No.59758

S×S-01

新屋敷さん

沙耶の唄のSS。涼子先生大活躍です。

2009-02-22 23:36:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1866   閲覧ユーザー数:1743

「先生、お久しぶりです」

 恩師に頭を下げられ、断るに断れなかった某大学での特別講義の後、そう言って話し掛けてくる若者の姿があった。

「うむ、久しぶりだね、匂坂くん。君もこの講義を選択していたのだね」

 ええ、と涼子に笑いかける若者は以前のように陰鬱としたところが綺麗さっぱりなくなっていた。

 思わず、目を細める。正直のところ彼との遣り取りにはいい思い出がない。それでも、自分が関わった患者の元気な姿を見ることは、無条件に嬉しいものだ。

「以後の調子はどう?」

「いいと思います。特に変わったこともないですし」

「そう」

 と口にして、郁紀の後ろに控える女の子の存在に気づいた。何気なく立っているだけなのに、注視しないと気づけないとは。自分の感覚が鈍磨しているのか、女の子がそういう立ち方をしているのか。

「そちらのお嬢さんは?」

 そう言って促した。

 女の子が歩み出てきて、郁紀が肩を軽く抱く。随分手馴れているな、というのが涼子の印象だった。

「私は沙耶。今年からこの大学に通っているの。郁紀との関係は、そうだね、家族、かな」

 そういって笑みを交わす二人はとても幸せそうだった。

 腰を過ぎるくらいに長い髪、小さな顔に大きな目が黒々と輝いている。整った顔立ちは綺麗というより可愛いといった方が良く、大学に通う年齢とは思えぬ程に幼かった。これが沙耶か、と細大漏らさず観察しようかとも思ったが、目の前にいるのは無邪気に幸せを享受する普通の女の子に見えてならず、その様子に中てられ、密かに嘆息して肩を竦めた。

「仲がいいのは結構なことだけど、避妊くらいはキチンとしなさいよ」

 涼子は脈絡なくそう言った。いや、彼女としての脈絡はある。二人の様子からごにょごにょな関係であるということは分かるし、それならば沙耶という少女はまだ幼いのであって、体組織の発達具合からは孕むなどといったことにはまだ早い。いや、まあ、この体では行為そのものが芳しいことではないのであって―――、

「否認? 何を否認するというんです」

 勘違いしているのか、惚けているだけなのか、郁紀が見当違いのことを言った。

 その横で身動きを取らないでいる沙耶は、涼子の言わんとすることを理解した上で、恥ずかしがった方がいいのか、それとも分からないでいる振りをした方がいいのかを考えている。

「だから、避妊だよ。見たところ、まだ早い。そうなってしまってからでは取り返しがつかないよ」

「だから、何を否認するというのです。僕たちは何も否とすることはありませんよ」

 

 

 

 実のところ、涼子は気が短い。論理的でないことも嫌いだ。目の前の若者は自分の忠告を意に介さない上に、自分を嘲弄しようとしているのではないか。そう思うに至っては、鉄拳で制してやろうかと拳を上げて、その位置にて広げた。

「だから、孕ませないように気をつけろよ、と忠告しているんだ」

 震えるように呟いた。

「先生、公衆の面前で何を言い出すんですか、全く」

 この人は、デリカシーというものが、そもそも、と郁紀は涼子の質問を黙殺してブツブツと何か口にしていた。

 黙殺された、という事実に涼子はブチ切れた。

「い・い・か、若僧」

 目ン玉を針の先の如く小さく細め、こめかみに血管を浮き立たせた涼子を見て、郁紀は思わず一歩下がった。

「貴様は理解力に乏しいようなので明確な物言いにて問い直してやろうじゃあないか」

「い、いや、その」

 涼子は蛇のように表情をした。二又に分かれた舌がチロチロと出てきてもおかしくない雰囲気だ。その口を押し広げ、息を大いに吸い込んで、

「体も出来上がらない幼女を夜な夜なベッドに引きずり込んで、薄い乳房を揉みしだき、恥毛も生え揃わない秘所にテメエの赤黒い剛直を突き込み、狭い狭い膣穴をゴリゴリと擦り上げて楽しんだ挙句、その獣欲を完うさせる為に、亀頭を子宮に引っ付けるが勢いで精子をブチ撒けるような真似は止めておけよ。孕むから、と忠告したんだ」

 声は明瞭だった。大教室であり黒板前のやり取りだったが、そのフロアにいた全員の視線が自然と集まった。郁紀は今にも死んでしまいそうな表情を青色にセメントして動かない。対するように沙耶は赤い顔をして、俯いている。郁紀のズボンを掴む手が弱々しくて、さながら童女みたいであった。ちなみに演技ではない。

 

 

 

 一方の涼子はというと、沈黙する郁紀を蔑むように見やり、この上なくサディスティックに唇を歪ませて、

「何だ、まだ理解できないのか、私としては大分砕いて言ったつもりだったのだが。仕方ないな、まあ、要するに―――、だ」

 涼子が続きを言わんとした途端、久しぶりにゼンマイを巻かれた人形みたいにぎこちない動きをして、

「先生、飯を、喰いに、行きませんか。奢りますよ」

 郁紀の喉は渇ききっているようだった。

「飯、ねえ」

 腕を組み、片目を瞑って、わざとらしく唸る。

「ここの学食は旨いんですよ。カツ丼の並でも親子丼の並でも牛丼の並でも、いや、A定でも構いません、奮発します」

「膣、の話だったな」

「先生、寿司はお嫌いですか」

「いや、そんなことはない。中トロやウニ、イクラなどは私の好物だ」

「……そう、ですか、良かった。実はですね―――」

 

 

 

 当分の間、匂坂家では緊縮財政が敷かれたとか。

 

 

 

<了>


 
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