No.598814 超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 リーンボックス編2013-07-17 23:44:08 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:594 閲覧ユーザー数:586 |
ちょうど太陽が空の天井に登ったころの昼時、俺は教会にいた。
一昨日は空との模擬戦、昨日はノワールとテレビ電話をして一日中パソコンや外でFDVシステムのことを調べていた。
結果は悲惨な物で、そもそもFDVシステムはその性能故に国家機密レベルの代物だ。そんなものが好都合よく情報が手に入る訳じゃない。
とどのつまり、進展が全くなくこいうことはやっぱり根気が必要なのだろう、とにかくそんなことばかりする訳にはいかずこうやって教会へモンスター退治の依頼を受けにきた。
女神という存在は大陸にいるだけで守護の力が働き、モンスターの脅威から人々を守るのだが、だからといってもモンスターが倒せれる訳でなく、モンスターが増加していけば町から少し離れた場所でも高レベルのモンスターが目撃されるようになる。
それを討伐するために俺は依頼を教会で受けに来たのだ。今日はこれといった予定がないので、出来るだけモンスターを狩れるようにしたい。
「お仕事、ご苦労様です紅夜さん」
「ん……あ、イヴォワール教院長様」
依頼掲示板を確認していると後ろから声を掛けられ、振り向くと年老いて貫禄が出ている男性。
このリーンボックスでは女神を除けば一位、二位を争う権力者だ。
直ぐにイヴォワール教院長様の方へ体を向け頭を下げる。この人はベールと同じく俺にとっての恩人だ。
記憶を失った俺には、この世界のことついて知識が無かった俺に真摯に教えてくれて、今の家を用意してくれた保護観察官だ。
「頭を上げてください。ラステイションへの出張はどうでした?」
「はい、特に問題なく終わりました。しかし思ったよりモンスターの数が多く、予定より長くなってしまいましたが……」
「なるほど……怪我はなさそうで安心しました。しばらく街の近くにモンスターが出現したと情報が流れています。しかし、どれも雑魚とのことで女神さまのお手を煩わせるにはいきません」
「分かっています。そのために俺がここにいるんですから……ところでそこのお方は?」
イヴォワール教院長様の隣に俺は視線を流す。
そこには二十後半くらいの女性がいた。彼女はイヴォワール教院長様と似た白い祭服姿だ。
リーンボックスの祭服は白がメインで所々、緑のラインが走っているのが特徴的だが、彼女にはそれがなく雪の様な白が強調されている。
「このお方は、ルウィーから来た宣教師コンペルサシオンです」
「コンペルサシオンと申します。あの有名な黒閃に出会えるとは感激です」
「いや、俺はそこまで凄い人じゃないですよ……」
ラステイションの時だって結局の所、ネプテューヌ達がいなければ俺は何も出来ずリーンボックスに帰ってきていたかもしれない。
「ふふ、謙虚なお方なのですね。噂では暴力的で唯我独尊だと聞きましたが、全く別なのですね」
「誰がそんな噂をしてんですか……」
可笑しい。俺はそんな勘違いされる様なことをしたか?
一人で行動するときが多すぎて勝手に想像されてしまったのか?
何が原因か頭を傾げていると、イヴォワール教院長様がワザとらしくコホンと咳払いしたので背筋を伸ばしてそちらの方に姿勢を向ける。
「若い者同士、話が咲くのは喜ばしいことですが、場所と時間を考えてくださいね?」
「「すいません……」」
コンペルサシオンと俺は頭を下げた。
イヴォワール教院長様は小さくため息を付いて、頭を上げるように言ってきたので頭を上げた。
「紅夜さん、お仕事頑張ってくださいね。我らを守護してくださっているグリーンハート様の為に」
「分かっています。べ……グリーンハート様の為に今日も頑張らさせていただきます」
その言葉にイヴォワール教院長様は満足したのか、俺に背を向けて去っていく。
コンペルサシオンも軽く頭を下げて、その背中を追っていく。俺はイヴォワール教院長達の姿が見えなくなるまで、その場を動くことは無かった。
ーーー堅苦しいぃぃぃ!!!
頭の中で全身が痒い言わんばかりの絶叫を響かせた。
しかしだ、いくら俺の保護観察官でも、相手はこの大陸内で、かなりの偉い手だぞ?
それに俺にとっては住む家を手配してくれたり、この世界の知識を教えてくれた恩人の様な人だ。誠意を持って接しないと可笑しいだろう?
ーーーまぁ、そうなるだろうけど……
デペア、何か納得のいかないところがあるのか?
ーーーあの、イヴォワールには嫌な感じがする。コンペルサシオンにはもっと嫌な気配がする。
こいつが愛称を言わず普通に名前を言う所から察するにかなり|真剣《マジ》らしい。
俺からすれば、片方は恩人で片方がルウィーからやってきたただの宣教師でしかない。
ーーー………まぁ、君だけの道だ。君が進むといいよ。
「あぁ、了解」
とりあえずっと、俺は依頼掲示板に視線を戻して今日中に討伐できそうなモンスターの依頼をメモ帳に移す作業を再会した。
◇
「んーーー………」
僕は顎に指を当てながらリーンボックスの街を歩いていた。
当初の目的であるマジェコンヌの捜索を再開しているんだ。
さっき一瞬だけ、気配がしたのでとりあえずリーンボックスの人気の多い場所を探している。
あの存在に汚染された者は、糸で操られる木偶人形の如く丁寧かつ忠実に動くのだが、女神としての抵抗力が裏目に出て、精神的に不安定になりながら、思考が浸食され世界を破滅させることを望む女神ーーいや、犯罪神として堕落させられたのだ。
ただの木偶人形を相手にするのなら、まだ手はあるが、理性ある獣と理性ある獣ーーー圧倒的に前者が厄介だ。
しかも、あいつはどこかで僕の存在を知っているので、かなり慎重に動いている。
あのコンペルサシオンは今までなら、変装したマジェコンヌだったのだがあれは、マジェコンヌによって操られている木偶人形ーー……既に死んだ人間を加工して操っている過ぎない。直ぐに破壊しようとしたが、あのまま泳がせていれば、もしかして奴の尻尾を掴むチャンスが訪れるかもしれない。
いつでも処理できる事態は後回し、厄介な仕事から片付けるのが僕のやり方だ。
「………FDVシステム、あの野郎…既に介入してやがったな」
女神を弱体化させるシステムなんて、長年見てきたゲイムギョウ界の中で似たようなものが造られたことがあった。
しかし、今回のいくらなんでも製造期間が短すぎるのに比例して異常なほどの完成度を誇っていた。
僕も紅夜達がハードブレイカーと戦って見て、驚いて大急ぎでアヴニール本社を調べてデータを調べた結果、あれは他世界に存在する物を改造したものだった。
つまり、あれはゲイムギョウ界では造られる筈のない代物だ。
こっそりラステイションの尋問室に盗聴器を仕込んで会話の内容を聞いていたら、燕尾服姿の男性ーーー他世界から来訪者であることは確定として、僕の中でそんな恰好をしているのは一人しかいない。
あまりに証拠が少なくて暫定するには早すぎるかもしれないが、最悪の可能性を考えれば対処はすべきだ。
だからこそ、昨日は奴が一番接触しそうな紅夜に模擬戦とか適当な理由を付けて会ったのが、まだ大丈夫のようだ僕の邪神レーダーはピクリとも動かなかったし。
「とにかく、マジェコンヌ討伐と奴の狙いを潰さないと」
恐らく紅夜が関連するのは間違いない。
憂鬱のため息を吐きながら、晴天の空に上がる太陽を見ながらちょっと休憩しようと近くの公園のベンチに座ることにした。
ぼーっとしていると近所の子供たちが砂原に群がって山らしきものを笑顔で作り出し始めた。
近くにはそれを微笑ましく見つめたり、話題に花を咲かせる子供たちの親がいた。
「………親…か」
その光景は少し羨ましかった。
あの日々は僕にとって、どんな宝石よりも価値がある唯一無二の大切な毎日だった。
紅夜がいて、彼女がいて、守ってあげたくなる笑顔を振りまく愛娘がいてーーー………
「……忘れよう。あのころにはもう戻れない」
僕は破壊神だ。……何もかも破壊する自然の大罪者。
その日の気分で竜巻が巻き起こり、森を砕き、海を割り、街を壊すように大切な者ですら自分の手で壊す異常者だ。
「……ふぅ」
それにしてもいい天気だ。
頬を撫でる優しい風、少し喧しいくらいに騒ぐ子供たち、心地いいぐらいの陽光。
ここでお昼寝したら、とても気持ちよく寝れるだろうけど、お仕事はキチンとしなきゃダメだよね。
そう自分に言い聞かせて、風を切る音の方向に向かって手を上げるとすっぽりと手にそれが収まった。
「ストロベリーメロンバナナデラックスジュース(コーヒー味)……なにこの意味不明な
「偶然見かけたもので」
とにかく子供に人気そうな果実をごちゃ混ぜにしたジュースの缶を放り投げてきたのは、耽美小説でも出てきそうな風貌の青年だった。
折り目の入った黒い燕尾服を着こなし、一分の隙もない完璧な立ち振るまいをみせる彼の姿は、上品で優雅だ。
一般的に見れば、すれ違えば思わず振り向く様な絶世のイケメンだろう。
しかし、僕にとってはこいつは邪悪な存在でしかない。その瞳に暗黒があるからだ。
光が全く届くことがない海淵のような青黒い双眸、見かけだけの美しさがそこにあり、彼の視線はどこまでも冷徹。この世の全てを見下し、嘲笑うような冷笑を浮かべる彼に僕は頭を掻いた。
「久しぶりです。
「僕には夜天 空という名前がちゃんとあるんだけど?」
「貴方の名前は、我らが王が決定したこと、私に言われても訂正する権利はありませんね」
うぜー、超うぜー。
許されるなら直ぐにそのイケメン面にウルタール・クルセイダーをぶち込みたい。
「お隣、よろしいですか?」
「座った瞬間、君の下半身が消し炭になるならいいよ」
「なるほど、それはつまり上半身は許してくれるのですね。流石、我が友よ」
「テメェと友達なった過去なんてねぇよ、一度その眼を抉って時空の彼方を見せてあげようか?」
「えぇ、目玉のスペックは幾らでもありますのでどうぞ、あなたと初めて出会った。肉塊となっていたあなたとの出会いをもう一度見せていただきたいですね」
さぁと言わんばかりに勝手に僕の隣に座って無防備に手を広げ、顔を近づけてきた。
「ママー、あの人達なにをしているのー?」
「見ちゃいけません。はぁ……若い者はいいわよね…美少女と美青年はいい絵になるわ……」
おい、ちょっとそこの頭に蛆虫が沸いている可能性がある主婦さん。
どこをどう見たら、こいつと僕がそんな関係に見えるのさ!それにこいつ既に奥さんいるし!
「私、ずっと焦がれていたのです。あなたのその隅から先まで光り輝く黄金の長髪、舞台でアリアを奏でるその絶対的な孤高を感じさせる気高さと美しさ、手の届かない儚さを感じるほどの華美の貌、あなたはまるで誰も立ち入らない森林の奥地にひっそりと咲くリンドウのようだ……」
「うん、お前の気持ちは、良くわかったから死んで」
刹那の速さで懐から『ヴァルヴァドス』を抜き、眉間に押し付け引き金を引こうとするが止められた。
引き金を引こうとする指を奴は、指二本で挟んで停止させやがった。
「やめてください、頭が潰れたトマトになってしまいます」
「僕は、それを望んでいるんだけど…!」
「ダメです。私の鮮血であなたが汚れてしまうではありませんか」
「大丈夫、この至近距離でも血飛沫を全部、避けきる自信があるから風穴を開けさせろ……!」
「やれやれせっかちですね。だが、そこがいいです」
トンっ、と捉えれない速さで眉間を突かれ、微かに奴の腕が見えなくなった瞬間、銃を握っていた指を掬われ『ヴァルヴァドス』は僕の腕から滑り落ちていく。
そして、反撃とばかりに腰を回して、ジュース缶を放り投げ変わりに『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』を顕現させ奴の首元ギリギリで刃を止めた。
「ツンデレですねー。いつデレる予定ですか?」
「安心して、一生デレる予定はないから、そして今すぐにでも君の首を刎ねていいんだけどーーー」
睨む。FDVシステムを造ってアヴニールに渡した奴を。
こいつは、いつだって謎だ。顔は全て造形、特定の隷属を持っておらず、こいつが生み出す物は大概自滅に追い込む狂気の産物。
この世の全てを嘲笑い、自滅に追い込みその絶望した顔を見ることに愉悦と幸福を唱える超が付くほどのサディスト、世界を破滅に追い込む道化師。
彼にとって世界とは、自分を楽しませる道具程度の認識でしかない異常者。
この世界を守る側である僕にとって、正に最悪の敵。
いつでも殺せるとばかりに殺意を込めて『煉獄ヲ裁断スル切ッ先』の柄を力強く握りしめ、奴を睨みながら口を開いた。
「一体何が狙いだ。
『這い寄る混沌』ーーーナイアーラトホテップ」
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その5