No.607442

【ポケモン】SSまとめ

朽葉さん

※一部ポケ×ポケ(無性別同士)表現有り。微ヤンデレ注意。
こちらからお題お借りしました。(http://twitter.com/odai_bot00 )(http://twitter.com/utislove

2013-08-10 17:27:17 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2265   閲覧ユーザー数:2262

貴方の傍でなくとも生きて行けます、本当です。(by @odai_bot00)

<フシギダネ>

 

「じゃあね、フシギダネ」

 2つの影が夕日を浴びて、長く尾を引いて伸びていた。

 人の膝丈ほどのフシギダネは、踵を返そうとした主の足元にしがみつく。

 主の手からぼろぼろと零れ落ちるそれは、慣れ親しんだ住処とも呼べるものだった。己のモンスターボールが壊され、枷を外された今でもフシギダネは離れない。

「解放してやるのが、君のためだと思うんだ。野原で駆け回る君は、いつだって楽しそうだった。

 別れが惜しくて君を手放せなかったけれど、やっと決心がついたんだ。ごめん、遅くなってしまったね」

 宥めるように頭を撫でられる。

 ボクのためって何ですか。貴方の傍にいることが一番の幸せなのに。

 ベストパートナーだって言ってくれたじゃないか。ボクらは最高の相棒だって。一緒にリーグ制覇しようって約束したんだ。

「フシギダネ」

 優しく振り解かれ、主は数歩先に離れていく。拒絶の意を示され、その場に立ち竦むことしか出来ない。

「何処へでも、好きなところへ行くといい。元気でいてさえくれれば、僕はそれでいいんだ」

 もう此方を振り返らない。その後姿に断固とした彼の決意が現れていて、どうしようもない悲しみに襲われた。

「さようなら。僕の友達」

 フシギダネは、主に背を向けて駆け出した。

 二度と会えないだろう。共に過ごした日々が脳裏に蘇る。

 行く宛のない感情が堰を切って、涙として溢れ出した。

愛と呼ぶならご自由に(by @utislove)

<セレビィ・スイクン>

 

 どうしてかと問われれば、衝動的な感情に従ったまでとしか答えようがない。

 今、目の前には、青のしなやかな肢体が転がっている。北風の君は時折唸り声を上げるだけで、無駄にもがき暴れることもなく、そこに横たわっていた。

 大地を駆けるその四肢を蔓で拘束したのは己だ。

 風のように掴みどころのない彼を、手元に置いておきたくなった。

 地に引きずり倒し茨で縛りつけ、そうして得たものは確かに悦びの形をしていた。

しあわせが怖いのはあなたのせいだよ(by @utislove)

<イーブイ>

 

 あなたの腕の中で、至福に包まれていた。安心する匂いと温もりに抱かれ、微睡んでいる。

 思い起こせば、私たちの出会いは運命的なものでした。研究の末に廃棄される筈だった私を、あなたは憐れみ拾ってくれた。

 そして、甲斐甲斐しく世話を焼き、惜しみない愛情を与えてくれた。人間を恐れ凍てついた心は、徐々に癒されていきました。

 そうして幸せになればなる程、心の底を覆うものがありました。あなたを失うことが何よりも怖かった。何も感じることもなく生きていけたあの頃には、もう戻れない。

 こんな想い、知らなければよかった。

ねえ、神様。(by @odai_bot00)

<ライチュウ>

 

 人の手に耳を弄られて擽ったい。むずがろうとしたが、嬉しそうな顔を見るとその気も失せてしまった。

「こうやって、こうして……ほら、できた!」

 満面の笑顔の花を咲かせる。目的を達成したことで満足気だ。

「鏡見る? 可愛いよ。ね、似合ってる」

 手鏡を覗きこむと、耳に薄紅のリボンが結ばれていた。

 普段何も身につけない己には、取って付けたような違和感が拭えない。着せ替え人形のような扱いを受けて、溜息が出た。

 しかし、嬉々とした彼を見ると、それも簡単に吹き飛んでいってしまうのだった。長い病床生活の中で、少しでも暇を紛らわせるなら喜んで協力をしよう。

 白く無機質な病室。闘病する彼の傍らで、無力にも何も出来ずにいる己が嫌だった。

 甘えるように鳴き、腰元に抱きつく。人ではない己は、伝える術を持たない。

 彼は、手を伸ばし首元を擽ると、窓の外に目を向けた。

「いつかまた、旅に出よう。ライチュウ、君を連れて」

 そうだといいな。見慣れてしまった患者衣に顔を埋め、二人で巡った、かつての旅路に思いを馳せていた。

捏ね繰り回して捻って潰して(by @odai_bot00)

<ルギア>

 

 さて、どうしたものか。

 見下ろす先には、豆粒のような人間の赤子がいた。何を訴えたいのか、生命力いっぱいに鳴き声を上げている。

 参った。寝床が占領され、うろうろと考えあぐねていた。

 恐らく、オニスズメあたりが落としていったものだろう。"これ"は、軽く海を超えてきた筈だ。

 恐る恐ると、嘴を近づける。傷つけないように細心の注意を払った。

 すると、それはきゃあきゃあ声を上げて、ぺたぺたと触り返してきた。無遠慮に叩いてるのは些か気になるが、大声を出されるよりは余っ程良かった。

 よく観察してみると、手はふっくらとしていて、指も爪も小さい。頭部に生えた毛は、柔らかそうな栗色だ。目は零れそうなほど大粒で、真っ直ぐに見つめてくる。

 ぺたんぺたん。寝そべった首元にしがみつき、荒い動作で撫で回してくる。

 今度は、離そうとした羽先にターゲットを変えてきた。柔軟性のある銀翼を弄り倒してくる。

 海から冷たい潮風が入ってきたので、翼で風除けを作ってやった。

 これを返しに行くのは、もう少し日が高く昇ってからのが良さそうだ。海の上を渡るのは、きっと寒いことだろう。

 警戒心の欠片も映さない赤子の瞳に、そっと溜息をついた。

螺旋

<ミュウツー>

 

 澄み渡った空を、駆けていく影があった。

 頭上に浮かんでいる雲も、眼下を流れる川も、視界一杯に敷き詰められた樹海も。何一つこの目で見たことなど無い。

 雄大なる山々の麓を進むその姿に、羨望を覚えずにはいられなかった。

 青く汚れのない瞳には、何が写っているのだろう。

 

 この光景が眠りが見せた空ろな幻だと、分かっていた。

 それでも、あの小さな存在が目に焼きついて離れないのは、何故なのか。

 今も、夢焦がれたその姿を追い求めて止まない。

 

 

 

 私は、フジという一人の科学者により作られた。

 無機質な機械に囲まれ、水溶液に浸され、この世に生を受けた。

 私を生み出したという奴の言葉を思い出す。この体を作るに至った、遺伝子の元となったポケモンがいると、奴は言っていた。

 かつて、その姿を石板で見たことがある。そこには、先人によってミュウの姿容が描かれていた。

 自分とは違う小柄な背丈。角張りの無い柔い肢体。目や外皮の色も異なる。だが確かに、自身の元となる形をしていた。

 原初のポケモンが、私のオリジナルである証拠が、そこに確かにあった。

 

 何より幼き頃に見た夢が告げていた。

 ミュウこそが、母であると―――。

 

 

 

 

 

 研究所を去ってから数年の月日が経ち、密林を宛ても無く彷徨っていた。

 人間の手を離れ、晴れて自由の身となったが、心の内から湧き上がる飢餓感は変わらない。寧ろ、オリジナルという存在への渇望は、より強くなっていた。

 己の足で確と踏みしめた地は、求め続けた答えを教えてはくれなかった。

 湖の深い青。降り注ぐ陽の光。緑を生やし蔦を巻きつけた木々。重なる生き物達の声。どれもが、夢見て望んだものの筈だった。

 尚も、出逢ったことも無い存在に縛られ続けている。

 かの存在に、劣等感を覚えていることに腹立ちを抑えられない。苛立ちばかりが募る。

 

(何故だ、何故、私は……っ!)

 ズキン、と頭が痛むのを感じた。

 

 突如、電流に似た戦慄が走る。視界が刹那にして白く染まった。 身体が燃えるように熱く、心の臓は高ぶり鼓動を刻む。

 瞼の裏であの青い目が、此方を見据えていた気がした。

 

 

 

「……は、……はぁ……」

 やがて、身を蝕むような衝撃は去った。

 立とうとして、ぐらりと全身が傾く。視線の先の景色は霞むが、生命活動に支障は無さそうだ。

 何が起こったのか分からなかった。

 

 ふと、水際まで歩みを進める。

 水面を覗き込むと、朧げながら自己の容姿が見て取れた。

 

「なんだ、これは……」

 尾のような頭。耳を結ぶアーチ。何より印象的なのが、紅蓮の如き瞳だ。

 間違いなく姿形が変わっている―――。

 

 動揺が隠せない。我が身に起こった不可思議な現象が信じられなかった。

 丸くなった指先で、確かめるようにぺたぺたと顔を触る。睡眠の中の幻影では無いようだ。

 

 一回り小さくなったその姿は、まるで―――、

(あのミュウのようだ…)

 人の手が加えられたDNAが原来の姿へ戻ろうとしている。この身が母なる存在に近付いている。

(反吐が出る)

 それを認識した時、身を焦がすような怒りが湧き上がる。

 人造たる存在というであっても、コピーという存在であっても、関係ない。

(私は、何者にも縛られない)

 

 血の束縛から解き放たれるには、奴をこの手で殺める他無いのだ―――


 
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