No.602930

わすれものをさがしに

今生康宏さん

自作絵本のあらすじと本文の下書きです
「自分探し」というものには懐疑的な自分ですが、このお話のテーマは「自分の欠けたピース探し」とでも言えるでしょうか

2013-07-29 22:15:42 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:300   閲覧ユーザー数:300

わすれものをさがしに

 

 忘れものをしてしまった

 どこかに大事なものを忘れて いつのまにかに忘れたことすら忘れていた

 だから探しにいこう

 

 この町には色がない

 黒いカベに黒いタイル 色のない雨 白の霧

 工場にきた お父さんのはたらく工場

 歯車を拾った

 違う これは ぼくの忘れたものじゃない

 学校にきた ぼくのいた学校

 教科書を拾った

 違う これは ぼくの忘れたものじゃない

 

 家にきた お母さんと暮らした家

 何もない

 何もない

 何も ない

 忘れたものはここにあった

 三人で暮らした思い出があふれていた

 これをかかえて 生きていける

 どこまでだって

 いつまでだって

 わすれものを してしまった

 何かは わからない

 どこにあるのかも わからない

 だけど だいじなものを わすれてしまった

 いつしか わすれたことも わすれてしまって

 だけど それを 思い出した

 だから 探しに行こう

 色のない町

 カベは黒くて タイルも黒い

 毎日 色のない雨がふって

 白いきりが 立ちこめる

 色のない さびしい町

 ぼくは ここで生まれて

 ぼくは ここで育った

 工場にきた

 お父さんのはたらく 工場

 機械が がたがた がたがた

 機械が ぶー ぶー

 大きな音を立て はたらいている

 そこに歯車があった

 歯車をひろった

 だけど ちがう

 これは ぼくのわすれものじゃない

 学校にきた

 ぼくの通っていた 学校

 ろうかは 暗くて

 床は 抜けてしまいそう

 だれかの教科書があった

 教科書をひろった

 だけど ちがう

 これは ぼくのわすれものじゃない

 図書館にきた

 本が集まる 図書館

 たくさんの人と たくさんの本

 たくさんの心が 集められている

 いつかのだれかの日記があった

 日記をひろった

 だけど ちがう

 これは ぼくのわすれものじゃない

 家にきた

 ぼくとお母さんが暮らしていた 家

 なつかしい 匂い

 なつかしい 色

10

 だけど 何もない

 何もない

 何も ない

 ほこりが 積もるだけ

11

 ここには何もなかった

 形のあるものは

 だけど わすれものがあった

 ここに わすれていたんだ

12

 三人で暮らした 思い出が

 昔の日々の 思い出たちが

 いくらだって あふれていた

13

 なんて やさしいんだろう

 なんて なつかしいんだろう

 なんて かなしいんだろう

 なんて しあわせなのだろう

14

 これをかかえて 生きていける

 ぼくはもう 生きていける

 どこまでだって

 いつまでだって

 だれとだって

 ひとりでだって

15

 どこまでだって この思い出といっしょに


 
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