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cross saber 第22話《聖夜の小交響曲》編

九日 一さん

最近パズドラ熱が再着火してきた作者であります。
今まで、攻撃スキルのやつしか出なかったんですけど、バリエーションが増えるとやはり面白みがありますね。

ちなみに僕のお気に入りは「シンゲン」
今回で龍王サイガが取れたので、彼も鍛えるつもりです。

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2013-07-14 17:08:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:556   閲覧ユーザー数:552

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第22話~生きてる~ 『聖夜の小交響曲(シンフォニア)』編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side セシリア】

 

 

 

 

 

 

「ゴールデンタイム・バイオレーション!!!」

 

 

 

 

 

 

カイトが高らかにそう叫ぶと黄金の剣が一際強く瞬き、爆発した。 空気を震えさせるほどの暴風が巻き起こり、あたりの夜闇を一変、秋夕の一幕に染め上げる。

 

そして私は、龍のように塒を巻き唸り声をあげる旋風の中に、一人の人影を見る。

 

ピクリとも挙動せず、まさに仁王の如く立ち構える少年。 彼の身を焼くほどの怒りか、それとも具現化するほどに強い覚悟かーーーその金色の髪は粉然と逆立っている。 手中に輝くのは、もはや形のない光。 天を射す威光。

 

その荘厳な立ち姿は私に、遥か遠い昔に読んだ物語に出てくる騎士王を彷彿させた。

 

 

「………………」

 

彼は高らかに大剣を振り上げると、無音の気勢とともに眩い残像を残し、風のように消え去った。

 

 

 

そして、それを皮切りに始まり、終わる十秒の間…………もっと短く感じられるほど刹那のうちに彼が行った剣戟は、言葉では言い表せない。

 

私が視認できたのは、音速を超えるのではないかと思うほどの速さーーまさに神速で、獣の間を駆け抜ける黄金の疾風だけであった。

 

雷とも形容できようその光芒が亜獣の真正面を一瞬で横切ったかと思うと、一秒ほどのラグをおいて血飛沫もないままに獣が崩れ落ちる。 同志の身に起こった事態を解せないとでもいうかのようにーー心なしか驚愕に目を丸くしていた狐顏も、次の瞬間には一筋の閃光を垣間見、絶命した。

 

そして、その奥義の名が叫ばれてから実に六秒。 ついに最後の一体となったリザード面の亜獣の眼前に、彼の、カイトの肢体が舞い上がった。

 

 

 

「うおおおぉぉぉっ!!!」

 

 

 

絶叫と共に突き出された大剣がジェットエンジンめいた爆音をあげ、あっさりとその赤黒い巨躯を貫く。 そして有り余るほどのエネルギーが弾け、波状に大地を揺らし、天空を黄昏に変えた。

 

口を大きく広げた亜獣から断末魔が聞こえることはなく、ただ掠れた空気が漏れる。

 

そして、エメラルドグリーンの双眸を薄く開けて何かを呟いたカイトが大剣を引き抜くと、獣は糸の切れた操り人形のように力なく崩れ落ちた。

 

その巨躯が地面に吸い込まれる音も遠くに聞こえ、訪れる静寂。 まるで久々の寂寥を歓喜するかのように夜が鳴く。

 

暗く落ちた闇の中で、私の目にはカイトの神々しいほどの姿のみが切り出され、シンと凍った閑静の中で、私の耳には彼の吐息のような穏やかな風音のみが浮かび上がった。

 

 

 

そうして、盛大に黄金の旋風を巻き上げながら剣技の発動を解いた彼がグラリと傾き地面に勢いよく倒れ込もうとした時にはすでに、私は走り出していた。

 

「カイト………!!!」

 

不恰好に両手を振り転びそうになりながらも、何とか寸前のところで彼と地面との間に腕を入れることに成功する。 そして、予想していたより軽い重みが伝わり、彼の身体が私の腕の中に沈んだ。

 

ほんの少し安堵しながらも彼の顔色が悪いことを見てとった私は、はやる気持ちと一つの予感を押し込め、その生命の脈動を確かめようとする。

 

だが、私が彼の息を確認するために顔をより近づけようとした時だった。

 

 

 

 

 

ーーーーグルルウゥゥゥゥ

 

 

 

どこからともなく低い音が響き、私の身を震撼させた。

 

 

この地獄のような一日の間に幾度となく私の大切なものを奪い、消し去りかけたあの雄叫びだ。

 

 

しかし、はっと自分の腕の中にいる少年の姿を見て、以前なら後ろ向きに働いてしまっていた臆病な思考は一瞬で入れ替わる。

 

 

ーーーー今度は私が護る番です。 ナイト様。

 

 

私は小さくそう語りかけると、懐の端正でいて華麗な装飾で飾られた緑黄色の短剣を抜き去り、耳を済ませる。 カイトがやっていたようにとまではいかないまでも、まずは敵の位置を把握しようと神経を尖らせる。

 

 

自分の弱さをどう嘆いたって今更仕方のない。 少なくとも、この場でカイトを護れるのは私しかいない。

 

迷う前に行動しろ。 怖じる前に奮い立て。

 

 

ピンと張り済ませた神経の中で静かな夜闇の風音さえも薄れていく。

 

 

だがその地響きのような低音は、次の瞬間、すべての予期を排し、私の真後ろから発せられた。

 

 

ーーーーグオォォゥゥゥウ!

 

 

「っつ!!」

 

恐怖に硬直するよりも早く、私は弾かれたように振り返りながら短剣を突き出す。 遥かに頼りのない風切り音ではあったが、私の短剣は白銀の流星を描き限界の速度で打ち出された。

 

しかし、私の太刀はあっさりと空を斬り裂いた。

 

 

 

 

ーーーー否、そこには赤黒い邪悪な生物も、あるいはただの獣でさえも何もいなかった。

 

「えっ………」

 

 

すると、私が驚愕するそのすぐ下(・・・)で、私の神経質っぶりをいたずらっぽく笑うかのようにその音は響いた。

 

 

ーーーーグウウウウウゥゥゥ………

 

 

「………………」

 

 

唖然とする私の腕の中で、私を助けてくれた王子様のお腹が盛大な唸り声をあげたのだとそう認識してからも、私は体の力を抜くまでに結構な時間を要した。

 

 

ーーーーグゥゥゥッ………

 

 

結局彼のお腹がもう一度マグニチュード5はあろうかという地響きをあげるのを確認して、私はやっと詰めていた息をふうっと吐き出した。

 

 

 

 

ーーーーー生きてる。 生きてる。 生きてる…………。

 

 

 

 

何時間ぶりであろうか、ずっと久しく感じられるその感情は、今までのどの実感よりも充足していた。 当たり前のように享受していた毎日は、いかに奇跡的であったのだろうとさえ私には思えた。

 

 

それはきっと、彼のおかげだ。

 

 

一瞬にして変わり果ててしまった世界の中で、私が生きる希望を保持できたのも、今こうして生きているのも、そしてそれをはっきりと認識できているのも、その全ての起因はこのナイト様にある。

 

 

「……………」

 

 

私の腕の中で、戦闘中とはかけ離れて幾分かあどけなくさえ見える少年は静かに呼吸を繰り返す。 私はその頬についた血をそっと拭いながら、彼の顔を熱のこもった目で見てしまっていたことに気づいた。

 

誰も見てはいまいが慌てて辺りを確認して、私はもう一度ふぅっと息をつく。

 

 

「……………どうやら私は、あなたのことを好きになってしまったみたいです」

 

 

今まで感じた想いとは似ても似つかない熱い疼きの正体を、私はいつの間にか知っていた。 硝子のように脆く、それでいて通じ合えた時はお互いを確かに感じることができる。

 

お兄様に抱いてきた想いとは違う。 胸に何かが詰まったような感覚。

 

 

苦しい。 愛おしくて。 切なくて。

 

 

命を賭してまで私を護ってくれたこのナイト様に対して、しかして私は報いる術がないのだ。

 

このもどかしさの捌け口はどこにもない。 私には、もう何も残っていないのだから。

 

 

 

ーーーーーーいや。 この気持ちだけは偽りではない。 溢れんばかりのこの気持ちだけは。 ならば、私が彼にできるせめてものお礼はーーーー

 

 

 

「ありがとうのキス」なら…………。

 

 

私の脳内に不意に吹き込んだのは、そんな考えだった。 幼い頃に物語の中でも何度も読み、憧れていた行為に、私の思考は辿り着いた。

 

 

「………………」

 

 

とくん、とくん、と、心音が不規則に不規則にリズムを刻む。 彼を支える腕にわずかずつ力が入る。 私は彼の唇へと、そっと自らの唇を寄せていく。 その若干色の白い肌が、私の視界いっぱいに広がる。

 

しかし、彼の静かな呼吸が当たるほどまでに肉薄したところで、先刻の思考の続きが私の脳裏に流れた。

 

 

ーーーー否、結局そんなのは後づけだったのだろう。 私は無意識のうちに彼に恋い焦がれていたのだ。 温もりを感じたかったのだ。 好きだという想いの端を、伝えたかっただけなのだ。 はしたない自己満足にも程がある。

 

だからこそ、それも含めて、私の唇が彼に届くことはなかった。

 

 

「やっぱり、ダメ………ですよね…………」

 

 

やはり恋人がいるのだろうかと、それでもなお考えてしまう自分が忌まわしいと私は思う。

 

 

 

と、その時突然カイトが身じろぎしたかと思うと、唇を動かして切れ切れの声を発した。

 

 

「セシリア…………」

 

「ひゃいっ!?」

 

 

突然名前を呼ばれた私はおよそ奇怪な声をあげてしまった。

 

 

まさか今の私の滑稽な醜態を全部見られてしまったのだろうか。 果たして、本当にそうであったら私は爆発していたかもしれなかったが、幸いというべきか、彼はまだ眠っているようだった。

 

むにゃむにゃと口を動かしながら、彼はぼやけた語尾で続きを口にする。

 

 

「大丈夫…………か……」

 

 

私は一瞬だけ目を丸くし、それから思わず、ふふっと笑ってしまった。

 

彼は夢の中でまで誰かを助けんとしているのだろうか。

 

 

「…………はい。 おかげさまで。 …………でも、そんなに私の心配なんかせずに、ゆっくりしてください」

 

 

私がそう言ってそっと手を握ると、彼は心なしかホッとしたような顔をして、身体の力をゆっくりと抜いた。

 

 

私はもうそれ以上何も考えることもせず、瞳を閉じ、夜に溶け込むかのようにごく微小な音量で、ハミングを口ずさむ。 昔に母がよく歌ってくれた子守唄だ。

 

聞こえているかどうかは分からないが、カイトの心に届くように切々と音を綴りながら、私は思った。

 

 

 

 

ーーーー今だけでもあなたの側にいられる事を、私は誇りに思います。 そしてそれ以上に、嬉しく思います。 わがままを聞いていただけるなら、この夜だけ、私の王子様でいてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の全部が変わってしまったその日。

 

聖夜の星の元で、私は彼と出会い、恋をした。

 

 

 

 

 


 
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