僕はバイクのメットインから買い物袋を持ってきて、テーブル代わりにちょうといい平たい大きな岩の上にのせた。
「買っといてよかった。はい」
「ん」
さっき買ったタバナン焼きのカップにカフェモカを注いでミドラに差し出した。ミドラが黒糖を溶かしているので、僕も真似して黒糖を入れてみるか。
「……ん」 チョコの風味と黒糖のコクがあってなかなか美味しいな。これからもコーヒーを飲む時は黒糖を入れてみるかな。
「あ、ミドラ、これ見てみ」
買い物袋から緑のバリ猫を出してミドラに見せた。笑顔で可愛くて、何より綺麗なパステルグリーンでミドラそっくりだ。
「みゃあ……」ミドラは興味津々に緑バリ猫を見ている。
「ははは。そっくりだ」
こうして海岸で夕焼けを見ながらコーヒーを飲むのは気持ちいいものだな。ちょっと肌寒いけど。
「美味しかった」
「ん」ミドラは丁寧にカップの底を舐めている。猫っぽくて可愛いな。
「着る?」
ミドラがカーデを差し出した。ミドラは短いが体毛があるから肌寒くても少しなら大丈夫らしい。
「ありがとう」
夕方になって肌寒くなってきたし、せっかくだから受けとっておこう。
私はユウにカーデを渡した。私は体毛のおかげかそこまで寒くなく、むしろ涼しくて気持ちいいぐらいだし。もう一着買ってあるし。
「みゃ!」
いきなり突風が吹き、カーデが少し離れた堤防まで飛ばされた。追いかけたが岩場はゴミや海藻があって走りづらい。
「…みゃっ」
途中で岩場に落ちていた百円玉、鉛筆、貝殻なんかを拾いながらカーデが引っかかった堤防に向かう。
「これ、ミドラの?」
ミランシャ姉さんが私のカーデを捕まえて飛び降りてきた。 ミランシャ姉さんは私と同じ緑の猫人だが、私より体格が大きくムチムチで、尻尾はライオンみたいな房状でさらにハーフトップと短パンという服装の為かワイルドだ(=^д^=)
「ありがとう」
「気をつけてね」ミランシャ姉さんは尻尾で私の額を小突く。
「ミドラ、スクーターでけっこう遠くまで来るんだね」
「うん。買い物のついでに」
「あたしもついでにね。ここは夕日がみれるし。風が強くて涼しいし」
ミランシャ姉さんは筋肉質でムチムチだからかけっこう暑がりで、暑い日はハーフトップを着て、強い風が吹く場所に居るのが気持ちいいらしい。私もだけど。
「ミドラ、捕まえた?」
ユウが荷物をまとめてこっちに来た。
「……」
ミドラがなかなか戻ってこないので、荷物を片付けてカーデが飛ばされた方へ行くか。
しばらく歩くと、ミドラとパロットグリーンの猫人のお姉さんが一緒にいるのが見えた。筋肉質で豹みたいにワイルドだなあ。
「ミドラ、あの人は?」
「ユウ」ミドラは僕を尻尾で指した。
「あ、はじめまして」
「こちらこそ。私はミランシャ」
ミドラはあんまり友達はいないと思ってたけど、けっこう友達いたんだなぁ。
「へえー、ミドラの彼氏?」
「……みゃ」
ミドラはこたえずにうつむいて尻尾を舐めた。
私達はスクーターを押して、海岸沿いを歩く。
「ん?」
海岸から海に突き出た巨大な岩の上にミサラちゃんがいるのが見えた。電車で先に帰ったはずなのになにしてんだろ(=^人^=)?
「あれ、ミドラも一緒?」
「んん、みゃっ」私は道端にスクーターを止めてすばやく岩壁を上る。
「まだ帰ってなかったんだ。さっき通りすぎたのに」
「買い物したらお金足りなくなっちゃって、ミランシャ姉さんに来てもらっちゃった」
「…計画して買わないから」
「ミドラにレストランで多めに払わされた分のお金貰って電車に乗ろうかなと思ったら、バイクに乗せてくれるんだからミランシャ姉さん様様だよね」
…さりげなく私のせいにされている。払わせたのはほんの数百円だし、どうせアイスかお菓子を買い食いしたんだろうに(=^д^=;)みゃああ…
「ふぅ、トイレにけっこう時間がかかったね」ミランシャ姉さんも岩壁を登ってきた。
「近くの海の家が閉まってたし、スマホの電池なくなったし、あそこの街まで歩いてきたんだもん」
この辺は海岸沿いを通る道路と、岩がごろごろした海岸しかないから仕方ないね。
「…ごめんね。もう少し街の近くで降ろせばよかったね。歩くと時間がかかりそうね」
ミランシャ姉さんは尻尾で、機嫌悪そうなミサラちゃんの頭を撫でる。
僕はミドラみたいに岩壁は登れないので岩の反対側へ回り込み、岩肌に直接彫られた急な階段を見つけてミドラ達のいる場所へ昇る。
既にミドラ達は上に登っていた。猫人って可愛いし、身体能力が高くてうらやましいなあ。
「みゃ!?」ミドラは耳だけこっちに向ける。
「ミドラもミランシャさんも凄いなあ」
二人はすばやく岩壁を登れて、まるでロッククライマーみたいだ。
「ここは何回も登ってるから」ミランシャさんは嬉しそうに尻尾をゆらゆら動かす。
「ん、足場もあるし、3メートルぐらいだし登れるよ。階段あるならそっちから来たけど…」ミドラは階段があるのを知らなかったんだな。
「私も壁登れないから、階段から登ったよ。景色がいいから階段あるのかな?」ミサラちゃんは登れないんだな。
「ん、祠がある」ミドラはしゃがんでスマホで写真を撮った。
岩の上には小さな祠があった。中には三毛猫の像があり、錆びて青緑になった十円玉や百円玉が祠の回りに散らばっている。ギザ十や昭和三十年代の古いものもある。
「何でこんなとこにあるんだろ?」
祠ってその辺の道端にあるのをよくみかけるが、何であるのかは知らない(=^人^=)?
「あっ、お金見っけ♪」ミサラちゃんは嬉しそうに尻尾をブンブン振った。
「丸っこくて可愛いな」ユウも写真を撮った。
「昔は三毛猫のオスは航海の守りとして船に乗せられていたからじゃない?前に来た時は飲み物が供えられて…あっ、こらこら」
「うわん!」
ミランシャ姉さんは、お金夢中で拾っているミサラちゃんの尻尾を軽く引っ張った。ミサラちゃんが持っていたお金の幾つかは岩の下に転がって行ってしまった。
「あ~、お小遣いなくなったからちょうどいいと思ったのに~」
「ここに落ちてるのは供え物だから拾うのはダメじゃない?」
ミランシャ姉さんは尻尾でミサラちゃんの額を小突いた。
「ん、下に落ちたのを拾ってくる」
やれやれ、下りて回収しないと(=^д^=;)。私は岩壁から下の砂場に飛び下りた。ふぅ、さすがに高いとこから着地すると足がしびれるなぁ。
ミドラは3メートルほど下の砂場に躊躇せずに飛び下りた。猫人の運動能力は凄いなぁ。
ミドラはすぐに岩の回りの硬貨を拾い集める。
「ミドラ、そこの草むらの中にも一枚落ちてるよ」ミランシャ姉さんはミドラからは見えない場所の硬貨を上から探し出して指さす。
一通り拾い終えて、ミドラは階段で登ってきた。
「壁はもう登らないの?」ミドラがすばやく岩壁を登る姿を見れなかったのは少し残念だ。
「ん、階段の方が楽だし」
「ミサラちゃんが持ってたのと、上に散らばってたお金はこれで全部よ」
ミドラとミランシャ姉さんは拾い集めた硬貨を祠の前に置いた。ミサラちゃんは少し残念そうだ。
日が沈むとさすがにちょっと寒くなってきたから、もう一着のガーデを着る。二着買っておいてよかった。
「お揃いだね」ミサラちゃんが私とユウを指さして言った。
「ミドラ、そろそろ帰ろうか」
ユウは私が貸したガーデを着てバイクに荷物を載せる。
「じゃあ私も帰るね。ミサラ、ヘルメット着けて」ミランシャ姉さんビッグスクーターから取り出したジャケットを着て、帰り支度をする。
「そうだ、ミドラにこれあげる」
ミサラちゃんから紙袋を渡された。中には野球ボール大のシュークリームが二つ入っている。これがミサラちゃんの帰りの電車賃が足りなくなった元凶かな(=^人^=)?
「ありがとう。帰ったら食べるね」
「昼間はチーズナン一個丸ごと食べちゃったし……じゃあね」一応悪かったと思ってるらしい。ミサラちゃんはいい子だな(=^д^=)
「じゃあミサラちゃん、掴まっててね。ミドラ、ユウさん、バイバイ」
「じゃあね」
ミランシャ姉さんとミサラちゃんはビッグスクーターに載って帰っていった。私も帰ろう。
私とユウもスクーターに乗って走り出した。
帰宅後、夕食を済ませて、荷物を片付ける。
「はい、夜になるとは思ってなかったから助かったよ」
襟についていた緑の毛をテープで取り除いてガーデをミドラに返す。
「すぐに毛が付くから取らなくてもいいよ」
ミドラが着た服の裏地や襟には緑の毛がかなり付く。その点は猫人って面倒だなぁ。ミドラはまったく気にしないけど。
「一応綺麗にしておこうよ」
「ん」
風呂に入って、甚平に着替る。甚平って帯を結ぶ必要がないから気軽に着れて便利だ。
クッションの山の上に寝転んでスマホをいじりつつ、ミサラちゃんからもらったシュークリームを取り出して食べる。皮は固くて中にはチョコクリームが入っていて美味しい。
「ミドラ、出掛ける前は面倒くさそうだったのにけっこう楽しんでたな」ユウも風呂にから出てシュークリームを持って後ろに座る。
「…んみゃ」
家でゴロゴロしていたかったから出掛けるか迷ったけど、新しいガーデ買えたし、ユウと二人だけじゃなくミサラちゃんとミランシャ姉さんとも過ごせたし楽しかったな。(=^人^=)。
あと海岸で拾った百円玉が、いつの間にかポケットからなくなってたのは残念だなぁ。 多分祠に置いてきてしまったんだろうけど……。
「お湯に緑の毛がけっこう浮いてたけど、ちゃんと取り除いてから出てきてよ」ユウは私の尻尾を掴んで引っ張ったり、していじる。
「うみゃ…」
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http://www.tinami.com/view/592146 の続きです(=^人^=) ミランシャ:ワイルドな猫(ピューマ)人のお姉さん