No.599732 無表情と無邪気と無我夢中 4-22013-07-20 21:34:24 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:1159 閲覧ユーザー数:1146 |
【無表情と無邪気と無我夢中 4-2】
夢。
夢を見ています。
広い草原に雲一つ無い青空。
そこに私は立っていて。
ちょこっとだけ違和感を感じて自分の身体を見渡すといささか大きくなっている気がしました。
いや、考えるまでもなくこれは前世の私の身体。
鏡が欲しい、と思ったら現れた鏡で自分の顔を確認すると、やっぱりって感じ。
30歳で絶望を知った高町なのはの顔形姿でした。
何故この姿なのかはわかりません。
誰もいないこの場所―――いや、誰かいました。
あれは。
『お父さん!』
私はあの背中を追い掛けます。
走って、走って、走って。
一向に距離が縮まりません。
さらに強力な向かい風に行く手を阻まれスピードが落ちていきます。
こんな所で折れるわけにはいきません。
『不屈の、心は、この胸に―――』
その時何かの奔流が私に襲い掛かり、全身に激痛が走ります。
この、痛みは、あの時の。
既にここは草原ではなく暗闇の中でした。
私は這いつくばってでも前へ前へ。
あの光の所にお父さんがいる。
痛みに耐えながら進みますが、進めば進むほど光が遠ざかっていく。
遠ざかれば遠ざかるほど私の心が締め付けられる。
締め付けられれば締め付けられるほど私の身体は動かなくなっていきます。
「うっ……ううっ……う~~」
私の身体は30歳高町なのはの身体ではなく、5歳高町おうかの身体へと変わっていました。
今はもう涙が溢れるだけ。
前世のような強い不屈の心はもう胸の中にはないのです。
頑張っても頑張っても、どうしても手に入らなかった。
それが何だったのか上手く表現出来ません。
『――――――』
ふと気配を感じて顔を上げます。
さっきまで遠ざかっていた光がすぐ傍まであり、手が差し伸べられています。
顔は逆光でよく見えませんが、その人は間違いなく。
スッと自然に起こしてもらい、上手い具合に抱っこさせられます。
私はされるがままです。
『――――――』
『――――――』
何か会話しましたがはっきりと覚えていません。
ただその人と一緒にみた光の中には私の、私達の家族が手招きしています。
そして、そのまま、光の中へ。
「おはようございます」
「「おはよう、おうか」」
今から学校へ向かうお兄ちゃんとお姉ちゃんに挨拶をし、洗面所へ歩きます。
顔を洗いながら考えます。
何故ああいう夢を見てしまったのでしょう。
答えなどあるはずのない問いに思考を支配されていると、お姉ちゃんが声を掛けてきました。
「それじゃ、おうか。私達いってくるね」
「あ、はい。いってらっしゃい」
もうそんな時間ですか。
15分くらい考え込んでいたようです。
いけません。
気持ちを切り替えていかなければ。
私は二人を見送り、遅れて朝食をとります。
おかずをレンジで温めて炊飯器からご飯をよそい、いただきます。
TVをつけ朝のおはようスタジオを見ながら朝食をいただくのが最近の日課です。
一人で静かな空間で食事っていうのは寂しすぎるので。
朝食を終え、片付けとランニングの準備が完了するのは大体8時頃。
なのはが起きてくるのは9時過ぎだったりするのでそれまでには帰ってくる予定です。
ではいざ出発です。
TRRRRRRR!
電話です。
こんな朝早くから誰でしょうか。
今家で電話に出れるのは私しかいないので私が出るしかないのですね。
「はい、もしもし。高町です」
この電話で、私は今日一日泣きはらすことになる大きな出来事を知ったのです。
奇跡は、奇跡は、奇跡は。
「どうしたの、おうかちゃん?」
私はボソボソと小さい声で電話の内容をいつの間にか後ろにいたなのはに伝えます。
「それ、ホントなの……?」
コクリと頷きます。
「それじゃ、早くお母さんに知らせないと!」
そうです、早く知らせなければ!
お父さんが目を覚ました。
その知らせを受けた私はなのはが起きてくるまでその場に立ち尽くしていました。
というか、なのはに声を掛けられるまでなのはが起きていたことに気付かなかったといいますか。
私はダッシュで玄関に向かいます。
「にゃあ!待ってなの、おうかちゃん!」
気が競っていて周りが見えなくなっているみたいです。
なのははまだパジャマ姿でした。
急いで着替えに戻ったなのはを待つ間、廊下を挟んで玄関とリビングの間をウロウロウロウロ。
ふと自分がジャージ姿だったことに気が付きます。
これじゃダメだと瞬時に判断し私も着替えに部屋へ向かいます。
急いで、ちょっとお気に入りのワンピースを本能で選び高速でチェンジします。
といっても今日見た夢で着ていた服と同じのを取っただけなんですけどね。
そしてリビングに戻ると今度はなのはがウロウロしていました。
「どこ行ってたのおうかちゃん!」
どこって、コレに着替えてましたが。
「早く翠屋行くの!お父さんのこと知らせるの!」
そうでした。
私達は翠屋へ行き、電話の内容をお母さんに伝えました。
とは言いつつも、実際に伝えたのはなのはであり、私は私で説明しようとすると支離滅裂な言葉を羅列させてしまいには泣いてしまうという。
姉の威厳が全くありません。
そのままお母さんと一緒にタクシーで病院へ。
車内でもソワソワソワソワ。
病院着いてもソワソワ。
お母さんが受付に行って待っている間もソワソワウロウロ。
「ちょっとは落ち着くのおうかちゃん!」
「お待たせ。行くわよ二人共」
お父さんのいる病棟へ行き、エレベーターで病室のある階へ。
着いたとたんに私は駆け足で病室に向かいました。
「待ちなさいおうか!―――ごめんなのは、おうか連れ戻してきて」
「わかったの―――おうかちゃん待つの~」
病室ならわかります。
昨日ここに来ましたから。
目的の病室に着くと一目散に扉をスライドさせて私は中に入りました。
「…………!」
昨日はすぐにベッドが目に入りましたが今日は何人かの看護師さんがいました。
なのでベッドの上にいる人物が見えません。
「おうかちゃん……!」
私のあとに続いてなのはも入室してきました。
なのはの声に反応した看護師さん達がこちらを向きます。
おかげでベッドの上が見えて、その人と目が合って。
「あ……」
「…………」
両者しばらく沈黙してました。
「お父さん……?」
なのはが口を開きます。
「……おうか、と、なのは、か」
お父さんがそう言いながら小さく手招きしたのが見えました。
私はそれにつられ、ゆっくりと近付いていきます。
そしてベッドの横まできて。
「心配かけて……すまなかった」
私達の頭を交互に撫でて謝ってきました。
私は何か、何かを言いたかったのですけど、声が出ません。
多分私の顔は無表情なりでクシャクシャになっていることでしょう。
そんな顔を見せたくなくて私はずっと俯いてました。
しばらくしてお母さんが入ってきて、看護師さんと色々話して。
いつの間にかこの個室には私達4人だけになってました。
お母さんとなのはがお父さんと会話する中、私だけずっと俯いたまま黙っていて。
ただその間頭の上に乗せられていたお父さんの手が私の心を落ち着かせてくれていて。
やっぱりまた私は泣いていました。
一ヶ月後。
無事お父さんが退院しました。
「「「「退院おめでとー!!」」」」
翠屋にて複数のクラッカーが鳴り響きます。
今日はパーティーをするために翠屋は貸切状態です。
パーティーの内容は、省きましょう。
高町家以外にも例のおばさんや八神姉妹も参加しています。
翠屋の従業員の中で唯一参加しているのが、お母さんの昔からの仕事仲間である松っちゃんさん(お母さんがそう呼んでいるので本名はわかりません)。
パーティーが終わり、私はお父さんと二人きりになっています。
お母さんとなのはは八神姉妹を送りに。
おばさんと松っちゃんさんは片付けをしているためです。
お父さんがゆっくりと店内を眺めているのを私は見ています。
あ、お父さんが私の視線に気が付きました。
「おうか」
呼ばれた私はイスから飛び降りてトテトテと近づき「何でしょう?」の意で首を軽く傾げます。
するとお父さんはしゃがんで目線を私と同じにしました。
「約束だ」
「わっ……!?」
抱っこ、されました。
私は少しばかり戸惑ってしまいます。
「目を覚ます少し前にな、夢を見たんだ」
私を抱っこしたままお父さんは語ります。
「暗い闇の中でかすかな光を見つけた。それに手を伸ばすと光が大きくなって、道が見えた」
それは、あの日、私が見た夢と少し似ています。
ただ私の場合、手を伸ばせば伸ばすほど光は遠くなっていきましたが。
「いざ進もう、としたら―――後ろから泣き声が聞こえた」
「……それは、私、ですか?」
「……ああ、そうだった」
……ふふ、少し嬉しいです。
「まあ、それが凄く気になってな。倒れていたから、起こすついでに抱っこしてあやしてあげた」
何か、夢の中なのに恥ずかしいです。
「そしたら、急に飛び降りてな。光の中に入っていったんだ。オレも追い掛けたらもういなくて。代わりに声が聞こえた」
『怪我が治ったら、抱っこしてほしいです』
「もちろん、おうかの声でな」
それは、私が眠っているお父さんに向けて望んだこと。
「夢の中だったけど、俺は単なる夢の出来事じゃないって思った」
私はお父さんの太い首に手を回して抱き付きます。
「おうかが、俺を目覚めさせてくれたんじゃないかってな」
お父さんは私の背中をポンポンと優しく叩きます。
その感触が、今この瞬間は夢じゃなくて現実であると認識させてくれます。
「お父さん、約束です」
私はお父さんの目を見ながら真剣に言います。
「もう、危険な仕事はしないでください」
前世で危険な戦いを繰り返してきた私が言える立場ではありません。
しかし、私はもう高町おうかなのです。
高町おうかの、高町おうかとしての、高町おうかの言葉で。
「お願い、です」
私が大怪我をして無事回復しても、同じ仕事を続けたいと家族に伝えた時。
こんな、複雑な気持ちだったのでしょう。
もし、以前と同じようにお父さんが危険と隣り合わせなボディーガードの仕事を続けると言ったら、私は。
「……わかった」
耐えられな―――え?
「もうボディーガードの仕事はしないよ。お母さんと一緒に翠屋で働く」
ということは。
「これからはずっといっしょだ」
私はもう一度、今度は勢い良くお父さんの首に抱きつきました。
嬉しい。
嬉しいです。
これからずっとお父さんと―――いえ、お父さんだけではありません。
お父さん、お母さん、お兄ちゃんお姉ちゃん。
なのはにはやてにあらし、久遠やおばさんや松っちゃんさん。
みんなみんな。
一緒です!
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後編です。
編集段階で書き溜めていたやつを見直しているのですが、よくこんな文章がつらつらと出てきていたなあと改めて思っていたり……。
そしてシュテルとディアーチェをモデルにして出した高町おうかと八神あらしは全然違う方向にキャラが確立しちゃって。
なんだか半オリキャラになってしまって。
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