収録前の楽屋で、私達は衣装合わせをしていた。
私にとって、最近憂鬱な時間の一つだ。
「ゆかりちゃん、また大きくなった?」
「ええ、そうみたいなんです……」
隣で一緒に着替えるマキちゃんに聞かれ、私はため息混じりに返答する。
デビュー当時それほどでも無かった胸は、ここ半年で急成長を始め、今ではDに差し掛かろうというぐらいになっている。
「……キャラ作りのためとはいえ、ちょっと問題あるよね、そもそもあんまり締め付け過ぎると発声に支障がでそうだし……」
「そうなんですよね、声だけの収録なら胸を締め付けないでいいから楽なんですけど」
「最近公開収録が減ってるのって、もしかしてその所為?」
サラシを取り出しながら、小さく頷く。
「マネージャーさんが仕事をうまく調整してくれてるみたいなんです。事務所の方も、このままだと仕事に支障をきたすからなんとかするって……」
そう言いながら、呼吸を整え胸にサラシを巻いていく。
最初の頃は自分ではできなかった作業も、今ではすっかり手馴れてしまった。
嬉しいことではないけれど。
「それより、マキちゃんだって大変なんじゃないですか?」
「う、うーん……まぁ、うん……もうすこしうまく部分的にダイエットできればいいんだけどね」
私の隣で衣装を合わせているマキちゃんは、コルセットをきつく締め上げているところだった。
ダイエットをすると、一番最初に痩せるのは胸であることが多い。
そのため、マキちゃんは少しぽっちゃり気味、という体型を維持している。
お腹まわりだけを痩せられないものかといろいろ試しているらしいが、今のところ成果は上がっていないようだった。
「最初の時は、確かによかったんだけど……続けるってのは別物だよね」
「そうですね……」
巨乳キャラで売りだしたマキちゃんは、それが定着した結果それを崩せなくなった。
私だって、うまく貧乳キャラを崩してやっていける保証はない。
この業界は厳しいのだ。
だからといって停滞していていいわけでもない、ここが頑張りどころなのだろう。
そう、自分に言い聞かせる。
マキちゃんもきっと同じだろう。
「……ふぅ、終わり。マキちゃん、ちょっと見てもらえます?」
「あ、ゆかりちゃん、私も見て」
互いに格好に問題が無いか確認する。
確認が終わったところを見計らったかのように待合室のドアがノックされた。
「ふたりとも、準備はできてるかい?」
「「はい!」」
いざ仕事に入るとなれば、私たちはプロだ、裏の顔なんて見せてはいけない。
お互いに視線を交わし、とびきりの笑顔を作って収録へと挑むのだ。
こうして今日も、私たちはお仕事を続けている。
いつか、もっと色々なスタイルで仕事ができる日を夢見て。
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夕方にツイッターのほうで拾った電波を元に30分ほどで書いてみました。ゆかりんマキマキ好きー。