第六話 ぜっ前回調練が始まったと思ったらもう半年が経っていた。な、なにを(ry
天水郊外の森の奥地。
そこからは連日、金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音が響き渡り、それに混じって若い男女の声が木霊していた。
「ハァッ!!」
「怒(ヌゥ)ッ!!」
――――ガガガガガガガキィィイイン!!!――――
赤と黒の二つの影が高速で空で交差すると、瞬間的に巨大な火花と連続した金属音が響く。
恋に聖痕の制御を教えると言った後、一刀は恋を連れてこの森にこもり、連日いずれかが疲れ果てるまで延々と戦闘訓練を続けていたのである。もちろん、恋が意識して聖痕を使い分けできるようになるために、異能の力は(全てではないが)全開で、である。
何故戦闘訓練だけなのか?それは、恋の聖痕が徹頭徹尾戦闘用途にしか使い道のない、極めて応用性の低い能力しか有していなかったからである。
ガァアン!!!
ザッ!
「ハァ・・・ハァ・・・やっぱり、キツイ・・・」
「ふぅ・・・ふぅ・・・流石、『
一際大きな金属音の後、赤と黒の影は互いに地に降り、肩で息をしながら、睨み合いつつ正対する。
黒い影――その正体は言わずと知れた猟兵団長北郷一刀――の双眸は真紅に色付き、赤い影――満天下に勇名轟く戦国無双の飛将軍呂布奉先――の体には濃紫色に煌く紋様が浮かび上がり、周囲を照らし出していた。
隠密特有の軽快な動きで高速戦闘を展開する一刀に対し、恋は覚醒を果たし意識制御を可能とした聖痕種『戦車』――下位聖痕種に分類される聖印と判明――の力により、方天画戟を小枝のように軽々振り回しながら、一刀の動きに追随していた。
『戦車』の聖印。読み方はチャリオットと言う。その効果は読んで分かるように戦闘用途に特化している。ここ半年ほどの訓練において、現在三つの効能が確認されているので少し話しておきたい。
まず一つが『武装強化』。これは術者が己の武装と認識したものを聖印の法力で強化し、並外れた性能を付与するものである。
例えば、恋が今持っている方天画戟をこの能力を使って強化すると、単純に強度が上がる以外にいくつかの追加効果がかかる。
一つは間合いの変化。この能力を使って戟を強化すると、刃の部分からレーザー光線のように刃が伸び、切れ味も然ることながら間合いが桁外れに向上する。試しにと持ってきた城塞の城門と同じ素材で作られた鋼鉄製の標的を、紙をナイフで切ったような音を立てて簡単に切ったあと、さらに勢い余って背後の森の木々も数十メートルにわたってなぎ倒してしまった時には流石の一刀も頬を引きつらせた(←実はこれほどあっさりいかないだけでコイツも出来る)。
二つ目は特定の地形に対する追加効果の発現。これは一言では判りづらいが、有り体に言えば『地形にあった様々な現象を引き起こす』能力である。例えば、地面に思いっきり振り下ろすと地割れが起こる。突き刺すと大地震が起こる。空に思いっきり振りかぶると雲が割れる。突き上げると雷が落ちる。試してないけど水面に叩きつけると海でも多分左右に割れる。どこのモーゼだと言いたいが発生する効果は全て物理現象に当たるから実際やったら多分もっと物騒なもんになるだろう。津波的な意味で。
三つ目は武器への法術使用能力の付与。これは魔杖などのような法具の能力を擬似的に武器に与え、本来適性の無い者でも法術や道術などを使用出来るようにするという機能。使いようによっては遠距離戦闘もこなせるようになるので騎将である恋には便利かも知れない。ちなみに今のところ使えるのは『虚毒猩這(こどうしょうはい)(斬撃を飛ばす)』『真震雷覇(しんしんらいは)(連続雷落とし)』『帯震滅葬(たいしんめっそう)(地震起こし)』『牙絞逝楼(がこうせいろう)(対象の顔面周囲を真空にし窒息死させる)』などで、どれもこれもやたら派手なものややたらえげつないものばかりである。
武装強化に続く二つ目の能力というのは、『身体能力強化』である。
言うまでもないが、元々恋は中級修羅(猟兵団の小隊長クラス。以降、上級修羅、下級羅刹、中級羅刹、etc、と続く)相当の実力を持っている。半年間みっちり魔人の一角たる一刀に鍛えられた今なら、地力だけでも下級とは言え羅刹クラスにも引けは取るまい。なお、この下級羅刹というのは現在猟兵団副長と参謀長を務める沖田宗平と高杉信三が属する分類であり、本気を出せばどちらも霞と華雄が二人がかりで手も足も出ないレベルの化け物である。
そんな化物と同等のポテンシャルを持つ彼女の身体能力をさらに強化するわけだから、単純な戦闘能力だけで言うなら今の一刀とも互角に戦える。隠密能力じゃ勝てないけども、道がないなら壊して作るを地で行ける彼女ならそのくらいのハンデ屁でもない。
どーしても判りづらい方は、機動戦士ガンダム00のトランザムを人間がやるイメージを持ってもらえれば、この能力がどんだけ反則技なのかがわかっていただけると思う。
ちなみに戦車のルビに振ってある『チャリオット』とは、古代ローマの二輪戦車のことである。なんでまだローマ帝国が生きてるこの時代に遥か東方のこの地でこんな名前の聖印が生まれたのか、それは多分考えちゃいけないこと。
で、最後の一つが『超回復』。先に挙げた『身体能力強化』とは別枠の能力である。
『身体能力強化』は一時的なものでしかないが、こちらは聖印を発動してなくとも効果を発揮する。つまり、『身体能力強化』は『能力付与』の一種であるのに対し、『超回復』は『能力増幅』にあたる。これは、通常の何百倍何千倍という速さでの超回復現象を可能とする能力である。詳しく調べていく過程で判明したことだが、これまでの異常な食欲や睡眠欲求は、全てこの『超回復』の能力に起因するものであった。今ではこの能力も自在に操作可能で、戦闘中でも瞬時に負傷を治癒し、戦闘に復帰することができる他、超回復の程度の強弱を調整することで食費や睡眠時間の削減を達成した。なお、彼女の食費が人並みに収まったことで、これまで財源不足で見送られていた幾つかの公共事業が即効でGOサインを下せるようになったとは、同軍筆頭軍師、賈文和の談である。
と言っても、今訓練中の彼女の面倒は、公私ともに猟兵団長である一刀が責任を持っている。そのお陰で恋は食費も公務も気にすることなく全力全開で訓練に勤しむことが出来、今や戦えば戦うほど強くなると言う半ば以上チートな仕様になっているのである。まったく、圧倒的ではないか我が軍は。
とまぁ、長々と喋ったが上に挙げた三つの能力のおかげで、今の恋は一刀をしてやや肩で息をさせられてしまうほどの戦闘能力を身につけたのである。そのうちタイプムーンならぬタイプアースとか言って地球最強種になりそうな予感。
「まだ・・・まだ行ける!!」
「こっちもだ。師として、こんなに早く弟子に抜かれるわけにも行かんしなぁ!」
超回復能力により体勢を立て直した恋と、魔眼の副次効果によって高速回復を果たした一刀は、互いに吠えながら再び激突する。今や一刀は、出力にリミッターをかけて最低限に抑えているとは言え、魔眼の持つ力を全て使い、恋の三つの能力に拮抗している。
人外頂上決戦もかくやという、訓練と言われても全くなんの信憑性もない大激戦は、こうして日が暮れるまで延々と続けられることとなる。
一方その頃、一刀と恋の陰に隠れてあんまり目立つ機会がない黒の猟兵団本隊と董卓軍正規部隊の方も、一般人から見れば非常に異様な訓練を行っていた。
「・・・走行速度が落ちているぞ。もっと速度を上げるのだ」
「姿勢が甘い。そんなことでは姿勢が歪んだ状態に慣れてしまって、実戦で取り返しのつかない過ちを犯すぞ」
「む、流石に今はこれ以上無理か。それ、この栄養剤を飲んで一息つけ。ある程度快方したら再開するぞ」
そんな具合で、500の猟兵団員の半数は、練兵場で董卓軍将兵の訓練を行っている。と言っても、一般的な軍の訓練方法とは全く異なり、一切声を出させない非常に不気味な内容の訓練である。
先頭を走る三人の猟兵団員の脚に合わせて全員をひたすら走らせるだけのこの訓練。この訓練によって、まずは彼らの基礎的身体能力を底上げすることが目的である。
と言っても、半年以上同じ内容の訓練を続けさせられているのだから、その基礎能力は圧倒的と言う他ない。
実際、志願制によって集まった将兵に施されている猟兵団の強化訓練だが、現在のところ練兵場の一角を貸しきって作られた一周数㎞の走路を、将兵は平均で200周程は出来るようになっている。
黄巾党が近頃董卓領涼州近域に姿を見せなくなったのは、彼らの教導を受けて急速に強大さと不気味さを増した、彼ら董卓軍特殊部隊を恐れたのかもしれない。はっきりいって、光の消えた澱んだ瞳で群れを成して向かってくる、無言で異様に巨大な斧槍を片腕で振り回す無表情の軍団と相対したとして、恐怖以外にいかなる感情を抱けばいいというのだろうか。
ちなみに、彼らはここ数ヶ月まともに休息をとっていない。猟兵団御用達の特殊な細胞賦活剤を延々と摂取し続けて完全に神経や身体機能の一部が麻痺しているため、表情筋は完全に沈黙し、肌から血の気は失せ、白目が充血し瞳が暗く澱んでいるのは限界を超えた疲労からくるランナーズハイのような精神異常に由来するものである。おかげで彼らはその異常性から、敵は愚か味方(猟兵団の教導を受けていない部隊)からも不気味がられ、民衆からも怖がられているのだ。
この事態に董卓軍筆頭軍師を務める詠は頭を抱えたが、黄巾党へのこの上ない威圧になると同時に反逆者の出現に対する抑止力にもなる上、維持費は嵩むが決戦兵力としてこれ以上ないくらい最適な練度と装備を有しているため(霞ほどではないが華雄に匹敵する戦闘能力を全員が備えている)事実上これを黙認するより他になく、日々上がってくる陳情(『休憩時間に食事に向かおうとした兵士が、小休息中の特殊部隊員と目が合っただけで全員気絶した』『特殊部隊練兵場付近で訓練していた部隊が、彼らの方から流れてくる殺気の如き凍えた闘気に当てられて訓練にならなかった』『特殊部隊員に食事を作る担当のお抱え料理人が過労のあまり病床に臥せった』などなど)を目の当たりにして、彼らに気軽に一部部隊の練兵を任せたことを半ば本気で後悔していた。
「民衆の平穏を守る軍人が、民衆の平和を脅かしてどうすんのよ・・・」
とは、特殊部隊練成過程における珍事件の連発に疲労困憊な賈文和氏が、傭兵兼軍事顧問団として逗留する『黒の猟兵団』の沖田宗平副長及び高杉信三参謀長を前に弱々しく申し立てたものである(この時点で団長北郷一刀は呂奉先氏の特別訓練に従事していたため不在)。
とまあそんなわけで、僅か半年弱で立派な人外の仲間入りを果たしたのは恋だけでなく、董卓軍の一部将兵もセットであったようです。パワーバランスも糞もあったもんじゃあらぁせん。
「う~ん、これはちょっとやりすぎたかな?」
「ちょっとどころの話で済まんと思うが・・・。詠殿の文句が日に日に弱まっていくのがわかるぐらいであるし(ーー;)」
そんな彼らの練兵を見ながら口を開くのは副団長沖田宗平と、参謀長高杉信三である。
彼らとしては魔人衆一般部隊として平均的な調練を施してみただけなのだが、まさかこの世界ではこれほどまでに異質で異様で異常な軍団が出来上がるとは露ほども思っていなかった。
彼らからすれば、確か自分達も最初はあんな感じだったよなぁと懐かしい思い出に浸りたくなる程度の光景でしかないが、それを傍から見ているこの世界の一般的な民衆や将兵からすれば恐ろしいどころの話ではない。まるで幽鬼の一団のごとく血走った眼と青白い血色の軍団を見て正気を保てる者の方が稀有。改めて猟兵団とこの世界の一般人達との常識の食い違いを実感した彼らであった。
そんなこんなで、彼ら猟兵団所属董卓軍軍事顧問団による董卓軍将兵教導任務は、もう少しの間続いていくこととなる。そしてそれは、これまで彼らを単なる傭兵としか見ておらず、散々に陰口をたたいて貶し見下していた頭の固い董卓軍官史達の認識を根底から覆し、猟兵団に対する恐怖と畏怖を植え付けることに繋がっていったのは、猟兵団にとって予想外の収穫であった。
どうも、鋼鉄の翼を見ていてくださった方々は三か月ぶり、天魔の章の話で言えば約二年ぶりに帰って参りました、海平?であります。
ようやくデータの整理が一段落つきましたので、更新を再開させていただきました。
とはいえ、相変わらずの低クオリティ・・・。二年も間を開けてこれじゃあ、あんまりだ(^^;)
ですが、私はこういう文章しか書けないということもわかってきました。なので、もういっそこの作風を最後まで貫いていこうかと思っています。
他の作者様のような、見応えのある文章は書けませんが、それでも完結までは何とか続けていく所存でありますので、どうかこれからも応援・ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
あと、コメント欄からの返信についてですが、何故か他の作者様へのコメントはできるのに、自分の作品へのコメント返信ができないという珍事が発生しておりまして、いただいたコメントへ早急に返事を書かせていただくことができなくなってしまいましたので、この場でお詫び申し上げるとともに、コメント返信をさせていただきます。
幼き天使の親衛隊jocker様<恋の入れ墨を見て、真っ先に思い浮かんだ設定がこれでした。後々になって、似たような能力を持つ原作キャラをもう一人連れてこようと思ってますので、どうぞご期待ください!
たこきむち@ちぇりおの伝道師様<一刀の部下の能力についてはまだ考え中です。何かご意見があれば参考にさせていただきますので、どんどんご意見ください!
honda様<コメント、ありがとうございます。フォース、ジェダイ、と言うのは、某星戦争のあれでしょうか?直接出す予定はありませんが、確かにあれを使わない手はありませんね・・・(ニヤリ)参考にさせていただきます!
では、作者は来月頭から一か月の乗船実習によって、北海道と九州へ航海してまいります。・・・まぁエンジンルームが職場なもんで、道中の綺麗な景色なんか見る機会はほとんどありませんがね(;_;)そういうわけですので、次回更新はまたしばらくかかると思います。
では、今回はこの辺で
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はじめましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶり。
海平?と申す者です。
この小説は、作者の妄想120%で構成されており、性格改変、主人公最強、原作崩壊などの要素がこれでもかと詰め込まれており、文章も稚拙です。
こんなの、普通じゃ考えられない・・・ッ!!と言う方は、速やかに戻るボタンを押すべしそうすべし。
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