No.602069

Baskerville FAN-TAIL the 8th.

KRIFFさん

「剣と魔法と科学と神秘」が混在する世界。そんな世界にいる通常の人間には対処しきれない様々な存在──猛獣・魔獣・妖魔などと闘う為に作られた秘密部隊「Baskerville FAN-TAIL」。そんな秘密部隊に所属する6人の闘いと日常とドタバタを描いたお気楽ノリの物語。

2013-07-27 10:46:54 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:395   閲覧ユーザー数:395

「……特に大きな事件はナシ。世の中平和で結構結構」

さっき届いた新聞を、朝食のトーストをくわえたままじっと見つめるグライダ・バンビールは、地元のニュース欄の見出しを見て、くわえていたトーストを思わず離してしまった。

「食べ物は粗末にしない事」

すかさずトーストを股でキャッチした彼女を見て、同居人のコーランが静かに言って、紅茶をすする。

「コーラン。これ見て、これ」

グライダはトーストをくわえ直すと、自分がびっくりした見出しを彼女に見せる。

「ねーねー、セリファにも見せて〜」

グライダの後ろから飛びついたのは妹のセリファ・バンビール。セリファはそのまま新聞をのぞき込む。

「あー。シャドウが新聞にのってる〜」

そこには、瓦礫の中で撤去作業をする人々の写真が載っていた。そこに、見知った人物が写っていたのだ。

しかし「人物」というのは、ある意味では間違っているのかもしれない。その「シャドウ」というのは「人間」ではないからだ。

もちろん、この世界には「人間」以外にも人型知的生命体は存在する。

代表的な者で妖精の流れを汲むエルフ・ドワーフなどの亜人種。異世界の住人である魔人・魔族。

各固体数は多いとは言えないが、詳しく数え上げればキリがない程だ。

しかし「シャドウ」は、これらの人型生命体のどれにも属さない。いや。「生命体」ですらない。

何故なら「シャドウ」は機械体。いわゆる「ロボット」であるから。

「生き埋めの人を総て助けたロボット」

シャドウは、瞬く間に時の人(?)となった。

 

世界で最も不可思議な港町として名高いこのシャーケン。

ここにも、朝はきちんとやってくる。

同時に、面倒な騒動までやってくる。

平穏な日は、一日としてなかった。

この広い町のどこかで、必ず誰かがはた迷惑な騒動を引き起こし、巻き込まれるのだ。

だからこそ、ここへ来れば——どんな職種であれ——仕事にあぶれる事はない、とまで云われている。

 

そのシャドウは、今日も瓦礫の中で撤去作業を続けていた。

数日前に起きた地震によって、古くからある大聖堂の三分の一が崩壊したのだ。建てられてからかなりの年数が経ち、老朽化が進んでいた事が一番の要因だった。

この辺りはあまり地震の起きない地域だから驚いて逃げ遅れた人もいたが、それにしては被害は少なく、撤去作業も意外な程順調に進んでいる。

総て、シャドウの功績だった。

老朽化した聖堂を補修するか改築するかの相談で、シャドウが雇われている建築会社がここに来ていた事も幸運だった。

知らせを受けて急行したシャドウは、自分のメモリーの中にある「地震が起きた時の対処法」にのっとり、戦闘用特殊工作兵であった知識も総動員し、テキパキと指示を出した。

ただ指示を出しただけではない。どこから手をつけたらいいのか。どの瓦礫を、どのように撤去すればいいか。どこに人が埋まっているか。それら助けた人の応急処置……。

普通なら一日以上かかるであろう作業を、わずか半日程で終了させたのだ。埋まっていた人は総て救助され、病院に収容された。

さすがに瓦礫の山の方はまだまだ残っている。建物を取り壊す手間が省けた、と建築会社の皆は笑って作業を続けていた。

「いーね、お前は。一躍有名人」

昼休み中にやってきた雑誌のインタビューに答えていたシャドウに、同じくアルバイトで来ているバーナム・ガラモンドが声をかける。

ロボットであるシャドウには顔の表情というものがないのでよくは分からないが、彼には人間と同様の「感情」がある。

機嫌がいいわけではない、という事は何となく伝わってきた。

「しかし、何度も同じ事を答えると云うのは理解出来ない。一度で済まないのだろうか」

「そう言うなよ、シャドウ!」

「ついでにウチの会社の宣伝頼むよぉ」

シャドウの答えを聞いた誰かが口を出す。

「建設現場に機械がある事は、当たり前だ。人型の建築機械も珍しくない。彼等は、建築機械の取材に来ている様な物だ」

「違いますよ、シャドウ。それは、あなたの行動が評価されたからですよ」

両手に紙コップを持って現れたのは、瓦礫の撤去作業場の雰囲気には似合わない神父の略式礼服の青年。

「クーパー。昼休みに説教する気か?」

クーパーと呼ばれた彼、オニックス・クーパーブラック神父は、持っていた紙コップをゴロリと寝転がったバーナムに渡すと、

「生き物にとって、『生命』はとても大切な物で、同時に尊い物です。その大切な物をあなたは救ったのです」

そこまで言って、皆の注目が集まるのを確認すると、言葉を続けた。

「しかし、生き物総てが、救うという行動をとる事ができるわけではありません。ですから、『命を救う』という行動は皆の注目を集め、高く評価されるのです」

教会の説法の様に優しい口調でシャドウに語りかける。さすがに堂に入ったものだ。

「……ほう。若き神父の説法ですかな」

そこに現れたのは、彼の三倍は生きているであろう老人だった。

彼は、聖堂の長を表わす、真紅のたすきの様な布を肩にかけている。

「あ、これは司祭様」

クーパーは彼の前にひざまずき、右手を左胸に当てそのまま頭を下げる。身分の高い僧への挨拶である。

「いやいや。礼儀正しいのは良い事だが、今は良かろう。クーパーブラック神父」

年を感じさせぬきびきびとした動きでシャドウに近づくと、深く頭を下げた。

「シャドウ殿。貴方のこの度の働き、皆も非常に感謝しております。神も、きっと貴方の行動を喜んでおられる事でしょう」

しかし、シャドウの方は淡々としたまま、

「自分はただ指示を出しただけに過ぎないし、そんな事は誰にでも出来る事だ。感謝の言葉は、建設会社の人間全員に言うべきだ。彼等が居なければ、時間はもっとかかっていた」

シャドウはあちこちで食事をとっている皆の方を見て言った。

「自分は人間ではないから、命の重みや尊さといった物は分からない。しかし、人が死ねば、悲しむ者が出る。それは良い事ではない」

その言葉に司祭は微笑み、

「貴方のおっしゃる通りですな。『悲しむ人を出したくない』。貴方は、人間よりも人間の優しさを知っていらっしゃる」

「一応戦闘用ロボットだろ、お前? 矛盾してんじゃねぇか、それ?」

バーナムが大あくびをしながら口をはさむ。

「確かに。自分は、戦闘用特殊工作兵。こんな事を言っても、説得力はないな……」

シャドウ静かに、そして悲しそうに呟いた。

 

この世界にはきちんと「神」が存在し、沢山の神がいる、いわゆる多神教だ。

日本の八百万(やおよろず)の神のように「総てのものに神が宿る」という訳ではないが、その数は多い。

中でも信者が多いのは、神話の中の主神にして創造神である『エカム・エダム・クレアート』。

その創造神の妻にして、平和と喜びを尊ぶ女神『エキャエップ・ヨジ・ラピアス』。

その息子にして、戦いと勝負を司る勇気の神『エルッタブ・エマグ・バーレル』。

同じく息子にして、知恵と知識を司る真実の神『モドシゥ・エグデルウォンク・ムウィスタ』。

同じく娘にして、美と芸術を司る愛の神『イトゥアエブ・トラ・アルト』の五柱の神。

そして、以上の神をまとめて「五大神」という呼び方をされる程だ。

それ故に、同じ聖職者でも信じる神によって宗派が変わるし、同じ神を信じる者の中にも、教えの解釈によって派閥めいた物がいくつもある。

この聖堂の司祭とクーパーの教会は、信じる神はエカム・エダム・クレアートなのだが派閥は全く違う。

しかし、違うといえども「同じ神」を信じる者同士。細かいいざこざは絶えないが、争う事の無意味さといざこざが結局は何も生まない事を「一応は」理解している。

もっとも、全員がそうだというわけではないのだが……。

「……司祭様。こんな所におられたのですか」

ずいぶん体格の良い中年の神父が声をかけてきた。クーパーの物と同じデザインの略式の礼服だが、彼と違うのは左胸に信仰する神・クレアート(儀式以外では最後の部分のみで呼ぶのが通例)と宗派を意味する神聖文字が一文字ずつ刺繍されている所だ。

その男は自分達の派閥ではないクーパーをジロリ、と睨みつけると、

「これはこれは。確か、クーパーブラック神父でしたな。有名な破戒僧の」

「そんな事を言うものではない!」

司祭がきつい口調でたしなめる。だが、彼はかまわず続けた。

「だいたい神と宗派を表わす神聖文字を刻まぬ礼服が、その確固たる証。聞く所に因れば、呪われた剣を振るうとか。それが破戒僧でなくて何だと言うのだ」

「剣を振るう者が破戒僧なのではない。そんな事も分からぬのか!」

司祭が彼を諌めるが、聞く耳持たんといった風情で睨みつけている。

剣の所持や使用は、別に禁じられているわけではないが、聖職者は持たないというのが一般的な常識になっている。その事を言っているのだ。

「いえ、いいんですよ。似たようなものです」

クーパーの笑顔が少しばかり曇ったが、いつも通りの調子で答える。

「それに、お前もお前だ。我々の同胞を助けた事は感謝するが、機械の分際でいい気にならないでもらいたい」

彼の攻撃の矛先はシャドウに向けられた。

「機械は人間の為にある物だ。だから、人間の役に立って当然。こんな大騒ぎをする事自体が間違っている!」

「騒ぎ過ぎている事については同感だな」

挑発の意味も込めた彼の言葉に全く動じていないシャドウの台詞に、彼は一瞥くれただけだった。

「もういい。お前は持ち場に戻っておれ。私も後から行く」

司祭の言葉が終わらぬうちに、ふん、と鼻を鳴らすと、その男は足早に去っていた。

「……申し訳ない。クーパーブラック神父、シャドウ殿。彼は、自分と違う宗派の者を敵対視する傾向が強いのです。それはいけない事だと常々教えているのですが……」

司祭が深く頭を下げる。

「宗教やるのも楽じゃないねぇ」

今までのやりとりを珍しく黙って見ていたバーナム。別に特定の神を信仰しているわけでもない彼から見れば、異宗派同士の争いなど馬鹿げた話でしかない。

「何を信じようがこっちの勝手だろうが。神だって悪魔だって同じようなモンなんだし。こういう事は強制するもんじゃねぇだろ」

バーナムは権力とか信仰といったものには関心を持たない。だから、その神を信じる者を目の前にしても遠慮なく自分の言いたい事を言うだけだ。

さすがにクーパーがバーナムを止めようとしたが、司祭の方は怒った様子はなく、

「普通なら『冒涜するな』と言う所だが、宗教の信仰というものは、そういったものなのかもしれない。自分の信じていないものは、どんなに尊いものであっても、結局は……いや、これは私が言う言葉ではなかったな」

司祭が自嘲気味に笑みを浮かべる。自らの信仰を自分の手で否定する事になりかねないのだから。

彼はそのまま皆に頭を下げ、去って行った。

そこに、昼休み終了を告げるサイレンが鳴らされた。

 

「……ところで、その薄気味悪い、声を殺した笑いは、やめてもらえないかしら?」

コーランが目の前で惚けたようにフフフと笑う人物に向かって静かに言った。

「……え? 何ですか、サイカ先輩?」

コーランは、あまり好きではないファーストネームを呼ばれても動じた様子はないのだが、如何せんこの笑い声には我慢できかねるようだ。

その人物とは、魔界治安維持隊(まかいちあんいじたい)人界分所所長ナカゴ・シャーレン。彼女の元同僚にして後輩である。

「それで、先輩。持ってきてもらえました?」

コーランは無言でいくつかの雑誌を彼女の前に放り出すように置いた。

「あ〜ん。シャドウさぁ〜ん♪」

シャドウが表紙を飾っている地元雑誌に頬擦りをするナカゴ。それを見て「ついていけない」と冷めた目で見つめるコーラン。

そこでドアをノックする音がして、誰か入ってきた。

「所長。……あ、サイカさんもいたんですか」

二人のいる所長室に入ってきた顔馴染みの所員が、コーランにすがるように情けない声を出す。

「サイカさんからも何か言って下さいよ。ウチの所長。その機械人形の記事が出るようになってから、全然仕事しないんですよ」

「機械人形じゃなくて、ロボット! 戦闘用特殊工作兵!」

機械人形という呼び方が気に入らないらしく、ピッと鋭く反応を返す。

「シャドウさんくらいになると、もう芸術品と言っても良いくらいなんですよ! あの完成度とスマートさと言ったらもう……」

うっとりとした目で周囲を見回す。

実は、所長室の壁という壁には、極限まで拡大したシャドウの写真のコピーが何枚も貼ってある。下手なアイドルと何も変わらない。

「それはいいから、仕事は疎かにしない事。もうすぐ会議じゃなかった?」

「え!? もうそんな時間なんですかぁ。それじゃシャドウさん。行ってきますね〜」

部屋に貼られたコピーに手を振り、二人で部屋を出る。ナカゴは会議室に向かったが、コーランはそのまま分所を去った。

「大丈夫なのかしらね、あの子」

心配そうに建物を見つめるコーラン。そこに、グライダとセリファが通りかかる。

「あ、いたいた。コーラン。……ナカゴさんの所に行ってきたの?」

「ええ。相変わらずだったわ」

「ねーねーコーラン。これからシャドウのとこに行くの?」

セリファがニコニコ笑顔のまま彼女に飛びついて尋ねる。彼女がそうだと言うと、

「じゃあじゃあ、おみやげもって行こ」

「おみやげ? ああ、差し入れの事?」

コーランはそう言いながら少し考える。

「でも、シャドウはロボットだから、食べ物も飲み物もいらないし、何を持って行くのよ」

確かに、横から口を出したグライダの言う通りだ。

ロボットであれば燃料を持って行くという手段も考えられるのだが、シャドウは構造上「燃料」を必要としない。考えていたコーランもますます困ってしまった。

「そうねぇ。シャドウは魔力が動力源だし……。だからといって、魔力はその辺のお店では売っていないし……」

確かに、魔力を人工的に造り出す事は現在の技術では不可能。自分の持つ魔力を他人に分け与える術もあるのだが、シャドウの構造上それはできないのだ。

シャドウの心臓部には「ストーンキュー」と呼ばれる魔力の詰まった魔法石がある。この石の中の魔力は、一定の時間が経過しない限り回復しない仕組みになっている。

「う〜ん……」

今度は、三人揃って悩んでしまった。

 

次の日。セリファは一人でその現場に来ていた。

もちろん「関係者以外立入禁止」の柵の中に入る事はできないが、作業の様子を眺めるくらいはできる。

瓦礫もだいぶ片づいている。しかし、建物の一部を欠いたままの姿というのも痛々しく感じる。そんな建物の痛々しい姿を、グライダのぬいぐるみを抱いたまま悲しそうに見つめていた。

「どうしたのかな、お嬢ちゃん。危ないから離れていなさい」

セリファの後ろから老人の声がする。彼女が振り向くと、そこにはこの聖堂の長の司祭が立っていた。セリファは彼に尋ねた。

「このたてもの、おじちゃんのなの?」

「いや。この聖堂は私の物じゃない。みんなの物だよ」

「あのたてもの、いたそう。だから、すっごくかわいそーなの」

セリファは目に涙を潤ませて、まるで訴えるように司祭に言った。

「建物」が「痛そう」で「かわいそう」という発想は彼にはなかったらしく驚いていたが、すぐに優しい笑顔になると、

「……そうだね。直すために、あの方達が一所懸命働いて下さっている。感謝しなくてはいけないよ」

バァン!

突然大きな音が轟く。

「どうした! 何だ今の音は!」

「何だってんだ、一体!」

あちこちで怒りとも叫びともつかない声がする。思わずびっくりしてしゃがんでしまったセリファを立ち上がらせた司祭は、

「何かあったようだ。お嬢ちゃんは危ないから帰りなさい。いいね」

そう言って、柵を跨いで中へ入って行った。

「これは……ミサイル、ではないな。爆弾でもない。……魔法でもない」

現場に駆けつけたシャドウは、さっきの音で弾け飛んだ聖堂の屋根の一角を魔法の目と科学の目でジッと見つめている。そこに現場監督や司祭がやって来る。

「どうした、シャドウ!」

「原因は分からない。しかし、火薬が使用された様子はない。火薬を使わずに爆発を起こしたと考えるべきだろう」

「爆発? 火薬なんぞ持ってきてたか?」

誰かが首を振る。確かに、今日は一切火薬の類いは持ってきていない。

「……成程。その手があるか」

辺りを注意深く見、水が飛び散っているのを発見し、シャドウは一人で納得している。

「何なのです。魔法でも爆弾でもないのに爆発なんて起こるんですか?」

司祭の言葉に無言のまま首を縦に振ったシャドウは、近くに落ちていた小さな黒い金属辺を手にとった。

「……『気化』は、学のある人間なら理解出来るな。それを使えば小さな爆発紛いの事は起こせる」

「気化というと、水が気体に変わる……アレですね」

「そうだ、司祭殿。水が気体に変わる時、その体積は六千倍を優に超えるまでに大きくなる。この現象が、完全に密閉された空間の中で発生した場合、密閉している物体を破壊する事もある」

シャドウの説明を黙って聞いていた現場監督も、その説明で理解する。

「それで『バン!』て訳か? でも、たかだか水でそんな事……」

「しかし、蒸気機関はその力を利用する。侮る事はできますまい」

司祭の言葉に、現場監督も納得するしかない。うっと言葉に詰まったままだ。

しかし、そんな事を一体誰がどうやったのだろう、という単純で重要な問題が残った。

それから少し経ち、ようやく警察がやってきた。

警察も、魔法の反応も火薬の反応も検出されない以上、シャドウの考えで正しかろう、たちの悪いいたずらだと結論づけた。

ただし、もう一つの事件が起こった事に気がついたのは、それから少し後の事。

それがシャドウに渡されたのは、爆発があって小一時間も経った頃。野次馬のほとんどが去ってからだった。

「これは……お嬢ちゃんの縫い包みだな」

警察官から渡されたのは、セリファが肌身離さず持っているグライダのぬいぐるみに間違いなかった。

「やっぱりセリファちゃんのぬいぐるみに間違いないですよね!? それが立入禁止の柵のそばに落ちてたって言うんですよ。あのセリファちゃんが、これを落として気づかないなんておかしいでしょう? まさか誘拐?」

ぬいぐるみを持ってきた警察官が一気にまくしたてる。どうやらセリファのファンらしい(信じにくい話だが、セリファには私設のファンクラブが存在するのだ)。

「しかし……それで誘拐と考えるのは、幾ら何でも短絡的な考えだ」

何気無くぬいぐるみを見回していたシャドウは、ぬいぐるみのズボンのポケットに、何か小さな板が入っている事に気づき、そっと取り出す。それは、マイクロチップだった。

昔は頻繁に使われていたが、今ではレトロなスパイ映画にたまに顔を出すくらいの、前時代的な記憶装置である。

シャドウは、自分の左腕に内蔵されているマイクロチップの読み取り機にセットした。

『シャドウ君。君のいた時代に合わせて、こんな博物館物の機材を使わせてもらった。このセリファというお嬢ちゃんは預からせてもらうよ。何。どうしようというのではない。新しくなったという君の性能を儂に見せてくれるだけでいい。君の故郷にあたる、あの地下都市の廃墟へ行きたまえ。総てはそこで……』

以上が、記された全文だった。

数時間後、出発準備を終えて港に集合した一行。シャドウの報告を聞いたバーナムが呆れ返る。

「……前といい今度といい、よっくさらわれるガキだな」

「それで、これからすぐに行くんでしょ?」

姉のグライダは、これ以上待てないとばかりに立ち上がった。シャドウがそれに答え、

「今、船の手配と準備が少し長引いている。夜明け前には出発出来ると言っていた」

「そうですね。時間の指定はないようですが、早く行った方がいいでしょう」

クーパーも静かに、そして力強く言った。

「オレも行くぜ。ここらでストレス発散といきたいしな」

よく分からない理由で参加を決意するバーナム。

「私はこっちに残るわ。ナカゴ、あんたもよ」

「えーっ! 私もですか、サイカ先輩」

ナカゴはシャドウと離れる事が相当嫌らしい。今もしっかり彼の隣にピッタリとくっついている。

「そう。警察が動いているんでしょう? 犯人が魔界の者の可能性だってあるし、もしそうだったら、治安維持隊に調査依頼だの身元確認だのが来る筈よ。その時、所長のあんたがいなくてどうするの?」

人間界の警察と違い、魔界では、所長自ら現場の指揮をする事も珍しくない。そう言われては、さすがのナカゴもおとなしく従うしかなかった。

「それじゃ、あたし達はこれから港へ。船の準備ができ次第島へ向かうわ」

「ええ。気をつけてね、グライダ」

バーナム、クーパー、グライダ、シャドウの四人は港へ向かって走り出した。コーランは心配そうに、ナカゴは不満の表情で見送る。そんな不満顔のまま、隣に立つコーランに、

「サイカ先輩。どうして私とシャドウさんの仲を邪魔するんですか?」

「邪魔って……別に何の関係もないでしょ」

「これからなるんじゃないですか!! ゆくゆくは結婚だって」

「……まあ、法律上で禁じられてはいないけど」

「そして種族の垣根を超えて、小さいながらも慎ましい家庭を築くんです。そして……」

「種族レベルの問題じゃないと思うけど」

一人で妄想の世界に入ってしまっているナカゴに、コーランのその声は聞こえていないようだった。

 

シャドウ達を乗せた小さな船は、太陽が水平線から完全に顔を出す前に、目的の島に到着した。船の中でそれなりの武装を済ませたシャドウは、島に片足を乗せて、

「もう二度と来る事はないと、思っていたのだがな」

その小さな呟きがクーパーの耳に入る。

彼は、島の真ん中ほどにある、地下深くまで掘られた縦穴の前に立った。

「気に病む事ではないですよ。とりあえず、セリファちゃんを捜さないといけませんね」

グライダも、もう待てないといった感じで首を前に倒す。

「行くぞ」

穴の底を見つめたままシャドウが飛び込んだ。慌ててグライダが彼に飛びつく。

シャドウは背中と脚部のバーニアから圧縮空気を吹き出して、ゆっくりと下りていく。

バーナムも空中に浮く技・龍舞(りゅうぶ)を使い、落下速度を調整して下へ下りる。クーパーはバーナムにつかまっている。

「……その、マイクロチップの文。ずいぶんと挑戦的って言うか、挑発的って言うか。だいたい『実力が知りたいだけ』なんて、知ってどうするっていうのよ」

「さあねぇ。シャドウみたいなロボット作ろうってんじゃねぇの?」

「バーナム。それは近いかもしれませんね。おそらく……」

クーパーは、そこで黙ってしまった。彼は何となくではあるが、感づいてしまっている。

シャドウをここにおびき出した目的は、自分の作ったロボットと、どちらが強いかを比べる為だろう、と。シャドウ自身も、元を正せばそうした目的で作られた数あるロボットの一体なのだ。

「シャドウが人命救助をした事は新聞・雑誌にたくさん載りましたし、それで、その人物がシャドウの事を知り、挑戦してきた。自分に自信のある科学者あたりが短絡的に考えそうな事ですね」

「なんで、そんなバッッカのせいでセリファがさらわれなきゃなんないの!?」

当然、グライダは怒っている。自分の妹がさらわれて、怒らない方がおかしいだろう。

そんな会話をしているうちに穴を抜け、地下都市の廃墟に降り立った。以前と変わらず閑散として生きる者の気配はない。

「……囲まれたな」

シャドウが普段は外している盾を左腕に固定し、担いでいたエレメントライフルの安全装置をかけて地面に置き、背中に固定している見慣れないバックパックのロックを解除する。

グライダも右手に剣を出現させる。

クーパーも刀の柄に手をかけた。

「……ここんとこ全っ然暴れてねぇから、憂さ晴らししたかったんだよ」

バーナムが暗闇の中に微かに見えた、カメラアイの光の反射を見て不敵に笑う。

それが合図となったのか、四方から同時に多種多様な戦闘用の兵器が一斉に襲いかかってきた。

数は多いものの陣形の方は素人同然。長距離攻撃タイプが最前列にいたり、群れの中に近距離攻撃タイプがいたりと機体特性をまるで考えていない。単なる物量作戦でも、そのくらいは考えるだろう。

「邪魔だ。伏せていろ」

シャドウは短く言うと、そのバックパックの中身をカチリと可変させる。それは二挺のマシンガンとなった。

その雰囲気にバーナムすら地面にぺたりと伏せ、様子を見守る。

シャドウは両足をしっかりと踏ん張って腰を落とし、両手に持ったマシンガンの引き金を引き、そのまま身体を回転させて全方位に乱射する。

その弾幕を浴びた者が次々とセンサー類を破壊され、爆発し、それが誘爆を引き起こす。魔界で開発された対機械兵器用に調整した特別製の弾丸の試作品が、思った以上の効果を上げていた。

至近距離ゆえの爆風と排出された薬莢が、伏せている一行やシャドウ自身にも降り注いでいる。

「やりすぎじゃねーのか!?」

バーナムが爆風に負けない大声で怒鳴るが、

「この位でなければ意味が無い。敵の数を考えると、これでも足りない」

そうして一分ほど乱射した時二挺のマシンガンは弾切れを起こした。シャドウはそれらを投げ捨ててエレメントライフルを持ち直して安全装置を解除する。

「散れっ!」

シャドウが叫ぶと一同は素早く反応して起き上がり、多少は数の減った手近の敵に飛びかかる。

「くたばれぇぇっ!!」

バーナムが敵の目前で強く右足を踏み込み、同時に力強く右掌を突き出す。

目標にしていた戦闘兵器は、単に掌を軽く叩きつけられただけにしか見えなかっただろうが、後ろの機体を巻き込んで勢いよく吹き飛ばされる。

彼の使う拳法四霊獣・龍の拳独特の「気」を多用する技の一つ・龍突(りゅうとつ)である。

彼は息を大きく吸うと同時に周囲に残る「気」を無意識のうちに吸収すると、踏み込んだ右足を軸に左脚で痛烈な回し蹴りを放った。

すると、見えない鞭で薙ぎ払われたかのように機体が次々と吹き飛んでいく。

「四霊獣龍の拳・龍尾(りゅうび)だ。覚えとけ、てめーら!」

機械が覚えるとは思えないが、拳を固く握り直すと一直線に敵の真っただ中に飛び込んでいく。

グライダも右手に出した魔剣レーヴァテインの柄尻に左手を添えて力任せに叩き斬る。

レーヴァテインの刃に触れた機体は無惨に燃え上がり、火を恐れない筈の機械が一瞬怯えたようにわずかに動きを止める。

しかし、目の前の機械兵が至近距離からビーム砲の砲口をグライダに向け、引き金を引いた。

グライダもとっさに避けようとするが、近すぎて間に合わない。

その時、グライダのジーンズのポケットから無数の呪符が飛び出し、ビームを身替わりとなって受け止めていた。

その隙にその機械兵を袈裟がけに叩き斬る。

その無数の呪符は、まるで彼女を護るかのように、周囲にフワフワと漂っている。

「ありがと、コーラン」

こっそりとポケットの呪符を忍ばせたであろう彼女に短く礼を言うと、今度は左手に聖剣エクスカリバーを出現させる。

「聖剣エクスカリバーよ! 魔剣レーヴァテインよ! 対なる力合わさって、大いなる力となれ!」

二刀流の構えをとったグライダが、剣の刃を眼前で交差させて叫ぶ。

交差させた剣から、バチバチッと鋭い火花が上がり、直後X字の閃光が一直線に飛んだ。

直線上の機械兵が光の帯に薙ぎ払われ、一瞬で蒸発する。

対極の力を持つ二振りの剣の力を使った閃光弾を使った直後は、さすがに精神を疲労し、動きも止まる。

その隙をついたかのように、グライダに群がる無傷の機械兵が。だが、それをかばうようにバーナムが立ちはだかり、剣法の突きのように連続で蹴りを叩き込み、数体の相手を蹴り飛ばす。

「ぼさっとしてんじゃねぇ!」

「分かってるわよ!」

お互い荒っぽく声をかけあう。大勢対少数の戦いだ。馴れ合っている程の余裕はないまま、二人は互いの次の戦いに向かっていった。

 

「ところで、サイカ先輩。これからどこへ行くんですか?」

「シャドウが今バイトで行っている、あの聖堂よ。セリファはそこで『魔族の男』に運ばれていったらしいからね」

「なんで先輩がそんな事知ってるんですか!?」

「あんたの部下から電話があったの。『所長があんな調子だからよろしくお願いします』ってね。現役をとっくに引退した人間を引っ張り出さないでほしいわね」

「私って、そんなに頼りないですか!?」

「仕事そっちのけでシャドウの追っかけ紛いの事をやってればねぇ……」

二人でこんな会話をしているうちに、目的地に着いた。さすがに日が昇ったばかりでは人影もまばらだ。

ナカゴはたまたまそこにいた神父の略式礼服の男を捕まえた。数日前クーパーに文句を言っていたあの神父だ。

「あのー。すいません。魔界治安維持隊の者ですが……」

ナカゴが身分証明証を取り出し、神父に見せる。当然困惑した表情で、

「なっ、何の御用でしょうか? 私は、別に魔界とは関係は……」

確かに、ある意味では神の世界の対極に位置する魔界に用のある神父もいないだろう。

「……あなた、魔人じゃないですか! こんな真っ赤な瞳なんて、人間にはいませんよ!」

突然ナカゴが叫ぶ。その神父はハッとしたように目を押さえ、いきなり逃げ出した。

「普段はカラーコンタクトか何かでごまかしてたみたいね。つけるのを忘れてたみたい」

追いかけながらそう言うと、一気に彼を追い抜き、彼の前に立ちはだかるコーラン。

「さて。セリファを返してもらおうかしら」

「よく嗅ぎつけたな。腕はいいらしいな」

「いいえ。カマ賭けてみただけ」

茶化したようなコーランの口調に、男の顔が怒りで真っ赤になる。

「もう一度言うわ。セリファを返して」

しかし、男の方もすぐさま冷静さを取り戻し、挑発するように睨むと、

「返すと思うか?」

「……なら、腕ずくね」

そう言うと、神父の後ろからナカゴが身長差もお構いなしに首を極め、そのまま押し潰すように組み伏せた。

「はい、終わり。話す気になった?」

しかし、首を極められているので話したくても話せる状況ではないのだが。

「息子を離してもらおうか」

突然後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、さるぐつわをされてナイフを突きつけられているセリファと、痩せた、老人と言ってもいい魔人の男が立っていた。

「なるほど……親子ね」

「それじゃあ、貴方が、シャドウさんに挑戦状を出した……」

「まあ、そういった所だ」

拘束を解かれた自分の息子を見て、満足そうに笑う。神父はコーランとナカゴの襟を後ろからつかんで持ち上げる。

「メカを作って一千年。儂の作ったメカより優秀なメカは、存在してはいかんのだ!」

偉く自分勝手な——しかし単純で分かりやすい理屈を言うと、握りしめていたスイッチのような物を押した。

「島ごと吹っ飛べば、いくらあのメカでもおしまいだ!」

「何ですってぇ!?」

ナカゴが腰に吊るした銃を抜いて男の手を打ち抜く。彼女自身も滅多にやらない早抜き打ち(クイックドロウ)の技。反動で加速した腕を意識的に回して、そのまま神父の頭に銃口を突きつける。その銃口は彼の目にゴリッと捩じ込まれた。

「腕をそのままにするなんて、甘すぎたわね」

冷たく急変したナカゴの声を聞いた神父は二人を離し、そのまま両手をゆっくり上に上げた。

 

ク−パーは愛刀を鞘に納めたまま、目の前の人型兵器を足場に高々とジャンプした。

銃器を持った別の機械兵が狙いを定めるが、そのどれもがトリガーを引く前に、シャドウのハンドビームガンによるピンポイント射撃によって次々と撃破される。さらにシャドウの右腕から剣の刃が飛び出し、不用意に接近してきた敵を容赦なく叩き斬っている。

ク−パーの方も着地と同時に刀を横薙ぎに払って抜き打ちにし、二、三体まとめて胴を叩き斬っている。

圧倒的不利に見えた物量戦も、そろそろ決着がつきそうになっていた。

ロボットであるシャドウ以外は疲労も色濃く、肩で息をしている有り様ではあるものの、大した怪我もなく片づけるさまは、やはり並の実力ではない。

数が少なくなった所で、一同は一旦集結する。

「……はめられたな、やはり」

突然ポツリとシャドウが呟いた。

「それってどういう事?」

グライダの問いに応戦しながら答える。

「この地下都市の廃墟には、自分達以外の生物の気配は一切存在していない。つまり、お嬢ちゃんは此所にいない」

「何ぃ!? オレたちゃくたびれ損か?」

バーナムが目の前の機械兵の首を蹴り上げながら、不満の声を上げる。クーパーも大人数には不向きの居合いで敵を退けつつシャドウに尋ねた。

「どうしますか、シャドウ? このまま撤退しますか?」

「当然だ。無駄に力を使う必要はない」

その時、シャドウのセンサーが、沢山の爆発音を捕えた。

「これは……爆発音!」

「なにぃっ!」

三人の悲鳴が綺麗に揃う。その間にも所々からの爆音や爆風がここにも届いてくる。

「どーすんだよぉ! ここで生き埋めなんざごめんだぜ!」

「言われなくても分かっています! 皆さん、こっちへ!」

クーパーは刀が抜けないよう鍔を指で押さえ、疲れた身体に鞭打って一目散に走り出した。三人も当然分からないながらもその後に続く。

三分ほどグルグルと走り回った後、彼は何もない壁に手を当て、短い呪文を唱える。すると、丸く大きな穴が壁に開いた。ここに入れ、と言わんばかりに指を差す。

全員が入った後、壁は元通りになった。壁の向こうから、耳を覆いたくなるような爆音が続く。

「ここは……なんなんだよ」

バーナムとグライダが不思議そうにその中を見回す。誰かの部屋である事は何となくでも分かるのだが……。

「ここは、あの時のアンデッド・キメラの創造者がたてこもっていた部屋です。結界が張ってあった筈なので、使わせてもらう事にしました」

クーパーがそう説明する。しかし、その創造者がどうなったのか、聞く者はいなかった。

シャドウがモニターの下にあるキーボードをチョンチョンと叩く。すると……。

バチッと鋭い音がして、画面が明るくなる。

そこには何も映っていなかったが、声だけが聞こえてきた。

「私ハ科学者・かふまん博士ノでーたヲ持ツAIノ一ツ『ろごらいんEC型』デス。ソノすとーんきゅーノ反応。アナタハE−2794デスネ?」

シャドウより質の悪い平坦な合成音が響く。

「ドノ機体カラモ連絡ガ跡絶エテシマッタ。戦況ハドウナッタノダ?」

AIに向かってシャドウがこれまでのいきさつを説明し始めた。もちろんシャドウ一人ではうまく説明できないので、クーパーが時折補足はしたが。

「……状況理解。結果的ニ、設計者・かふまん博士ノ考エタ通リニナッタ事ヲE−2794ハ証明シタ事ニナル」

「考えとはどういう事だ?」

「かふまん博士ノ意志ダ」

合成音の言葉は続いた。

「かふまん博士ハ、強イ兵器ヲ作ロウトイウ事ダケヲ考エテイタ訳デハナカッタ。ソノ後ノ事マデ考エテイタノダ。最強ノ兵器ガアレバ、イズレ闘イハ終ワル。タトエ一時ノ間デアッテモ。ソウナッタ時、ソノ兵器ハ平和ノ為ト称シテ排除サレル運命ニアル。ダカラ、平和トナッタ世界デモ排除サレニクイ存在『人間』ヲ造リ出ス事ニシタ。ソレガE−2700しりーず製作ノ原点ダ」

コンピュータの中に残された、シャドウの生みの親の考えをAIは語る。

「……それで、自分には人間の感情と同等の物が備えられたというのか?」

そこまで黙っていたシャドウが問いかける。

「ソウダ。E−2794。人間トハ、感情ヲ持ツ生物。感情デ考エル生物。感情デ行動スル生物。感情コソ、人間ガ人間デアル証拠デアル。ト、かふまん博士ハ考エタ」

そこで合成音が一旦途切れた。

「……シカシ、人間ノ感情ヲ、ぜろカラ生ミ出ス事ハ、出来ナカッタ。ソコデ、人間ノ、記憶ヤ、感情ヲ、でーた化シテ、こぴースル、方法ヲトッタ……」

合成音の調子が少しおかしい。画面の隅には「バッテリー不足」を表わす文字が。

「……従ッて、E−弐7九漆。記ミMO、模共と都ハ、煮鋳ん外んの、小ぴi……」

「えっ? それじゃあ、シャドウは元々誰かのコピーなの?」

グライダがコンピューターに尋ねるが、

「奈マえHa、奴dO武TO鹿、ツtSU田輪っテ、イ井名い。fU故郷煮、TsUtUMaを残シ敵タ、と……」

最後の方は雑音がひどくて殆ど聞き取れぬまま、画面は暗くなり、合成音は止んだ。

それからしばらくの間、聞こえてくるのは、外からの爆発音だけだった。

「元々何処の誰だったか等と云う事はどうでも良い。コピーであろうと自分は自分だ」

己の拳をキーボードに叩きつけたシャドウが静かに呟いた。

 

結界に守られ、島一つが吹き飛ぶ爆発に巻き込まれても無傷のまま町に到着した四人。愕然としたのは魔人二人だった。

「ばかな……。あの爆発だぞ。不可能だ」

「シャドウさん。私は信じてました!」

ナカゴが握りこぶしを作って力説する。シャドウは驚く二人の前に立ち、

「理由をいちいち言う気はない。挑戦したいのなら、正々堂々と来る事だ」

静かにこう続けた。

「各機体一体一体は、自分達よりも数値的な能力は上だった。だが、統率がまるで取れていない以上、格下の烏合の衆と何も変わらない」

年老いた魔人は目を見開いて彼の言葉を聞いていた。

「持つ技術は高くても、使い方は高いとは言えない様だな。あの様に捨て駒同然に使われる機械を見るのはもう御免だ。今度同じ事をした場合、命は無いと認識してもらう」

シャドウの言葉をどんな気持ちで聞いたのかは分からないが、二人はそのまま魔界治安維持隊に連行されていった。

「ねーねーシャドウ。これからセリファとあそぼー」

セリファがいつも通りの笑顔でシャドウの前に立っている。それを見たナカゴも慌ててシャドウに駆け寄るが、

「あんたはこれから仕事でしょ?」

コーランに襟首を掴まれ、

「シャドウさ〜ん。仕事が終わったら二人で結婚式場の下見に行きましょうね〜」

ナカゴはコーランに引きずられ、そのまま分所に連れて行かれた。

「……結婚できるわけねーだろーが」

バーナムの呟きに、クーパーが答えた。

「結婚ができなかったとしても、幸せにはなれると思いますよ」

その後小さく呟いた。

「存在は、していますからね……」


 
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