No.599315

覇王と御使いで七日間の駆け落ち 二日目(後)

TAPEtさん

この作品は『人類には早すぎた御使いが恋姫入り』の番外編です。

予想通りというか反応が薄い。
番外とかさっさと終わらせて本編に移るべきだけど…。
実はこれ番外という割にはかなり次の話と関わってくるんだよね…

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2013-07-19 22:18:34 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2516   閲覧ユーザー数:2138

走り抜いて病院の外まで出てきた一刀は道を走っている車のうち一つを手を振って止めた。

 

「急いでくれ」

 

一刀が忙しそうにしながら門を開いてくれると、私は奥側に入って、彼も同じ門から入って表の方に座った」

 

「どこまで行かれますか?」

「取り敢えず出発してくれ」

「しゃあああああちょおおおおおおお」

 

向こうからすごい勢いで走ってくる褐色の髪色の男が居た。

 

「知り合いなの?」

「まさか、出発してくれ」

 

車が出発して後ろから追って来てた彼はどんどん遠くなっていった。

 

「…薬をもらうのを忘れてしまったな」

「さっきのアレは誰なの?明らかにあなたのことを呼んでいたみたいだけど。しかも社長とか言っていたけど」

「……」

 

『社』というのは恐らく昨日聞いた会社のことでしょう。

それの長ということだから…つまり……。

 

「そういえばあなた、この世界ではどういう人間だったの?あなた程の人材だったら、この世界でも放ってはおかなかったはずよ」

「…運転手、今から言う住所へ向かってくれ。10分内に行けたら料金を倍にしよう」

 

彼がそう言った途端車の速度が早くなって私は背中を座席に密着された。

 

「ちょっと…!」

「お前の想像どおり、俺はひとつの会社を率いる社長だ。だが重要なことでもないし、今の俺にとってそんなことなんか何の興味もない」

「興味ないって、あなたが率いる群れが居たってことでしょう。それを蔑ろにするなんて…」

「知らなかったか、華琳」

 

その時彼は本当になんともない顔でそう言った。

 

「そういう人間だ、俺は」

「………」

 

 

彼が昼食を誘った場所はなかなか雰囲気のある高級な店のように見えた。

料理も私の世界で食べたものとはひと味ちがう風味があってなかなか良かった。

 

「お前たちが生きる戦乱の時代で軍力と策謀が天下を回す基本であるように、この世界でも軍力は大事だ。だが、実際の国の間の争いにおいて、今では軍力は実際に使われないことが多い」

 

彼はぱすたーという食べ物を行儀悪く漁りながらそう私に聞けというのかただ独り言なのか判断しづらい言葉を述べ始めた。

 

「この世界は百年前に既に二度の世界規模の戦争を行った。その戦争に比べれば今お前たちがやっている戦争なんかただの身内喧嘩でしかないぐらいに」

「そんな風に言ってくれるとは流石に腹が立つわね」

「状況の深刻さは相対的なものだからな。だからと言って俺がお前の理想を軽く思っていると言うわけではないことはわかってくれると思う」

「で、その世界規模の戦争がなんだっていうの?」

「…例えば火薬を使った大きな規模の爆弾を使ったとしよう。大量の火薬を使えば村一つ、いや、都が吹っ飛ばすぐらいは難なくできてしまう」

 

私は彼が燃やし尽くした洛陽の全景を思い返した。

あれを元あった姿に戻すために、いったいどれだけの金と時間と人力が必要になるだろう。

 

「で、ここに爆弾がひとつある。この爆弾は、使うことで大きな都市一つを焦土化する力を持っている。たったの武器一つで都市にある人々を全て殺し、尚数十年の間その土地を何も育たず、誰も生きられない不毛の地を化すことが出来る。そんな爆弾が、この国に何百何千も存在して、他の国にもそれほどの武力を行事できる力がある。さて問題は、この爆弾は使えるものなのだろうか」

 

たったひとつで都市一つを更地にできるほどの強力な武器。天を貫く建物や人の中身が判る医療道具が存在するこの世界の凄さを知った後に、そんなものがあるはずがないと言うほど私は頭の硬い奴じゃない。

 

「そんなもの、あっても使えないでしょう。だって使ったら向こうからもその武器を使うでしょうから」

「そうだ。だから存在するだけで使えない武器。使われてはならない武器。使えば確実に互いを滅することが出来る状態では軍事力というものは、国の間に決定的な差にはならない」

 

互いを確実に滅することが出来る状況。

天の世界というのも、あまり穏やかなところではなさそうね。

 

「次は会社というものを説明しよう。会社にも種類があるが、この世界で最も主な種類の会社は株式会社というものだ。この会社というものは基本的に『利』を得るために存在する。損得を考え行動し、利は得て、損は避ける。ごく一般的な経済概念だろ」

「それは私の世界の商団などとはどう違うの?」

「基本的なところは同じだ。知っての通り経済は国を超越するし、富を積んだものは軍事力を持っているものほどに危険だ。この会社というものは金融が発達したこの世界に置いて富を蓄積するための最も基本的な集団だ。金さえあればなんでも出来る。それがこの世界の掟のようなものだ」

 

経済はもちろん国を豊かにすることに置いて最も重要なことの一つだけど、彼の話を聞く限り、この世界の経済というものは国を豊かにすることが目的ではなく、会社そのものを豊かにするために存在するわね。

『利』というものを軽く見てはならないけれど、重く見るには汚ない部分もある。損得を比べて行動するというのは私みたいな英雄にとってはあまり同意できるものではない。

 

「じゃあ、あなたはその会社というもので何をしていたの?」

「特に何も」

「……は?」

 

今までの説明は一体何だったのよ。

 

「だって、あなたさっき社長って言ったじゃない。一番重用な役割なはずでしょう?」

「この会社というものはだな。経営する権利を持っていることが重要だ。その経営権を得るには株というものが要る。その株を最も多く持っていれば、その会社は己のものだ。その後は呼称がなんだろうが何の関係もない。経済理論が極まると経営権を他の専門家にまかせて自分は何もしないということも出来るからな。お前は自分より優れた者が居たらそいつに王の代理を任せてお前は川で悠々と釣りをしたり酒池肉林したり出来るか?」

「出来るわけないでしょう。そんな馬鹿なこと」

「そう、この世界は馬鹿なところだ」

 

あぁ…訳が判らなくなってきた。

 

「つまり…あなたは何なの?名ばかりの君主で、その会社とやらには何の手も加えていないってこと?」

「俺は俺がしたいことをやってただけだからな。適当に下にやれって命令するぐらいで、後は適当だ」

「……」

「…ふふっ」

 

笑う場面じゃないでしょう。

 

「デザートです」

 

そうしていたら料理を全部食べ終わった後の後食が出てきた。

四角い形のケーキで、彼が流琉に作らせてたものの中にあった。

 

「…おい、これは無糖か?」

「はい、シュガーは入っていません」

「……片付けろ」

 

ちょっと!

 

 

「何がダイエット食品だ、糖分のないスイーツなど邪道だ。ふざけんな……」

「何をブツブツ言ってるのよ。後そのこーひーというのにはどれだけ砂糖を入れれば気が済むのよ」

 

昼食を食べた後入った喫茶店(かふぇーというらしい)で、彼は朝飲んだそれとは全く別の飲み物を作り上げていた。

水の量よりも入れた砂糖の方が多いんじゃないの?

 

「で?これからどうするの?」

「…そうだな。以後の予定は特に考えていない。というよりは、これから残った6日間、特に何をするか決めたつもりはない」

「はぁ?何よ、それ。あなたが連れてきたくせに頼りないわね」

「お前みたいな仕事中毒な人間には寧ろ家の中でダラダラしている方が丁度良い」

「仕事中毒はあなたも同じでしょう?しかも興味中毒に砂糖中毒まで」

 

ああ、なんかまた頭が痛くなってきたわ。

 

「…どうした」

「え?」

 

頭痛にシワを作りながら手で頭に触れる私を見て一刀は突然顔色を変えて私に迫った。

 

「これぐらい別にいつものことよ。気が立ってる時とは良くこんなに痛むわ」

「お前は朝何のために病院に行ってきたと思っている。ただ気が立ってるから頭痛が来るわけではない。下手すると気を失ってそのまま帰れぬ者になる場合だってある」

「そんな大げさな…」

「大袈裟ではない。元譲にもそんな風に言ってみろ。多分半狂乱になる」

 

…やけに強く押してくるわね。

なんというか…心配されてる?

 

「…近いわよ」

「……」

 

私が席に立って私と目線を合わせながら(彼なりに)心配しているような目を(だけどとても高圧的な態度で)して私の隣に近づいている彼にそう指摘すると彼は一瞬ムッとしてから自分の席に戻った。

 

「英傑として勝ち続け、一番高いところまで上がっては病などで早死するくだらない英雄なんてザラだ。お前がそんな平凡な英雄で終わっては俺が困る」

「…ふふん、そうね。心配してくれてありがとう」

「……」

 

あぁ、こんな夏の真っ最中でも氷が使えるって良いところね、天の世界って。

 

・・・

 

・・

 

 

たくしーに乗って家に戻った時は大体酉の刻、午後6時過ぎた頃だった。

 

「あら?」

「……」

 

玄関の入り口に昼病院で会った一刀を追った男が座り込んでいた。

 

「あ、社長!」

 

彼は私たちを見かけては立ち上がって一刀に迫った。

 

「社長!一体どこに何をしていたのですか!昼は何故逃げたのですか!」

「……ここで一体何をしている」

「そんなの社長が帰ってくるのを待っていたに決まってるじゃないですか!」

 

彼は一刀(ぴったりと立った今の状態で)より少し頭ひとつぐらい背が低く、彼に訴える姿がどこか女々しい感じがして、男のはずなのに何故か彼が一刀に迫る仕草はなんとなくそそる感じがした。何にそそるかは敢えて言わない。

 

「社長が突然行方不明になったせいで、会社は大混乱して、マスコミへの対応にも本当に苦労したんですよ!」

「そうだったか」

「一ヶ月ですよ?一ヶ月も行方不明だったのに、突然運転手のおじさんから社長から連絡が来たって言われた時にボクがどれだけ驚いたものか…!」

「知ったことではない」

「知ったことじゃないって…社長はいつもそんなんです!有能であれば良いってものではないのですよ!」

 

そして彼はまったく興味ないかのような冷酷な目と言葉で対応していた。

ああ、訴えていた子の目に涙が見えてきたわ。

 

男よね。

確かに男よね? 

実は男装だったとかじゃないわよね?

 

「…へくち!」

 

昼は熱かったのに、日が暮れるとこの袖なしの服じゃ冷えるわね。

 

「…おい、中入るぞ」

「え、ああ!ちょっと待ってください社長!まだ話が…!」

「お前を入れるつもりはない。入ってくるなり不法侵入として見なし5分内でFBIが飛んでくるがその内俺を納得させられるならやってみろ」

「むむむ……!」

 

やけに厳しいわね。

 

「外も冷えてきたのに、話があるなら中で聞いたらどうなの?そうじゃないとこの子ずっと家の前で騒がすかもしれないわよ」

「そ、そ、そうです!騒ぎますよ!ぎゃーぎゃー騒ぎますよ!門壊れる叩いたりしますよ!」

「……」

「部下にあまり厳しくするものじゃないわよ」

 

一刀は私を睨んだけど、私は自分の言った言葉が正しいと思ったから堂々としていた。

結局一刀が折れて無言で門を開いた。

 

「入って来い」

「は、はい!」

 

彼は嬉しそうに満面に笑みを見せながら中に入った。

 

「わぁぁ、ここが社長の家って久しぶりです。いいですね。なんかインテリっぽくて。ボクもこんな家に住んでみたいです」

「…黙ってあっちに座ってろ」

 

一刀はそう言って厨房へ入った。

 

私は彼にしたがってリビングのソファに身を委ねた。

特にやったこともないのにやけに疲れたわ。

見知らぬ場所だからなのかしら。

 

「…へくち!」

 

周りをキョロキョロしていた一刀の部下らしき彼は私が座った横にある一人用の椅子に腰をかけた。

彼もまた長い間冷える空気の中に居たせいかくしゃみをした。

するのは良いけど一々可愛いわ。

 

「……う?」

 

で、ようやく彼を私の目があった。

 

「…あ、え、えっと…どちら…様でしょうか」

 

普段なら名乗りもせず先にこちらの身分を尋ねる無礼な行為に眉をひそめる所だろうけど気に入った相手だからそこは大目にみてやりましょう。

しかし困ったことは、私は自分をどうなのれば良いものかイマイチ判らないということね。

一刀の言う通りだと本名を名乗ることは得策ではない。

真名は論外だし、だからと言って朝名乗った彼の彼女の名を名乗るにはこの子は一刀の事情を知っていそうだから通用しないでしょう。

 

「あ、私(わたくし)はこんな者です!」

 

と、悩んでるうちに彼は服の内側から四角い紙切れを両手で私に差し出した。

私がそれを取って見ると、

 

『(株)AEPサイエンス 

 

  秘書 剛(ガン)・崔(チョイ)

  

  HP:XXX-XXX-XXXX』

 

と、一刀が治めている会社の名前らしきものと、目の前の彼の名前が書かれてあった。

下にあるものは…数字のようだけどどんな意味があるのかは判らなかった。

 

「えっと、チョイで良いのかしらね」

「はい!韓国という国の出でちょっと珍しい名前ですけど、お気に入りです!剛(ガン)という剛健で強い男って意味だそうです」

「そうね。とても良い名前よ」

「えへへ…」

 

恥ずかしそうに頭を掻く姿が健気すぎてなんとも愛おしかった。

 

「あの、貴女は…」

「…そうね。私の名前は…」

 

……

 

「姓は曹、名は操。字は孟徳よ」

「……おい」

 

その時後ろから声が聞こえて振り向くと彼が大更の上に杯を3つ持って来ていた。

 

「何やってるんだ、お前は」

「悪いけど、人の前で私の名を隠したいと思ったことは一度もないわ。この名前に誰よりも自信を持っているつもりよ?」

「……」

「へー、ソウソウさんって言うんですね。なんだか凄いですね。こんな遠い西の国で東洋国家の名前を持ってる三人が出会えるなんて」

「…はぁ…」

 

心配したこととは裏腹にチョイは私の名前を聞いても特に驚く様子はなかった。ただこの世界で珍しい名前であることは間違いないようね。

一刀は呆れたかのようにため息をつきながら私たちの前にある瑠璃で出来た卓に大皿を置いた。

中には今日何度目見るのだろうコーヒーがあった。

 

「取り敢えずこれを飲んで温めろ」

「あ、ありがとうございます、社長」

 

湯気漂うコーヒーを私も口にしたら、なんとこれは苦味はまったくなく寧ろ甘かった。砂糖の入れすぎってところじゃないわ。

 

「ふぅ…やっぱココアはいつ飲んでも最高ですね」

 

なるほど。これはココアって言うのね。

この世界は飲み物も食べ物も種類がいっぱいで食べ物に関しては飽きる気がしないわ。

 

「それ飲んだらさっさと帰れ」

「えー、せっかくだから寝かせてください。それともせめてお風呂でも使わせ…」

「調子に乗るなよ……」

「ハイ」

 

彼が人に厳しいのは別に旧知な人でも同じなのは良く判ったわ。

さっきチョイが言っていた通りだと、この世界は彼が居なくなって一ヶ月が経っているみたいね。

私たちの世界で三年ほどの時間を過ごしている間、ここでは一ヶ月しか過ぎていない。

段々彼が言っていた時を移動するという概念がわかってきたわ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。よくよく考えるとなんでボクがこんなに低姿勢でなければならないんですか。ボクが怒っても良いですよね。寧ろ怒って当然ですよね」

「……」

 

確かに彼からすれば一刀は一ヶ月も行方不明だったことになるから(一刀にとっては三年だけれど)話もなく消えたとなると秘書、つまりはお助け役の彼が怒るのは至極当然よね。

一刀もそれが判ってるからそう言われた途端黙りこむ。

 

「一体どこに行っていたのですか。飛行機の予約した後はありましたけど、実際に乗ってないことは判ってます。国内に居たことは間違いありません」

「どこだっていいだろう。おかげでマスコミに見つかることもなく静かに居られたのだからな」

「おかげでマスコミではありとあらゆる仮説で社長を貶めています」

 

この話の流れだとやっぱりタイムマシーンはチョイにも知らされていない話ってわけね。

 

「とにかく、帰ってきた以上会社に復帰してください。ちゃんと記者会見も開いて…」

「断る。俺はこれ以上ここに残っているつもりはない。経営権は譲渡しよう。俺の持分は処分して、残った金は孤児院の経営に回す」

「社長!」

 

何やら雲行きが怪しくなってきてるわね。

 

「悪いが俺はもう会社なんてものに時間を遣うつもりはない。というより、この世界で既に俺の興味を引くものは既に残されていない」

「社長!社長があの事でどれだけ苦しんだか全部知ってる風にするつもりはありません。だけど、だからって…」

「そうだ。お前は知らない」

「……っ」

「知らないお前に口を出される筋合いは、ない」

「…社長……」

 

この会話にて判ることがもう一つ。

彼は私たちの世界に来る際に誰にも、秘書であるチョイにも話さず去った。

その理由はつまり彼にとってこの世界そのものがもう興味のないものだったから。

ある事件、つまり一刀が好きだった女性が死んだことが彼とこの世界を別れさせる引き金になったというわけね。

しかし…彼は帰ってきた。

彼はこの旅があくまでも私の息抜きのためにだと言っていたけど、それならどの時間、どの場所も行けるはずなのに自分が元居た場所、時からわずか一ヶ月しか過ぎてないここに来た。

それは何故か。

 

つまり彼にはまだこの世界でやり残していることがあった。

そして私は…

 

「一刀。確か明日の予定、特に決めてないって言ってたわよね」

「……」

「行きたい所はあるわ。明日、あなたのその会社という所に行ってみたいの」

「曹操さん」

「華琳」

「これは私のための旅だったはずよ。なら私の意見を最優先に考えてくれるわよね?」

「……好きにしろ」

 

少し強引過ぎたのかしら。

だけど私にとってこれは良い機会よ。

彼の過去を知るための機会。

彼が冷静を装った顔の裏に隠している本音。

 

私はそれが知りたい。

そのためには、例え彼が嫌だとしても彼を知る者、彼を知る場所にもうちょっと近づいて見なければ駄目。

この旅はただの慰安旅行ではないわ、一刀。

この旅は、そう、あなたという男を知るための旅。

 

私はあなたを探しに行くのよ。

 

 

一刀SIDE

 

「…そういえば」

「何?」

 

チョイが帰った後、俺は華琳と一緒にソファーに座ってテレビで映画を見ていた。

 

「お前の髪をなんとかする件を忘れていたな」

「……あぁ、そういえばそうだったわね」

 

朝はあんなに嫌々言っていたくせに、今になってはそれがどうしたのかと聞き返したかのような仕草だ。

 

「明日会社に行くのを遅くしてでも先に髪を整えれる所を探そう」

「いいわよ、別に。このままでも」

「……」

 

今更何を言っているのかと思いながら華琳を見ていると、

 

「あなたの世界に来たのだからそれぐらい譲ってやるわよ」

「お前がそれで構わないのならそれでそれでいいのだが」

「…あなた、自分で言ったことも忘れたの?」

「何?」

 

 

「あなたが言ったのでしょう?今私のこの髪型が好みだって」

 

……。

 

「……」

「ちょっと何か言いなさいよ。無言で画面に視線戻さないで」

「……」

「こっち向きなさいってば。明かりつけるわよ」

「つけるな。映画終わるまで席から立つな」

「いいわよ。これつまらないし。ちなみに犯人は貴方に似たあいつね」

「そいつは捕まえる側だ。…おい、つけるなっつってるだろ」

 


 
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