No.608396 超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編2013-08-13 22:23:25 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:750 閲覧ユーザー数:700 |
リーンボックスに夜が訪れていた。
太陽が沈み、分厚い暗黒の雲が星と月の光と遮っていた。
既に深夜の時間帯、道を明るくする為に張り巡らされた街灯のみが力なく光るだけで、道を挟む家々の窓から家族との明るい快談が漏れることなく、街は昼の賑やかな雰囲気と逆に夜は、ただ静寂が広がるのみであった。
「…………」
そんな街を見守る様に建てられた中世のお城のような教会本部のある一室の暗い部屋で彼女は、呆然と天井を眺めていた。
その瞳に光はない。虚無的な表情で疲れた様に王族が眠るような大きなベットで大の字に体を伸ばしていた。
いつもの時間なら、今頃パソコンに齧りつきオンラインゲームでその腕を振るっている、この国の女神、グリーンハートは、この頃眠れない日々を送っていた。
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<俺を攻撃しろ、グリーンハート>
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あの目と声が頭から離れない。
決意が込められたオッドアイの瞳。
彼を攻撃して、肉を裂いた感触がまだ手に残っている。
「ッ…………」
プライベートで仲が良かったケイブとチカは、何かの間違いだと言った。ベール自身も、嘘だと信じたかった。時に皮肉をいいながら、それでも無理に時間を造って、付き合ってくれた紅夜が国を裏切った異端者だとは信じられなかった。
辛いことがあれば、パソコンで憂さ晴らしをするベールのはずだが、インターネットを見ればベールと鎧を纏った紅夜が戦い、そして地面に衝突してスプラップとなった姿、紅夜の家が燃やされた跡地で日々バッシングの言葉が流れていた。
それを見たくなくて、女神に向かって感謝される言葉が痛くて、紅夜に向かって放たれる罵倒が痛くて、ベールを苦しめる。
「……………」
本当の紅夜は自分のことを後回しにして、他人を思いやって、必死に身を削るように依頼を受けてきた優しい人なのに、どうしてそんなに重罪人だと言える?どうしてそんなに悪魔だと言える?。
人間より遥かに長く生きる女神、人がどうしようもなく後先考えず心にない暴言を吐くことは知っていた。
知ってーーー放置した。所詮、そんなこと言うのは少数人数で、どれだけ賛同を受けようとそれを公言すれば、粛清されると分かっているからだ。
だから、女神であり続けなければならない。女神としてある以上、ベールという存在のやることは決まっているからだ。
「……けど…」
日々戦って、羨望の目で信仰してくる者に当然のように答えて、どこかで肩が重くなったのかもしれない。
そんな時に、人の遊戯に暇つぶしとばかり手を出した。パソコンのオンラインゲームはベールにとって一種の理想郷だった。
誰もが、まさかこの国の女神だと思わず知らず。フレンドリーに時に乱暴にそこらに流れる人のたった一つの存在としてベールはそこにいれた。
それが、とても新鮮で楽しくて、ベールは本格的にゲームに取り組んでいった。元々人間とはかけ離れた能力を持っており、彼女自身の才能もあったのか、直ぐに頂点にまで上り詰めた。誰もが『あんた強すぎww』、『重課金者め卑怯だぞ!』『弟子にしてくれ!』等と他愛なく、好きなことを語り合えた。女神としてではなく、ベールとして存在できた。
勿論、女神としての責務を果たしていた。
しかし、彼女の好きな現実はゲームの世界であったので、時間を効率よく使う事で女神の仕事を手際よく片付けるようになった。
そんな時に会ったのは、名もなきダンジョンで倒れていた紅夜だった。
女神として助ける以外に選択肢はなく、教会まで担いだ。
そのあと、いつものようにゲームをしながら、妹分であるチカに聞いてみると助けた人は、記憶喪失だったとうことだった。
ベールが抱いた思いは哀憫だった。残念ながら、ベールに記憶を取り戻す好都合な力もない自然回復に願うだけで、ゲームの続きをプレイしようとした時、突然サーバーがダウンした。緊急メンテナンスということで、仕方がないと別のゲームをしようにも、神の悪戯かちょうどプレイしていたゲームがメンテナンス時間が重なっており、携帯機でゲームをしようとしたが、ほとんどクリアしていたことを思い出して、珍しく暇となってしまった。
そんな時、気まぐれで紅夜の元に向かったのが始まりだった。
「紅夜……」
記憶喪失だった紅夜には、全てが無知であったのか全てに興味を出すが、同時に恐怖を抱きやすかった。
女神であるベールにとって容姿に自信あり、胸の大きさでは女神の中トップ1だと胸を張って言えるぐらいだ。当然のように紅夜は、ベールを見て見惚れた様に頬を赤くした。
ベールは内心、暇つぶしになればいいと思って紅夜について様々なことを聞いて、質問にはきっちり答えた。
紅夜と話して、ベールは違和感を抱いた。
紅夜は頭が良かった直ぐに幾つかの仮説を立て、可能性が高い方を選んで的確に答えを導いていた。
感想で言えば、まるで生まれたばかりの赤ん坊の頭に無理やり知識と刻み、精神を無理やり成長させたようで、酷く紅夜は情緒不安定だった。
ベールではなく、尋問官が紅夜を厳しく問い詰めた様に全身に脂汗を掻いて、顔を真っ青にして今にでも狂ってしまいそうなほどその時の紅夜は脆かった。
そんな紅夜に暇つぶしとばかりにベールはゲームをさせてみた。
現実では、本音で語り合えるのはケイブかチカしかいなかったが二人とも忙しい身だった。
操作方法を教えてみると、直ぐに難問ステージをクリアするほど紅夜には才能が有り、ベールは対戦ができるゲームで一緒にしてみると、最初は負け試合だったが徐々に動きを先読みして最弱キャラを使用していたが、初心者にベールは敗北した。
「私にとって、貴方は……」
いい友達が増えた。そのことにベールは内心大喜びで、紅夜をスパイだと主張するメンバーを女神特権で黙らせ、一緒に居る時間を増やした。
そんな日々を繰り返したいく中、ある日、紅夜は怒ってベールの頭にチョップを繰り出した。
人間とは別次元の存在である女神の体を、ただ人々の希望を糧にする処理装置を真正面から身を心配して、紅夜はまるで、一人の少女のように、ベールを心配した。
「初めての存在でした……」
誰もが、ベールを女神として見てきた中で特大の異物。
ネットでしか解放できない自己、女神として希望を叶えるのは当然の存在に、紅夜は風穴を開けた。
リーンボックスの女神としではなく、有象無象にありふれてた一人の少女として、優しくモンスター討伐の後、感謝の言葉より先に体を心配してくるのが紅夜だった。
「それが、どうしてこんなことに……」
優しかった紅夜は、今は死んだことになって唾を吐かれている。
しかし、ベールは悍ましい影を見た瞬間、紅夜が二人になって一人は逃げて、一人は地面に体を叩きつけ血塊になったのを見た。
どうして、この国を裏切ったのか。どうして、私の傍からいなくなったのか。
誰よりも、善に生きた紅夜は、今はリーンボックス最大の汚点として囁かれている。
どうして、紅夜がリーンボックスを裏切るようなことをしたのか、その行動に理由があったのか、意思があったのか、ベールは何も
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<ーーー仲間の為だ>
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「………仲間」
感情を殺した声で、ベールと対峙した時に紅夜が言った言葉。
いつも怪しいコートを羽織っていたので勘違いを受けやすい。
故に、ほとんど一人行動を軸としていたが、仲間が出来たことについては、驚いて、喜んだ。
紅夜には、ベールに剣を向けるほど大事な仲間が出来たのだろうか。
「---ッ」
途端に、体が寒くなったことを感じて、ベールは手で体を纏わせた。
今、紅夜は何をしているんだろう。昔、課金しすぎて困った時、深夜に電話した時はちゃんと答えた皮肉を言いながら一緒にモンスター討伐に付き合ってくれた。今は、いくら携帯を鳴らしても、返事は帰ってこない。
「いない……いない………!」
体を丸めて、何度もつぶやく。
いてほしい時に居ない。呼べば直ぐに来てくれる時に来ない。
そして、あまりに唐突で残酷な事実に直面したベールにある結論が、浮かび上がってしまった。
「大事な仲間の為にーーー
ベールの口から血の筋が流れる。唇を噛んでしまったようだ。
生気が消えた瞳に光が戻ってくる。イヴォワール教院長が言っていたネプテューヌが、教院側を陥れようと毒を飲んだと自作自演したことなど今のベールにとってどうでもいい。
「私は……この国の守護女神ハード。そして、紅夜はリーンボックスの住民ですわ……!」
まだ情緒不安定な所があって、人一倍優しくて、誰よりも無茶をして、自分が傷つくのを良しとする自滅的思考者。
それを守るのが、守護女神ハードの務め。
やっぱり、紅夜を他国に行くこと自体が間違っていた。何故なら、他国には敵である女神が治めている場所であるからだ。
いつも、盥回しにされて、都合のいい道具として扱われてきたはず、きっとそうだ。
「……いい機会ですわ」
ベットから降りて、ベールは窓から見える暗闇の夜を見つめる。その顔は、一際美しい笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
「家が燃やされたそうですわ。あぁ、私の部屋なら幾つもありますし、ここで暮らせばいいですわ。紅夜の仲間たちは申し訳ないですけど、
そもそも、教会の特殊牢獄に閉じ込められるほどの罪人をどうして紅夜が助ける必要があった?
彼は、確かに女神に似た人を守護、救済する思いがあるが、そんなことをする人ではないことは十分わかっている。
だとすれば、仲間でもない。もしかしたら、脅迫されて、あんなに血だらけになりながらも国を敵に回しても、従わなければならない紅夜の秘密を握っているかもしれない。
「……待っててください、紅夜」
夜が生み出す漆黒の闇が、雄大なる緑の大地を覆ったその光景は、ベールの瞳にくっきりと映された。
「絶対に助けますから」
そして、緑の女神は笑った。
◇
「ねぇ、コンパ」
「どうしたんですか……ねぷねぷ…。もう、みんなお休みする時間ですぅ……」
同じ時間、ネプテューヌの声にコンパは眠たそうに眼を袖で拭きながら、ベットから上半身だけ体を起こす。
ネプテューヌも同じように、上半身だけを起こして、握り拳を作って胸に当てていた。ほのかに顔を赤く染めており、コンパは顔を傾げた。
「温かったねこぅちゃんの手って」
「……そうですね」
ラステイションでのことを思い出して、コンパは頷く。
「こぅちゃんってすごくイケメンだし、優しいし、強いから。会った時は、私の事を子ども扱いしていたけど、私のことを想って言ったんだよね…」
「そうです、こぅさんは凄く優しいです……でも、一人で背負って突っ走るような所が、見ている方からすればハラハラして、心配するですけど……」
この頃、紅夜の姿を見る事に血だけになっている気がする。
それは良くも悪くも、ネプテューヌ達を想って、傷ついても立ち上がっていた。
「私を許してくれた」
「……それは、ねぷねぷの所為じゃないですよ」
「でも、私がここに来た所為で、こぅちゃんの人生って私の為に人生をめちゃくちゃにしたんだよね」
「…………」
コンパは黙る。ネプテューヌに掛ける言葉が見つからなかった。
「こぅさんはきっとねぷねぷを大切に想って、私たちの為に必死に動いてくれたんです。だから、私たちは生きているんです。だから……そんな顔していると、こぅさんが悲しむです……」
「分かっているよー。さっき思わず逃げそうになった私をガッチリホールドしてきたもん……凄く嬉しかった。いっぱい、泣いちゃったよ」
まだ、ネプテューヌは目は微かに紅い。
記憶喪失であるが、多分これ以上泣いたことは無いと言っていい。
全ては結果論であるが、紅夜はあの時、ネプテューヌを怒っても良かった、怒鳴っても良かった。
ネプテューヌを助けるという選択で、紅夜の危なしげに回っていた歯車は一斉に崩壊したのだ。
人生を滅茶苦茶にしたと言ってもいい、ネプテューヌに対して、紅夜は咎めることをせず頭を撫でてくれた。
「こぅちゃんって、私たちのパーティーなんだよね」
「むっ……そうです。こぅさんは私たちの仲間です」
乙女の勘が働いたのか、一瞬顔を歪めてコンパは頷いた。
ネプテューヌは、笑みを造って、紅夜に出来ることを考える。もっと、紅夜と一緒にいたいという願いが胸の鼓動を激しくする。
「私達の共有財産だよね?」
「そうです……でも、こぅさんは鈍感さんです」
「だよねー。そこまで主人公補正いらないのに」
胸などを見て動揺するのは良く見たが、直ぐに話を逸らそうとする。あれは中々の強敵と見た。
しかし、あちらも絶対に無自覚で、性質の悪いことに、思わず心が惹かれてしまう言葉を平気に突然と言ってくる。
「明日からアタック開始だね!」
「ねぷねぷ、迷惑になったらだめですよ…!」
「甘いよコンパ!絶対にガンガン攻めるのがヒロインとしての最大の武器だよ。最初のヒロインって印象が薄かったら、後々ただの空気となるからね!」
「うっ、確かにそれは問題です……」
「コンパって、体は凄く成長しているからこぅちゃんを悩殺出来るって!」
「の、悩殺ですか!?……うぅぅ…」
名探偵の様に顎に手を当て、厭らしい目でコンパの胸を凝視するネプテューヌ。その目つきは、完璧な変態親父である。
「初心な反応しちゃって、可愛いんだからコンパは!」
「ね、ねぷねぷだって……すごくかわいいです!」
隣の部屋ではアイエフが女々しい会話にため息を吐きながら暫く治まらないだろうと耳栓を耳に付けて横になり、紅夜は今までの疲れが来たのかぐっすり寝ていた(デペアは終始2828している)。
二人の恋する乙女の会話は、暫く熱が冷めることは無かった。
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その24