俺の眼前に迫る。俺は落ち着いて右腕で防ぐ。だが、そこに予想外な事態が起きた。

 

 ビキビキッ!

 

「なっ!?」

 

 突然装甲にヒビが入った。急なことに俺は混乱する。そしてノーヴェはそのまま拳を振り抜いた。

 

「せあぁあああ!!」

 

 バキッ!

 

「ぐおっ!?」

 

 遂に装甲の一部が砕け俺は後方に吹き飛ばされて壁に激突する。

 

「や、やった! レン兄に一撃を入れた!!」

 

 やれやれ……とうとう一本取られたか。俺はゆっくりと立ち上がり、ノーヴェを褒める。

 

「よくやったぞノーヴェ。とうとう俺から一本取ったな」

 

「うん! あたし、すっごく嬉しいよ!」

 

 もの凄く喜んでいるノーヴェ。そんなに嬉しかったのか? ま、俺から一本取るのは凄いことだ。

 

「あまり浮かれるなよノーヴェ」

 

 俺も素直に関心していると扉が開き、トーレが入ってきた。

 

「と、トーレ姉!?」

 

「確かにレンから一本取ったことは賞賛に値するが、こいつはまだ手加減をしていることを忘れるな。レンがその気になれば貴様など瞬殺だ。それを忘れるな」

 

「うっ……わ、わかったよ」

 

 相変わらず妹たちには厳しく指導するトーレ。しかし、言っている事は間違っていない。右腕しか展開してない。これがアイツ等の誰か一人と戦っても、陸戦以外なら俺が確実に負ける。

 

「まあいい。それよりレン。ドクターがお呼びだ。急いで研究室へ来い。ノーヴェ、お前もだ」

 

「うぇ!? あ、アタシも?」

 

 ふむ、ジェイルが呼んでいるのか? アレが完成したのだろうか?

 

「分かった、直ぐに行く」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! レン兄! トーレ姉!」

 

 

 研究室へ入ると現時点での主要メンバーが全員が揃っていた。

 

「急に呼びつけてどうしたんだ? 全員がいるってことは……」

 

「ああ、かなり重要な案件だよ」

 

 デスクに座って端末を弄っていたジェイルがこちらを振り返る。そして全員が居ることを確認すると本題に入った。

 

「ふむ、本題に入るか。つい先ほど、次元世界のあちこちに空間異常が発生した」

 

「空間……異常?」

 

 セレンが首を傾げる。

 

「またか?」

 

「ああ。これはセレン君が来た時と同じ状況だ。しかも今回は複数。確認されているだけでも4つはあるね」

 

 ジェイルは端末を操作してマップを出した。そこに映し出されている赤い光点。恐らくコレが空間異常発生地だろう。

 

「第34管理外世界『アルテミシア』、第13管理外世界『ヴォルテガ』、第52管理外世界『サンドラ』、そして此処……『ミッドチルダ』」

 

 ミッド以外は聞いたことの無い管理外世界だな。

 

「一番近いのミッドとアルテミシアは恐らく管理局が既に調査に向かっているだろう。恐らく残りの二つはまだ管理局が手を出していないだろう」

 

「なるほど……俺達が調査に行って調査しろということだな?」

 

 出来れば四つ全てを調査したいが、必ずしも迷い込んできた相手が友好な奴とは限らない。なら残り二つは当たりであることを祈ろう。

 

「そういう事だ。ああ、セレン君とウーノはここで皆のサポートだ」

 

「ふん、分かっている」

 

「了解しました」

 

「ではここでチーム編成しよう。先ず、チンクとクアットロ、セインは『サンドラ』へ。そしてノーヴェと煉君は『ヴォルテガ』へ。トーレはここで待機だよ。さすがに此処の守りを手薄にするわけにはいかないからね」

 

「了解です、ドクター」

 

「あいあいさー!」

 

「……まあ、ドクターが決めたのならしかたありません」

 

「あら、チンク姉様? なんだか浮かない顔ですわね?」

 

「そ、そんなことは無い!」

 

 攻撃にチンク、サポートにクアットロ、奇襲役のセイン。なるほど、実にバランスが良い

 

 そしてこっちは完全にアタッカーだな。

 

「では決まった事ですぐに出発して欲しい」

 

「ああ。じゃ、行こうか!」

 

 俺達は各転送ポートに移動し、目的地へ赴いた。この後、とんでもない出会いをするとは夢にも思わなかった俺である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ここは?」

 

 気がつくと俺は砂漠らしき場所のど真ん中に居た。

 

「何故俺はこんな所に……? 確か私はあの時確かに死んだ筈だ」

 

 そう、私は死んだ。夢半ばにして虚しくも敗れ去ったのだ。

 

 今でもその時の光景を思い出せる。30分の激戦の末、最後に見た光景は俺と愛機を撃ち抜かんとする蒼き光。そして俺はその光に貫かれ、蒸発したはずだ。

 

 だというのに、だ。何故俺は今此処で地に足を付けて立っているのだろう? それに気がかりなのはそれだけでは無い。

 

「こんなにも空気が綺麗な場所があったのか?」

 

 そう、ここの空気は綺麗過ぎた。全く息苦しくないのだ。そんな綺麗な空気がある場所はただ一つ。『クレイドル』の中でしかありえない。ではここはクレイドルの中のなのか? いや、クレイドルならこんな砂漠などがあるはずがない。ではここは何処なのだろうか?

 

「……ダメだ。全く分からん………ん?」

 

 私が頭を悩ませているとふと右腕に違和感があった。

 

「これは……こんなものを私は付けていたか?」

 

 右腕を見ると銀色の綺麗な腕輪をしていた。俺はこのようなアクセサリーをしていなかった上に持っていなかった筈だ。ならいったい何時……?

 

「考えても分からん、か。一先ずこれは保留だな。先ず優先すべきは……」

 

 そう、ここは何処なのかということと、どうやってこれから生きるということだ。なに、理由はわからんが折角拾った命だ。無駄には出来んさ。

 

「とりあえず歩く、か」

 

 そして俺は一人歩き始めようとした。が、その時あり得ない声を聞いてしまった。そして俺は咄嗟に岩場に隠れて様子を伺った。

 

「ねえチンク姉、本当にここなの?」

 

「ああ、間違い無い。確かにここだ」

 

「せ~い~ん~? チンク姉様が間違っているとでも言いたいのかしらぁ?」

 

「ち、違うよクアットロ姉! ただ、その……周りには岩と砂漠しかないし……ね? 本当にいたとして、生きてるのかなぁ~って」

 

「……ま、確かにこんな場所じゃ何時魔法生物が襲ってくるかも分かりませんしね。案外今頃は胃袋の中だったりして」

 

 俺は信じられない光景を見た。私の視線の先には三人の少女が何も装備していない状態で砂漠を談笑しながら歩いていた。正気では無いと思った。普通、砂漠を歩くならそれなりの装備や水、食料が必要だ。とくに水は大量にいる。

 

 それなのに彼女達はバック一つすら持っていない。一体どうやって此処まで歩いて来たというのだ?

 

「む……熱源反応? ……そこの岩場に隠れている奴、大人しく出てこい!」

 

「っ!?」

 

 気づかれた、だと!? 何故だ!? しかし、彼女達がまだ敵と決まったわけでは無い。上手くいけばこの砂漠から脱出できるかも知れない。ならばここは大人しく出たほうが利口だろう。どうせ俺には選択肢は無いのだから。

 

「……何故分かった?」

 

「ただ単にレーダーに熱源反応が出たからだ」

 

 俺の問いに銀髪の少女が答えた。しかし、彼女達は何も持っていない筈だが……。

 

「今度はこちらが問おう。お前は漂流者か?」

 

「……漂流者?」

 

「ええ。漂流者とは何らかの理由である世界から別の世界へと迷い込んできた人達の総称ですわよ」

 

 茶髪でメガネを掛けた子が答えた。そして俺は彼女達に不信感を与えないように素直に答えた。

 

「概ね理解した。だとすればその定義では確かに私は漂流者だろうな」

 

「やはり、か。申し訳ないが私達と共に来てもらおう。私達は貴方を保護しに来た」

 

 保護……か。聞こえはいいが、一体どんな扱いを受けるだろうか。だが、彼女達に従うしかあるまい。

 

「了解した。よろしく頼む」

 

「ああ。それはそうと貴方の名前を聞かせて貰おうか? 名前を知らないと色々不憫だろう?」

 

「分かった。俺の名はオッ……いや、テルミドールだ。マクシミリアン・テルミドール」

 

 オッヅダルヴァはもはや死んだ。今ここにいるのは……ORCA旅団長、マクシミリアン・テルミドールだ!

 

「ふむ。これからよろしく頼む、テルミドール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、これは一体どういうことだ?」

 

 何故俺は此処にいる? というよりここは一体何処だ? 地球でも火星でもないようだが……それよりももっと根本的な疑問が浮かび上がる。

 

「というより、何故俺は生きている?」

 

 そう、俺はあの時死んだ筈だ。それは間違いない。今でも死ぬ瞬間をハッキリと覚えている。だが、俺は今此処にいる。いくら思考しても答えは見つからない。

 

 俺は一旦思考を中断し、周りを見渡す。

 

「それにしてもここは暑いな」

 

 いや、むしろ熱いと言えよう。周りは火山とその周りを流れ出る溶岩だ。ふむ、実物を見るのは初めてだがこれはかなりの高温だな。近づくだけでこちらが燃えてしまいそうだ。

 

「本当に生きているのだな、俺は」

 

 そして改めて生きているということを実感する。そして此処は喜ぶべきであろう事なのだろうだが、俺は困惑していた。

 

「今更生きて何の意味があるというのだ?」

 

 自らの野望は打ち砕かれ、愛機もない。そもそも此処に人が住んでいるのかも怪しい。

 

「生きる目的も無いのに生きて何が人生だろうか?」

 

 俺は何の為に此処にいるのだ?

 

「誰か教えてくれ……」

 

 俺は赤黒い空を見上げて誰に言うでも無く呟いた。当然、その問いが返るはずも無い……のだが、

 

【それは新たな人生を歩むことです。マイマスター】

 

「誰だ!」

 

 突然、近くに声が聞こえて俺は警戒心最大限に高める。この俺が近くに人が来るまで気づかない事はない。つまり、俺以上に手練れな人間である可能性がある。

 

 しかし、ここで一つ疑問が湧く。声があまりにも近すぎたのだ。周りを見渡すが、半径5m以内には岩がない。声が聞こえたのは遠く見積もっても1m範囲以内。しかし誰も居ない。では今の声の正体は?

 

【こちらです。マスターの左腕にある黒い腕輪です】

 

「左腕……だと?」

 

 俺が左腕を見ると黒い腕輪が紅いラインの部分が点滅していた。俺はこの腕輪を知らない。持っていなかった筈なのに何故左腕にある。

 

「その音声……まさかデルフィか?」

 

【はい。マスターのよく知る機体、アヌビスに搭載された独立型戦闘支援ユニット『デルフィ』です】

 

 まさか生きて再びこいつに出会えるとは……。

 

「それよりも聞きたい事がある」

 

【存じております。順を追って説明致します】

 

 俺はデルフィから大まかな事情説明をさせた。しかし、内容はまさに荒唐無稽なものばかりであった。先ず、俺は神という存在によって生き返ったらしい。しかも肉体は20過ぎぐらいまでに若返っている。

 

 そしてデルフィはISというものに作り替えられたらしく、俺が念じるだけでアヌビスを装着出来る。これは実際にやってみたところ本当に出来た。驚くほどの科学技術だ。そして最後に、俺を生き返らせた目的。それはただ面白そうという巫山戯た内容だった。

 馬鹿にしているのだろうか? だが、神とやらの気まぐれでないかぎり俺のような奴を生き返らせようとも思わないのもまた事実。

 

「神……か。俄には信じられないが、俺が生きているという事がなによりの証拠か」

 

 兎に角、神については信じよう。

 

【はい。それと神から、ここにいれば面白い出会いがあると言われております】

 

「ほう」

 

 面白い出会いか……。ふむ、神とかいう奴の思い通りになるのは癪だが、一応待ってみる価値はあるだろう。

 

「ならば少し待とう」

 

【了解しました】

 

 そして待つこと5分。意外にも出会いとやらは早かった。しかしその出会いとやらも意外な人物だった。そして神の言った通り、面白い出会いだ。

 

 俺の前に立っている人物が2人。片方は赤髪の少女。そしてもう片方は……

 

「久しいなレン=シノザキ。まさか貴様に会えるとは夢にも思わなかったぞ?」

 

 そう。かつてこの私の野望を完膚なきまでに打ち砕いた2人の内の1人。レン=シノザキだった。

 

「なあレン兄。もしかして知り合いか?」

 

「いや、知り合いじゃ無い筈だが……。お前、誰だ?」

 

 ふむ、無理もないか。何故なら私はあの時より数十年は若返っているのだからな。

 

「俺を忘れたか? 俺のアーマーン計画をぶち壊しておいてよく言う」

 

「なっ!?」

 

 流石にこの名前を出したら分かるだろう。

 

「まさかお前………ノウマンか?」

 

「そう! そうだ!! 俺がノウマン=ハーディマンだ!!」」

 

 

 


 
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