No.604663 XrossBlood -EDGE of CRIMSON- (クロスブラッド-エッジオブクリムゾン-) 第一話[5]2013-08-03 18:59:40 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:217 閲覧ユーザー数:217 |
3-3/朱闘
「よっしゃああああ!やっと出番だ!」
バギーのエンジンを切った直後、誠十郎が叫んだ。
「ど、どうしたんですか、急に」
突然の絶叫に困惑する綾斗を尻目に誠十郎がなおも喋る。
「さっきまでスルーだったからな。今度こそオイラのターン!……なんてな」
「おかしなこと言ってないで行くわよ。相手が待ってくれるとは限らないんだから」
「むう。ここで止めるとは作者め。さてはオイラを恐れているな。だがその程度では……」
くくくっ、と不気味な笑いを漏らす誠十郎。
「綾斗君。あんなのはほうっておいて準備しましょう」
「はあ……」
誠十郎を無視してバギーから降りた二人は、戦闘用の装備を整える。
「そうだ。綾斗君」
「何です?」
「これお願い」
「『
「そ。いつも通り“手入れ”よろしくね」
「了解です」
有理の愛刀を預かった綾斗は上着の右袖をまくった。そこにはカルマも着けていた白い湿布が見えている。
「しばらく掛かりますが?」
「構わないわ。その間に挨拶してくるから」
「挨拶って、まさか!?」
「勿論、この大騒ぎを引き起こした放火魔さんにね」
「お一人でなんて危険です!せめて僕の“加工”が済んでからでも」
「いいえ。さっきも言ったけど相手は、この場にいるけど動いていない状態にあって、いつ何時動き出すか分からないわ。いえ、この状態も行動の一部なのよ。だから一刻も早く相手の情報を手に入れることが重要になってくるわ」
「戦術の基本……ですか。それも分かりますが闇雲に突撃しても相手の思う壺なのではないですか?」
「大丈夫よ。私の勘だけど、この先の敵は今一人だけの筈だしね」
「それはどういう……」
「さてと、無駄話は終わりにしましょう。綾斗君は終わったら私の元に持ってきてね。誠君、後方支援は任せたわよ」
「任せて下さい、姐さん」
先程まで自分の世界に入り浸っていたはずの誠十郎が綾斗の後ろに立っていた。
「せ、誠さん!?いつの間に?」
「お前の視線が姐さんに向いた時からずっとだよ。後ろを取られたことに気付かないなんて致命傷だぞ。今度からは気配に注意するんだな」
「そ、そんな急に言われても」
「ほれ、口を動かしてないで手を動かせ。お前にしか出来ない仕事があるだろうが」
「は、はい……」
綾斗の頼りない返事を聞いた誠十郎は彼の背中を強く叩き活を入れる。
「しゃんとしな。俺も先に行くからお前もとっとと来いよ。アタッカーが遅れたら意味がないだろうが。それに……」
「それに……?」
「……姐さんが言っていたぜ。『綾斗君の能力は“加工”なんてレベルではないわ。新たなものを作り出す“精製”の領域なのよ』ってな。自信を持て、綾斗。お前の力を必要としている“仲間”がここにいる」
「誠さん……」
「先に行く。奥で落ち合おう。姐さんはもう着いている頃だろうしな」
「はっ!!」
誠十郎に言われて初めて有理が既にいないことに気付いた綾斗は、自分の注意力の無さにまた沈みそうになる。それでも気持ちを振り払い、森の奥を見据える。そして深呼吸した後。
「……僕が行くまで無事でいてください」
「ふんっ、誰に言ってやがる。姐さんは、いや、隊長ならあの程度の敵、武器無しでも十分だぜ」
「僕は誠さんに言ったんですよ。良い事言って戦場に出るなんて、死亡フラグなんじゃないですか?」
「言うじゃねえか、まったく……じゃあな」
「ええ」
そして誠十郎も森の中へ消えていった。
彼の背を見送りつつ、綾斗は自分に語りかける。
(僕の力が、自分では頼りないと思っていた力が、今必要とされている。今出来ることを完遂することが隊長の、いや仲間のためになるならば、僕は、僕のやるべきことは、唯一つだと!! )
綾斗は前を見つめる。その瞳には今までの彼には無かった確固たる何かが映っているようにも見えた。
「始めよう!」
有理から預かった『開燕』を胸の前に。右手で柄を、左手で切っ先を持ち、瞳を閉じた。
意識を眼前の刀剣に集中する。
「我が力を、『青龍刀・開燕』に捧ぐ!」
すると綾斗の言葉に反応するかのように、開燕が紅い光を放ち出した。
「ぐっ……!」
下腹部に力を入れ放出される光の圧力に耐える。
その光が徐々に収まり始めたのを確認すると。
「っ、はあああああああああ!」
気合の入った声を上げながら、力の赴くままに開燕を振り下ろし、そのまま地面に突き刺した。
同時に。
開燕の刀身からは猛々しい炎が上がった。
綾斗はそのままの姿勢で開燕を見つめる。
炎は一定の強さを保ったまま燃え上がっている。
儀式の最中、
綾斗の腕の『ワクチン』はいつの間にか無くなっていた。
「……その攻撃方法、相方を襲った奴に似ているな」
綾斗達が到着した地点よりさらに奥地で、有理とガルダムは対峙していた。
既に一攻防あったのか、ガルダムは片膝をついた状態で話しかけている。
「全く野蛮だな。森で只一人佇んでいただけの人間にいきなり襲い掛かるなんて」
やれやれ、といた仕草をしながらもガルダムが立ち上がる。
「この森に放火魔が潜んでいるのとの情報を得たの。森は警備隊に包囲されているからそれ以外の人物が森の中にいるのはおかしいと思ったのよ。そういう訳で……あなたが、ガルダム・パラサンドラよね?」
「まずは話しかける事が先ではないのか?まあ確かに、俺はガルダム・パラサンドラ……だった男だよ。今もそうなのか、自信は無いがね」
「そう。あなたの現在の状態は大体把握しているから詳しく話さなくていいわよ」
「そいつはありがたい。こちらも説明するのは少々面倒なんだ。ありがたついでに一つ教えてもらえないかな。お嬢さん?」
「なにかしら、放火魔さん?」
「君が先程放った攻撃。俺を強襲した最初の攻撃だ。……正直、俺には君の姿が見えていなかった。どんな細工をしたら俺の頭上に突如現れることができたのか、差し支えが無ければ教えてもらえないだろうか」
「そうねぇ……いいわ、教えてあげる。と、まだ私の名前言ってなかったわね」
「そうだな。よければそちらも」
「私は綺羅川有理。クルセイダー・オーズ第6小隊隊長を務めているわ」
「ほう。君があの、“
「私を知っているなんて光栄だけど何か引っかかる言い方ねぇ。まあいいわ。それで、あなたを襲った手段だけど……」
一呼吸ついた有理は、その場から消えた。
「……!?」
ガルダムの目には見えていない。ただ辺りから小さいながら風切音が聞こえているのは分かる。
2秒程経過した後、有理は元の位置にいた。
「これは…………3回。君が俺の後ろと今の位置を往復していた。目には捉えられなくとも気配が通過したのが分かった」
「惜しいわね。今のは……6回よ。状況によってはもっと速くなるけど」
有理はガルダムの回答に不正解を告げた。
「全然じゃないか。今ので俺は確実に3回死んでいた、というわけか」
ガルダムは特に表情を変えることは無い。ただ腕を組んで思案している。
「……瞬間移動、いや違うな。君はまだ“力”を出していない。それに微かに風を切る音が聞こえていたが」
真剣に考え込むガルダムに、こちらも表情を変えること無く有理が一言告げる。
「往復している、というのは合っているわよ」
「となると……やはり体術、それも
「意外ね。あなたから縮地術なんて言葉が出てくるなんて」
「そういうことを口にした奴が昔近くにいた……気がしたというべきか。で、どうかな、答えの方は」
「概ね当たりよ。私が最も得意としている技、
「なるほど。“人”の身でありながらこれほどの動きが可能とは。さすがは鮮紅の戦乙女。いや、綺羅川の血筋といったところか」
「……まぁ、そんな所ね。今度はこちらが質問してもいいかしら?」
「こちらのやろうとしていることは分かっているのだろう。何を今さら」
有理はガルダムの組まれた腕を指差す。
「その腕に隠れているモノ。教えてもらえないかしら?」
「何のことかな」
「とぼけないでいいわよ。私の最初の踵落しを両腕で防ごうとしたでしょう?攻撃が当たる瞬間、腕とは別に何かが入っていることに気付いたのよ。そうでなければあなたをタックルで吹き飛ばしたりしなかったわ」
「ほう、君は腕をへし折るのをやめてその厳つい左肩で襲いかかったのか。おかげで何メートルか吹き飛んだのだが」
「その方が的確だと思ったから変えさせてもらったわ。私がなぜ攻撃を切り替えなければならなかったのか。その答えを教えてくれないかしら?」
視認と同時に有理はガルダムの頭に踵落しを仕掛けた。ガルダムは防ごうと咄嗟に両腕を交差させて防御の姿勢をとる。その腕に何か仕込んでいることに気付いた有理は攻撃が当たるか否かの刹那に攻撃を中断。龍進を用いて瞬時に地面へ降り立ち、がら空きとなった相手の身体に渾身のショルダータックルを見舞ったのである。
「まあいいだろう。どの道今の俺ではどうやっても君を倒すことは出来ないだろうからな。隠しても隠さなくても結果が変わらないのならせいぜい楽しむことに重点を置こう」
ガルダムが交差させた両腕を顔の辺りまで上げ一気に振り下ろす。
振り下ろした際に出てきた棒状の物体を素早く掴む。
有理からは棒の先端が多少膨らんでいることそれ以外は暗闇で判断できない。
「気にしていたものの正体はこれだよ」
「……警棒?だけど何か別の用途がある……みたいね」
「そうだな。コイツは商売道具みたいなものだよ。こうして両方の先端を引っ付けて、擦ると!」
棒状の物体を擦り合わせると、暗くて見づらかった辺りの様子――ガルダムの輪郭や森の木々などが視覚で捉えることが出来る。つまりは明るくなったのだ。先端の燃える棒を手にした男が有理の前に立つことで正解の品が認識できた。
「へぇ。確かにあなたらしい得物ね。
「いいだろう?なかなかに趣があって気に入っているんだよ」
ガルダムは微笑んだ。いや、微笑んでいるような雰囲気を出していた。
松明によって視界は良くなったがそれでも対峙する者同士の表情まではっきりと見える程ではない。
それでも有理がガルダムの“闇”を垣間見るには充分だった。
(やはり……手遅れのようね)
心の中で呟く。
彼の顔が見えなくとも、彼の首にある十字傷は
「そう……私も松明の火は好きよ。特に神事に使用されるようなものは幻想的で魅了されるわ。だけど!」
有理は前方の男を睨む。
「神聖な道具を火遊びに使うような悪い子には、お仕置きが必要のようね!」
「ふっ、もう始めているだろう。何をいまさら!」
両者は同時に走り出した。
ガルダムは全速力で。有理は龍進を使わず、相手の速度に合わせて。
それぞれの一撃が、ぶつかり合う。
「はああっ!」
「せいっ!」
ガルダムが右腕を振りかぶり、振り下ろす。
有理は右手の掌底を松明の持ち手と炎上部位の中間に放ち止める。
「この程度では攻撃にすらならないか。だが、『半身』が来るまでは付き合ってもらうぞ!」
「残念だけど、そういう訳にも行かないのよ。おとなしくはしてくれなそうだから、おとなしくさせるわよ」
セリフを残して有理がその場から消える。
「……!?」
支えを失ったガルダムが前のめりになる。バランスを崩された彼の右側から声が聞こえた。
「こっちよ!!」
右の首筋めがけて中空に現れた有理の蹴りが放たれる。
「捉えた!!」
当たるか否かの刹那。
「まだっ!」
突然、ガルダムの襟が爆発した。
爆発の規模は極小だったが、爆風で蹴りの威力が削がれたため中断して距離をとる。
「ふう。危ない危ない」
爆発の際に襟元に付いた
爆心地のはずの彼に傷は見当たらない。その代わり首の周りを三つの光が飛んでいるのが見える。
「それが、あなたの血清開放……」
「フレイム・フェアリー。コイツは意のままに爆発し、焼き尽くす……といいたいところだが、今は手持ちがこの3つしかない。威力も小さく使っても焚き火程度にしかならん」
自分の周囲を回る火の玉を興味なさげに見つめる。
「だが非常時だからな。彼等にも働いてもらう。目標を達成する為に……ね」
ガルダムの身体を覆うように爆発が起きる。
やはり規模は大きくなく、爆発は炎と煙で視界が悪くなる程度だが――
「……考えたわね」
そう呟いた有理がガルダムを追いかけて走り出た。
「やはり、龍進は使えない、いや使わないか。俺の考えは正しかったようだ」
追いかけてくる有理に向かって話しかける。
「そうね。あなた、思っていたより頭いいじゃない」
「お褒め頂いて光栄だな。君の動きは大気、つまりは風の流れを利用する。その流れを一時的でも乱すことが出来れば思うように動くことが出来ない。そう……思った!」
視界が戻るともう一度爆発を起こし再び煙の中へ消える。
「確かに龍進じゃ間合いに入りにくいわね。だけど!!」
煙が晴れる前に、有理は走りだしていた。
「あなたの気配ぐらいなら、すぐに読めるわ!」
二度目の煙が晴れる前に、有理はガルダムの前にいた。
「そこっ!」
ガルダムの右肩に手刀が振り下ろされる。
「くっ……!」
有理の手刀が肩を強打する。衝撃は足にまで伝わり体勢が崩れる程の一撃。
だが――
「……捕まえた」
苦痛に顔を歪めながらも有理の右腕をガルダムの右腕ががっしりと固定し笑みを浮かべる。
「……何をする気かしら?」
「決まっているだろう?俺達がここにいる理由を忘れたのか?」
「森に火を放ちに来たのでしょう。だからここにいる」
「その通りだ。それで、先に仕事を済まそうと思ってね」
「……一応聞くわ。松明はどうしたの?」
ガルダムは両腕で有理を捕らえている。その手に彼が持っていた松明は無い。
「何、代わりに持ってもらっているだけだよ。彼(・)に……ね」
「キィキィ、キィ」
「……!?」
その時、ガルダムの背後から赤い光が漏れてきた。
何かが上昇してくる。
それは四本の羽を羽ばたかせ、空中に停滞した。
彼の使いである、
持っている松明も発火時の状態ではない。先端から柄の部分まで炎に包まれている。
「くっ!!」
身を捩(よじ)りながら腕を振りほどこうとするが外れない。
「パワーならこちらに分がある。簡単には抜け出せないだろう」
「……見誤った……か」
「そうなるだろうな。何、落ち込むことは無い。君は私の最大の作品を最も近い位置で見ることが出来るのだよ」
「…………」
有理は俯き、動きを止めている。
「見せてあげよう。……仕事だ。往け!!」
「キィーーー」
奇声を発しながら炎の化身は宿主の後ろに広がる森へ矢のように一直線に飛んでいく。
「さあ、炎劇を始めよう!」
そして、一本の木に突き刺さろうという瞬間。
「ギィ、ギィィィーーー!」
まるで感電したかのように、飛んでいた妖精は森の入り口寸前で激しい光に包まれ、そして消滅した。
「何だ、何が起こった!?」
急な出来事で訳が分からなくなったガルダムが後ろを振り返る
「……なんとか、間に合ったか」
森の奥から声が聞こえた。
声は徐々に近づいていき、やがて人影が闇から生まれ出てきた。
「いくらなんでも遊びすぎなんじゃないですか?それともこれも新人教育の一環ですか。隊長?」
森を出ることで月の光を浴びた人物が有理達を見据えている。
「誰だ、貴様。俺の仕事の邪魔をするとは、いい度胸だな!!」
ガルダムは目の前の男に激昂する。有理との会話ではあまり出ていなかった感情が言葉に乗っている。
「俺か?俺は加弥誠十郎。簡潔に答えると、そこにいる姐さんの部下だよ」
有理を指差しながら答える誠十郎。
「……ふん、今になって仲間の登場ということか。だが俺も次の手がまだ残っている。まだ終わったわけではない!!」
「あ、そう。まあそれはそれとして。……お前大丈夫か?ウチの隊長捕まえたままで」
「どういうことだ?」
「最も近い敵に集中しろ、ってことだよ」
「!?」
目線を誠十郎から有理へと移すガルダム。それを見た途端、彼は己が目を疑った。
「な……に!?」
有理の姿勢は変わっていない。顔も俯いたままだ。
しかし。
彼女の体の周囲には蒸気が上がり、彼女自身を赤い膜が覆っているように見える。
間も無くして――
「熱!!」
あまりの高温に耐え切れず掴んでいた腕を離す。
「だから言っただろう?掴んでて大丈夫かって」
悶えているガルダムの横を通り、有理の元へ近づく。
「姐さん、無事ですか」
「ええ、まあね。ちょっと調子に乗っちゃったところがあるけど」
「全くですよ。燃やされていたら兄さんになんていえばいいんですか」
「そうね。今回ばかりは少し反省しないとね。それよりも……綾斗君は?」
「アイツなら問題ないっすよ。もう少ししたら追いつきます」
「そう……ならもうちょっと頑張らないと。ところで、誠君は指貫グローブ外しているのよね」
「外さないと“檻(おり)”は作れませんし」
「それもそうか……動けるかしら?」
「……エコノミーな状態ですがね……敵さん強いですか」
「まだまだ何か隠しているみたいだから強くはなりそうね」
「ま、自分の身は何とかしますよ。基本は後方支援ですし」
「それでいいわ。私は……」
「ぐっ、ぐぅ……」
思わぬ攻撃を受けて悶絶していたガルダムが立ち上がった。目は血走り、口元は歪む。その顔はまさに、怒りに満ちた鬼の形相である。
「お、おのれ……」
こちらを睨む敵に対し、有理も視線を向ける。
「どう?意表をついた刺激の味は?」
「ふん!小賢しい真似を。どうやら火付けは後回しのようだな。まずはお前たちを消し炭にしてやる!」
「構わないわよ。やれるものならね。けど最後にこれだけははっきりさせてくれる?……引く気は……無いみたいね」
「当たり前だ!お前達を燃やし、森を燃やし、そして全てを燃やしてやる!」
「無理な願望を持っているわね。……そう。説得の余地は無いか。なら見せてあげるわ。私の舞を」
有理は左肩の防具を外し、投げ捨てる。
さらに覆われた部位に付いている服のボタンも外す。
「こんな時に何をしている?武装解除して降参か?それとも今になって色仕掛けか?」
「降参するわけ無いでしょう。色仕掛けかはともかく、出血大サービスはしてあげるわよ」
布が留められていない為、そこから有理の鎖骨周辺の肌が露出している。当然そこに着けている白い布も。
「ただし!出血するのは、あなた自身だけどね!!」
布の端を摘まみ、一気に剥がした。
突如、猛烈な風が渦を巻きながら有理の体を覆う。
風に色は無いため姿は見えていたがしばらくすると。
「あの紅い風は、何だ!?」
大地に面した部分から次第に紅く染まっていった旋風が有理の姿を隠していく。
そして彼女の全てを覆い隠したと同時に、紅い風は、内側から押されたかのように弾け飛んだ。
「っ……!!」
吹き荒(すさ)ぶ暴風を体に叩き込まれながらも姿勢を低くとっていたガルダムは何とかこらえた。
風がおさまったのを確認すると、暴風の中心地を凝視する。
そこにいたのは。
「あれは!?」
真紅の髪をなびかせる有理が立っていた。
変わったのは髪だけではない。体のいたるところで赤い電光の様なものが螺旋を描いては消え、描いては消えを繰り返している。
「……血清開放。紅竜焔刃(こうりゅうえんじん)」
また口調も先程までの彼女とは違う。柔らかな雰囲気が消え、見た目の熱さとは対照的な冷たい印象をその声は伝えてくる。
「これが、この女の!!」
「鮮紅の戦乙女の異名を持つ、我らが隊長の戦闘形態だ」
「き、貴様も炎使いだった、のか……」
「…………」
ガルダムの問い掛けに有理は言葉を返さない。
代わりに視線は向けている。ただ対戦相手が瞳に映っている。その程度の視線を。
それでも。それだけでも彼女の放つ威圧感は異常だと感じる。
「……お前の力が強大だということは俺にも分かる。これでは確かに出血するのは俺の方だ。だがな、こちらも間に合ったようだ!!」
「…………」
「ん?何だ。あれは!?」
誠十郎が異変に気付く。
それは空から。
何かがこちらに向かってくる。
それは巨大な火の玉。
一直線に、この場を目指して。
「隊長!上空から何か来ます!」
「分かっている、加弥」
有理は特に動じない。まるで何が来るのか分かっているかのように。
「ふふっ。面白くなりそうだな」
ガルダムも動じない。それどころか笑みを浮かべている。
「てめえ!何をしでかす気だ!!」
誠十郎が怒鳴りつける。
「見てれば、分かる!!」
そして火の玉は、ガルダムに直撃した。
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事件の首謀者との対峙。そして戦う。バトル物なので。